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幸せになってほしいと望むからこそ。

※前話の「私」の親友目線。

 私はずっと親友であり、侯爵家令嬢でもあるリサ・エブレサックと共に過ごしてきました。

 リサは幼い頃から大人びていましたわ。他人と共に過ごすよりも一人で居る方が好きなようで、昔から一人を好んでおりましたわ。初等部に入学する前から家の関係で私はリサとお友達でした。

 私は幼いころからリサが好きでした。だからよく誘って遊んで、そうやって過ごしておりました。リサは私から誘わないと私に会いに来てはくれない方でしたから。

 そんなリサは初等部の頃から他人には興味がないというのに、人に囲まれていた方でした。それはリサの侯爵家令嬢という地位ももちろん理由でしたが、リサ自身にも理由はありました。

 リサは子供の頃から誰よりも綺麗でした。腰まで伸びる艶のある銀色の髪に、美しく煌く深緑の瞳を持っていました。はじめて会った時は、お人形さんみたいな愛らしさを持ってましたわ。

 銀色の髪の方は珍しくないのですが、リサは格段に整った顔立ちをしておりましたの。立ち振る舞いも清廉なもので、制服もリサにはよく似合っておりますの。それに加えてリサは何でも簡単にこなす事が出来るぐらいの才能を持っていましたし、誰にでも同じ対応をすることから優しいと周りに評判でした。

 貴族である事を誇張する事もなく、地位の下の相手に見下した様子は一切なかったのですわ。

 だから周りの生徒達は『優しくて麗しの侯爵家令嬢』としてリサの事を好いている者は多いのですわ。でも私はずっと傍に居たから知っていましたの。

 リサが優しく見えるのは、誰にも執着しないからこその平等の優しさなのだと。言い換えればそれはリサが誰も本気で大切にしている事はないという事なのですわ。

 リサは心の底から人を信頼もせず、来るもの拒まず去る者追わずな浅く広い交友関係を築くのが普通な方なのですわ。ですからリサは私の事を『親友』と名づけていても本心からは信用はしてないと思いますわ。でもそれでも私は構わないのですわ。

 貴族の交友関係なんて利害関係の一致や策謀などで築かれる者も多いのですわ。でもリサは誰にも興味ないからこそ、誰かを蹴落とそうという気もないのです。だからこそ、傍に居て居心地がいいのですわ。それにリサは昔から変わらないのですもの。子供のころからリサの『本質』は既に作られていたのでしょうね。だから、リサの事好きだって思うのですわ。

 居心地がよくて、変わる事もなく、そうして自分を持ったまま生きているリサは私にとって最も友情関係を長く築いて居たい親友ですわ。

 リサの傍でそうして過ごしていくうちに、私は一つの事実に気付きましたの。誰にも執着を見せないリサが、シィク・ルサンブルの事を一心に目で追っている事を。

 私はそれに気付いた初等部高学年の頃に酷く歓喜しましたの。だって周りに執着もせず、愛されているのに信頼しないような人間らしくないリサのはじめての人間らしい感情ですわよ!

 私はリサの事大切な親友と思っておりましたから、あのリサが誰かを大切に思えるようになるというのは嬉しい事でした。何せ、リサときたら周りが全てどうでもいいと言う風に生きておりまして、自分の未来についても無頓着なのですわ。相手がだれでもどうでもいいと割り切りすぎなのですもの。侯爵家の前当主様もそれを心配しておりましたわ。前当主様は、リサのお爺様にあたりまして、リサの事を溺愛しておりますの。

 私はリサの親しい友人として前当主様に9歳の時に呼び出されて以来、前当主様と『リサ談義』をしておりましたわ。私も前当主様もリサの事大好きなんですもの。話は合いましたわ。私も前当主様もリサが大好きでしたから、リサには幸せになってほしいと思っておりました。少しでもいいから誰かに情を持ってほしいと、好きな人を作って幸せになってほしいと。

 前当主様は恋愛結婚をしてほしいとリサに思ってましたから、リサのご両親(前当主様にとっては愚息と駄目嫁らしいですわ…)が進めていたリサに婚約者を作ろうという企みはしないように圧力をかけたそうですわ。リサには結婚話はよく来ますの。だって私の大好きなリサは綺麗で完璧で人気者なのですもの! 色んな殿方が求めるのも当たり前なのですわ!

