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誰が何て言おうとあいつは大切な俺の弟だ。

シィクの兄視点のお話です。

 シィク・ルサンブル。

 それは俺の弟の名前だ。

 何でもできるほどに有能で、将来有望とされている。実際、俺よりも出来がいいだろう。だからこそ、時折シィクが先に生まれればよかったなどといわれたことがあったものだ。

 最もそんな風に言われていても俺は弟の事は大切だった。周りに何て言われようと知らない。そりゃあ少しは色々思ったけれども、血のつながった大切で、大事な弟なのだ。

 その弟は完璧に見えるけれど、時々暴走しがちだ。

 何でもできて、魔法学園―――俺の母校でもあるシェンティア学園でも一目置かれていると聞いていた。だから安心していた。シィクはちゃんとやっていけてると。ついでにそこで共に未来を歩んでいけるような人に出会えればいいとも思っていた。

 シィクは次男だし、俺のように家を背負う必要はないのだ。

 身分が離れていようと構わないから、誰かと幸せになってほしいと思ってた。

 それは父さんと母さんも同じだ。シィクは少し不安定な所があるのだから両親もシィクの事を心配している。

 安心していた。ほっとしていた。

 シィクが転入生であり、ある貴族の隠し子であった少女に恋をして付き合った時は良かったと思ったんだ。その少女は多くの人間に好意を寄せられていて、シィクにライバルは多かった。だけどその子はシィクを選んでくれた。

 付き合いだしたって聞いた時、シィクをよろしくお願いしますと言おうと思ってたんだ。少し暴走しがちな弟の事を選んでくれてありがとうって。

 でもその前にシィクとその子は駄目になってしまった。

 その理由がシィクの暴走にあったのだから、俺たちはまた心配した。

 シィクは束縛をしてしまったらしい。恋人になった少女が誰かと仲良くしていたのが耐えられなかったらしい。そして結果としてその子は他の人間と付き合って、それでも止まらなかったシィクの暴走にその子は恋人と共に学園を去った。

 恋人に束縛をした。

 なんて異常にも見える行動にシィクは孤立した。

 元々からシィクはあまり交流関係を作ってなかった。これで気のおける友人でも周りに作ってれば別だったかもしれないが、生徒達の大半はシィクと距離を置いたらしい。

 俺の方にもシィクの事で色々いってきた奴も居たぐらいだ。

 貴族の多い学園で問題を起こしたのだから、もしかしたらシィクは結婚できないのではないかとか色々考えて俺はまた心配でたまらなかった。

 学園での立場も悪くなっているシィクに俺はどうしてやればいいかわからなかった。

 一度実家に帰ってきた時に話はしたが、俺や両親にはシィクの事を完全に理解する事は出来なかった。暴走しがちなシィクを俺達家族は心配してる。それでもシィクがどういう気持ちでそういう暴走を起こすか俺達には正確にはわからないのだ。

