本好き令嬢は、転がった先で幸せになる
読んでいただきありがとうございます。
あ~。なんて素敵なの。
もー。この、両片思いって言うの~。
上手くいきそうで♪うまくいかない。くー。
ドキドキしちゃう。
この頭、ポンポンのシーン。すて!
「きゃーーーーーー」
私は、ドキドキのロマンス小説が盛り上がりを見せると共に、石につまずいて、図書館の坂を見事に転がり落ちた。
「やややややや〜、止まらない」
ガン!!
「いたたあ……」
ギギギギー。
ゴン。
「ぎゃ」
うううううっ。痛すぎる。
私は、図書館の帰り道に本に夢中で…………躓いて坂道を転がり、持っていた本に頭を挟んで、前転をすること数回。
何かにぶつかって止まった……………………止まったその直後、頭に何かが落ちてきた。
「あははははは、あはは」
そして、誰かの笑い声。
おそるおそる、笑っている人を、見上げると!
「れれれれれ 冷徹の貴公子!」
「はは。私がそう呼ばれている事は、知っているが、直接言われたのは初めてだな」
冷徹の貴公子は、そう言って、馬車の中から私に手を差し伸べた。
おずおずと、手を取り立ち上がる。
どうやら……私は坂を転がり落ちて、冷徹の貴公子様の乗る馬車に激突、さらに開いていたドアを破壊。
破壊したドアが、私の頭に直撃……。
「立てるな。痛いところは無いか?見たところ、傷は無いようだが…………土だらけだな」
「…………。」
「ははは」
侯爵様は、私を上から下まで見て、口に手を当てまた笑った。
「侯爵様、度重なる失礼を。私は、シフロ伯爵家の娘アメリアでございます」
私は、土埃で汚れたワンピースの裾を持ち、あいさつする。
公爵様は、口元に笑みを浮かべ……。
「まあ、馬車に乗りなさい」
「とんでもございません。我が伯爵家は、この国立図書館の裏手にあり、歩いて10分もかからないのです。急ぎ家に戻り、父に侯爵様の馬車を破壊したこと、ご迷惑をお掛けしたことを伝え、早急に対応いたしますので」
「いいから乗れ」
侯爵様に腕を掴まれ、馬車に、引き上げられる。
「いたた」
体を動かすと、背中や腰が痛い。
「ほら見ろ、あれだけ派手に転がったんだ、直ぐに医者に見せた方がいい。痛みが引くまで安静だ」
私は、侯爵さまの勢いに押され、馬車の座席にぺたりと座った。
侯爵様は、御者とお付きの人に声をかけ。破壊した扉はそのままに出発。
眺めのいい馬車は、明らかに家とは、反対方向に走り出した。
「あ あの侯爵様。家はあちらの方角です」
「まずは、侯爵家に向かう」
「どうしてですか?」
「侯爵家の方が、怪我の処置がしやすい」
そう言いながら、侯爵様は私の隣に移動する。
「じっとしていろ」
侯爵様は、綺麗なシルクのハンカチを出して、私の頬や頭の土を払う。
ややや。侯爵様近い。
うー。近いです……。
ロマンス小説、どころではない。
侯爵様!私の心臓を、潰す気かも?
