敗北
人通りも少ない荒れた山道。
私の行く手を、刃をちらつかせた二人の山賊が遮る。静かな山の中に響き渡る濁った叫び声は、すっかり衰えている私の垂れた耳にもよく入り込んできた。
私は無言のまま目を閉じる。
少し眠っていてもらうことにしよう。
私はそのまま、そっと刀の鍔に指を置く。やがて山賊どもが飛び掛ってくるのを感じると同時に、私は目を開き……
†
「随分、手練れだねアンタ」
嗄れた声に、私は素早く振り向く。倒れている山賊たちの横に、ひとりの女が立っていた。
戦で幾人もの戦士と武器を通じ語り合ってきた私の直感が告げる。この女は、ただ山賊の首領というだけではない……立派な戦士であると。
戦場では、さっきの子分のような者は生き残れぬ。真先に餌食となるのが落ちである。しかし、この者は違う。幾度も修羅場を潜ってきた瞳をしている。いったい、どのような道を歩んできたのか? いや、訊くまでもあるまい。私は一度目を閉じ、改めて女に視線を向けた。相手も私を見、笑みを浮かべている。どうやら相手も同じ思いのようだ。
「手加減はせぬ、覚悟はよいな?」
「おまえもな」
戦いの決着は、なかなかつかなかった。
もはや陽は山の背後に隠れ、周囲を暗闇が包んでゆく。聞こえるのは全身に傷を負った私たちの苦しげな息遣いだけだった。流石に年老いた身には、この闘いは苦しい。息の上がってきた私に比べ、女はまだまだ余裕という様子だった。
その時……頭から流れた血が片目の上を伝い、僅かな時間、視界を奪われてしまった! 一瞬生まれたその隙を、この女は逃がさなかった。弾き飛ばされた私の相棒が宙を舞う。
私は肩に突き刺された剣を見詰めながら片膝をつく――と同時に腕を伝い流れた血が地面に滴った。
空には星が瞬きはじめる。二度と負けまいと、我が相棒と共に修行に励んできた日々が藍色の世界に浮かび上がった。長い間、忘れていた重い痛みが身体と心を襲う。はるか過去に味わった敗北という痛みを。
私は負けたのだ。
†
私の肩から剣を引き抜いた女首領は、血を振り払い鞘に収める。
「いつまで寝てんだい、はやく起きな!」
怒鳴りながら子分たちを蹴り起こすと、彼女は黙ってこの場を立ち去ろうとした。呻きながら立ち上がる二人を尻目に、私はその背に訊ねる。
「仕留めぬのか」
彼女は立ち止まると、こちらを振り返りもせず頷いた。そして、再び歩み始めるのだった。子分二人は何が起こったのか解らぬような不思議そうな顔で私を見ると、親分の後を追うように去ってゆく。
私は、ただひとり暗い山道に残された。
近くの木に寄り掛かると、ひとつ深く息をつく。それから木に沿って座り込み、肩を押さえ止血した。身体中に傷を負っているが、致命傷はない。私は、その姿勢のままで目を閉じると考えを巡らせる。
また、いずれ彼女とは出逢うだろう。そう私の直感は告げていた。