スタート⑫
昨日のことがあって、
なるべく仕事中は雄ちゃんを見ないようにしようと決めた。
また昨日の失敗を繰り返したくはないから。
仕事は仕事。
あたしがどう思っても
やらなきゃいけないことはある。
ところが、それを感情が理解できるかというと・・・
多分・・・いや、絶対無理です。
それで雄ちゃんに心配かけるなら
なるべく見ない。
それしかない。
うん、そうしよう。
あたしは、音楽室でいつものように
6年生の子達とたわいもない話をしてた。
「あんな、先生、良とありさって両思いなんやで!」
「え、?そうなん?」
すると、その場にいた良は
「それは、前の話。」
おー認めるのか。
今の小学生はおませさん・・・
「じゃぁ、今は誰なん?」
「それはいえへん」
いっちょまえにーーー。
「それに、智ちゃんメッチャもてるんで」
智ちゃんはかわいい。
天然入ってて夢見てる所あるけど
男の子の中には
家まで送っている子もいる。
やるなあ・・・
「さあ、次体育やから はよ外行けよ!」
突然、山本先生が現れた。
山本先生は6年生の担任。
雄ちゃんと同い年で、あっさりしてる男の先生。
子どもたちは急いで運動場へ行った。
「いっつもすいませんね。
6年生がよく遊びに来てるみたいで。」
山本先生はそこで声を潜めて
「実は、ちょっと困ってることがありまして・・・」
「どうしたんですか?」
「先生は、あの子達のこともよく知ってるから
分かるかなと思うんですけど。良のことです。
放課後ちょっと相談に乗ってもらえませんか?」
「いいですよ。」
「よかった。じゃ、授業始まるから・・・
失礼します!」
一体なんだ?
そう言えばさっき良がなんか言ってたっけ・・
放課後。
山本先生はあたしの分もお茶とお菓子を持って
音楽室にやってきた。
あたしはびっくり。未だかつて
男の先生にお茶を入れてもらったことなんか
一回もなかったから。
学校って割と男女差はない所なんだろうけど
やっぱりお茶入れるのは女の先生がやってる。
「言ってくれたら、お茶くらい入れるのに。」
「相談者は僕ですから。
このくらいしますよ。さあどうぞ。」
そういうと、机の上にお茶とお菓子を置いた。
そして、
良が家であれてること、
授業中もぼんやりすることが多いこと
なんだかやる気が起きない様子でいること
などなど、
お母さんから聞いて心配してることを話した。
そして、
「音楽の時間はちゃんとしてますか?」
と、聞いてきた。
「音楽の時間はそんなことはないんだけどな・・
忘れ物もないし・・・リコーダーも頑張ってるよ。」
ひょっとしたら・・・
「もしかして、恋の悩みかも・・・」
「はい?」
山本先生は目が点になった。
「ここで、今日もそんな話してたから。」
「僕にはちっともそんなことは言いませんが・・・」
そりゃそうでしょう。
あたしも言いたく無いなあ、この人には・・・
「ちょっと、聞いてみてあげましょか?」
「よろしくお願いします!」
山本先生はほっとしたようだった。
せっかくなので
お茶とお菓子を食べながら
今日の6年生の子達の会話を
教えてあげていると
「おーい!いるーー?」
って、雄ちゃんがガラッと音楽室の戸を開けた。
笑顔の雄ちゃんの顔が
一瞬にして凍り付いた。
「取り込み中?じゃぁ、また後で。」
う、この空気、・・・重ッ・・




