線香花火に勝ったら
百合です。
友達に頼まれて書いてみました。
あまり百合っぽくないかもしれませんがそこはご容赦ください。
八月三十一日。つまり夏休みの最終日。私、京香はのんびりと学校の宿題をやっていた。
夏休みの宿題は計画的にこつこつとやるタイプなのでそれほどピンチではない。このままいけば夕方までには終わる計算だ。
今年の夏休みを思い返してみると、なかなかに充実していたように思える。プールにゲーセン、キャンプに海水浴、祭りに肝試しとてんこ盛りの夏だった。まぁそのほとんどは幼馴染みの菜々実に引っ張られたんだけど。
高校二年の夏は遊べる最後の年だから、そう言って菜々実とは毎日のように遊んでいた。菜々実が宿題をやっているかはかなり怪しく(というか絶対やっていないのだけど)、そのため毎日遊ぶのはいかがなものかと思っていたのだが、どうも菜々実にお願いされると断れない。
甘やかしすぎだな、という自覚はある。が、反省はしていないのが現状だ。きっと冬休みもこうなるのだろう。
ブブッ、とケータイのバイブレーションが鳴る。菜々実からのメールだ。内容はいたってシンプル。
『ヘルプミー(涙)』
もう毎度のことなので意外性も何もない。(涙)とか書いてくるところがわざとらしいとさえ感じる。要は宿題がピンチなのだ。向こうは。
計画性の欠片もない菜々実は、当然のように宿題を直前までためるタイプで、直前というかもう前日までためて、結局私が手伝う羽目になる。
それでも毎回断れない私もたいがいだな、と苦笑する。
結局、私は夏休みの宿題を全て持って、菜々実の家に行くことになるのだ。
中学になった辺りから、菜々実は随分と可愛らしくなって、男に告白されることも増えていった。その現場に遭遇しては妙な嫉妬心を感じ、そして菜々実がごめんなさい、と言って断っては、心の中でざまぁみろ、と呟くのだ。
高校は二人で女子校に入学したため、そういうことはほとんど無くなったが。
玄関から出てきた菜々実は、そのまま外に出かけるとでもいいたげな服装で登場した。
「いらっしゃ……、うわぁ、バッティングセンターにでも行くつもりなの?」
菜々実は私の服装を見てそうもらす。そりゃ菜々実みたいな可愛い格好ではないけどさ。
「うるさい。勉強するのに格好なんて関係ないでしょ」
そりゃそうだけど、と菜々実がぼやいている。ていうか私はこの暑さがもう限界なんだ。
「ま、いいから中に入れて。……暑い」
「あぁ、ゴメン。どうぞどうぞ」
菜々実の家はクーラーがほどよく効いていた。やはり人類最大の発明はクーラーだと思う。
「生き返る~」
菜々実からもらったコーラを飲んでそう言った。菜々実は苦笑して
「そりゃ、京香に死なれたら私生きていけないからね」
こいつは平気な顔でこういうことを言うのだ。私の顔が赤くなっていないか心配だ。誤魔化すようにしながら、
「大袈裟だなぁ。さ、早く宿題でかさないと」
「うん。……その前に私もコーラ」
そう言って菜々実は私の飲みかけのコップを口まで運ぶ。あぁ、まだ飲みかけだったのに~、と割と冷静に見ていられたのは最初だけですぐに恥ずかしくなってしまう。
「ごちそうさまぁー、ってあれ?どうしたの?」
「えっ?い、いや何でもない。それより宿題!何ができてないの?」
私は慌ててそう返す。慌てていたせいで少し声が裏返ったような気がするが気にしない。
私がそう聞くと菜々実は困ったような顔をして、たはは、と笑いながら
「えっと、世界史はやりました」
つまり世界史以外はやっていない、ということになる。世界史って……、三十分ぐらいで終わるやつじゃん。
「まぁ、そう言うと思ったけど……。はぁー。はい、これ私の宿題のノート。言っておくけど、少し表現変えるとか工夫してよ?」
「ありがとぉー、大丈夫よ。答えを写すのは得意だから!」
「そんな自慢げに言われても……、はぁ」
私は注意するのを諦めて、自分の課題を取り出す。まだ終わっていない課題をでかすのだ。これもあとで菜々実に見せないといけないし。てか少しくらいは自分でやらせようかな。
夕方、と思うのはまだ日が沈みきっていないからで、時間的にはもう晩ご飯を食べてもいい頃合いだ。目の前では菜々実がテーブルに突っ伏している。一時間くらい前まではずっと私のノートを写す作業に没頭していたのでまだそんなには寝ていないだろう。
