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Aフリカ  作者: summer_afternoon
漂流する欲望
45/82

グレートリフトバレーへ

読んでくださってありがとうございます。

修正に修正を重ねております。申し訳ありません。

ハオラン氏は首を横に振った。


「……なぜだ」

「どうしたんですか?」

「西へズレてる」

「まだタイムワープしてないじゃありませんか」


森羅もサミュエルさんも、今は訓練用のアンドロイドから護身術を習っている。タイムワープしたときの映像があったからといって、まだタイムワープどころかタイムワープ先を指定してもいないのだから、西にズレているかどうかなど分からないはず。


「見れば分かる」


ということなので、ルツは映像を観せてもらった。


場所は、国内線の空港横にあるミュージアムの庭。緑色の芝生スペースが中央にあり、長方形。それを囲むように、池の部分があり、そこへ周りからの小道が集まっている。東西方向の直線の小道上に森羅とサミュエルさんがいる。


「ズレてますね」


一目瞭然だった。


挿絵(By みてみん)

森羅とサミュエルさんが立つ小道の長さは約50m。西と東の端には直交する小道があり、東の小道の向こうは生垣、西の小道の向こうは池。小道にはタイルが敷かれ、幾何学的な模様ができている。約50m直線の小道の中央が模様によってはっきりと分かる。

森羅とサミュエルさんが立っているのは、中央の模様から西へ15mほどズレた位置だった。


タイムワープの実験のとき、ゴルフの1番ホールのカップを狙ったハオラン氏。中途半端な指定はしない。そして、映像にある森羅とサミュエルさんが立っている場所を指定するはずがない。そこから西にズレた場合、池に落ちる可能性があるから。


「分からない。1000年前のヨハネスブルグはズレていない。1000年前のナイロビと横浜はズレる。現在の横浜はズレない」

「何が違うんでしょうね」


それでも、成功したと分かり、ルツは安心した。1000年間もの地球の自転と公転を考えれば15mなど誤差。


「そうそう、黒い靄のこと報告してなかったね。一酸化炭素 、炭化水素 、窒素酸化物 だったよ」

(すす)だったんですね」


ルツは自分の口から反射的に出た答えに感動した。

賢くなってる! 煤の成分なんて気にしたこともなかったもん。


「ただの煤だとしても、大量のエネルギーを使うと発熱するのかもしれない。推測でしかないけど。小さなことを放っておくと、大きな穴に落ちることがあるんだ。これについても考えてみるよ」


自分の頭の進化を実感したルツは調子に乗った。


「私も時空を歪める理論、知りたいです」

「ルツ。嬉しいよ。基礎の相対性理論はダウンロードした?」


相対性理論が基礎?!

驚きながらも、ルツの頭の中には、E=mc²と式が浮かび、重力や質量、空間に関する知識が駆け抜ける。


「はい!」

「じゃあ、森羅にリストアップした論文をメッセージに送るよ。それ終わったら、僕の論文とタイムマシンの構造についての記録を送るから」


すぐさまリストを確認してびっくり。

うそ〜ん。

100以上の論文。各論文には(おびただ)しいほどの参考資料、参考文献が羅列されていた。ハオラン氏の前で笑顔が凍りついた。


知識のダウンロードにはストレスを感じたが、自分で読んで覚え、考える必要はなかった。論文は違う。T_T

サミュエルさんと遊んでないで、少しずつやっておけばよかったと後悔した。

大丈夫。きっと理解できる。E=mc²が出てきたんだから。

ルツは前向きだった。


「行くか」


ハオラン氏が独り言を呟く。


「行くって、ナイロビですか?」

「え? あ、ああ」


そんな話をしていると、明るい笑い声が聞こえてきた。コノハナサクヤヒメさんとグリーン氏だった。

ヒメさん、確実に仕留めに行ってるじゃん。

いつも綺麗なコノハナサクヤヒメさんに磨きがかかっている気がする。ピアスが揺れている。いつもは揺れないタイプ。口紅の色がいつもよりピンク。印象が優しい。


「ルツ、ハオラン。今ね、アフリカの観光地について聞かれてたの。グリーン氏は、ヨハネスブルグのキリンのホテルに泊まってるんですって」

「こんにちは。研究所の見学と言いながら、なかなか味わえないアフリカを堪能しようと思っています」

「それでね、私、明日、モンパサ(旧ケニア)に行くの。貿易をしてる企業に日本とやり取りしていた記録が残っているらしくて。グリーン氏はナイロビ(旧ケニア)近くの湖でフラミンゴが見たいっておっしゃるの。私はナイロビで国内線に乗り換えてモンパサ」


うっわー。2人での旅行にまで持ち込んでる。だよね。大人な活動しようとしても、ヒメさんの部屋には森羅と私が住んでるから、招けないもんね。応援します!

