確定している森羅の未来
読んでくださってありがとうございます。
「勉強しなくていいんです」の話に、1000年後の人達は、年齢をストップさせているという設定を追加しました。
横浜の真上からの映像は、1000年前までならどれだけでも好きなだけ観ていいと言われた。
「太っ腹」
ルツは大喜び。自分がいなくなった後、どうなっているのか知りたい。
その前に、森羅が何に悩んでいるのかを知りたい。
ルツのスマホにメッセージが届く。
『森がオレの代わりに疑われてる可能性がある』
森羅は、森君から画像を受け取るとき、USBで貰った。だから、森君のパソコンにはUSBにセーブした履歴はあっても、誰にデータを送ったかという情報はない。そして、森君のパソコンのハードディスクにはMOLLYアプリがない。なので、警察に調べられても、白と分かる。
『だけどさ、警察に絡むとか、嫌じゃね? 森はきっと、オレに渡したって言わない。だから警察から仲間って余計怪しまれる』
『言わない?』
『そーゆーやつ』
森羅は、警察が追っているのはたぶん、MOLLYアプリだろうと言う。理由は、警察に「ちょっといいかな? MOLLY」と呼ばれたこと。
MOLLYアプリはもちろん闇アプリ。ネットの中で誰かが、こんな機能のアプリあったらいいのにと呟いた。面白そうだなと思い、作ってみた。最初は動かなかった。仮想通貨の口座についてのシステムを調べ、試行錯誤し、送金システムのアプリを作った。送金を行うのは他人の口座。手数料などがかかり、結局は元金が1割ほど減ってしまうが、誰がどこからどう入手したものか分からなくなる。大金は少額ずつに分けられ、回数を増やしたり、使用口座を増やしたりして行われる。
『ハッキングじゃん。仮想通貨の会社の』
『オレは使ってない。だから、オレはやってない』
『アプリ動かした人からバレる』
『バレない』
ふーん。
森羅によれば、国外に普通のお金を持ち出すことは難しいらしい。ただし、仮想通貨に国境はない。でもって、この手のアプリは他にもあり、なぜ自分の作ったものが偶然、1000年先に展示されているか分からないと首を傾げる。
『MOLLYって言われたのは、最初に使った人が日本人で、森のアプリっつったから。ちょくっと修正の依頼来て、そのときはMOLLYってなってた』
『SNS?』
『中古パソコンのリユース会社って言ってた。そこで』
『どこ』
『なくなってた』
T_T
Qちゃん、森羅はめっちゃ悪の僕になってたよ。
森羅がMOLLYと呼ばれるのは、MOLLYアプリに関してのみ。作成は中古パソコンのリユース会社とやらで行った。しかし、森羅は自宅でも作業をしたため、自宅のハードディスクにもソースコードが残っている。クラウド上にはない。アクセス履歴が残る可能性があるから極力ネットを使わないように指示された。IPアドレスというネット上での住所みたいなものを消す方法もあるのだとか。
森羅、休眠口座を探すアプリって言ったのに、それ、機能のほんの一部っぽいじゃん。
森羅とMOLLYを繋ぐものがあるとすれば、アイコンに使われているパーツの木が同じ絵の自作テトリス。それを使って遊んだのは、森羅、森君、中学時代の周りの友達、万象。
『万象も?!』
中学時代の友達と万象は、森羅から直にアプリを送った。
そんなんできるんだ?
けれど、実際に他のアプリと一緒にアイコンが並んでいるところを見たかった森君と森羅は、闇アプリのサイトにアクセスしてダウンロードした。
『闇アプリのサイトって。』
同じサイトに、MOLLYアプリもある。森羅が使っていないだけで、ハッキング機能あり。
『オレって悪くなくね?』
『悪い』
『使ってない』
『使った人と共犯でしょ』
『できそうって思ったら、作りたくなったんだよな』
森羅は、ファーストフード店で警察に声をかけられたとき、口座屋の件かと思った。けれど、MOLLYに来たその依頼は断ったし、依頼を受けたのは、中古パソコンのリユースを行っている人伝で口頭だった。
プログラムのことやシステムのことを何でも知っていて、ヤバい人だろうと薄々分かっていても、会いに行くのを止められなかったのだそう。
なにそれ。まるで悪い女にひっかかったみたいな。
ある時、店がなくなっていた。知り合ったときのSNSのアカウントもない。
『すっげー寂しくて辛かった』
森羅は、口座屋の仕事を受ければよかったと思ったほど。
『今更なんだけど、こーざやって何』
『マネロンする人』
『マカロン?』
前も聞いた。
『マネーロンダリング。資金洗浄。悪い金を普通の金にする』
『難そう』
『今は見張られてて難い』
そして、話は本筋に戻る。
『闇アプリのサイトから森テトにアクセスしたのは、森とオレ。他にもいるかもだけど、たぶん、サイトにアップしてすぐにダウンロードしたのはオレら』
森テト。森君の絵を使って森羅が作ったテトリス。
あれ?
