馬鹿で臆病な私の好きな人。
※前話の副会長の事好きな女子生徒兼副会長の友人目線。
『俺は――――って言うんだ』
初等部の頃、貴族の多い学園に魔力を持っている事が発覚して転入した私に話しかけてきてくれた人が居た。
平民を見下す貴族も多くて居た堪れない気持ちにもなって、なれない環境につかれてた私は当初彼の好意を撥ね退けた。
その時は周りに興味がなくて知らなかったけど、その人は侯爵家の次男でその後嫌がらせが起きた。
私は馬鹿だったのだ。貴族の事もわかってなかった子供だった。だから、上手く対応できなかった。
ああ、間違ってしまったとそう思う中で、
『何してるんだ!!』
彼が助けてくれた。
嫌がらせされたのは人気者の彼に話しかけられて突っぱねた私のせいだったけど、助けてくれた。
その時に、好きになった。
最初の態度も謝った。それから、友達になった。
近づければいいと思った。私の事好きになってくれればいいと思った。
だけど、私は彼がずっと初恋を引きずっていた事を見ていて気付いた。
優しい彼が臆病な存在だという事もずっと知っていた。
彼は優秀な兄に劣等感を抱いていた。彼の兄は周りから見て完璧と言える人だった。優しくて、公正で、美形で、何事もそつなく技量を持ち合わせていた。
周りが彼と兄を比べて、その結果劣等感が彼には根付いていた。
彼は転入生―――ヒメ・メシープルに惹かれた様子を見せていたけど、私はずっと知っていた彼が、アイド・サラガントがリサ・エブレサックにずっと恋心を抱いていた事を。
完璧すぎる彼女に彼が近づけなかったのは、兄への劣等感も理由だっただろうと思う。彼は周りから見れば割と何でもできる人に見えた。それでも完璧な兄を知っていたから、自分はおとってると感じていたのだろう。
そして自信が劣等感を感じる兄と同じように完璧だった彼女を好きになって、勝手に釣り合わないと思って近づかなかったのだ。
好きならぶつかればいいのに、ぶつかる事も出来なかった臆病な彼。そんな所も好きだった。
私は完璧な人はどちらかと不気味だと思う。だって欠点があってこそ人間なのだと思うから。
だから私は彼の兄も、彼女も不気味だと思ってた。感情を確かにその顔に映し出していても、何も感じてない人形のように見えた。
私は転入生に好かれようと彼が必死になってる様子を見ても嫉妬はしなかった。
彼は馬鹿だ。成績はいいのに馬鹿で臆病だ。
彼女への恋心がずっと心にあったのに、敵うはずないと本気の恋に蓋をした。そして彼女に何処か似たまがいもの―――最も私から見れば彼女が不気味なのと違って転入生はまだ人間味染みてたけど―――に惚れた事を気付いてなかった。
転入生がシィク・ルサンブルを選んで、束縛に耐えられずに別れた。
そしてあろうことか彼が好きだった彼女と付き合いはじめた。
その一連の流れの中で、彼は変わりにしていた事を気付いたようだ。ずっと心に蓋をしていた初恋を思って、いら立っているようだった。
私は苛立つ彼と違って、ただ彼女がシィク・ルサンブルに見せる表情に驚いていた。いつもの人形のように欠点のない完璧な少女ではなく、そこにいたのは年相応な少女だったから。
彼女もそんな表情出来るんだと思った時、私は彼女を不気味だと思った思いが消え失せた。彼女もちゃんと感情を持っていた。それを実感したら、今のシィク・ルサンブルと一緒に居る彼女の方が好きだと思った。
他の人に対する態度は今までの完璧な侯爵令嬢としての態度だった。だけどシィク・ルサンブルに対してだけ違った。彼女にとってシィク・ルサンブルが『特別』だという事は客観的に見て確かった。
だけど彼はそれを受け入れたくないと思っていたようだった。
だからこそ、彼は苛立っていた。
彼は馬鹿だ。臆病で、動かなくて、そのくせ彼女に『特別』が出来た事に納得できないでいる。