ルツは黙っていた。お二人で楽しんできてくださいという気持ちだった。が。


「ちょうどよかった。僕、明日、ナイロビに行こうと思ったとこなんだ。僕の用事はすぐ終わるけど、せっかくならルツ、グリーン氏とヒメに連れてってもらいなよ」


空気など全く読まないハオラン氏はにこやかに勧めてくる。


「いえ、私は。ナイロビだけで」


ヒメさんの邪魔をするなんてトンデモナイ。

ところが。


「ルツ、君は富裕層だったかい?」


いきなりグリーン氏に尋ねられた。


「いえ。一般家庭でした」

「だったら行こうよ。21世紀は格差社会。日本は貧しく、普通の人は金銭的ネックで多くのことを我慢していたと記録に残っている。君は、プロジェクトが終わったら元の生活に戻るかもしれない。できることはやろう。経験するチャンスだよ」


んー。そこまで貧しかったっけ。

確かに、ルツの家はケニア・フラミンゴ家族旅行などできないだろう。1人70万円で見積もっても、5人で350万。かけがえのない経験とはいえ、なかなかお高い。

貧しくなくてもムリっしょ。

一般家庭の自分がそう考えることこそ、日本が貧しい証拠なのかもしれない、とも思うルツだった。


「そーだよ。連れてってもらいなよ。僕に気を遣う必要ないよ」


ルツが気を遣っているのは、ハオラン氏ではなくコノハナサクヤヒメさん。


「いえ、時間と空間の論文をしっかり理解したいので」


ルツはコノハナサクヤヒメさんに目配せした。

ちゃんと断ってますからね。ハニートラップ返しの邪魔はしません。


「ルツ、行きましょ。森羅が『知識のダウンロードでストレスを溜めてる』って心配してたわ。気分転換もしなきゃ、脳がオーバーヒートしちゃう」

「ルツ、広大な自然を見に行こう。グレートリフトバレーの湖のフラミンゴ。きっと感動するよ」

「行ってきなよ」


グレートリフトバレー=大地溝帯。アフリカ大陸に南北に縦断する谷。大地の裂け目。見たい。

ルツは思ったことが顔に出るタイプ。


「決まり。ルツ、一緒に行きましょう。もちろん観光も」


コノハナサクヤヒメさんに言われたなら、本当に同行してもいいということ。


「はい。ありがとうございます」


グリーン氏は、目尻を下げて幸せそうにルツに微笑む。その表情は、やっぱり万象に似ていた。



帰宅して、急な旅行の準備をする。

と言っても、数日分の着替えくらい。パスポート不要、金銭もクレジットカードも不要。シールドを使うため化粧品不要。お菓子を用意したくらい。


「ルツ、ありがと」


旅行バッグに服を詰めていると、コノハナサクヤヒメさんが部屋に来た。


「え?」

「旅行」

「私が行ってよかったんですか?」

「もちろん。ルツが行くから、私も保護者として下衆グリーンと一緒に行けるの。じゃなかったら、私はモンパサで調査して、下衆グリーンとは別行動になっちゃう」

「絶対に邪魔しませんから」

「ああ、いいのよ。気にしないで。私はセクサロイドのカレシがいるってことになってるじゃない。別れてないからホントにそうなんだけど」

「ですね」

「だから、迂闊に近づいてビッチ認定されるのも嫌なわけ。好みのタイプですらない男に」

「一応、ヒメさんのカレシと顔は一緒なんですよね?」

「一緒のはずなのに、全くそう見えないよね。カレシの方が100倍ステキ。セクサロイドだけど。でね、ルツ」

「はい」

「下衆グリーン、どうもルツを気に入ってるみたいだから、情報引き出せたらお願い」

「ええっ」

「なーんかルツには、ガード緩そうじゃない?」

「子供だからですよ」

「だったらそこを利用して、武漢の遺伝子保存庫の柱の中に何があるのか」

「それ、殺される案件では」

「大丈夫。ルツの代わりはいないもの。1000年前から偶然来た幻の日本人」

「前、ヒメさん、柱の中にエレベーターがあるかもって」

「ええ。柱に入ったら保存庫にロックがかかるなんて。入れるくらいだから、きっとエレベーターね」

「保存庫って1階ですか?」

「そうよ」

「建物に2階はありますか?」

「あったわ」

「地下は?」

「階段は地下へ続いていなかったし、普通のエレベーターに地下はなかった」

「2階がグリーン氏の部屋だったりして」

「可能性はあるかも。でも、普通の部屋を冷蔵庫には繋げるのは難しいわ。温度管理の問題があるから」


チャンスがあれば、武漢研究所に地下があるのかくらいは聞こうと考えるルツ。しかし、ルツは高度な話術を持ち合わせていない。


旅行の用意をしているルツの横で、コノハナサクヤヒメさんはマッチョのカレシからの電話に出た。副所長グリーン氏の話をしている。


「そーなの。アフリカ観光をなさるんですって。グリーン副所長」


コノハナサクヤヒメさんは、下衆グリーンと言わない。マッチョがこのタイミングで電話をするのは、グリーン氏の指示と推測できるからだろう。じゃなくても、相手の上司に下衆ヘッダーはない。


「愛してる。おやすみなさい」


コノハナサクヤヒメさんは通話を終える。


「つき合ってるんですねー。『愛してる』とか言っちゃって」

「愛してないけどね」


うっわー。

秘密を守る指示を受けたマッチョは秘密の内容をインプットされていなかった。内容まで知っているのは、持ち主の副所長。研究所の所長のポストがただの天下り先なら、秘密を知っているのは副所長のグリーン氏だけかもしれない。


コノハナサクヤヒメさんは、マッチョの指示を書き換え、柱の中への案内をさせようと目論んでいる。現在、サミュエルさんの知り合いのセクサロイドオタクにその方法を訊き、生体認証が必要という壁にぶち当たっている。しかも、どんなパターンの生体認証かも分からないのだそう。指紋か顔か静脈か虹彩か声紋か。


ナイロビの国内線の空港の隣には実際にミュージアムがあります。上からの写真で見ました。しかし、庭の形は実際とは異なります。この小説はフィクションです。

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