旅立ち
始めて小説を書きます。それをいきなり見ていただこうという厚かましさ(笑)
何回かに分けて書くつもりです。結構長くなるかも。今年中に完結を目指します。未熟者ですが、読んでくれると嬉しいです。
"君がどこから来て、私たちは何故出会ったのか。私は知りたい。例え、大切なものを失ったとしても"
目覚まし時計のアラームがけたたましく鳴り響いた。キョウスケはベッドから手を伸ばし、アラームを止めた。靄がかかった意識の中でかろうじて今日が休日であることを認識すると、彼は再びまどろみの中へ落ちた。
さほど時間を開けず、今度は携帯電話のアラームが鳴り、そこでようやく、今日これから旅行に行くのだということを思いだし、まだ昨夜の酒が残った身体を起こす。
携帯電話のアラームを恨めしげに解除すると、ふらふらとした足取りで洗面所に向かう。スーパーのビニール袋を踏みつけたが、気にも止めなかった。洗面所にたどり着くと、鏡に自分の顔が写る。髪の毛はボサボサで、昨晩剃り忘れた髭が青々として、瞼は腫れていた。顔を洗うと、再び気だるげな足取りでキッチンへ向かう。キッチンといっても、玄関の脇に申し訳程度に付いている小さなキッチンだ。ポットに湯を沸かしつつ、マグカップにはコーヒーの粉を多めに入れておく。キッチン横の冷蔵庫に入っていた晩酌の残りのチーズちくわをかじりながら、湯が沸くのを待つ。
テレビをつけると朝のニュース番組が流れており、スポーツコーナーの時間だった。自分よりも若い女子アナが、陽気な声で昨日のナイターのダイジェストを紹介していた。贔屓球団が地元で三連敗し、ついに自力優勝が消滅したことを確認してから、チャンネルを変えた。
別の局でもニュース番組が流れていた。こちらは、今日の夜中に起きる皆既日食の特集が組まれており、今回の皆既日食の舞台である鳥取県北西部の町の映像をバックに、男性キャスターが抑揚のない声で原稿を読んでいる。「今回の皆既日食は、ちょうど月と太陽が重なるところを国内から観測できるとあって、観測地点の鳥取県東部の各地では、すでに多くの観光客や天文ファンで賑わっています。ピーク時には大きな混雑が予想されます。」
普段、こういったイベントに人が集まる様子が流れると、ミーハーな一般人を心の底で笑っていたキョウスケだったが、今回はまさに彼もそのクチだった。日食を見るために、一人鳥取を目指すのだ。
キョウスケはこれまで、旅行はおろか、就職してからは仕事以外では大阪を出ることすらなかった。元々インドア派というのもあるが、忙しさに任せ、気づけば27になっていた。そんな中で、やっとまとまった連休をとることができた。独身男のささやかな一人旅を企画したのも、せめて連休くらいは現実から遠ざかるためだった。
大学進学を機に地方から大阪に出てきて、かれこれ9年になる。卒業の頃はちょうど就職氷河期真っ只中で、キョウスケも例に漏れず内定を一社も貰えない状況だった。かくなるうえは留年か大学院への進学を、と考えており、親からは半ば呆れられていた。
ところが、卒業をあと2ヶ月に控えたところで、かつて短期バイトで働いていた小さな会社から声がかかった。ナカムラ製作所という工業部品を扱う小さな会社で、バイトの時は資材の入った段ボールを決められた場所にひたすら運ぶ仕事をしていた。
単調で肉体的にもきつい仕事だったが、いかにも大阪らしい人情味のある会社で、辞めた後も僅かながら繋がっていた。そのため、就職活動で近くに寄った際に、近況報告を兼ねて何となく尋ねたところ、専務に顔を覚えられており、そのままあれよあれよといううちに内定が決まってしまったのだ。
社員になっても仕事はやはりきつかった。体もそうだが、社員になれば人間関係にも気を遣う。何度も辞めようと考えたが、それでも拾ってもらった恩から、音をあげることなく5年働いた。
これまで、風邪を引いたときや余程仕事が暇なとき以外で休みをとることなどなかったが、数日前専務がふと、「キョウスケ、そろそろ仕事も落ち着いてきたし、年休も貯まってるやろし、一週間ほど休みとったらどうや?休むんも仕事やで。」と、なんともありがたい提案をしてくれた。「ではお言葉に甘えて。」と、本当に一週間、休みを取った。上司も「お前が休んだら誰と飲みに行ったらええねん」とぼやきながらも、笑って承認した。
ところが、いざ一週間も休めるとなると、今度は何をしていいかわからない。正月でもないのに実家に帰るのは億劫だったし、友人もほとんど仕事で、遊びにいくこともかなわない。どうしたものかと思案しているところに、皆既日食のことをテレビで知り、人生初の一人旅を企画したのだった。
コーヒーをすすりながらテレビを見る。画面端の時刻は7時30分となっていた。荷物はほとんど昨日のうちに用意していたので、出発まで一時間ほど余裕があった。荷物といっても、三日分の着替えと、インスタントカメラ、あとは充電器と正露丸くらいのものだった。
家から最寄り駅まで歩いて5分、幸い天気は晴れだった。駅から新大阪まで向かい、そこから新幹線で岡山へ向かう。新幹線に乗るのは、実に大学以来、5年ぶりだったため、わざわざ駅弁を買って乗り込んだ。
窓を流れる気色。神戸を過ぎると、次第に街並みは田舎の風景へと姿を変える。車窓に次々と映る景色。キョウスケは、既に旅の醍醐味を味わった気がしていた。




