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1話

 あの日あの時、僕は光に包まれこの世界スカイに誘われた……

 今も時々考える。 あの時光に手を差し出さなかったら、この世界を知らずに地球で

 日本で社会の歯車の一つとして働き、平穏に老いて死んでいただろう。

 いや、(いざな)われたのが自分だけだったら、恐らく初日に死んでいたに違いない。

 大切な仲間たちと共に過ごすこの世界、スパルタだけと優しい先輩。

 抜けてるけど頼もしい友、美人だけど怖い友、そして愛おしいあの子。


 


 優しい日の光、立ち込めるいい匂いに誘われ目覚めた。


「んーん、あれ?先輩、おはようございます?なんで先輩僕の家に居るんですか?」

「おはよう西条ちゃん、お前の家って何時からサバイバル感に溢れた屋外になった?」


 先輩に言われ周りを見渡すと、雑木林の淵の野原に居た。

 たき火に掛けられたキャトルからはコーヒーの旨そうな匂いが立ち上っている。

 しかし、何故野原なのか?

 また酔っぱらってその辺で寝てしまったのかと考えたが、先輩が一緒なら自宅に泊めてくれる筈だ。


「先輩、此処何処ですか?」

「うむ、この場所の説明か・・・その前に、お前昨日の寝る前の事ゆっくり思い出してみ?」




 僕の名は西条 護。

 パソコンと名の付く物なら何でもやる割と大手の企業に就職した25歳独身、彼女無し。

 高校時代に遊びすぎて、誰も知らないような商科大を卒業。

 事務職目当に親父のコネで入ってみたら、バリバリの理系職場の技術職に配属され、他人を蹴落とし密告される職場環境で心を壊しそうになった所で地方へ飛ばされた。


 そして飛ばされた先に居たのが東堂 譲先輩。

 歳はたしか8つ上だったかな?

 元は違う会社の修理専門だったが、会社が合併したことでこの部署にやってきたらしい。

 本当は別の部署への転属を求められているらしいが、地元から離れたくないと断ってるのだとか。

 僕と同じヒラだが、顧客からは上役よりも信頼されており、時折来る視察の本社役員や幹部の受けも良い。

 それが所長や課長達は面白くないらしい。


 昨日は新人の「おバカ3人組」が客先の飲食禁止のサーバールームでホストサーバーにコーヒーをぶちまけ全面停止という有り得ない失敗をし、

事態収拾の為に僕と先輩以外がサーバー復旧に借り出された。

 そして僕は本来皆でやる予定だった客先修理を一人でこなさなければならず、

 徹夜代休取って寝てた先輩に泣き付き、助けて貰い夜中に帰社したはずだった。


「先輩~お腹すきました~」

「うむ、後は報告書纏めれば帰れるから頑張ろうぜ。 事務所に電気付いて居る所見れば、あっちも終わって帰って来てるだろう。」

「ですね~これであっちも手伝えって言われたら切れますよ、本気で」

「まぁ、おバカ3人組がただ事務所で座ってるだけで何もしていない可能性も有るがな」

「先輩、怖いこと言わないで下さいよ!」

「ははは、ほら福南達の車もあるし、流石に終わってるって、ぱっと片付けて飯行こうぜ。」


 先輩が会社の駐車場に車を止め、事務所に戻ろうと車を降りたときだった。

 事務所の入ったビルが、いきなり妙な光に包まれる。


「せ、先輩!これなんですか!!」

 今になって思えばなぜそんな事をしたのかわからないが、僕は何かに導かれるように、スッーとビルを包む謎の光に手を伸ばしてみた。

 指先が光に触れると特に違和感は無いが生ぬるい感じがする。

 

「バッ!西条!!離れろ!!」


 先輩の声が聞こえたのと同時にだった。


「うわぁっ!」

 ボクの手が急に引っ張られ、抵抗虚しく光のなかに引きずり込まれる。

 そして、気が付いたらこの野原だった。



「西条ちゃん、コーヒー飲むだろ?ブラックで良いか?」

「はい、頂きます」

 暖かいコーヒーを口に含むと、さわやかな苦味と柔らかな酸味がボクの心を落ち着かせてくれる。

 そしてようやく頭がクリアになったところで、ふと疑問が生まれた。


「思い出したんですけど、昨日会社のビルが光って、その光に触れたとたん引きずり込まれたんですよね?

 気付いたらここに着いていたんですけど、此処は一体何処ですか?」

「ん、先ず落ちつけよ? 落ち着いたら上を見てみ」


 先輩が上に指を指していたので、言われるまま、空を見てみる。

 晴れ渡る青い空、白い雲。

 そして赤い月に青い月? 変な輪っか……


「せ、先輩、僕目が悪くなったのか空に輪が見えるのですが」

「あれは『環』といって土星とか木星に有る輪っかだ」

「へ~先輩物知りですね……ってなんてそんなのが有るんですか!! 月も2つありますよ!!」

「月は2つじゃなく、3つだ、今は黄月が見えない時間だからな」

「いや、そうじゃなくて!!」

「うむ、ここが地球じゃないって事か?。

 地球とどの位離れて居るかは知らんが、ここは天球 《スカイ 》と言う別世界だ。 

異世界って言っても良いな」


 先輩はニコニコしながら答えてくれる。

 なんでこんなに落ち着いているのだろう?


