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突如歴史から消えた民族

森羅(しんら)とルツが両方の耳珠につけられた、白い小豆のようなものは翻訳機らしい。恐らく、話しているのは英語。

自己紹介をし合い、握手を交わした。

コノハナサクヤヒメさんともう1人はハオラン氏。2人はプロジェクトのチームだった。ハオラン氏は時空を歪めるいわゆるタイムマシンの研究者、コノハナサクヤヒメさんは日本についての研究者だった。


ハオラン氏は興奮していた。


「奇跡なんだよ。2m四方の空間に人間がいるなんて。こっちから行くテスト段階だったんだ。地球の軌道を計算して場所を選んだ。もちろん日本領域内。横浜駅の場所は分かってたからさ。たくさんの線路がある駅だったんだろ? どこが計算の起点になるのかという問題があった。太陽系の動きまで考え、悩みに悩んだんだ。期待以上だよ。計算が間違っていたら最悪、宇宙空間。下手すると気圧の変化に耐えられなくて研究室が潰れるところだった」


2人とも20代後半。そして、驚くほど整った顔をしていた。スマホやパソコン画面で見るAI美男美女のように。

夢だよね? 夢じゃなきゃありえないよね?

ルツは心の中で繰り返すが、真剣になると口がちょっと開いてしまう森羅の舌は、ブルーハワイに染まったまま。


促され、4人でテーブルを囲む。コノハナサクヤヒメさんがプロジェクトの説明を始めた。


「ここは、あなた達がいた時代の1000年先。私達は連邦政府からの依頼によって、日本人が消滅した理由を調べています。ヒッタイトと日本人が歴史から消えたことは、その時代に優れていたものが突如としてなくなった大きな謎なの。ヒッタイトよりも新しい日本人に関しては、雑多なデータの欠片が残っていて調査可能。更に、現在の我々がその道を辿っている可能性がある。ということで、調査依頼が来ました」


あー。情報量多すぎ。1000年先……夢?

加えて、いきなり聞くワード、連邦政府、ヒッタイトにルツはぼーっとする。


「連邦政府ってなんですか?」


森羅が質問した。ついでにヒッタイトも聞いて欲しいところ。


「あなた達の時代にはまだなかったのね。要するに政府です。世界の大半をまとめる。もともとはいろんな国があり、それぞれに政府があった。その中の半分以上が連邦に参加。そして、それをまとめる連邦政府ができた。ここまでは分かりますか?」


森羅とルツは首を縦に振る。コノハナサクヤヒメさんは2人が理解したことを確認して進む。


「続けます。連邦政府ができた後、国や国境があるから争いが起こるという考えが広まり、連邦下の国々が国家という形をなくしました。そして、連邦政府が直接エリアを治めるようになった。連邦というのは、そもそも国々という意味なのだけれど、成り立ち上、連邦、連邦政府という言葉が残ったというわけです」

「分かりました。ありがとうございます」


と森羅。ヒッタイトについては、後でネットで調べようとルツは思った。

説明はまだ続いた。


「一応、プロジェクトの方針としてはーーー

 ・タイムマシンで1000年遡ることが可能か実験する

 ・日本人が滅びたとされる2200年ごろまでを星からの映像で調査する

 ・重要ポイントと思われるころへタイムワープして調査する

 あなた達は1000年を遡る実験段階でこちらに来たのです」


2200年ごろに日本人がいなくなっちゃうの? でもって、なんか調査が。しつもーん。ルツは挙手。


「星からの映像で調査とはどういう意味でしょう?」


それには、ハオラン氏が答えた。


「光には速度がある。例えば100光年の場所には100年前の光が届き、100年前の様子が分かる。それを利用して、かなり正確に過去の映像を見ることができるんだ」


へー。


「だったら、タイムワープしなくても」


物申したのは森羅だった。


「映像を見るにも限界があるんだ。どこを中心にどう見ればいいのか見当もつかない。そして、外観から得られる情報では解明できないと推測している。別の時代への行き来は倫理的に良くないと承知している。けれど、最も効率がいいし、……実のところ、タイムマシンで人が移動できるのはまだ先だと思っていた」


そう思っていたのはコノハナサクヤヒメさんもだった。


「私も。成功するなんて思わなかった。タイムワープで1000年を超えるのはかなりのエネルギーを必要とするから、これまで時空を歪めたのはせいぜい5年。とりあえず1回だけやってみました。そしたらあなた達日本人がタイムワープしてきたの。奇跡よ!」


歓迎されている模様。

ルツと森羅は、コノハナサクヤヒメさんに連れられ、別の部屋で健康チェックを受けた。無人の部屋にシャワールームのようなカプセル状の空間があり、服を着たままそこに立つ。扉が閉じ、閉じた透明な扉に様々な数値が点滅。健康状態は良好、細菌&ウイルス問題なしと判定された。