 と、話がずれましたわ。そうそう、リサに特別が出来た事を喜ばしく思った私はもちろんの事前当主様に報告しましたわ。友情だろうとも恋愛だろうともこれは喜ばしい事でしたから。

 リサは彼をずっと見ておりましたの。ですから私はリサがはやく彼に話しかけないかとわくわくしてまっておりましたの。でもリサは見ているだけで十分だとでも言う風に一心に執着して見ている癖に接触しなかったんですわ。もう、リサなら人気者のシィク・ルサンブルに話しかけても問題ありませんのに! 家柄も釣り合っておりますし、リサは彼同様に人気者でしたから。二人が仲良くするなら誰もが認めた事でしょう。

 そうして私は気付いてから数年間じれったい思いでいっぱいでしたの。無理やり合わせてしまおうかと思ってしまうほどでしたわ。そんな中で、あの子が現れましたの。

 ヒメ・メシープルという名の彼女はリサには劣りますが、美少女でしたわ。学園内ではリサとあの子派で殿方が分かれるようになったようですが、リサとあの子は比べるまでもありませんわ! 私のリサはあんな子よりも断然淑女で美しいのですもの。

 あの子は何でもある大貴族の庶子であったようで、色々面倒な子でしたわ。それにリサの特別の彼とすぐに仲良くなっておりましたの。あの子は学園中の人気者の殿方を夢中にしましたわ。全く、彼もリサに特別視されているくせにあの子に夢中だなんてと私は憤慨しましたわ。

 リサはずっと彼を見ていましたわ。ずっと、暇さえあればその視界に彼を捕えていました。

 彼を見つめているリサは時折表情を変えますの。リサはよく微笑んでおりますが、それは心の底からほほ笑んだりしているものではありませんわ。リサは感情の起伏があまりない方ですもの。

 苦しそうにその顔を歪めたり、口元を緩めてほほ笑んだり。その表情を目撃した殿方が赤面しておりましたわ。普段の優しそうな微笑みとは違った表情のリサは破壊力抜群でしたの。私の心も少しキュンとしましたわ。だって彼を見ているリサの表情は綺麗というよりも可愛いんですもの!! ええ、もう本当に可愛くてその時の顔をカメラでとってしまいましたわ。もう、彼を見るリサは可愛いのですもの。可愛すぎて写真を大量にとりすぎて、カメラの充魔が切れそうでしたわ。

 そんな新たな一面はもちろん前当主様に報告しました。写真ももちろん見せましたわ。二人でそれから『リサ談義』に二時間ほど費やしてしまいましたわ。これもリサが可愛いのが悪いんですものね。

 そんな感じで彼を見て表情を変えるリサをずっと見ていたのですわ。そうしているうちに彼とあの子が付き合いだしましたの。でもそれほど上手くいっているわけではないようでしたわ。

 彼は嫉妬深かったようですの。リサは他の人間と楽しそうに笑っている彼女を怒ったような表情で見ておりました。もしかしたら何か言いたい事でもあったのかもしれないですわ。

 それにしても本当にリサは彼にのみ何か特別な感情を抱いているようでした。本人ではないので、リサの思いが恋愛なのかはわかりませんが、リサは彼が絡むと人間らしくなるのは確かだったのです。

 ただ私はリサが大好きですから、リサに幸せになってほしいと思ってましたわ。だからこそ余計あの子が嫌いだったのです。あの子は折角リサがはじめて特別を抱いた彼と付き合いだしたのですもの。

 リサは彼とあの子が付き合いだして度々表情を歪めるようになりましたわ。リサの綺麗な顔が憂いを帯びているのは、周りも気付いておりました。最もリサをよく見ていなければリサが彼にそういう感情を抱いているなど気付けないものですから、周りの方々は理由がわかっておりませんでしたわ。

 リサを慕っている方々はリサが何故そんな表情をしているのかと心を痛めて、どうにか笑ってもらおうと模索しているようでしたわ。リサは平等に接しておりますし、人間関係を円滑に進めるためにもいつも笑っていますわ。そんなリサは前に述べた通り、人気者ですから沢山の方々が色々と考えていたようですわ。

 その内、あの子は彼の嫉妬に耐えられなかったらしく、あの子に好意を寄せていた殿方に縋りました。それからしばらくして彼があの子を束縛している事を知りました。いきすぎた束縛の噂に私も眉をひそめて、リサの様子をうかがったのです。だってもしリサが彼のその異常な部分を知って心を痛めて、動揺しているのではないかと思ったからですわ。

