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2話:懐かしき記憶1

前半後半の2話予定でしたが、後半が思ったよりも長くなってしまったのでその分を前半に付け足しました。すいません。

後半は明日投稿します。(8/11.21:30)

「そういえば、レアとリリーさんはいつも一緒に行動してるのにどうしてギルドランクが違うの?」



夕食時、ランカさんからそう質問された私は、懐かしきその原因を思い出す。











「これは魔力欠乏症だね」


ベッドに寝込んでいる、12歳になったばかりのレア様を診察した医師がそう告げた。


頭が真っ白になる。原因に心当たりがあったからだ。


私はカミーリア族という特殊な一族に生まれた。カミーリア族は代々高い魔力を受け継いで生まれる。私もそんな一族の恩恵を預かり、たくさんの魔力を持って生まれた。


だが、カミーリア族は呪われた一族と呼ばれている。なぜなら性行為をした相手から多量の魔力を吸収してしまうからだ。同じカミーリア族同士ならば良い。いくら吸収されたところで余りある魔力があるからだ。しかし、普通の人間と交わるときにはそうはいかない。魔力を吸収されすぎた人は最悪死に至る。


もちろん私もそのことは理解していた。

だが魔力操作を修め、今やギルドランクがBとなったレア様は、私に言った。


「俺はリリーから魔力を吸収されないように魔力操作ができるから安心して」と。


その言葉に甘え、レア様の体調を全く顧みることなく情欲を貪っていた自分が酷く恨めしい。


「治るのですか?」


私は医師へ縋るような視線を向ける。


「正直後遺症が残るかもしれないことは否めない。魔力が欠乏しているという直接的な原因を取り除くことが出来ればいいのだが」


「な、なら魔力を回復させれば良いのですね!例えば龍の肝を食べるとか」


龍の肝とは龍の内臓のことである。龍は大量の魔力を持っており、魔力の大半をその肝に宿している。それを食べれば、肝に宿っている魔力を取り込めるというわけだ。


「ふむ、その方法ならば魔力を取り込むことが出来る。だが、龍の肝を食べるということは龍を討伐しなければならないということだ。龍討伐はギルドでは最低でもSランクだろう?君は15歳にしてBランクという天才のようだがそれは厳しいのではないかな」


「いえ、やります」


レア様のためならばそのようなことは些事に等しい。というよりも身から出た錆と言っても過言ではないのだから当然だ。


「しかもこの少年に合った魔力の型を持つ龍でないとダメだ。そもそも龍を探し出すことが難しいのに、そんな特定の龍を見つけ出すのは砂漠に落ちているダイヤを探すようなものだ」


魔力は血液と同じように型がある。魔力の型というよりは魔力の色といった方が分かりやすいが。

通常それは髪の毛と同じ場合が多いが、レア様の髪の色は黒で、魔力の色は青である。

もし違う型の魔力を取り込めば身体が拒絶反応を起こしてしまう。

ちなみに私達カミーリア族が違う型の魔力を吸収しても何も問題は起きない。全ての魔力の型を持っているからだ。これもカミーリア族の大きな特徴と言えるだろう。


「幸いにもここから東に1日ほど離れた場所にあるワイサの山に条件を満たす龍がいます」


「なっ!巨龍ロベリアのことか!危険すぎる。悪いことは言わないからやめなさい!」


医師の説得をものともせずに、急いで準備を始める。


「リ、リリー。俺は大丈夫だから無理しないで」


レア様が苦しそうにしながらも言葉を吐き出す。慌ててベッドへと駆け寄り、レア様の手を握る。


「レア様。何も心配はありません。私にお任せ下さい」


そう宣言することで、より一層の決意が固まった。





医師と共に来ていた看護師に看病を任せ、家を出た。















ワイサの山へは歩いていけば1日かかる。


だが今回は一刻を争うのでギルドから屈強な馬を借り、街道を駆ける。この速さでいけば途中馬を休めるための時間を含めても半日とかからずにたどり着くだろう。


馬を走らせる中、いろいろなことが頭に浮かんできた。




カミーリア族は魔力が高いので必然戦闘力も高くなることが多い。その戦闘力を買われ、呪われた一族と蔑まれながらも傭兵として生きる者も多かった。一騎当千の強さを誇り、戦場を駆け回る姿は敵だけでなく味方をも恐れさせた。

そんな部分もまた、呪われた一族と蔑まれる原因となっているのかもしれない。


私の両親は争い事が嫌いで、傭兵としてではなく商人として生きていた。だが、私達が住んでいた街の近くで戦争が起こった時に、カミーリア族ということで呆気なく殺されてしまった。


11歳だった私は途方にくれてどうしようもなかった。失意の中出会ったのが騎士としてその戦場に来ていたレア様の両親だった。


レア様の両親は元々2人で冒険者しており、その実力を買われて夫婦揃って騎士になったらしい。


そんな2人に連れられてやってきたデスンの街で出会ったのが当時8歳のレア様だった。


出会った時からレア様は強くなることを目標にしていた。だが当時の私にはどうでも良かった。

基本的に何にも執着しない私ではあったが、さすがに両親の死は応えたようで全てがどうでも良かったのだ。


「諦められないんだ」


剣術や魔力量、戦いに必要なもの全てが明らかに平凡だったレア様はそう言って毎日血の滲むような特訓をしていた。


全てが灰色となってしまった世界で、いつからかそんなレア様を観察することが日課となった。





「今日はゴブリンの群れを狩ろうと思うんだ」


両親が仕事に行っている間に内緒で森へと特訓に行くことが多くなった頃、レア様はそんなことを言った。

私は何をするでもなくただ彼の後をついて回って、そばで見ているだけだった。


だが、まだ魔力操作を修めておらず魔力量の低いレア様がゴブリンの群れを相手にするのは難しかった。


「くっ!リリー逃げて!」


正直彼が死のうが自分にとってあまり大事ではないと思っていた。だがそう思う心とは反対に体が勝手に動いてゴブリンの群れを瞬殺した。そんなことはカミーリアの私には容易かった。