 家族なのに、情けないとは思う。

 時折何を考えてるか分からなくなることもある。

 そんなシィクをわかってくれる人間が現れればいいとも思っていた。俺達にはわからなかったから。知ろうとしてもシィクは自分からはあまり口にしない人間だったから。

 俺に出来る事なんてシィクを励ましたりする事だけだった。

 しばらくすればシィクが落ち着いて、俺はほっとした。もう大丈夫だろうと思った。

 相変わらず孤立をしていたみたいだけど、シィクは普段は冷静な人間だと知っていたから。

 最もシィクが将来幸せになれるのだろうかという釈然とした心配や不安はあったけれども。



 そうしてシィクを心配しながらも公爵家の当主として過ごす中で、気がつけば束縛した事件から一年近くたっていた。

 そしてその頃、シィクがある女子生徒と仲良くなっているのを聞いた。















 その少女の名はリサ・エブレサック。

 あのガナル・エブレサックの可愛がっている孫娘だった。

 俺は純粋に嬉しかった。シィクが誰かと仲良くなった事が。だけれどもまた暴走してしまうのではないかという思いもあった。

 リサ・エブレサックの事を調べれば出てくるのは良い情報ばかりだった。

 その子は学園内で最も人気が高いとも言えるほどに周りに好かれている子だった。

 誰にでも平等で、優しくて、美しき侯爵家令嬢。

 それがそのリサ・エブレサックという令嬢の評価だった。

 調べさせれば誰もが彼女をほめたたえた。誰もが彼女は良い令嬢だと語った。

 実際に俺の目から見ても彼女は優しく良い令嬢だった。どうかシィクと仲良くしてくれればいいと思った。

 しばらくしてシィクが彼女に惚れて、そうして付き合った時本当に良かったと思った。

 それでもそこで安心はできなかった。シィクが暴走してしまった前例があったから、またあいつが暴走して幸せをつかみ損ねるんじゃないかってただ心配だった。

 ちゃんとシィクは今度はやっていけるのだろうか、そういってそわそわして、心配してたら態度に出てたらしく、両親やヴィカに苦笑された。

 ヴィカは王妹の、俺の妻だ。

 とはいっても俺とヴィカは政略結婚ではない。

 両親は政略結婚だったが、その後愛が目覚めたパターンだ。

 両親も俺も何だかんだで好きな人と結婚しているのだ。それもあって俺の家はシィクにも好きな人と結婚してほしいと思っているのだ。

 何カ月かシィクと彼女の付き合いを報告してもらった。

 今の所、上手くいっているようでほっとした。俺としては彼女を実家に連れてきて紹介してもらったり、さっさと婚約を結ぶなりしてくれた方が安心するがせかしても仕方がないことだ。それに彼女を可愛がっているらしいあのガナル・エブレサックがシィクとの婚約を認めてくれるかも問題だ。

 学園でシィクが暴走して恋人に逃げられた事ぐらい向こうには筒抜けだろう。

 可愛がってる孫娘と問題のある男が付き合うのを許してくれるのだろうか。

 俺がもし自分の娘が問題のある男と付き合うと聞かされればそれを許せる自信はない。俺にとっては弟で、大切な奴でも、周りからすればシィクは束縛して恋人を苦しめた男なのだ。