 でもリサは驚くほど平然としておりましたわ。彼が束縛なんて異常な事をするのを一切気にしていない様子で、ただあの子に怒りを覚えているようでした。一般的に見て、彼が束縛をするからこそあの子を可哀相と言う意見が多いのです。でもリサはあの子に怒っている様子でしたわ。ですから私がリサを見ていて色々気付いたように、リサも彼を見ていて何か気付いた事があるのではと思いましたわ。

 しばらくして彼はあの子と別れましたわ。それでも彼はくるったようにあの子に執着していました。その後、あの子が新しく恋人になった会長と共にこの学園から去り、一件落着となったのですわ。あの子に執着して狂っていた彼はその様子を無くしました。どうやら彼はあの子が居れば狂うけれど、そうでなければ狂わないようでしたわ。

 そのあの子への異常な執着のせいで、少なからず彼は周りに敬遠され、不気味なものを見るような目を向けられる事も増えました。でもリサは彼を不気味とも思っていないようで、ずっと変わらずに彼を見ているのです。

 ただ、リサは彼を見つめるだけですの。関わろうと思っていないようでした。寧ろずっとリサを見てきた私には、リサが関わらないようにしているように思えましたわ。最も些細なリサの変化に気付けるのは、私がリサを大好きだからですわ! 私はこの学園の誰よりもリサを大好き…いえ、愛してる自信がありますもの。もちろん、ただの友情ですわ。私は同性愛者ではありませんからね。でも殿方よりもリサの方が大好きですわ。

 私はあの子が学園を去ってから数カ月ほど経過して、思わずリサに聞いてしまったんですの。

 「何故、リサはシィク・ルサンブルに話しかけないのですの」と。本当はこんな事いうつもりなかったのですわ。だってリサはあまり心の内を人に話したがらない人でしたから。お互いに深く何も聞かない関係の方がリサにとっては好ましいものでしたから。いってから深くつっこみすぎてリサに嫌われたらどうしようと思ったのですけれども、リサは怒るわけではなく珍しく驚いた顔で私を見ました。…もう、何でそんな驚いた顔も可愛いのですの! そんな無防備に驚いた顔をするなんて! 知ってたのとでも言う風な表情に、「私はリサをずっと見てましたから、気付きました」とにっこりと笑いましたわ。

 リサはそう、とだけ答えていつもの笑みを浮かべました。

 でも少し焦ったような感情がリサにあるのに私は気付きました。やっぱり、彼が絡むとリサは何処か心を揺さぶられるようでしたわ。いいことですわ。少しでもいいからリサの本音とかもしりたかったですし、私は大丈夫かなと思いながらも再度問いかけました。そしたらリサは困った顔をして答えてくれたのです。もちろん、その困った顔にもキュンときましたわ。だって滅多に見れないリサの表情ですわよ? 可愛い他ありませんわ。

 「………彼は、壊れかけた硝子のようだもの」

 リサはしばらく黙ってそう告げました。彼―――シィク・ルサンブルが壊れかけの硝子のようだとそんな風にいって。

 「硝子?」

 と不思議に思った私にリサはいうのです。

 「彼女が彼を壊しかけたもの。だから、彼は今にも傷つけば壊れてしまいそうな硝子のようなもの。私は彼を壊してしまわない自信もなければ、その本質に耐えられる自信もないのよ」

 そういって微笑んだリサの顔は、今まで見た中で一番可愛かったと断言出来ますわ。何て言うんでしょう、今まで見た事ないような、愛しい人を語るような表情でしたの。それを見て私は気付きましたわ。リサは彼が好きなのかと。

 私にはリサが彼をどのように見ているか正確にはわかりません。リサの見ている彼を理解することも出来ません。あの子が居なくなって普通に戻った彼を壊れかけた硝子のようだという気持ちも、本質に耐えられる自信もないという気持ちも。それでも私がリサを見てその本質に気付いたように、リサも彼を見てその本質に気付いた事を知ったのです。

 リサは彼を壊してしまいそうなどと言いましたが、私には彼の弱さはわかりませんわ。そもそも彼が壊れそうだの、どうでもいいのですわ。私の最優先事項はリサでありますから。リサが彼を好きだという事実を知れただけでもいいのです。

 リサは壊してしまいそうなどといいながら、自分が幸せになる気はないようでした。きっと人に執着しないリサがこれほど執着する人間は他には現れないと私は思っていますわ。だから、リサは怒るかもしれませんが私は行動しようと思いましたわ。

 これはただの自己満足と、私がリサのためにやりたいと願って勝手にやる事ですからリサに嫌われるかもしれませんが。


 だって私はリサに幸せになってほしいんですもの。それにリサは彼を観察しているだけで普段よりも表情を動かすのですよ。もし彼がリサを好きになって傍によりそいあえば、もっと可愛いリサが見れるでしょう?