「リリー、ありがとう。すごいんだね!くそー俺ももっと頑張らないとなあ」


「お気になさらず」


「リリーはさ、いつも俺と一緒にいるけど何かやりたいこととかないの?」


彼を助けたせいか自然と距離感が近くなり、初めて会話という会話を交わした。


「いえ、特には」


「そう。じゃあさ、俺がリリーの生きがいになるよ。いつかリリーが生きがいを見つけられるその日まで。だからそんなつまらなそうな顔でいないでもっと楽しく生きようよ」



それ以来彼という存在そのものが私の生きがいとなり、灰色の世界に彩りを添えてくれた。

どうやら私は彼にそう言われる前からいつの間にか彼を見ることに楽しみを覚えていたらしい。彼の言葉はそんな私の心の内を気付かせるきっかけになった。


だけど私は、そんな彼にそれ以上のことを求めた。主人とメイドという関係だ。やっと見つけた生きがいがいつの日のか無くなってしまうのが怖くて、主従関係という確固たる絆を望んだのだ。そんな醜くも浅ましい私をレア様は受け入れてくれた。


それからの日々はとても楽しかった。

魔力操作という強くなる可能性を見つけたレア様はより一層の努力をして、12歳にしてついにBランクにまで上り詰めた。


そして先日私が15歳になって成人した日、体の関係を結んだ。レア様はカミーリア族の呪いを恐れずに私のことを受け入れくれたのだ。それは心も体も満たされ、さらにレア様に傾倒してしまうことにも繋がってしまったが。


だからこそ、私はレア様を失うわけにはいかない。彼は私の全てであり、なにより彼はこんなところで終わっていいような存在でない。




そんなことを考えつつもワイサの山に着いた。







ワイサの山へと着いた私は、あまり魔獣が出てこなさそうな所へ馬を繋ぎ止める。

本来なら御者を雇ったりして任せるべきだが今回はしょうがない。


「お、ワイサの山に何の用だ。ここは巨龍ロベリアの根城だから基本的に人は寄り付かないはずなんだが」


山の外からロベリアがいそうなところに目星をつけていた私に、後ろから声がかかった。

振り向くと正直に言ってあまり特徴がない中年の男性がいた。


「これから巨龍ロベリアを討伐しに」


男性は驚愕に目を見開き、口を開く。


「やめときなさい。あれは人の手に負えるようなものではないし、そもそもロベリアは人に害をなしていない。だからこそ街から近いのにも関わらず放置しているんだから」


男性の助言は最もだ。巨龍ロベリアは比較的大人しい龍で、ちょっかいを出さなければ襲われることはない。なにより討伐依頼が出ているわけでもないのだ。

だが、この世は弱肉強食だ。レア様のために私は巨龍ロベリアを狩ることに決めたのだ。


「ええ、十分承知しています。それでも私はやるのです。ご助言ありがとうございました。では」


1秒も無駄にしたくない私は、そう言って走り出す。


「待ちなさい!ロベリアの場所は分かるのかい?」


私は立ち止まって男性を見た。


「何か訳ありのようだね。よかったら協力するよ」


彼がどうしてそんなことを言うのかわからなかったが、ひとまずはその申し出を受け入れた。






「どうして私が協力するのか不思議そうだね」


山の中へと入り、草の根を掻き分けながら進む中彼はそう口にした。名前はチョートクというらしい。


「私は何年もこの山で狩りをして生計を立てていてね。地位や名声のために巨龍ロベリアへと挑む者をたくさん見てきた。そしてみんな死んでいったよ。私の息子もそんな者の1人でね。いやなに、特に何をしたわけでもないロベリアに勝手に挑んで返り討ちにあっただけだ。恨んじゃいないさ。ただいつからかロベリアに挑む者を見届けることが息子への供養のような気がしてね」


彼はこの山での狩りを生業にしているだけあって、スムーズに足を進めて行く。


「とは言え地位や名声のために生き物を殺すことは狩りを生業としている私からするとひどく醜く見える。ただ君はどうやらそういう類ではないらしい。よかったら訳を聞かせてもらえないかな」


ロベリアのところに辿り着くまでの間、焦ってもしょうがないと感じた私は、いろいろなところを端折りながらもレア様が魔力欠乏症でそのために龍の肝が必要であることを説明した。


「なるほど、その彼は幸せ者だね。自分のために龍にまで挑む程愛されているのだから」


その言葉を聞いた私はなんとも言えない気持ちになる。そもそもの原因は私にあるのだから。




喋りながらも歩みを止めずに進み続けた私達は、木の開けた場所に辿り着いた。


「どうやら着いたみたいだ。あそこを見てごらん」


山の中腹にある火口にロベリアが佇んでいるのが目に入る。


「ありがとうございました。では」


「ああ、頑張ってくれ。私は邪魔にならない辺りから見届けるよ」


頭を下げて礼を口にし、ロベリアのいる火口へと向かう。

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