酒場で
結局、最初の狩りに出るのは3日後からになった。
明日にでも行けると言ったのだが、そんなボロボロの身体では連れていけないと、ゼトとアルモンに止められた。
そんな話をしているとまもなく酒場がオープンする時間になった。
ゼトとアルモンはこのまま酒場で夕食を取るらしいので、俺も一緒に食べることにする。
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「いやぁー、白大猪のソテー、めっちゃ旨かったなー!」
ゼトが満腹といった顔で腹を押さえながら言う。
「あぁ、ほんとに旨かった。ダリさんって料理めちゃくちゃ上手いんだな。つい食べ過ぎちゃったよ..。」
そう、久しぶりの食事?かは分からないが、思っていた以上に空腹で食べ過ぎてしまった。
だが旨いもん食って腹が膨れて幸せだ。
「アリシアちゃーん!エール貰っていいかー?」
「僕も貰おうかな。ベリアも飲むかい?」
ゼトとアルモンは浮かれた顔でアリシアにエールを注文する。
「飲もうかな..」
「いいねー!そうこなくっちゃ!!"三叉槍"結成の祝杯を上げねーとなっ!」
「"三叉槍"?なんだそれ。」
「俺たちのチーム名だよ!名前あった方がテンションあがるだろ?!」
「そうなのか..?まぁ、なんでもいいけどさ。」
ゼトの発言に、俺とアルモンがそんな反応をしていると、アリシアがビールを持って来てくれた。
「はい、お待ちどうさん!」
「アリシアちゃーん!こっちにもエール持ってきてくれ!」
奥の席にいる客から呼ばれアリシアは小走りで去って行った。
酒場内を見渡すと、5.6組の集団が楽しそうに酒を飲んでいる。
「ここ、結構賑わってるんだね。」
そんなことをポロッと口に出すと、なぜかドヤ顔でゼトが言う。
「そりゃーアリシアちゃんの愛嬌とおやっさんの旨い飯が食えるからな!こんないい店ねえよ!」
見たところどの客もアリシアと顔見知りのようだ。ゼトの言うとおり、気に入って常連になる客が多いんだろう。
「ところで、2人は冒険者なんだろ?この街の出身なのか?」
ふと疑問を2人にぶつけてみる。
すると、ゼトがなぜか少し気まずそうな顔をする。
一瞬の間を挟んでアルモンが答える。
「僕らは、帝国の出身でね。冒険者になってこの街にたどり着いたんだ。まぁ、帝国出身って言うとあまりいい顔はされないんだけどね..」
言いながら苦笑いするアルモン。
「帝国?そうなのか。俺、そこらへんの記憶も無くしちゃったみたいでさ、なんも覚えてないんだよ。」
「それは困ったな。冒険者として生きていくなら、地理や情勢の知識は命綱だからね。」
アルモンは難しそうな顔をして続ける。
「ちなみに、帝国ってのはこの国の北にあるゼラ帝国のこと。ここオルブラン大陸では最も大きな国だよ。
ただ、侵略を繰り返してきた歴史や、他国と関係性が良くないことから、あんまり良い印象は持たれていないかな。
そしてこの街バウウェルがあるのは、テゼルウォート王国。大きな国ではないけど、劇や音楽が盛んで、芸術の国テゼルウォートとも呼ばれているよ。この街から少し北に行くと王都テゼリアがある。綺麗だし、この街とは比べ物にならないくらい大きな街だから、いつか行ってみるといいよ。」
「こんなに良い国は他にないね!断言できる。」
「いやいやゼト、僕らは帝国とテゼルウォートしか知らないじゃないか。」
ゼトの発言に2人で笑う。
そしてアルモンは続けた。
「でも、確かにテゼルウォートは良い国だよ。治安も商業も安定しているし、国策も良いから王と王妃への国民の信頼も厚いんだ。
軍事的な力は強くないけれど、諜報機関も優れていて、情報の扱い方や他国と付き合い方も上手い。
地理っていう意味では、他にも頭に入れておいた方が良い国がある。
オルブラン大陸には、帝国を入れて4つの大国があり均衡を保っているんだ。
ちなみに、ゼラ帝国は大陸の西に位置していて、軍事的に最も力を持っていると言われている。
そして大陸中央のフォグ山脈を挟んで東に位置しているのがレアミリア王国。商業も盛んだし軍事も強い。12の戦士団からなる王国戦士団は類稀なる強さだという。
他にも、北に位置する山の国デボラ。北の山岳地帯にも国土を持つ広大な国さ。他国と積極的な交易は少ないが、山の恵みと魔獣を使役する文化が特徴だね。
そして、最後が海の国アントリーゼル。大陸で最も影響力のある聖女教会の宗教国家でもある。商業、交易が非常に盛んで、冒険者にも住みやすい国と聞くね。」
アルモンの説明に頷きながら相槌を返す。
「ありがとう、アルモン。俺の出身がどこかは分からないけど、大陸を周って探してみようと思う。」
「そうだね。僕らで力になれることがあればいつでも言ってくれ。」
そんなこんなで3人でビールを飲み進める。
だが3杯も飲むと目が回ってきた。
どうやら俺は酒が強くないらしい。
「おーい、ベリア、お前、相当酔っ払ってんなぁ〜!」
ゼトが酔いで赤くなった顔で上機嫌にイジってくる。
「うるせえーな、ゼト、お前だって顔真っ赤だぞー」
ふらふらしながら言い返す。
アルモンはそんなやり取りを見て楽しそうに笑っている。
そこから1時間ほど平和な時間を過ごした頃、俺は限界を迎えふらふらと自室に戻ってベッドに倒れ込んだ。