プロローグ
私が生まれたのは17年前。月の沈む国で、私はママのお腹に宿った。そのときの事を、嬉しそうにパパは年中語る。その話をもう何度も聞いているから、1番最初に覚えた物語も確かその話だった。お喋り上手のパパが語る過去の話は、私からしてみれば何度聞いても、遠い国で今、現在、行われている誰かの人生のように聞こえる。では、その物語の主人公はママだ。
月の沈む国で、ママは生まれた。
いや、違った。ママではなく、尾崎よつ子。
18歳の彼女には、夢も希望もたくさんあった。
よつ子は18歳。2人の同じ顔をした兄が12の時に彼女は産声をあげた。厳格だった彼女の父も、その時ばかりは嬉し泣きをしたという。でも、彼女は父を知らない。彼女が3つになる誕生日の直前に癌で死んだという。いつも優しく微笑んでいた母は、泣き崩れ、何週間以上も寝込んだらしい。兄たちは、そんな母を助け、家のことをしつつも、勉学に励んだ。よつ子の兄は双生児、『双生児に兄とか弟とかあるか』、と今でも彼らは言うが、先に生まれたのが「むつ」。丁度、長針が6を指していたからだと言う。その3秒後に生まれたのが「さん」。この話を聞いたとき、私はパパに聞いた。『本当に3秒なの?』と。パパは笑って、『そう感じたんだよ』と答えた。本当は10秒以上開いたかもな、でも清さんからしたらそう感じたんじゃないかな? だって僕も君が生まれたのはあっという間に思えたしね。と付け加えて。清というのはよつ子の母親だ。長年連れ添った夫が死ぬまでは本当に強い人だったらしい。頑なに自分の意見を曲げようとしない夫と大喧嘩しても泣かない人だったと、むつ兄は言っていた。さんちゃんは母親の事が嫌いだったらしく、何も話してはくれないが、むつ兄はよく思い出しながら私に聞かせてくれた。
むつ兄は、母親の事はよく話してくれたが、妹のこと、つまり尾崎家の末娘で、私のママのよつ子については、あまり話してはくれなかった。専ら、よつ子の事をパパ以外で話してくれるのは、さんちゃんだった。私の初恋はパパで、次の恋の相手はさんちゃんだった。
月の沈む国、陽の昇る国
あたしは、あのとき、ママのお腹にいた