こういうとき、私は菜々実を起こさないようにしている。というのも、菜々実は寝るときに必ずケータイのアラームを設定してから寝るのだ。変なところで真面目な子である。
菜々実のケータイから電子音が鳴る。菜々実はムクッと起きあがると、大きな欠伸を一発かましてから、まだ眠そうな瞳でこちらを見つめる。
そんな顔にどきりとしている私をよそに菜々実は、
「よく寝たぁ~。ねぇ、宿題見せてくれたお礼に何か作るけど、そうめんでいい?」
「……何かって言っているのにもうそうめんって決めちゃってるあたりが菜々実らしいよね。まぁ暑いし私もそうめんがいいけど」
「京香がそうめん食べたそうだなって思ったのよ」
「さいで。宿題どこまでいった?」
「うーん、数学は乗り切ったし英語もあとちょと」
「おっ、ほとんど終わってるじゃん」
「まぁね。私にかかればこんなもんですよ!」
「うん、人のノート写してる人が偉そうに言わないでね」
菜々実はえへへ、と笑って台所へ向かう。
「私も何か手伝おうか?」
一人に作らせるのはちょっと気が引ける。それにやることもないのでそう申し出たのだが、菜々実は、
「大丈夫。一応お礼のつもりなんだから。京香は適当にくつろいでてよ」
そう言われるともう手出しは出来ない。何もやることがなくて、とりあえずテレビを点けた。
そのテレビではちょっと前にやった花火大会の様子が映っていた。見れば人がいっぱいで、あんな所に行くのは無理だな、とかそんなことを思う。
ふと、夏休みでまだやっていないことを思い出して、菜々実に問いかける。
「ねぇ、宿題ももうすぐ終わるしさ、ご飯食べたら花火やろうよ」
そう言うと菜々実は嬉しそうな顔をして、
「おっ、いいね!花火!もち浴衣でしょ!」
私がえっ?と聞き返すと、
「だーかーら、浴衣。京香ったらせっかく買ったのに去年一回着たっきりで今年も着なかったじゃない。せっかく似合うのにもったいないよ」
「いや、だって私、一人で着付けできないし」
「心配しないで。私がやってあげるから」
そこまで言われると断れない。私は諦めて、
「分かったわよ。家から取ってくるから。花火、この家にある?」
「ない!京香の家にはあるの?」
「あったと思う。それも探してくるよ」
私はそう言って菜々実の家を出た。
「えっと、浴衣どこにやったっけかなぁ」
花火は家の下駄箱ですぐに見つかった。しかし浴衣はなかなか見つからない。何せ去年買って一度着て以来出してもいないのだ。クローゼットを掘り返して、ようやく黒地に蝶柄の浴衣を見つけた。
それらを持って菜々実の家へと向かう。随分と時間をかけてしまった。もうそうめんはゆであがっている頃だろう。少しだけ歩く足を速めた。
菜々実の家に着くと、案の定そうめんは出来上がっていた。
「お帰り~。遅かったね。もう出来てるよ」
「ごめん、浴衣探すのに手間取っちゃって」
「ずっと着てなかったもんね。ま、早く食べて花火しようよ」
「ごちそうさまでした」
私は両手を合わせてそう言った。菜々実は満足そうにして、
「おそまつさまでした。じゃあ、花火やろっか。……とその前に浴衣ね」
そう言って菜々実は私のところへやってきた。
「どうする?髪もセット出来るけど?」
「いや、さすがにそれはいらないでしょ」
「ま、それもそうか。じゃあ始めるわよ」
菜々実の手際はとてもよかった。見て覚えようとしたけど多分、というか絶対無理。
「はい出来た。やっぱり似合うよ!」
菜々実は私の着付けが終わると今度は自分の着付けに入った。
「私、先に準備してるね」
「お願い~。バケツ庭に出しておいたから水入れておいて」
庭へ行くと、菜々実の言ったとおりバケツがあった。外にも水道があり、そこから水を汲む。
私は持ってきた花火を取り出して、……しまった。チャッカマン忘れた。
「菜々実~、チャッカマン貸して~」
私が庭から叫ぶと家のなから、いいよ~、と言う菜々実の声が聞こえた。
菜々実の家に何があるかは大体把握してる。倉庫からチャッカマンを取り出してきたところで菜々実が浴衣姿で出てきた。くすんだ赤の地に花が浮かんでいる。菜々実によく似合ってると思った。