シトラスの、さわやかな香りがふわりとかおる。
私は、意識を保つのが精一杯のまま、侯爵家に到着した。
「さあ。手を貸せ」
侯爵様が、馬車を先におりて私に手を差し出す。
「自分でおりれ。 きゃ」
立ち上がって、馬車の踏み台に、足を下ろしながら返事をしたが、返事を終える間もなく、私は既に侯爵様に、お姫様抱っこされていた。
「降ろしてください侯爵様、お召し物が汚れてしまいます」
だいたい!生まれて初めて、男性に抱きかかえられています~。
今度こそ、心臓が潰れます。
真っ赤な顔で抵抗する私のことなど、気にすることなく、侯爵様はどんどん進み、何もせずとも大きなお屋敷のドアが開いた。
「まあまあ。アルフレッドが、女性を抱えているわよエマ!」
「はい。奥様、私の眼にも見えます」
「ならば、幻覚ではないのね」
「はい。奥様」
「母上、何をとぼけた事を言っているのです。エマ、専属医師を直ぐに呼べ、そして湯の用意だ!部屋は二階に準備しろ」
「あらあら二階に準備。私にも、そのかわいらしい真っ赤な、イチゴちゃんのお顔を見せて。あらまあ。土だらけ、どうしたの?」
「もも 申し訳ありません。私が馬車にぶつかってしまい」
「我が家の馬車が迷惑をかけた、頭も打っているので侯爵家で看病したい」
かぶせる様に、侯爵様が私の話を遮った。
「まあそれは大変、エマ直ぐに準備を」
それから私は、侯爵家の侍女達に、びかびかにしてもらい、上等な部屋着を着せられて、最後はふかふかのベッドに乗せられた。
ほどなく、侯爵家のおかかえ医師がやってきて、診察をしていただいた結果。
背中と腰の打撲で、傷などの怪我はないが、頭を強く打っているので一週間ほどは、安静にするようにとのことだった。
「あの。メイヴィン様、私がかってにぶつかったのに……。たくさん親切にしていただき、ありがとうございます。これ以上ご迷惑を、お掛けするわけにいきませんので、シフロ伯爵家に、迎えに来るように連絡していただけないでしょうか?」
ベッドの横には、冷徹の貴公子ことアルフレッド・ブロア侯爵の、お母様が私の手を握り、看病してくれている。
「気にしないで。伯爵家には先ほど、こちらで安静期間は看病させていただくことを、知らせしたばかりよ、それにね。あの子が他の人に親切にするなんて、今までなかったのよ。まして女性に触れるなんて」
どう…返事をしていいか、考えているとメイヴィン様は、私が転ぶ原因になった、本を取り出した。
「それより、これこれ、今話題の、ロマンス小説でしょ♪私も若いころは、ロマンス小説をよく読んだわ~。ロマンス小説が好きなの?」
「ロマンス小説だけでなく、物語では探偵ものや、怖い話まで。創作された本以外も、物理から医学など、本全般が好きでmいろいろなジャンルを読みます。伯爵家の裏が、国の全ての本を貯蔵する、図書館と言う事もありますが、時間があれば通っては、本を読み漁りっています。今日も散歩がてら、図書館に出かけ、この本を借りたのですが……………。家まで待ちきれずに、歩きながら本を読んでしまって、図書館前の、急な坂道でつまずき転んでしまいました」
メイヴィン様が、私の頭を優しく撫でる。
「なんだかうれしいわ、娘ができたみたい」
あぁ……。お母様が生きていたら、こんな感じかしら。
私は小さなころに、病で母を亡くしている。
兄とは、10歳も年が離れているため、あまり遊んでももらえず、小さなころから本ばかり読んでいた。
「本の、どんなところが好きなの?」
「本は私を、いろいろな世界に、連れて行ってくれます。本を読みながら、その世界に広がる、街並みや空の色、山や川。人が暮らす音や、食べ物の匂い、いろいろなことを想像しながら読むのが楽しいんです。 それにそれに。ロマンス小説なら、ヒロインが恋する男性は、こんな感じかなーって、好みのタイプを想像してみたり、医学書なんかは、血液になったつもりで体の中を旅してみたり」
「それ楽しそうね~。アメリアは、想像力が豊かなのね。私もまたいろいろ、読んでみようかしら」
「ぜひぜひ。どんなジャンルが好きですか、私いろいろ紹介できます」
嬉しくなって、ついつい起き上がり、メイヴィン様の、手を勢いよく両手で握ると、同時に廊下につながる扉とは、別の扉が開いた。
「母上!怪我人に、何をしているのですか?アメリア嬢も、寝ていないとだめだろう」
侯爵様に、布団の中に戻される。
