3話:懐かしき記憶2
これにて間章は終了です。今後については活動報告を見てくれると嬉しいです。
(8/12.22:05)
巨龍ロベリアの特徴といえば、まずはその大きさだ。巨龍と呼ばれるだけの大きさを持ち、その大きな体を使って繰り出される攻撃は言うまでもなく人間など容易く殺す。
またロベリアの皮膚は固く、生半可な攻撃は意味を成さないほどの高い防御力を持つ。
そしてなにより、龍の十八番とも言えるブレスだ。全てを破壊し尽くすその一撃は到底人間には防げない。
つまり、圧倒的な攻撃力と防御力を持ったまさに強さの象徴である。これだけ聞けば、勝ち目は全くないように思える。だが巨龍ロベリアには弱点と言える大きな特徴がある。
それは、鈍いということだ。体が大きい分1つ1つの動作が遅い。
私は魔力量は多いが近接戦が苦手で典型的な遠距離型魔法使いだ。だが動作が遅く攻撃を躱しやすいロベリアは、魔力量にものを言わせた極大の魔法を当てることができれば倒せる可能性が十分にある。龍の中では最も相性が良いと言えるのは僥倖だ。
ロベリアに気付かれないギリギリの距離を保ち、魔法を創る。特大の氷の結晶を三つ創り、奇襲をするために隙を伺う。どうやらロベリアは体を丸めて寝ているようだ。
「蒼氷天大隕石!」
放たれた3つの魔法はそれぞれ首、胴体、尻尾へと直撃した。
ロベリアが耳をつんざくような悲鳴を上げた。尻尾は潰れ、全身から血を流している。
「キシャャャャアァァァァ!!」
敵である私に気づいたロベリアは翼を広げ威嚇してくる。
第1ラウンドは成功した。ここからが本当の戦いだと思い、気を引き締める。
ロベリアとの戦いで1番気をつけなければならないのはやはりブレスだ。魔法でも防ぎ切れない威力の上に範囲の広い攻撃はかわすことも難しい。
遠距離にいれば通常の攻撃は当たらなくてもブレスの餌食になる。近距離にいればロベリアは自身のブレスに巻き込まれることを恐れてブレスを放つことはできないが、かといってそれでも圧倒的な通常攻撃がある。
ブレスが放たれそうになれば近付き、通常攻撃からは余裕を持って躱せる、そんな中距離が最善の距離と言えよう。
「ガアァァァァァア!!」
ロベリアが咆哮を上げながら前足で払ってくる。やはり動きが遅いので問題なく躱す。
だが極大の魔法を創れるほどには余裕がないので、動きながらでも創れる魔法を放ち続けるもほとんど意味を成していない。ロベリアの硬い皮膚に阻まれるからだ。
ロベリアが1つの攻撃をする間に、10近い魔法を放つも全く効いている様子はない。この程度の魔法なら永遠に放つことができるくらいの魔力はあるが、それではいつかロベリアの攻撃が私に当たってしまうだろう。
ジリジリと追い詰められていることに焦りを感じ、敢えてロベリアへと近付きに走って行く。
体の大きいロベリアの下に潜り込めば、小回りの効かないロベリアから攻撃を食らわずに魔法を創れると考えたからだ。
その考えは功を奏したようで、ロベリアは私を見失った。攻撃を躱す必要のなくなった私は魔法を創ろうとする。
しかし突如翼を使って跳躍したロベリアから、極大魔法を創る途中の動けない私は、最初の奇襲で潰れた尻尾を叩きつけられる。
「かはっ!……」
潰れていた分、威力は相当に落ちているはずだがそれでもなお全身が砕かれたような衝撃が体を走り抜ける。激痛に意識を手放したくなったが、なんとか踏みとどまる。
(レア様!)