そんな所も愛おしかった。
馬鹿でも、臆病でも、それでも私を助け出してくれたヒーローだったのだ。
シィク・ルサンブルに強くあたって彼女に敵意を向けられて、本当に馬鹿だなぁと思う。せめてあたって砕ければすっきりと失恋出来ただろうに。
その思いを告げる事も躊躇って、彼女の『特別』にやつあたりをするなんて。
怒った姿を想像もできないような彼女があんな些細なことでシィク・ルサンブルのために怒れるんだと思うと親近感がわいた。本当、シィク・ルサンブルと付き合う前の彼女は人形みたいで、寧ろ私と同じ生物なのだろうかとさえ思うほどだったのだからそれも当たり前だろう。
相思相愛の仲に水を差す悪役。
そんな立ち位置にやつあたりからなってしまった彼の今の現状は自業自得とも言える。
周りが彼女を怒らせた事に彼に冷たくなっている。媚びへつらっていた連中も離れたりもした。最も私とか彼と仲良い友人達はそんな事で離れていったりなんてしなかったけど。
ただ私も含めて、『何やってんだ』とか『時々馬鹿やらかすんだから』と呆れたようにいいながら笑うだけだった。
他の友人たちも彼が彼女に恋心を抱いていた事ぐらい気付いただろう。どうしようもないやつあたりでシィク・ルサンブルに当たったことも。
彼は友人たちは彼女への自分の思いを気付いていないと思いこんでいるみたいだが、よく見ればバレバレだ。私も含めて何年付き合いのあると思っているんだろうか。内面がわかりにくそうでわかりやすいのが彼なのだから、昔からの仲なら気付くのは当たり前だ。
馬鹿だなぁ。でも好きだなぁ。
そんな風に彼を見ているとただ思うのだ。
私は彼が馬鹿で、臆病でよかったって思ってる。だって彼はかっこいいから、本気でぶつかっていったら彼女も彼に惹かれてしまったんじゃないかと思うから。
私は彼が好きだから、そんな事にならなくてよかったと思ってる。彼は私を友人としか思っていないから、元より望みは薄いけどそれでもいつか玉砕覚悟で告白しようと思っている。
何もしないで後悔するなんて私は嫌だから。
まぁ、私は平民で魔力があるからってだけでこの学園に入った人間だ。此処は貴族が多い学園だけど、それは魔力持ちが貴族が多いという単純な理由からそうなっているだけだ。
魔力は血に由来する。例外はあるがほぼそうだ。だから魔力持ちは貴族ばかり。
私は祖先に魔力持ちがいたのか、はたまた例外でなのか、それはわからないけど魔力を持っていた。だから此処に居る。
家柄的に見て私は彼と全く釣り合っていない。友人関係であるだけで文句をいってくる人もいるぐらいだ。
だから私は卒業したら、権力を手にしにいくつもりだ。
幸い私は平民だろうと魔力量は高いし、攻撃魔法は得意だ。
魔法師団に入るための試験も受ける予定だ。そこに入れるだけでエリートと言われるのだから、それなら私が彼の傍にいても問題はないはずだ。
彼が私の告白にこたえてくれたら、恋人として隣に居る。
彼が私の告白に断ったとしても、友人をやめるつもりはない。
どっちにしろ私は彼と交友を持って生きるつもりだ。
それに他の友人たちも貴族だ。つりあわないと言われないようにしたいのだ。
一生付き合っていきたいぐらいの友人たちなのだから。
「………一番いいのは魔法師団の入団試験に受かってからかな」
空を見上げながら私は思わずそんな独り言をいってしまった。
「何が?」
反応したのは彼だった。
「何でもないよ」
「何だ、それ?」
私のはぐらかす言葉に不思議そうな顔をする彼を見ながら、絶対入団試験に受かるようにするからと意気込むのであった。
――――馬鹿で臆病な私の好きな人。
(馬鹿だなと思う。だけれどもそんな所も好きだと思う。目標を達成したら告白したいなぁと思う)