「先輩、妙にこの世界について詳しいですね……ヤケに冷静ですし。」

「あぁ、言ってなかったっけ?俺は10年前まで7年間ここで暮らしてた。

お前と同じく光に飲まれて拉致られたんだ」

「聞いてないですし、拉致って!じゃあ、帰れるんですか?家に?」

「帰る方法は恐らく有ると思うが、俺は知らない。

前に帰れたのも有る意味追い出されたようなものだしな。

 どっちにしろ、帰る方法を探すしかないだろう、俺は帰らないけどな」

「え?先輩は地球に帰りたくないんですか?」

「うむ、俺はこっちに来たくて仕方が無かったんだ……

だからお前が引きずり込まれた時に一緒に飛び込んだんだよ。

 呼んだ連中にお前があーだこーだ云われて無茶振りされるのも癪だし、

召喚術に干渉し捻じ曲げてこの場所に来たんだ」

「召喚術って・・・何ですか?」

「この星じぁ、所謂『魔法』とか『魔術』とか『気功術』ってのが有るんだが、

西条ちゃんが呼ばれたのは多分魔術と精霊術の組み合わせだろう。  

例えば魔法だと火とか水とか出せるし魔術は魔法の再現、気功術はカメハ○波も出せるぜ

精霊術に聖法、神術…色々そんなのが有って、

組み合わせれば地球から拉致も出来るふざけた力だ」


 天球 《スカイ 》、拉致、魔法、精霊術、気功術……何だろう、この騙された感。

 凄い手の込んだドッキリな感じしかしない。

 色々な事が天の中でグルグル回る。

 パニックにならないのは、先輩がニコニコとしてコーヒー飲んでるからなのかな。

 このコーヒーセットって何処に持ってたんだろう。

 色々考えてたら、尿意が……


「先輩、おしっこしたいんですけど」

「その辺でしてこい、飯の準備してるから。

 あぁ余り離れるなよ? 特にその森に近づくな。 熊とか出るからな」

「解りました」


 流石に食事の用意してる横でおしっこは出来ないな、そこの森の木陰でっと……

 そういえば、森に近づくなの後に何か先輩が言ってたような気がするな。

 尿意が強くなってきて後半はよく聞こえなかったけど。

 そんな事を考えながら、小走りに木陰へ行ったのが間違いだった。


 ふと、ボクは茂みの向こうから何かが近づいてくる音に気が付いた。  

 なんだろう?犬かネコかな?  

 そんな事を思いながらズボンのチャックを下し、パンツの穴をまさぐろうとした瞬間……  



グァワォォォォォ!  


 低い咆哮と共に、潅木を蹴散らしながら巨大な何かが現れた。


「うわぁぁぁぁぁっ!?」  


 現れたのは、見上げる程大きな四本腕の熊。  

 あまりにも唐突過ぎて、僕は身動きが取れずへなへなと座り込み叫ぶことしか出来なかった。  

 下半身はジョビジョバとただ漏れに……


 あぁ、僕は死ぬんだ。

 熊が2本の右手を振り上げて、今正に僕に振り下ろそうとしているのがスローモーションで見える。

 もう駄目だ! 僕は目を瞑った。

 その瞬間先輩の声が耳を掠める。


「西条!!そのまま動くなよ!!」


 どさっ……

 何かが落ちる音が聞こえて目を開いてみると、そこには一振りの剣を持った先輩と

 真っ二つになって地面に転がる熊があった。


「西条ちゃん、森に熊が出るから近づくなって言ったのに」

 先輩が優しく話しかけてくれている……血まみれだけど。

 てか、何処から剣を出したんだ?さっきまで持ってなかったのに。


「せ、先輩・・・血まみれで怖いんですけど……」

「うむ、西条ちゃんはションベンまみれだけどな。

 どっちにしろ着替えなきゃ駄目だな。 スーツで荒野を旅は出来ないし。

 近くに川が有るが、行くのが面倒だから簡易シャワー室を出してやる。

 着替えはこれ使え」


 先輩が何もない空間から、ドアの付いた小さな個室と着替えを出してきた。

 ……え? なに? これ?


「俺の持ってる特殊技能『ギフト』の『空間把握』のオマケ。

 別の空間に物を出し入れ出来るんだ。

 多分、西条ちゃんにも何かしらの『ギフト』を得られてる筈だけど、

ま、どんなギフトを持っているかは追々解るだろう」



 こうして、僕の長い長い旅が始まってしまった……

 これからどうなるんだろう、パンツは冷たいし……

 不安がいっぱいだ……


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