「侯爵様!いったい、どこから」
「アルフレッド!未婚の女性の部屋に、こんな時間に入ってくるなんて、なんて子なの!」
侯爵様は、気まずそうに頭をかいた。
「心配でちょっと……」
「まあまあ。許してあげてねアメリア。それにお話しするのが楽しくて、こんな時間になってしまったのね。そうだ!このロマンス小説、貸してくれない?」
「はい。メイヴィン様、読んでください」
本を抱えて、メイヴィン様がゆっくりと立ち上がる。
「では、ゆっくり休んでね。また明日、お話ししましょう。アルフレッド!あなたも、部屋に戻りなさい」
「ア。アメリア嬢、痛いところは無いか?」
「はい。お薬をいただいて、今はどこも痛くありません。ありがとうございます。侯爵様」
「では、ゆっくり休め」
そう言うと、侯爵様は、お部屋に戻って行った。
メイヴィン様は、もう一度、私の頭を撫で、柔らかく微笑んだ。
「アメリア。おやすみなさい、いい夢を」
私は、あっさり眠りに落ちた。
✿ ✿ ✿
アルフレッド 視点
部屋に戻り仕事を片付けると、またアメリアが気になり、部屋を覗いた。アメリアは、すやすやと寝息をたて寝ている。
思わずヘーゼル色の髪に触れる。
1年前に資料を探しに行った図書館で、偶然彼女を見つけた。
窓から差し込む光に、髪がキラキラと輝いて俺の目を引いた。
本に集中し、くるくると表情を変える彼女から本を読む彼女から、眼を離せなくなって、俺は自然とほほ笑んでいた。
そしてほほ笑んだ自分に驚いた。
17歳の時、俺の父親は事故で急死した。
それ以来、笑うことが無くなった俺が……ほほ笑んだ。そんな自分に驚く。
もともと、侯爵家の嫡男として、厳しく育てられていたが、父の死は、大きく俺の人生を変えた。
数か月後に、18歳になる予定だった俺は、国王陛下の許可と、後見を受け、爵位を継いだ、するとまだまだ未熟で若い自分に、金や名誉を、欲するいろいろな者が、群がってきた。
母には、迷惑をかけたくなかった。
他に、信じられる人もいなかった。
自分で、踏ん張るしかなかった。
群がる者の中でも、特に女性は苦手になった。
俺から得られる金と名誉を計算し、近寄って来ているのが透けて見え、吐き気すらおぼえる。
侯爵夫人の座を、得るために、いろんな手を使われ、散々ひどい目にあった。
侯爵家を守るため、ひたすら頑張るうちに、俺には冷徹の貴公子なんて二つ名がつく。
父上が死んだあの日以来、表情すらなくした俺に、彼女は笑顔を取り戻してくれた。
それからというもの、図書館に行けば、彼女を探してしまう。
見かけるたびに彼女は、涙ぐんでいたり、笑っていたり。
何より気遣いがあり、周りに自然に声をかける。
会うたびに、俺はどんどん彼女に魅かれていた。
調べれば、彼女はアメリア・シフロ伯爵令嬢と直ぐに分る。
侯爵家から婚姻を申し込めば、伯爵家は断らないとわかっていたが、冷徹と呼ばれる、会ったこともない俺に、婚姻を申し込まれて、アメリアはどう思うだろうか。
怖がられるのではないか……。
できれは、こんな自分を受け入れてもらってから、求婚したかった。
今回のことも、侯爵家の力を使って、強引なことをしていることは自覚している。
ただ、アメリアが、前転するリスの様にコロコロと、自分の元に転がってきた時、驚いたがあまりのかわいらしさに、声を上げて笑ってしまった。
これは、神様がくれた、チャンスだと思った。
差し出した俺の手に、彼女が触れた時。
この手は、絶対に離さないと決めた。
とにかく一緒に居たくて、連れて来てしまったが、落ち着いたら、彼女の怪我がひどく心配になり、何度も確認してしまう。
自分でも………どうしていいかわからない感情だが、母上はいつの間に、あんなに仲良くなったんだ。
アメリアと名前で呼び、メイヴィン様と名前で呼んでもらっていた。
俺は、冷徹の貴公子と侯爵様としか、呼ばれていないのに。
明日から、挽回しなければ。
✿ ✿ ✿
次の日、眼が覚めると、メイヴィン様と侍女たちに、代る代るに世話を焼いてもらい。
トイレと食事以外は、ずっとベッドに押し込められている。
父が、一度訪ねてきたが、ちらっと顔をのぞかせて。
「ちゃんとよくなるまで、お世話になりなさい」と一言だけ言うと、そそくさと帰ってしまった。
侯爵様も、朝・昼・晩と様子を聞きにやってくる。
本当にあの方は、冷徹の貴公子様なのかしら?