 何かシィクのために俺はできないか。

 それをただ思った。

 「どうしたの?」

 椅子に座りこんでシィクの事を考えて居れば、部屋に入ってきたヴィカに心配そうにそう問いかけられた。

 王妹ヴィカ。

 陛下そっくりの赤色の髪に緑の瞳を持つ、陛下と十歳も歳が離れた二十歳の女性。

 「ああ、シィクのために何かしてやれないかと思ってな」

 大切な弟のために俺は何ができるだろうか。それを考えて、結局思いついたのはあのガナル・エブレサックに会いに行くという事だった。

 ガナル・エブレサックは、政界を引いたとはいってもこの国にとって影響力のあるご老人だ。陛下にだって助言できるぐらいの実力がある。陛下からの信頼も厚い。

 若い頃は貴族として、民を守るために戦争で戦い、功績をあげた人でもある。

 三十年前ほどの隣国との戦争の時に活躍し、他国に恐れられた人。

 その人にシィクのために会いに行こう。

 そう思って俺は筆を取って、手紙を送らせた。



 その後帰ってきたガナル・エブレサックからの返答は、『わしも話したい事があるから、こちらから出向こう』というものだった。



















 緊張しながら後日俺はガナル・エブレサックと対面した。

 この世に絶対なんてありえないのだ。失敗してしまうかもしれない。それでもシィクのために…、そう思って俺はガナル・エブレサックの言葉に驚いた。

 「わしもあの子に幸せになってもらいたいのだ。だから、一年こちらで様子を見てから婚約を結ぶのはおうかと思っている」

 それは彼女がシィクと付き合っていく事を反対していないと言っているようなものだった。

 俺はそれに驚いた。孫娘を可愛がって仕方のないというこの人が、シィクの事を知っていながら許す事に。

 問答無用で別れさせると言われても俺は驚かないぐらいだったのに。

 思わず俺の顔に驚きが出ていたのだろう。その後、ガナル・エブレサックに言われた。

 「確かにお前の弟は束縛し恋人に逃げられた人間だ。正直その点に関しては不安はある。だが、シィク・ルサンブルはリサの唯一の特別なのだ」

 シィクが唯一の特別などという言葉に俺はガナル・エブレサックの顔を見た。

 調べてもリサ・エブレサックは誰にでも優しく、親友が居て―――そんな少女だ。特別がシィクだけという言い方によくわからなかった。

 「あの子は誰にでも優しい。それは誰も大切に思っていないからだ。特別が居ないから誰にでも平等な態度を示しているだけだ。もちろん、わしに対しても」

 王族だろうと、貴族だろうと、少なからず人間なら大切な人が居るものだ。

 それなのに目の前のガナル・エブレサックは彼女にそういう存在が居ないといっている。

 「そんなリサが唯一昔から特別として見ていたのがシィク・ルサンブルなのだ。あの子はシィク・ルサンブルの前でだけ年相応な表情を見せ、取り乱す。あの子が唯一平等に接することができなかった人間――――それが、シィク・ルサンブルなのだ」

 彼女にとってシィクだけが特別なのだという。

 他の誰でもない、俺の弟だけを特別に見ているのだと。

 「あの子を大切に思っている人間はわしも含めて周りに多くいる。でもあの子が大切に思っている人間はシィク・ルサンブルだけなのだ。

 わしはリサに幸せになってほしい。だから束縛して恋人に逃げられた過去があろうともあの子を唯一の特別と別れさせるなんてことはせんよ」

 そういって朗らかにガナル・エブレサックは笑みを浮かべた。

 その表情は何処までも彼女を大切に思っているとでもいうようなものだった。

 ガナル・エブレサックも俺がシィクを大切だと思うのと同じように、彼女を大切に思っているのだろう。

 直接リサ・エブレサックと関わったことのない俺には外面的な彼女の事しかわからないけど、愛されているのに愛さない、大切に思われてるのに思わない、そんな人間だと親しい人からは思われているのは理解した。

 「あの子は唯一の特別であるシィク・ルサンブルと共に居ると少し冷静になれない所がある。そしてシィク・ルサンブルも以前恋人に逃げられたせいもあるのか余裕がないように見えると報告されている。

 そこが不安要素だが、わしはしばらく経てば二人とも落ち着くのではないかと思っているのだ。だから一年、様子を見る。そして双方とも落ち着いていると判断出来れば二人を婚約させたいと思っているのだ」

 「それがいいと思います。シィクは昔から時々暴走しがちですから…」

 俺がガナル・エブレサックにそう返して、そして話は纏まった。

 一年様子を見てから婚約話を進めて、そして盛大に発表する。

 もちろん、シィクと彼女を見て共に生きて大丈夫だと確信してからだけれども。

 その後、ガナル・エブレサックにシィクの事を大切かと聞かれた。

 それには俺は迷わず答えた。

 「はい。誰が何て言おうとシィクは俺の大切な弟ですから。シィクの事、よろしくお願いします」

 彼女とシィクが共に生きると言うならば、シィクはエブレサック家に婿養子という形で入るだろう。エブレサック家の当主の子はリサ・エブレサックしかいない。

 そうなった場合、この人がシィクの味方をしてくれるなら俺は安心出来る。

 今シィク本人の味方をしてくれる人間は少ないだろうから。

 なぁ、シィク。時々お前は暴走しがちでやらかす事もあるけれど、それでもお前と一緒に居たいって人間が居る事は幸せな事だと思うんだ。だから暴走せずに落ち着いてくれ。

 学園でのシィクの評価は下がっているし、俺にも色々言ってくる奴らも多いけれどそれでも今からちゃんと出来ればその評価だって覆せるんだから。

 過去にやった事は消えないけれど、大事なのはこれからの未来なんだから。

 だからリサ・エブレサックと一緒に居たいっていうなら落ち着いて、そして周りに味方を作る努力をしろ。俺も手伝うから。シィクが幸せになれるように。

 今度、シィクが帰ってきた時それを言おうと思うんだ。

 幸せになってほしい。そう思うのはあいつが大切だからだ。





 ――――誰が何て言おうとあいつは大切な俺の弟だ。

 (暴走しがちでも、不安定でも、それでも大切だから幸せになってほしいとただ願ってる)



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