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武器屋で



翌朝、宿屋の自室で目を覚ます。


あー、身体が重い。

酒は強くないみたいだから今後は程々にしておこう。


とはいえ、昨日は2人と楽しい時間を過ごせた。

酒の力も後押しして2人との距離も縮めることができた。




さて、2人は今日も狩りに行くみたいだが、俺はお留守番だ。

街をぶらぶらと散歩でもしてみようかと思う。何か思い出すかもしれない。



身支度を整え、部屋を出る。

ちなみに、服は過去の宿泊客が忘れていったものを借りている。

腰には名前の彫ってある短刀を携えてある。




階段を降りるとアリシアが食堂の掃除をしていた。


「おはよう、アリシア。手伝う?」


「あら、おはようベリア。ううん、大丈夫よ。街に出掛けるの?」


「うん、ちょっと散歩してこようかと思う。」


「いいわね。きっとあなたには気分転換が必要だもの。迷子にならないように気を付けてね。」


「ありがとう。子どもじゃないんだから大丈夫だよ..」


苦笑いでそう返すが、土地勘がないから気をつけないとな。


「ここは町の南側よ。宿屋を出て右に行くと街の中心部に出るわ。」


「ありがとう、行ってくるよ。」


「うん、行ってらっしゃい!」


入口のドアを開けると眩しい光に包まれる。


宿屋は街を十字に横断する大きな道沿いにあると、昨日アリシアが言っていた。


目の前には石畳でできた通りが続いていた。昼過ぎということもあってか、そこそこの人通りがあった。

宿屋を出て右、街の中心部に向かうにつれて人が多くなっている。奥の方には馬車が走っているのも見える。

一方、左の街外れに向かう方は、人通りは多くなかった。

奥の方には街の入り口である門が見えた。門の周りは人間の身長ほどの石塀が続いている。


なるほど、あの石塀で街を囲っていて、東西南北に入り口となる門があるのか。

そしてそれぞれの門から大通りが通っていて、街の中央で交差しているのか。


よし、とりあえず街の中心部へ行ってみようかな。

右の方へ歩を進める。宿屋の隣も酒場だった。

どうやら南側のこの辺りは酒場や飯屋、宿屋などが多く立ち並んでいるようだ。




10分も歩くと中心部が近づいてきた。

中心部が近づくにつれ店の数も多くなり、色んな所から商売の声が聞こえてくる。

この辺りは道具屋や雑貨屋が多いのか。


道沿いに並んでいる商品を眺めながら歩いていると、たまに店員に声を掛けられる。

愛想笑いでかわしながら歩いていると、街中央の広場に出た。


広場の中心には大きな噴水があった。噴水の真ん中には3本尾の狐の像がある。

噴水の周りは憩いの場となっているようで、ベンチに腰掛けて楽しそうに話す恋人たちや、走り回る子どもを眺める大人の姿がある。


なるほど、大きくはないけど平和で良い街だな。

ゼトとアルモンがこの街にとどまっている理由が少しだけ分かった気がする。



ふと、噴水の奥、街の北側に他の建物と比べると大きな建物があることに気付く。

この街の領主の家だろうか?


建物の入り口には門があり、門の前には槍を持った衛兵が立っている。

門の横に旗が掲げられていることに気付く。旗には、噴水と同じように3本尾の狐が描かれていた。



噴水をぐるっと左回りに迂回し、北側の大通りへ歩を進める。

領主の家と思しき建物の前を通る時、衛兵と目があった。


慌てて目をそらそうとするが、衛兵は爽やかな笑顔で会釈してきた。

少し頭を下げ、会釈を返す。


人の良さそうな衛兵だが、あまり強そうではないな。なんというか、隙が多い。

まぁ、この治安の良さそうな小さな街で強さは求められていないのだろう。


北側を少し進むと、武器屋や鍛冶屋が多くなってきた。

通りを歩く人々も腰に剣を携えている人が多い。


左側に大きめの武器屋があったので入ってみた。

中では数人のお客さんがそれぞれ気になる商品を手に取って眺めている。

奥には、店主と思しきおじさんが椅子に腰掛け、葉巻を吸いながら読み物をしていた。


店の左半分には剣や刀、槍や短剣といった武器が置かれ、右半分には重鎧や革鎧、盾などが置かれているようだ。

武器を見てみたいな。店内の左側を進んでいく。


「おっと、ごめんな。」


重鎧を着ているおっちゃんが少し避けてくれた。

刀が置いてあるコーナーまで行き、並べられた刀を見てみる。


手前の樽に入っている刀達は1万ベルと価格が書かれている。

一本手に取ってみる。あまり上物ではなさそうだな。


樽の奥の商品棚にも何本か丁寧に刀が並べられている。

5万ベル~100万ベルまで価格もバラバラだ。


試しに100万ベルと書かれている刀を手に取ってみる。

なるほど、先ほどの刀と比べると刀身の質感が違う。

刀身に触れずとも理解できた。この刀なら扱い方次第で上手くエネルギーを乗せられるだろう。


刀を棚に戻す。


俺はどの武器が扱いやすいのだろうか。ふと腰に携えていた短刀を手に取る。

これ、かなりいい短刀だな。恐らく先ほどの100万ベルの刀よりエネルギーを伝えやすい。


ふと店主がこちらに視線を向けた気がした。しかし振り返ってみると相変わらず読み物をしている。


ところで、刀に伝えるエネルギーってなんだろう?

森の中で大きな狼を斬った時のことを思い出す。


斬る瞬間、切り裂くイメージで身体の中に渦巻くエネルギーを刀身に乗せたような感覚だった。

そしてその後、木に向かって斬撃を飛ばした時。あの時も飛ばすイメージを乗せて短刀を振りぬいた。


あの身体の中に渦巻くエネルギーのようなものはなんだろうか?

