音楽会の季節⑫
最後の音楽会の練習日のこと。
「今日で音楽会の練習は終わりです。
最後の練習、頑張ろうな!」
雄ちゃんはそう言って指揮台に上がった。
ピアノの子に目で合図を送る。
雄ちゃんの手が上がる。
前奏が鳴り出す。
舞台の上で5年生の子達が一生懸命歌い出す。
2週間前は適当だった雄ちゃんの指揮も
さまになり始めた。
あたしは知ってる。雄ちゃんは毎日鏡の前で練習していた。
「あれ?こうじゃねーな・・・」
なんて言いながら。
「ここはどうやったらいいんだ?」
って、あたしにも何度も聞いてきた。
横で歌いながら、何度も練習したっけ。
その成果はしっかり出てるよ、雄ちゃん・・・
練習の最後に雄ちゃんがあたしに感想を振ってきた。
「先生から一つだけ言いたいことがあります。」
感想を聞かれてあたしはみんなに言った。
みんな、何言われるんだろうって
じっとこっちを見ている。
「何か分かる?」
みんなの顔を見回して一言。
「きみ達、最高ーーー!」
「何言うのかと思ったぜ。」
雄ちゃんが、子どもたちを教室に返した後言った。
「だって、よく頑張ったもんね。」
ニコッとほほえんで言うと、
「先生の指導のおかげです!」
なんて、雄ちゃんが大げさに言う。
「どういたしまして。じゃ、次6年生だから・・・」
ってあたしは体育館に戻る。
振り返ると
川上先生の冷たい目があたしを見ていた。
・・・・何なのよーー。
6年生は合奏。
今年はドボルザークの新世界より。
ちょっと前にCMで使われてた曲です。
これが難しいんだけど、毎日毎日6年もよく練習に通ったわ。
ほんと子どもたちは頑張った。えらい!
指揮は、山本先生。
毎日CDに合わせて指揮の練習を頑張ったらしく
日に日にうまくなっていく。
「先生、指揮、だいぶん練習したでしょ。」
あたしが声かけると
「そりゃ、筋肉痛になるくらいやりました。」
だって。
変な先生もそりゃいるけど
みんな知ってください。世の中には
たかが子どもの音楽会の指揮でも
筋肉痛になるくらいの練習をしている先生だってたくさんいるんです。
もちろん
「どうして4拍子がちゃんと振れないんですか!」
っていう人もいるけどね・・・
6年も最後の練習は気合いが入り、
素晴らしい演奏に仕上がった。
きっと、素敵な音楽会になる。
あたしはそう信じている。
と、その日の放課後・・・・
倉庫の中であたしはドライバーを捜していた。
アコーディオンの修理のため。
そしたら・・・
「ちょっと、雄輔、それはないんじゃない?」
ん?外で声がする。
「何言ってんだよ。もうお前には関係ねーだろ。」
「わたしはそう思ってないの。」
「勝手なこと言うんじゃねー。俺もう行くから。」
何だか出られなくなった。
「ねえ、あの子とつき合ってるの?」
「あいつになんかしたら、許さねーからな!」
「そんなにあの子が大事?」
「そうだよ。」
「ひどい・・・」
「何言ってんだよ。ひどいのはどっちか
よーーく考えるんだな。じゃあな。」
足音が遠ざかっていく。
何なのあの会話・・・
心臓がドキドキする。
聞き間違い・・・・なわけない。
あれは雄ちゃんの声
そして、雄輔と呼んだ相手は・・・
イヤだ、信じられない・・・・




