第3夜 時を刻み続ける物語の連鎖
生物学の教科書をひもとく
全ての星の生物は、その星の環境に適応した形に進化する
それはわかっている
だが、その星の表層にある物質がベースになっていることはあまり知られていない
例えば地球では「水」がベースになるので、水と有機物による合成が行われる
エネルギーの大半は水を媒介とするシステムが構築される
水がないと生命の維持は困難になるのは前提として、巨大化した生物が生まれない
幸いなことに、ひもとかれた全ての物語は
箱舟があるために「各惑星に進化した生物がいるという前提で世界を作れる」と同時に
本来なら数百億年単位のズレが生じる生命の発生タイミングが揃うのだ
何が起こるかというと…
「宇宙を渡るもの」という設定を作ることが出来るのだ
それは「宇宙航行を可能とするまでに進化した文明」を使った物語や
宇宙を飛翔する生命体の設定まで作ることも可能であり
なおかつ、その生命体は別の星に移住した他の生命体と出会うことも可能になるのだ
…そういえば、そう言った世界の生物を私は知っている
「ラ・ヴォス:原作『クロノトリガー』」だ
宇宙を渡り惑星を繭に成長して孵化する最強の厄災
数千年の人類史を覆す長寿の巨大生物…
それと似た物語があるとカルディシアが示す
舞台はまだ名もなき世界
宇宙を渡る「生物の箱舟」が世界を崩壊させていく物語
見たことのない生命が宇宙から飛来し、驚異的な速度でその星の生物層を塗り替えていく
それはラヴォスのように「利己的な破壊」ではない
個体を叩けばいいという話でもない
純粋な「惑星規模の支配」を行う敵に向かい、人類と多種族が手を取り合って戦う物語だ
この物語を考えていた頃、地球規模での「オゾン層破壊」が始まっていた
今では話にも上がらない巨大な「危険地帯」は
今も局地を中心に拡大していることだろう
他の物語もそうだが
地球に起こってることが実際のテーマとして書かれている物語が多いと気づいた
時間軸は
地球の持つ問題にそって作られていたのだ
生物相も同じような配置になっている
たとえば
「魔法地球」という物語のプロットには
海面の上昇により減る地上の生存可能範囲に対して
人類そのものを小さくすることで対応しようとしている話がある
リアルな世界の未来に対する危機感が生まれた10年前がそこにあった
余談だが「不況が和らいでいた時期」に感じたことが書かれていた文面が見つかった
「
世界は少しだけ不況を脱したが、時代が生んだ価値観は残り
次世代の社会構築のメソッドとなるだろう
それは過剰な生産と過剰な廃棄の連続であり、決して逆行しない文明によって加速する
断捨離とか言う言葉がもてはやされているが、それを実行しなければならない単位は
すでに地球サイズそのものだ
だが、世界は時代に関係なく成長し続けて、最後の植物が枯れるまで走り続けることだろう
最後の鉄片まで弾丸にする世界が来ないことを切に望む
」
世界を渡る「箱舟」の設定が生まれたのはこの時期だ
地球を脱出する方法を人類が模索し始めた時期と重なっているのが思い出された
そして、それに連動して「生物相」が構築されたのもこの時期だ
たとえば
雲海に包まれた世界には「2つの重さを持つ魚」が設定されている
水による浮力を持つ物が宇宙から渡来した遺伝子を基礎につくられたもの
もうひとつが原生物
こちらは大気中の物質から水素を合成して体内に蓄える性質がある
そして、両者のあいのこが「雲海を渡る渡り魚」であり、長距離を飛ぶ能力を獲得している
原生物の「エラ」が吸気口を強化し、原生物の大幅な進化を促した結果だ
逆に、宇宙より人間が来たことで変化を余儀なくされた生物相もある
とある雲海世界だが、構築したのは人間の歴史だ
それにより星そのものが極寒の世界となり、人間は明日の糧と生存範囲を求めて争っている
だが、人間の行為による犠牲者として原生物が設定されている
彼らは短い時間の間で取捨選択式に進化した
極寒の世界に対応出来るように「密閉可能な甲殻」を取得し外気から内臓を守る
その一方で「熱嚢」という新たな器官を獲得し、熱源を求めて彷徨う生活に移行した
人間の文明が何度滅ぼうとも、原生物は生き抜かねばならない
ゆえに、世界にいる生物の有り様を考えていたのだろう…
では、カルディシアやリップルの持つ「無限の生命時間」はどこから来たのだろうか?
部屋の隅で眠っている2人を見て
私は彼らのルーツを必ず決めてやらねばならないと
密かに思った…