「えへへ、どう?似合う?」
そう言って菜々実はその場でクルッと回ってみせる。その仕草がまた可愛いらしい。
「似合う似合う。てか夏祭りも見てるんだけど」
「それは言わない!でもありがと。京香も似合ってるよ。大人っぽくて」
そういうことをサラッと言ってのける。私は顔を逸らして、
「……ありがと」
そうぶっきらぼうに言った。
花火の封を開けて手近なものをとり火をつける。バァーッと赤紫の炎が飛び出てくる。何度やっても最初は恐いんだよなぁ。
しかし菜々実は恐いもの知らずで、手に何本かの花火を持って振り回しながら遊んでいた。
手持ち花火なんて久しぶりだが、そういえば以前菜々実とやったときもあんな風に危険な遊び方をしていたような気がする。
菜々実が回るのに合わせて花火の光が弧を描く。その姿に見入ってしまい、自分の花火をつけるのも忘れてずっとその姿を見ていた。
「京香も見てばっかりいないでやろうよ!楽しいよー!」
そう言う菜々実は確かに楽しそうだ。そんな姿を見ているとこちらもやりたくなってしまう。
「よし、やってやろうじゃない」
私はそう気合いを入れて花火を四本手に取る。二本ずつ両手に持って振り回した。予想していたよりも恐怖感がないのは私が大人になったからだろうか。
とまぁそんな風に遊んでいると、当然ハイペースで花火が消費されていくわけで。気付くともう線香花火しか残っていない。
パチパチッと綺麗な光が走る。先ほどまであんなに騒いでいたためこの静けさが心地いい。
最後の二本になり、それに火をつけようとしたところで、菜々実が待って、と言った。
「最後だし、勝負しようよ。先に落ちた方が負けってやつ。負けた方が勝った方の言うことを何でも一つ聞くってことで」
菜々実は意地悪そうに微笑みながらそう言った。
「いいよ」
私はそう答える。
そうして勝負が始まった。
私たちは向かい合って同時に火をつける。不正はなしだ。ちょうどよく風が止んだため長い勝負になりそうだ。
私たちはしばらく無言の状態が続いた。手が揺れないように集中するので精一杯で、話す余力がない。
何でもか……。とはいえあまり大変なのは駄目だろうしなぁ。ま、片づけとかが妥当かな。
それか浴衣の着付け方を教えて貰うのもいいかもしれない。
私がこの浴衣を買ったのは、菜々実に似合うと言われたからだ。もともと菜々実の浴衣を買うのに付き合っただけなのだが、菜々実が落ち着いた蝶柄の浴衣を見つけて私に似合うと言ってきた。
その夏のお祭りで私たちは浴衣を着ていった。初めての浴衣はとても歩きづらかった。
似合う、と言われた浴衣を着て、はしゃいでいたんだと思う。私は菜々実とはぐれてしまい一人で歩いていた。その時に男のグループに声を掛けられた。浴衣似合うね、と。
全く嬉しくなかったし軟派野郎どもにそう言われるのは不快ですらあった。
それ以来浴衣は着なかった。似合う、と言ってくれるのは一人でいい。
……私って思ってたよりずっと菜々実のこと――
「好きだよ」
「ひゃうあっ」
驚きのあまり変な声がでてしまう。そのはずみで私の線香花火が落ちてしまった。
見上げると赤い顔をした菜々実がピースをしながら、
「私の勝ちー」
と言っている。というか今なんて?
「ちょっ、まって。今なん」
「それじゃあお願いね」
さえぎるように菜々実は言う。いやいや、今本当に何て言った?
「じゃあねぇ……、私と付き合って」
そういえばまだ宿題ちょっと残ってたなー、そんなくだらないことが頭をよぎる。
菜々実の顔は真っ赤で、それを見ている私の顔もきっと真っ赤なんだろうな、となぜか冷静に思った。
私は苦笑しながら、
「菜々実のお願いは断れないって、知ってるだろ」
八月三十一日。それは夏休み最後の日であり、私の思い出の日。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前書きにも書きましたがこの作品のネタは友達からいただきました。
百合好きが幼馴染好きに頼むとこうなります(笑)
正直、百合作品は読んだことがあまりないので、僕がこうだと思うものを書きました。友達よ、許してくれ。
そういうわけで出来上がった作品。会話が少ない……
毎度のことですが感想、評価等よろしくお願いします。