ルツは首を傾げる。
『ダウンロードしたなら、その後は繋がなくていーじゃん。あのお店から繋いでたからバレたんじゃなかったっけ?』
『ゲーム起動するとき、サーバーにアクセスする。高得点者はランキングされるから』
森羅はいらん機能をつけてしまった。それがなければ、ファーストフード店からアクセスしていたことがバレなかったのに。それでも、ダウンロードした時点でOUTなのだろう。
森羅はリングをはめ、映像を観始めた。1000年前の横浜市。日付は森羅とルツが1000年後へ来た日。ズームアップしたのは、ルツと森羅の家。ルツの家から母親がフォルテの散歩に出入りしたのが映っていただけ。森羅は再び同じ日の朝、ある1軒のマンションを映した。
『森んち』
森君らしき人がマンションから出る姿があった。髪の色と制服で判別。紺色の制服とチャラいミルクティカラーの髪。森羅は森君を追う。森君は、バス停まで歩き、バスで最寄駅に行った。駅に入ると、もう見えない。
『あいつ、自分の絵がゲームんなったのすげー喜んでてさ。毎朝、ガッコ行くとき、やってるっつってた』
真上からの映像には時間制限がある。日の出のしばらく後から10時までと、14時から日没のしばらく前まで。早送りでひたすら見続けた。
ルツと森羅が1000年後に運ばれた2日後の朝、森君は、バス停へ行く途中呼び止められた。大人の男2人に挟まれて1台の車に乗った。その車はパトカーじゃない。普通車。サイレンも何もつけていない。森君を乗せた車は、区の警察署ではなく、神奈川県警まで走った。
「森ぃ」
森羅は泣きそうな顔をしている。
その翌朝、森君は、同じ車で家に送られた。そのとき、パソコンや絵を描くためのものなど、色々なものが押収される様子が映っていた。
ぽと
とうとう森羅の目から涙が零れ落ちる。
「ひでぇよ。あいつ、どこで寝たんだよ」
森羅はテーブルに突っ伏して泣いた。どうにもできず、しばらくルツは隣で森羅のつむじを見ていた。森羅の肩の震えが落ち着いたころ、ルツはやっと声をかけた。
「帰ってこれてよかったじゃん」
「なんでだろ」
涙と鼻水まるけで顔を上げた森羅。ルツはその前に、そっとティッシュの箱を置いた。
それから、思い出したようにメッセージに切り替える。
『疑いが晴れたんじゃない?』
『1晩で? パソコン持ってかれたのは次の日なのに?』
『スマホは調べられたかも』
「……」
映像を進ませると、翌朝、森君は学校へ行くためにマンションを出た。今度はどこで呼び止められることもなく、電車に乗った。高校の最寄駅で森君を探そうとしたけれど、生徒の半数以上が髪を染めていて、森君がどれか判別できなかった。
森羅は、森君がマンションを出たところに戻ってズームする。そこには、歩きながらスマホを取り出した森君が、一旦立ち止まり、もう一度歩き始める姿があった。3日前の同じ時刻に戻って森君をズーム。森君は、最寄駅のバス停で森テトをやり始めていた。映像は不鮮明でも手の動きで分かるらしい。
『森君、パソコン関係は持ってかれたけど、スマホは大丈夫だったんだね』
「日付け」
森羅が呟く。
「どしたの?」
ルツの目の前から、いきなり映像がなくなった。そして、森羅は立ち上がって、ハオラン氏のブースに走って行く。
こんなに狭いのに、走らなくても。
しばらくして戻ってきた森羅は、深刻な顔をしていた。リングを外す。ルツにも無言で外せと訴える。
「MOLLYアプリの日付、森が警察に連れてかれた日になってた」
「え」
「たぶん、オレがあのアプリをオープンソースのサイトにアップするんだ。その日に。だから森が次の日帰ってた」
「でも、パソコンとか持ってかれてたよ?」
「一応調べるだけだと思う。でも、大丈夫。何も出ない」
「待って、行くつもり?」
「つもりもなにも。もうオレは行ったんだって。1000年後に展示までされてる」
「ウチらは帰るってこと?」
「その後、こっちの1000年後に戻ってくるかも」
「いつ行くの?」
「分かんね。いつだって行けるから。でもって、それは成功するって分かってる」
「ハオラン氏に、話した?」
「ソースコード見せてもらっただけ」
2人でリングをはめた。
どきどきとルツの心拍数が上がる。帰るのかもしれない。ここから21世紀の横浜へ。
そしたら、今度は森羅が捕まるかもしれないじゃん。
森羅の推測通りなら、MOLLYを探すとき、警察は闇アプリのアイコンに注目した。絵の中の木がMOLLYアプリと同じだった森テト。それを最初にダウンロードした2人を関係者として調べている。森君のスマホの設定がどうなってるのかは分かんないけど、警察に特定された。森羅は、ファーストフード店のWiFiを使っているとき。2人のうち1人が白だったら、もう1人が黒。
結論。森羅は、21世紀に帰ったら警察に捕まってしまう。
ルツは導き出した結論を悲観しなかった。
だったらこっちでいーじゃん。
森羅が安全で、食べたい物が食べられ、好きに時間を過ごせる。それが一生約束されている。恵まれていて、便利で、勉強なし。見る物全てが目新しい。
友達や家族に会いたいという気持ちはあっても、まだ、失うという帰路に立たされていなかった。何より、森羅との甘い(?)擬似新婚生活(??)で心が浮き立っていた。




