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不思議なポケット・トランジスタ

作者: 春野一人

僕はトランジスターラジオを作っていた。トランジスターを6コ使った、中学生としては中級の半田付け工作技術が必要とされるキットだ。夏休みの雨の日に、何もする事がない時、買い置きの工作キットを引っ張り出して、二階の一室の僕の部屋で、作業に取りかかるのは、ちょっとした悦楽であった。

 もっと後年、高校生になった頃、偽装白バイによる「三億円強奪事件」が起こった。その時、僕の模型仲間のAのもとに、刑事が訪ねて来た等という事もあった。その時、正直、それがAであって、僕でなかった事を残念に思わざるを得なかった。それは正に模型マニアの勲章ではあるまいか。僕だったら、そんな事があったら、それを自慢げに話す事はなはなだしいだろうなと思うのだ。三億円強奪のバイクは、普通のバイクを「なんちゃって白バイ」に改造されたものなのである。残念ながら、三億円犯人容疑者に僕の工作技術ではエントリーできなかったわけだ・

 僕は、その友達ほど、洗練された塗装や半田付けや配線やデザインのセンスを持ち合わせているわけではない。バルサという軽い木で、飛行機の形を作るのだが、塗装たるや、正にやっつけ仕事以外の何者でもなく、我ながらその雑さにはうんざりする。


 ようやく、トランジスタラジオが完成すると言う時、激しい夕立が雷とともにやってきた。一瞬の強烈な光とともに、爆弾を落としたような轟音が響きわたった。トランジスタの回路に手直しした、半田ごてにびりびりと電流が走ると同時に、一瞬ラジオが蛍光色に輝いた。そして、それとともにバチンという音とともに、我が家は闇に包まれてしまった。ラジオは、その停電の暗闇のなかで七色に美しく輝き続けている。小首を傾げながらも、僕は電池を入れ、スイッチを入れてみた。ウンともスンとも音が出ない。

 これでも、もう何台も、この手で完成させているのだから、鳴らないなどと言うことはまあ、あり得ない。雷でトランジスターが飛んでしまったのだろうか。電池の入れ方は間違っていない。もう一度スイッチを入れてみる。スイッチを入れると音はでない。しかし、七色の彩なす蛍光色が消える。・・・「少し軽くなったかな?まさか」

 暗闇の中、母からキッチン計りを借りてくると、計りの上で300グラムの重さがある。そしてスイッチを入れてみると250グラム。何度かくり返す、間違いはない。


 突然停電が解消して、明かりが煌々とついた。すると不思議な事が起こった、スイッチを入れたままのトランジスタラジオから、突然、坂本九の「ズンッタタッタ・ズンタタッタ・あの子は16才なのさ」と歌が流れだしたのだ。


 ラジオは完成した。感度も音も良かった。けれど、300グラムの重さを軽くすることは、その後は二度となかった。


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