とても、お優しいのに。
そして私の、ベッド一週間生活は、あっと言う間に過ぎていった。
✿ ✿ ✿
その日は朝から、医師の診察を受け、安静解除の合格点を貰ったが、徐々に体を動かす様に、指導を受けた。
「アメリア。それじゃあ、まずはサロンでのお茶から始めない?」
「メイヴィン様。こんなに、甘えてしまっていいのでしょうか?」
「シフロ伯爵には、あなたの様子を毎日伝えているし、こちらでの滞在の許可を得ているわ。私も、アメリアがいてくれたほうが、侯爵家の中が明るくなって嬉しいのよ」
メイヴィン様が、私の手を握る。
そこに大きな音で、ドアが開いて侯爵様が入ってきた。
「動いてよくなったんだね、アメリア!一番に連れていきたい場所があるんだ」
今日の侯爵様は、一段とキラキラで満面の笑み。
「まあ、アルフレッド。私が先にサロンのお茶に、アメリアを誘ったのよ」
「母上、これだけは譲れません」
侯爵様が、私の手からメイヴィン様の手をひき外す。
「まあ、怖い。でも…決意したなら、仕方ないわね。ここはかわいい息子に、アメリアを譲ってあげましょうかね」
メイヴィン様が、両手を上げた。
「アメリアどうしても、見てほしい場所があるんだ、そして私の話を聞いてほしい」
「はい。侯爵様、そんなにおすすめの場所があるんですか?」
「気に入ってくれると思う、久しぶりに長く歩くから、私の腕に掴まって」
「失礼します」
私は侯爵様のエスコートを受け、本邸に隣接する渡り廊下の先、蔦の這う素敵な建物に案内される。
少し大きめの扉を入ると、そこは、広い空間の両サイドに、中二階がある立派な図書館。
「わ~。素敵」
グリーンの絨毯には、小さな白い花が描かれ、チョコレートブラウンの落ち着いた壁と階段、階段の手すりには、蔦バラが巻き付いた様な、繊細な細工がされている。
本棚は天井まで届き、本がぎっしりと詰まっている。
いくつもある、大きなガラス窓の淵は、色とりどりの色ガラスがはめられ、差し込む光に色が差す。
夢かと思うほど、美しい光景だ。
「祖父が本好きでね、ほかの国の本も沢山あるよ」
「侯爵様。なんて美しい図書館なんでしょう。連れてきてくれて、ありがとうございます。見せていただけて、嬉しいです」
「アメリア、あの椅子に座ろう、俺が子供のころの、お気に入りの場所なんだ」
侯爵様が、指さした先には、窓がある壁の下が、ベンチの様になっていて、かわいらしいクッションが、いくつも置かれていた。
「さあ。どうぞ」
二人で、横並びに腰掛ける。
あまり大きくはないベンチは、二人の肩が当たりそうなほど近い。
侯爵様が、私の手を取り自分の膝に乗せる。
「…………。」
「侯爵様?」
続く沈黙に、思わず侯爵様の方を向いた。
わあ。顔がちち近い。
侯爵様の、握る手に力が入ると、侯爵様は前を向いたままつぶやいた。
「ああ。アメリアのこととなると、本当に自分は情けない」
「?」
小首をかしげ、侯爵様の顔を覗き込むと、侯爵様は、勢いよくこちらに体の向きを変え、私の肩を両手でつかんだ。
近い位置で向き合い、侯爵様の青く澄んだ瞳と眼が合う。
なんて……。奇麗な瞳。
「アメリアのことが、大好きだ!私と結婚してほしい」
「は。はい?」
ままさか、こんなに優しくて素敵な方が、私を好きだなんて!
それも結婚!
私は、耳まで赤くなり、体感的には、頭から蒸気が出ていたはず。
「急に、こんなこと言われて、戸惑うだろうが、めちゃくちゃ頑張って、俺の事を好きになってもらう。そして、アメリアをいっぱいっぱい、甘やかして幸せにする」
「俺を選んでほしい。俺では、だめだろうか」
揺れる瞳が、私を見つめる。
「いえいえ、こちらこそ、私でいいのでしょうか?」
返事と共に、侯爵様にきつく抱きしめられる。
それから侯爵様は、さらりと私を膝の上に乗せ、1年ほど前から私を知っていたこと、自分の生い立ち、などなど。いっぱいろいろと話してくれた。
そして……今日、決まった決定事項は……。
「俺のことは、フレディと呼べ、俺はリアと呼ぶ」
私が、つまずき転がった先には、沢山の本と優しくて、素敵な新しい家族が待っていた。
~ 終わり ~
いつも誤字脱字などありがとうございます。
この後、フレディとメイヴィン様はどんどん話を進め
アメリアはそのまま侯爵邸から学院にも通い。卒業とともに(*^-^*)