 だから、私は彼に接触しました。私と彼の間で噂が立っても困りますから、人が居ないのを確認して彼に接触しました。もちろん、私が騒がれる立場な理由はリサの親友と周りに認識されているからもありますけれど。私のリサは人気者ですもの! リサ以上に綺麗で可愛い子はいませんわ!!

 「シィク・ルサンブル」

 「……何」

 彼は突然接点もなかった私が話しかけてきた事に怪訝そうな表情を浮かべていました。その興味な下げな声は、あの子が来る前のままです。あの子が来る前と去った後で彼がどう変わったのか私にはよくわかりませんわ。でも、私の大好きなリサは目の前の彼をあの子がこわしかけたといったのです。

 リサは聡明な方ですし、人の本質を見わけるのも得意なのですわ。だからこそ、敵を作らずにのんびりとやっていけるわけなのです。上手く対処しておりますもの。あの子の騒動で学園も少し大変だったのですが、リサに降りかかってきた火の粉はリサがきっちりと対処して大事にしませんでしたもの。

 「『壊れかけた硝子のよう』」

 「……は?」

 「私の大好きでたまらない子があなたの事をそう称していたのですわ」

 どうかルサンブルが、リサに興味を持ってくれればいい。リサの壊しそうという言葉はルサンブルに幸せになってほしいと思うからこその言葉だと私は思いました。だってリサは傷ついた人がいれば対処はしても、本気で身を案じる事はありません。ただ相談事に来た人から厄介な事にならないように対処しているだけなのです。そんなリサが、彼の身は案じているのです。ああ、何てリサは可愛いのでしょう。見ているだけでいいなんて可愛い他ありませんわ!

 私の言葉にルサンブルは驚いたような表情をしておりましたわ。彼のこんな表情を見るのもはじめてですわ。

 「あの子があなたを壊しかけていると。あなたは、今壊れかけている硝子のようにボロボロだと、私の大好きな子は言いましたわ」

 それに自信がないだなんて! 私からすればリサ以上に可愛い子はいないのですのに。リサは人の感情をきちんと知ることが出来る方ですから、彼を傷つけてしまう事なんてあまり想像出来ないですし。上手く厄介な事にならないように対処するだけの力をリサは持ってますもの。あの子なんかよりも断然感情を読む事はリサの方が上手いですわ。というか、あの子とリサを比べるまでもないのですわ。リサ以上の子はいないのですもの。

 私はリサが大好きですわ。だからこそ贔屓してしまうのもありますけど、贔屓目なしにしてもリサは周りに人気ですもの!

 驚いたままの彼に私は笑って告げました。

 「私の大好きな子はあなたを見ていますの。本当にずっと。ですから、興味をお持ちになったなら見つけてみせてくださいませ」

 リサはずっと彼を見ておりましたもの。本当に暇さえあればずっと見てますわ。ふとした時、リサの視線をずらせば彼が居るのですもの。私の大好きでたまらないリサの特別なのは正直少し妬ましいのですわ。リサの特別になりたい人なんて沢山居ますのに、リサの事全く気にしてもなかったような彼が特別なのですもの。

 「お前、何がしたいんだ」

 彼からそう怪訝そうに問いかけられました。私はそれに笑って答えるのです。

 「私の大好きな子に幸せになってほしいだけですわ」

 そう、私は彼がどうなろうとどうでもいい。でもリサには幸せになってほしい。どうか彼がリサに興味を持って、探して見つけてくれればいいと思う。リサの事好きになってくれたらいいと思う。

 きっとリサは彼と話せるなら見た事もない表情を浮かべてくれるはずだから。私はリサが大好きなのですもの。色々な表情を見て居たいと思って仕方がないですし、リサとお友達で居たいと思ってますの。

 


 それからしばらく時間がたってから彼がリサに接触してきましたわ。その時のリサときたら、とっても可愛かったですわ。彼が話しかけてくるとは思ってなかったとでも言う風に分かりにくいけど動揺しておりましたの。

 もう、彼と一緒のリサが可愛くて可愛くて私は思わず悶えてしまいましたわ。私は彼とリサの関係が変わらないかと楽しみなのですわ。




 ―――――幸せになってほしいと望むからこそ。

 (私はリサが大好きなのですわ! 最優先事項はリサですわ。だって大好きな親友なのですもの。だからこそ、幸せになってほしいと望むのですわ)



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