1000年。それって、うちらにとって、平安時代の人に会った感じ? 牛若丸や弁慶に会えたら嬉しいかも。

自分に置き換えて想像し、歓迎されているのを改めて実感するルツ。


再びもとの部屋に戻ると、ハオラン氏だけでなく、バービー人形の上半身みたいなものが10体ほど宙に浮いている。


「ひっ」


思わずルツは森羅の背中の後ろに隠れた。


「ルツ、大丈夫。たぶん、Zoomみたいなやつだよ」


そーっと森羅の肩から窺うと、バービー人形がみんなこっちを向いて挨拶してくれる。リアルでシュール。


「途中経過を報告した際、未成年という点が問題になった。それで、話し合ったところなんだ」


ハオラン氏が説明してくれた。世界中、時代を越えて、未成年は大切に扱われるものなのだろう。

決定事項を告げたのは、40代のヒジャブ(イスラム教の女性が頭髪を隠すために着用するスカーフ)を被ったバービー女性。若い中に1人だけおばさん。目立つ。


①安全なタイムワープを早急に確立する

②本人達の希望があれば、もとの時代に帰す

③未成年だけれど、安全なタイムワープ確立までは特例としてプロジェクト参加を許可

④人権保護のため2人の存在は極秘

⑤日本人消滅の解明後この時代に残る場合、里親の元で未成年のカリキュラムを熟してから社会に出る


それを聞いてルツは思った。

森羅はここに残りたいかもしれない。


「っ」


宙に浮く上半身バービー人形が「では」「これで」「失礼」などと言い残して次々に下から消えていく。最後首だけになって心臓に悪い。立体映像だろうと頭で分かっていても、リアル過ぎて反応してしまう。


コノハナサクヤヒメさんは提案した。


「ちょっと休憩しませんか? 2人は混乱してると思う。あら、もう夕食の時間。今日はここで食べましょう」


それにハオラン氏も賛同する。


「だな。注文しようぜ。オレ、牛ヒレ風培養肉の丼と餃子」


コノハナサクヤヒメさんはチキンサラダとパン。

料理名がほぼ1000年前と一緒。培養肉?

どうすると聞かれ、森羅は牛ヒレ風培養肉の丼にした。ルツもそれにした。


「でも、オレら、支払いできません」


森羅の言葉に研究者2人は首を傾げる。


「「支払い?」」


勝手にこっちの時代に連れてきたんだから、奢りに決まってるじゃん。うちら、子供だしさ。でもま、礼儀として聞かなきゃね。やっぱ森羅ってステキ。

ルツは、いつものように森羅にうっとりした。


「お金、スマホにチャージしてあるけど、ネット繋がらないので。ドルですか?」

「「お金?」」

「スマホとはなんだろう。ネットはインターネットのことだよね?」

「ドルって廃止された通貨のことかしら?」


ちょっと待った。ドルが廃止?

ルツは、質問返しされたことを再質問返ししたくなった。


「オレらの滞在中の支払いは研究費に含まれるんですか?」

「研究ひ、研究ひ。えーっと?」


コノハナサクヤヒメさんは左人差し指でおでこをとんとんしながら考える。

ルツは尋ねた。


「ドルが廃止されたなら、今はどんなお金ですか? 私たち、ここで使えるお金を持ってません」

「ああ! 分かった。そうね。そうそう。昔は通貨が必要だったのよね。お金。今は要らないわ」

「「は?」」

「お金を使わずに何でもするの」

「「え?」」


「おお! 通貨のことか」とハオラン氏が頷く。


「誰もがしたいことをできるだ。昔は貧富の差や階級があって、人々は行動に制限があったんだってね。今はそんなことはない。平等な社会だよ。それぞれの人が思った通りの人生を歩む」


え、マジで?


「一日中ゲームしてもいいんですか? 遊んでても。仕事しなくても」


ルツにとっての1番の夢は、森羅と一緒に暮らすこと。それが叶えば、できれば遊んで暮らしたい。


「仕事? ああ、社会奉仕のことかな。したかったらすればいい。僕がタイムマシンの研究をしてるみたいに」

「じゃ、オレ、タイムマシンの研究したいです!」


いきなり森羅が志望した。強い目。知的好奇心にきらきら輝いている……のではなく、どこか切羽詰まったような、切望する瞳だった。


「え、ちょっと待って。本当に、こっちもパニクるような想定外の出来事で。……。でも、そうね。本人の意志を最も優先すべきですものね」


コノハナサクヤヒメさんは困った顔をしながらハオラン氏を見た。


「知識のダウンロードをすれば問題ない。一緒にやろう」


ハオラン氏は森羅と握手する。


知識のダウンロード? それって研究者レベルの知識を身につけることができるの? ヤバ。元の時代に戻ったら天才じゃん。

ルツは瞬時に考える。

だったら、タイムマシンの精度を上げて、森羅が警察に追われるようなことをする前まで行って防げばいい。もし警察に追われないなら、森羅は帰りたいって思うかも。

ルツにとっては、森羅がどちらを選んでも一緒にいられればいい。ただ、今は「戻ったら警察に追われるからここにいる」という選択肢がない状況。森羅がフラットに選べるようにしたい。


「はい」とルツは元気に挙手した。


「知識のダウンロードができるなら、私も時空を曲げるってのを理解したいです!」


ルツもちゃっかり希望した。

タイムマシンで行き来できるようになったら、ついでに万象(ばんしょう)から告られたとこへ行って、ばしっとその場で断ろ。


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