狩りへの出発
ついに狩りの初日を迎えた。
腰に刀と短刀を携え、布鎧を着て宿屋の階段を降りる。
布鎧は、森の中から着ていた物だ。
よく見ると傷が多いが、使えない程ではないのでそのまま使うことにした。
「おはよう、ベリア。よく眠れた?」
「もしかして緊張で寝れなかっんじゃねぇか?」
階段を降りるとアルモンとゼトが既に待っていて声を掛けてきた。
「そんなわけねぇだろ、よく眠れたよ。むしろ久しぶりに身体を動かしたい気分だよ。」
腕を上に伸ばし、伸びをしながら返す。
「なぁアルモン、もしかしたらベリアの奴、戦闘狂タイプかもしれねーぜ?」
「ふふっ、そうだね(笑)」
「いやいや、そんなことないから!」
そんなことを言いながら、3人で扉に向かう。
「あら、ベリア。今日が初陣なのね。頑張ってね!」
「おぉ、気をつけてな!」
アリシアとダリさんが階段を降りてきて声を掛けてくれた。
「ありがとう、アリシアにダリさん。気をつけて行ってくる。」
2人の笑顔に見送られ、俺たちは狩りに向かった。
ーーーーー
宿屋を出た俺たちは、右側、街の中央部に向かって歩き出した。
「あれ、アルモン。街の外に出るなら左じゃないのか?」
疑問をそのまま口にする。
「南の森に行くならそうなんだけど、僕らは北西の森に行くんだよ。街の西門から外に出るよ。」
アルモンの返答に、この前聞いた話を思い出す。
そういやダリさんが言ってたっけな。
ゼトとアルモンは危険度の高い北西の森で狩りをしてるって。
「ふーん、そっか。北西の森の方が良い獲物がいるのか?」
「そもそも、北西の森は南の森に比べると獣の数が多い。
その分、奥に行けば魔獣も多く生息しているんだけどね。」
「獣と魔獣って、何が違うんだ?」
「それは簡単。魔火を使えるかどうかさ。」
「マカ?」
「あぁ。魔火ってのは、分かりやすく例えると身体の中に流れる魔力の様なエネルギーさ。
全ての生き物は、多かれ少なかれ体内にこの魔火が血のように流れているんだ。決して目には見えないけどね。
そして、中にはその魔火から魔法を生み出したり、体術や武器に乗せたりできるものがいる。それができるのが魔獣、できないのが獣さ。
人間でもできる人とできない人がいるよ。」
魔火。
今の説明を聞いて腑に落ちた。
森の中で狼を斬った時や武器屋で刀身に流していたエネルギー。あれが魔火だ。
「強さってのはこの魔火によって変わると言っても過言じゃねーんだ。」
ゼトも会話に入りたそうにしていたが、ようやく口を挟んできた。
そしてアルモンが頷いて続ける。
「あぁ。もちろん戦闘センスや経験でも変わってくるが、魔火の扱いのレベルが違う相手には敵いようがない。馬力が違うからね。虫が獣に挑む様なものさ。
まぁ、魔火の扱いと言っても簡単ではないんだけどね。
基本的には魔火の質・量・練度、この3つがポイントだね。
質と量は生まれ持った素質が大きいから、一般的には練度を上げることが強くなる近道とされているよ。」
「なるほどね。なんとなく心当たりがある。けど、魔獣ってとんでもなく強いのもいるんじゃないのか?」
「あぁ、奥に行けばね。北西の森、ドゥーべの森っていうんだけど、大陸の北側まで伸びているとてつもなく広大な森なんだ。中には人間では絶対に太刀打ちできない魔獣も住み着いているよ。ま、大丈夫。森の浅いところならそんなに強力な魔物はいないよ。」
「まぁ、ベリアなら大丈夫だろ。」
ゼトが呑気に言う。
そういえば、アルモンもそんなようなこと言ってたな。
なんでだろう。疑問を口にしてみる。
「なんでだ?」
前を歩いてたゼトが振り返る。
「だってお前、その身体の使い方や隙のなさ、どう考えたってかなりの手練れだろ。」
「あぁ、それには僕も同意見だよ。」
アルモンも頷いて同意する。
まぁ確かに俺も2人を見れば戦いに慣れていることがよく分かるのだから、お互い様か。
そんな会話をしていると、街の西門に着いた。
特に衛兵等はいないので、そのまま外に出る。
昨日アリシアから聞いたが、街の近く全体に除獣香というものを炊いているらしい。
人間には匂いが分からないが、獣はこれを酷く嫌うため街に近付かないんだとか。
この大陸では基本的な知識で、どの街でも炊いているらしい。
そして3人は、歩き始めた。
ドゥーべの森に向けて。