意識すると、今も身体中を巡っている感覚がする。

試しに、短刀の刀身にエネルギーを乗せてみる。やはり、刀身に滞りなくエネルギーが行き渡る。


..!


先ほどの重鎧を着たおっさんがすごい勢いでこちらを振り返った。


俺は慌てて刀身に乗せたエネルギーを分散させる。


重鎧を着たおっさんは、不思議そうな顔で俺を見た後、手に取っていた盾に視線を戻した。


店内を見渡すと、他の客は一切気付いていないようだった。

いや、よく見ると店主が面白そうに笑っていた。

視線は本に目を向けたままだが、あれは確実に今のやり取りを笑っている。そんな気がした。



気を取り直して、他の武器も見てみる。


刀の他にも、剣や大剣、槍、短刀、斧、棍といった様々な武器を手に取ってみた。

ちなみに、周りに気配が漏れないよう意識して武器へエネルギーを伝えると、重鎧のおっさんや店主に気付かれることはなかった。


色んな武器を手に取って分かったことが二つある。


一つ目は、俺が扱いやすいのは刀であるということ。次点で短刀と剣だ。

他の武器に関しては上手く扱える気がしなかった。


二つ目は、エネルギーを伝えやすい武器ほど、高価になっていくということ。

価格の設定とエネルギーの伝えやすさは、面白い程に比例した。


また、エネルギーを伝えやすい=頑丈というわけでもなかった。

だが恐らく、ただ頑丈な武器よりも、エネルギーを上手く乗せた元々脆い武器の方が打たれ強い。


そしてさっぱり分からないことが一つ。

お金の価値だ。


ベルという通貨が書かれているが、1万ベルがどれくらいの価値なのかさっぱり分からない。

帰ったらアリシアかアルモンあたりに聞いてみよう。



ーーーーー



そんなこんなで飽きることなく武器を見ていると数時間が経っていた。


「おい坊主、今日はもうそろそろ店閉めるぞ。」


店主の声で我に返り、店内を見渡すともう他の客はいなかった。


「あ、すみません。もう帰ります!」


「いや、いいんだ。随分武器が好きらしいな。」


ニヤリと笑いながら店主は言う。


「楽しそうに見ているのはいいが、お前金はあんのか?」


痛いところを突かれたな。

少し気まずいがここは正直に言おう。


「いや、ごめんなさい。一文無しです。」


「ハッハッ!金なしかよ、坊主!」


嫌な反応を予想したが、店主のおじさんは心から楽しそうに笑う。


「それで、お前のお眼鏡に叶うもんはあったのか?」


店主は試すような目で俺を見つめ、そう問いかけきた。


俺は少し考え、正直に伝えた。


「いや、刀が欲しいんですけど、これだっていうものは無かったです。」


「ハッハッハッ!そうか、無かったかよ!」


相変わらず楽しそうに笑いながら店主は続けた。


「ちょっと待ってろ、これはどうだ?」


店主はそうつぶやきながら、奥の部屋から一本の刀を持って来た。


俺はその刀を受け取り、刀身を見つめた。シンプルな作りだが、見事な質感だった。

そして何より、刀身にスッとエネルギーが馴染む。


「そいつなら合格みたいだな!面白れェ奴だ。」


「この刀はよく馴染む。いい刀だね、店主さん。」


俺は本心からそう告げる。


「あぁ、こいつは間違いなくいい刀さ。ま、こいつは売り物じゃねえからやれねェんだけどな。」


「欲しいけど、どっちみちお金がないから無理だよ。」


すると、店主は俺の腰を見てニヤリとしながら言った。


「腰の短刀を売ってくれるなら考えてやってもいいぞ。」


触れてもないし、柄しか見てないのに分かるのか。

価格設定といい、この店主、相当な目利きだな。


「残念だけど、これは大切なものだから売れないんだ。」


この短刀は唯一の過去への手掛かりだ。渡すわけにはいかなかった。


「フン、だろうな。」


店主は少し面白くなさそうな顔をして、視線を逸らした。


「坊主、樽の中から1本好きなもん持っていっていいぞ。」


「え?」


「刀なきゃ困るんだろ?今は金は要らねえよ。

お前ならすぐに稼げるさ。稼いだら返しに来い。」


「..!ありがとうございます!」


意外な提案に驚きつつ、樽の中から刀を選びに行く。



うーんと..



中でも比較的エネルギーを伝えやすい刀を選んで店主のところに持ってきた。

店主は口をへの字に曲げて刀を受け取る。


「もっと頑丈な刀なら他にもあったろ。ほんとにこれでいいのか?」


「うん、これが一番扱いやすそうだ。」


「チッ、まったく。後継者に欲しいくらいだよ。ほら、これも持ってけ。サービスだ。」


店主はそう言うと刀を納める鞘とベルトを渡してくれた。


全部サービスじゃん..。


「サービス..。ほんとにいいんですか?」


「あぁ?やめとくか?」


「..!いや、お言葉に甘えます!ありがとうございます!!」


そう言うと店主は不貞腐れたような顔をしながら、だが少し嬉しそうに言った。


「ほら、もう店閉めるぞ。また遊びに来い。」


「はい、また来ます。ほんとにありがとうございました。」


「あぁ、またな。気を付けて帰れよ。」


俺が店を出ると、店主は扉を閉めた。

外はもう日が落ちて暗くなっていた。




思わぬ形で武器を手に入れることができた。

これで、ゼトとアルモンとの狩りでも少しは役に立てるだろう。



俺は上機嫌な足取りで宿屋への帰路についた。















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