2話
体を洗い、借りた服を着てサッパリして簡易シャワー室から出ると、
先輩が先ほどのたき火の横で手招きをしていた
「西条ちゃん、飯だが和食と洋食どっちが良い?携帯食だけどな。」
「えっと、朝はパン派なので、洋食でお願いします。」
携帯食?何だろうと思っていると先輩がまた、何もない空間へ手を入れMealと書かれた茶色っぽい袋を出してきた。
「何ですかこれ?」
「うむ、バイト先から現物支給で貰った一部だ。
種類は色々有るが、どれも不味くは無いぞ。
空間からランダムで取るから開けてのお楽しみだ。
食べ方は袋に書いてある、読めるだろ?」
先輩から袋を受け取ると英文で書かれた説明を見ながら一緒に受け取ったランチプレートへ中身を移す。
幸い英語は得意だ。 小中学校の頃は親父の仕事の関係でアメリカやイギリスに住んで居たので、読み書きは人並み以上に出来るつもりである。
ちなみに袋の中身は、僕のがミートローフで、先輩はチキンライスだった
「先輩、これって軍隊食ですよね?この黒い服やブーツも軍服っぽいんですけどバイトって?」
「天球 《スカイ 》で覚えた特技を利用した職種だな。
報酬も、普通じゃ入手出来ない物を現物支給で貰っていたんだよ。
こっちの世界に戻った時に便利な物が欲しくてな。
保存の効く食い物とか車、生活物資、あと銃とかロケット砲とか戦車とか。」
「先輩、後半に変な言葉が混ざってるのですが、
バイト料で戦車が貰えるってどんな仕事ですか。」
「簡単に言えば傭兵だな、何せ剣1本で戦車大隊を壊滅させたり、
敵基地潜入して無力化出来るから自国の部隊を展開するよりお手軽なんだと。
お蔭で、バイト先には困らなかったぞ?秘密厳守の書類とかは面倒だったが。
ほら、俺2~3ヵ月に1回、2週間位の出張行ってただろ、アレだよ。」
あ~…本社やブロック長直々の要請で研修とか講習依頼を受けてたよな…
所長や課長達が飛び越し指示が気に食わないって良く愚痴ってた。
曰く、
『アイツは本部長や支社長に可愛がられていい気に成ってる。』
『絶対にしっぽを掴んで首に追い込んでやる。』
『勝手に大きな売り上げ上げやがって、内容も解らんから会議で説明出来ない』
『人事部長指示が無ければあんな奴追い出すのに。』って。
だけど、研修じゃ無く傭兵って……相変わらず謎が多い人だ。
しかしなんで報酬が軍隊食?
普通じゃ入手出来ない食べ物が欲しいって答えたら、自衛隊の戦闘食が出て来たのかな?
「でだ、西条ちゃん飯食いながらで悪いが、今後の事を相談しよう。」
「そうですね、先輩は帰らないんですよね?」
「うむ、帰らない、だが西条ちゃんが如何するかだ。」
「僕としては…如何しようかな。」
「帰るにしても、直ぐには帰れないんだし、それまでにゆっくり考えると良いさ。
残るなら、生きる手立てを教えるし助けてやる。
帰るなら、社長に手紙だしてやるし、俺の貯金もやるよ。」
この世界に残るなら、確かに日本の銀行に預けておいた貯金は要らないのかもしれないが……社長に手紙?
「先輩、社長って家の会社の社長ですか?」
「うむ、その社長だ、今頃地球では事務所に居た全員が毎行方不明になっているだろうからな。
“こうこうこういう事情だから許せ、西条ちゃんは再雇用しろ。
後、俺は帰らん“って手紙を書いて置く。」
「でも社長って、あの央田財閥総帥夫人ですよね?」
「そうだね、偉そうなおばはんだね。」
「妙に軽い言い方ですね…知り合いですか?」
「知り合いと言えば知り合いだな、さっきも話したが、前にここに着た時俺一人じゃ無かったんだよ。
真義兄、当時はまだ姉貴と結婚してなかったが、その人はこの世界では『勇者』と呼ばれている。
人類の救世主って呼ばれてる人なんだが…名前を央田 真と言うんだ。」
央田 真 僕らの会社の親会社会長で央田財閥総と同じ名前だ。
ちなみに現職の財務大臣。
幾つ位なのかは良く知らないが,確か40歳位だと思う。
「んで、地球に帰って着てから真義兄と姉貴が結婚して、死んだ親父の会社を姉貴が継いだ訳だ。
元々俺が継ぐ筈だったが…その時は子供だったし、真義兄の会社で運営して貰っていた。
日本へ帰還した時には、天球 《スカイ 》に帰る気で居たから、継ぐこと拒否ったんだが、
社会人としてだの人間としてだのと煩くてね、あの部署に逃げて居たんだよ…」
ちょっと待って…何か段々変な方向に話が…
「先輩ってひょっとして、社長の弟さん何ですか?」
「そうだよ、西条ちゃんに嘘が一つ有ったな、俺ヒラはヒラだけど平取締役なんだ」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
この1時間の中で一番驚いた!!なんだよ意味が全然分からない!!
役員なのに閑職の田舎で一番下っ端作業員って詐欺じゃん!!
「まぁ、天球 《スカイ 》の知識や持ち帰った物でいろいろと特許取ったり
科学分野で発表したりしたのもあるし。
天球 《スカイ 》に帰る為の物集めと情報が欲しくてと色々やったからね。
後も働いてないと姉貴に怒られる、
死んだ親父の会社なんだから働けって。
意味が解らんよ、他の会社乗っ取ったり、合併したりして社名も変わっているんだからさ。
俺は地球に未練は無い……いや、可愛いっ姪っ子にはちょっと会いたいかな」
「もう、先輩訳分からないですよ、本当に。」
「驚きついでだ、貯金通帳やるよ、残高12億ぐらい入ってるけど、もう要らないし。」
先輩が貯金通帳と判子を渡してくれたけど、じゅうにおくって…
取締役なら、確かに本部長とか支社長より上役だ、おべっかだった訳か。
もう驚きすぎて感覚が麻痺して着た、先輩が本気で帰る気が無いのも解った。
「お金や地位よりここの暮らしが良いんですか?それ程なら興味が湧きますよ」
「うーん、暮らし易いかどうかは、人其々だが、先ず命の危険は地球より高いぞ?」
ついさっき死にかけたばっかりだった事を思い出した。
地球というか日本で野生動物と会う事なんてないし危険があるとしても交通事故位だ。
「酒や食い物は旨いし、和食っぽい物も手に入る、
ちょっと特訓すればさっきの六肢熊程度ならちょちょいと倒せるし。」
ちょっと心がグラついてきた。
和食がそんなに恋しい訳でも無いけど、お酒が有れば幸せだし。
「なにより、地球より断然女の子が可愛くてナンパ成功率がやたらと高い!!」
「先輩、僕も天球 《スカイ 》で暮らします、特訓とナンパの技伝授してください!!!!」
「お、おう。」
こうして、僕は確固たる思いで、この地で暮らす事を誓うのであった!!