彼のことを思えば自然と力が湧いてきた。それと同時に創りかけだった魔法を完成させた。
「蒼穹氷竜巻!」
大規模な氷の竜巻がロベリアを襲う。竜巻に触れたところから凍っていき、ついにはロベリアの全身を氷漬けにした。
この魔法は通常ならば襲われた相手の体の芯まで凍結させる魔法だ。だが、硬く頑丈な皮膚に覆われたロベリアには時間稼ぎをするのが精々だろう。
だがそれでいい。私は今度こそロベリアを倒すための魔法を創る時間を得ることが出来た。ありったけの魔力をつぎ込んで巨大な氷麗を創る。
氷は温度が低いほどに硬さを増していく。その特性を存分に活かした魔法だ。
「はあ!……蒼天大氷麗咆!!」
放たれた魔法はロベリアの長い首に何の抵抗も無く刺さった。ロベリアはうめき声をあげることもなく静かに首をだらりと下げる。
私は巨龍ロベリアを討伐した。
「まさか本当に巨龍ロベリアを倒してしまうとは」
はあ……はあ、と息を整えている私にチョートクさんが近付いてきた。今回使った魔法はどれもSSランク級に相当してもおかしくない魔法で、それを何発も放った私はさすがにかなりの魔力を消耗した。
「チョートクさん、ロベリアを解体して肝を取り出して頂けませんか。お礼にその他の全てを部位を差し上げます」
私でも解体出来ないことはないが少し休んで体力を回復させたいし、せっかくプロの狩人がいるのだ。私よりも綺麗に肝を取り出してくれるだろう。
それに龍の死体は、武器に防具に薬と様々なことに使える。売ればチョートクさんは残りの人生を遊んで暮らすことが出来るだろう。
「取り出すのは構わないが、これは君が倒したものなんだぞ。他人の成果を横取りするなんて狩人の名が廃る。受け取れないよ」
「なら死体を燃やして処理するだけです。正直こんな大きな物を持って帰る手間も暇もありません。貰った頂けた方が私にとっては幸いです」
チョートクさんは喋りながらも手を動かしてくれる。1秒を争う私にとってはありがたい。
「とりあえず肝は取り出したよ。他の部位はこれだけ大きいと私1人じゃ無理だ」
「ありがとうございました。申し訳ないですが後のことはよろしくお願い致します。私はすぐにでもデスンの街に戻らないといけないので」
勝手に来て勝手にロベリアを倒し、後始末を全て任せる私。迷惑極まりないのは承知しているが、それでもすぐにレア様の元へと行きたかった。
「分かった。この死体は私が貰おう。むしろ私がお礼
を言わなければならない立場だよ。彼の快復を祈っている」
頭を下げ、その場を後にした。
今日の朝にデスンの街を出発して、今はもうすでに日が落ちそうな頃合いとなっている。
通常日が落ちて暗闇の中を移動するのは危険なので、誰もがそれを避ける。だが私はそんなことはお構い無しに火属性の生活魔法を使って辺りを明るくし、馬を走らせデスンの街へと戻った。
デスンの街に到着した頃にはすでに深夜となっていた。
「レア様!ただいま戻りました!」
レア様が寝ている部屋に入ると、朝の医師と看護師がいた。
「なっ!1日とかからずに戻ってきたのか!信じられない!」
医師も看護師も驚愕しているが、今はそんなことはどうでもいい。
「生のまま食べさせれば良いのですか?」
「ああ、そのまま食べさせて構わない。ただ、今の彼にそれを噛んで飲み込むことは難しいだろう」
それを聞いた私はロベリアの肝を取り出して、水で洗い口に入れて咀嚼する。生臭いがそんなことは気にしない。柔らかくしたそれを口に入れたままレア様に近付き、口移しでそれを飲みこませた。
「……んっ」
しっかりと飲み込んだことを確認して安堵する。何回か同じことを繰り返し、医師に質問する。
「これでもう大丈夫ですか?」
「ああ、明日の朝には快復しているだろう」
医師と看護師に頭を下げてお礼をするとら明日の朝もう一度診察に来ると言って帰って行った。
夜通し汗を拭いたりなどして看病をすると、次の朝すっかりと顔色の良くなったレア様は目を覚ました。
「おはようリリー。いろいろありがとうね」
目を覚まし、挨拶をくれたレア様を見て心の底から嬉しくなった。だが、ふと心に影がして下を向く。
私のせいでこうなってしまったのだ。捨てられてもおかしくない。
「もしかして捨てられるとか思ってる?」
彼の言葉を聞いて身を固くする。怖くてレア様のことが見れない。
「はっきり言うけど捨てないよ。今回は俺が悪いんだ。リリーが気に病む必要はこれっぽちもないよ」
「でも……私がカミーリアだからこんなことに」
そう口に出すとより悲しくなる。魔力なんていらないから普通の人に生まれたかった。
「違うよ。俺の魔力操作が下手だったからだよ」
「私がレア様の体調を顧みずにひたすら求めたからです……」
「違うんだって。今の俺にとって致してる最中でも魔力を吸収されないように魔力操作をすることなんて朝飯前なんだ。だけどさ、一昨日の夜のことを覚えてる?」
一昨日の夜も私達はお互いに求め合った。そして私達は繋がったまま気を失うように眠ってしまったことを思い出した。
(あっ…)
私は今回レア様がどうしてこのようになったのかを理解した。
「分かった?そうだよ、繋がったまま寝ちゃったんだ。さすがに、まだ寝ている時にまで魔力操作はできないからさ。これからはそれに気をつければ良いんだ。だからリリーが心配することなんて何もない」
堪らず私ははベッドにいるレア様のところへと行って抱きしめあう。
「レア様!愛しています!どうしようもないくらいに!」
「ああ、俺もだよリリー」
さすがに病み上がりのレア様に無理をさせるわけにもいかず、またロベリアを倒しそのまま夜通し看病していた私は相当に疲れていたようで、2人で抱き合ってそのまま夜まで寝てしまった。
後日、私はギルドから呼び出された。どうやらチョートクさんが手紙で、私がロベリアを倒したことを証明してくれたらしい。それについての確認と、今ギルドの職員がそれについて調査中で、もし本当ならば異例ではあるがSランクに上がるということを告げられた。
「……というわけでレア様と私はランクが1つ違くなってしまったのです」
「あ、そう。いろいろとごちそうさま」
そう言って呆れたような顔をしながらも、ランカさんは自分の部屋へと帰っていった。