音楽会の季節⑬
聞きたくなかった。
何であんなとこにあたし、居たんだろう・・・
あの声は・・・
江藤先生。
今なら分かる。
何であんなにあたしに突っかかってきたか。
なんで更衣室に連れて行ったか。
なんであたしにあんなにしつこく言ったのか。
そうだったんだ・・・
あたしの知らない時間が
・・・・あったんだ・・・。
思いこみじゃなくて、ほんとに。
だから、あんなに必死に・・・・
何にも知らなかったのはあたしだけ。
雄ちゃんも知ってたんだ・・・
あたしは、何も知らなかった。
雄ちゃん、しょうもないことじゃなかったんだね・・・
あたしの心配は、外れてなかったじゃない・・・
あたしだけ
知らなかったんだ・・・・・・
どのくらい時間がたっただろう。
辺りはすっかり暗くなった。
倉庫から出て職員室に帰る。
教頭先生が一人居るだけだった。
他の先生は教室かな・・・
いつも早く帰る先生達はもういないだろう。
あたしも帰ろう。
教頭先生は電話中。
あたしは左手から指輪を外すと
雄ちゃんの机の上にそっと置いた。
そして、
ゆがみそうになる景色にぐっと唇をかみしめて
学校を後にした。
「これで、明日の準備はばっちりだな。」
「そうですね。雄ちゃん先生、掃除までばっちりやって
すごいです。ぼく、気が付かなかったなぁ。」
「あ、あと、楽譜、もう一度見直しておこうかな。
お前も復習やっとくだろ?」
「はい、じゃ、今から職員室に帰って楽譜のおさらいしましょう。」
職員室に帰ってきたら、机の上に何かある。
「あれ?なんですか?それ・・」
これは、俺がはめてやった指輪じゃないか・・・
予想はしてたけど、かなり早く
雄ちゃんはあたしの部屋に飛んできた。
ドアをどんどん叩いて
「居るんだろ!開けろよ!」
近所迷惑でしょうが・・・・・
ドアを開けるなり
「お前の手かしてみろ!」
雄ちゃんは何もはまっていない薬指をみて
「なんだよ!これ!」
あたしの目の前にさっき置いてきた指輪を出した。
「これはめている自信ないから・・・」
あたしはうつむきながら言った。
「何があったんだ?」
そんなこと言わせる気?
「黙ってちゃ分かんないだろ!」
「そうよ!黙ってたから分からなかったのよ!」
あたし、我慢の限界。
顔を押さえて、泣き出してしまった。
え?って顔して雄ちゃんは黙ってしまった。
しーーんとした部屋。
あたしがしゃくり上げる音だけしか聞こえない。
どのくらいそのままだったろう。
雄ちゃんがあたしの手をそっと取って
あたしが置いてきた指輪をもう一度はめようとした。
手を振り払ったあたし。
勢いではね飛ばされた指輪は扉にぶつかった。
その音がやけに大きく聞こえる。
「何があったか言ってみろよ。」
「聞いちゃったの・・・・」
「やっぱりそうか・・・ゴメン。でも済んだことだ。」
「・・・・・済んでないって・・・・」
「俺の言うことが信じられないか?」
・・・・・・・・・・・
「俺を信じろ。な?」
・・・・・・・・・・・
「信じろって言ってるだろ!迷うんじゃねー!」
そう言って雄ちゃんはあたしを抱き寄せたけど
あたしの周りには何だかガラスが貼ってるようで
何を聞いても外の世界の遠い声にしか聞こえなかった。




