スティールダイヤ
2026年現在では、世界の富の半分近くを、超富裕層(上位1%)だけで独占しています。人類の半分(約40億人以上)が持つ富は、全体のわずか2%に過ぎません。
世界はついに二十二世紀を迎えた。そこでは、たった1%の民が、世界の95%の富を独占する事態に至り、持つ者と持たざる者との差はますます決定的なものになっていた。かつての平和都市での犯罪率の増加は、目に余るものとなった。一般市民も黙ってはおらず、主要各都市において、毎日のように反乱のような大騒動が起こるようになった。客観的に見れば、貧困層のデモは正しい行いである。もっとも大きな被害を受けるのは、何ら防御策を持たない一般市民だからだ。富裕層から多額の支援金を受けている支配者側としても、打つ手はなかった。彼らが市民の側に立った歴史は存在しない。しかしながら、市民たちの騒動がエスカレートして、革命一歩手前まで来ると、さすがに黙ってはいられなくなった。
政府は最後の貧困層対策として、公社の研究機関が秘密裏に開発した『スティールダイヤ』を、すべての市民に対して配布することにした。これは模造品の宝石ではあるが、その外見上の輝きはダイヤを上回る美しさを誇っていた。ただし、身に付けている者の生気を少しずつ吸収するという奇妙な性質を持っていた。政府はこの宝石の配布を最終援助策と表現した。しかし、人間の命まで削るというその特殊な性質については、市民側に対しては詳しく説明されなかった。常日頃、富裕層と同等の装飾品を身に付けたいと願っていた一般市民たちは、配られたこの宝石を喜んで身に付けると、意気揚々と街を出歩くようになった。犯罪率もこの政策によってようやく低下に転じた。まるで、十九世紀後半頃の平和な社会が戻ってきたようにさえ思われた。
しかし、これまで富を独占してきた貴族たちは、そんな市民たちの笑顔が面白くなかった。宝石は希少性があるからこそ、その高値に意味があるのである。貧困層の人々が自分たちと同等の装飾品を身に付けていたら、自分たちの持つ多額の資産に意味がなくなるような気がしてきたのである。金こそが正義だと教えられてきた民族ゆえの感情変化である。
彼らは政府に対してあからさまに不満を口にするようになった。これまでの社会では信じられない光景ではあるが、『スティールダイヤを取り戻せ』という題目の、富裕層主催によるデモも行われるようになった。彼らは政治的コンサバティブを示す、巨大な青い旗を振って行進した。しかし、政府側はその動きに対して沈黙を保った……。専門家たちにも、こうした政府の意図はまったく読めず、政治的意見の発表を控えざるを得なかった。
結局のところ、経済の二極化の溝は埋まらず、両者の対立は解消しないままであった。しかし、貧困層側の不満が低下したことで、犯罪率やデモの規模は縮小し、社会全体を見ればある程度の安定は見られるようになった。
スティールダイヤの配布から二年後、宝石に生気を吸われた貧困層の市民たちが次々と体調に異変をきたして倒れる事態となった。真っ当な新聞社や放送局は、毎日数万人の人々が、スティールダイヤの呪いによって亡くなっている現状について報道した。しかし、今度は市民たちによる反発のデモは起こらなかった。ほとんどすべての民が生気を吸われ、デモや革命騒ぎを起こす力がなくなっていたからである。政府筋は「これは喜ばしき事態である」との簡単な声明を発表した。それからの数年は、富裕層の貴族たちの歓喜の叫びが、毎日のように街に鳴り響くようになった。
スティールダイヤの配布から十年後、かつての貧困層の生気を完全に吸い切ったスティールダイヤは紺色に染まり、地中に眠るかつての市民たちの遺骸から離れると、地面の上にその姿を現すようになった。それらを拾い集めて宝石商に転職する者も次々と現れた。市民たちを完全に滅ぼして、なお美しく輝く青いダイヤは、粋人や貴族の間で高値で取引されるようになったという。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。他にも多くの短編作品がありますので、できればそちらもご覧ください。よろしくお願いします。




