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テゼルウォート城




結局、俺たちは攫われた人々を連れて王都テゼリアへ戻った。

眠らせた盗賊達をそのまま残して行くのはどうかと思ったが、ソロモン曰く、数日は起きない魔法を掛けたらしいので、一旦は放置して早々にテゼルウォートの騎士団に動いてもらうことにした。


テゼリアの正門に着いたころには日が登り始め、辺りは明るくなってきていた。

衛兵に状況を伝えたところ、何名もの衛兵が出て来て大騒ぎになっていた。

城に向かって報せの馬も走って行った。


いきなりそんな事を話しても、信用してもらえないんじゃないかとも思ったが、そこは聖女教会の名もあってか、疑われている様子は無かった。


塀の中にある待機部屋でしばらく待っていると、城からの使いと馬に乗った大勢の騎士がやって来た。聞いたところによると、テゼルウォート王国の騎士団らしい。

騎士団はそのまま門を出て"氷滝の洞窟"へと馬を走らせて行った。


そして俺たちはと言うと、馬車が用意されていた。何やら城へ向かうらしい。

馬車には、フィオネとソロモン、そして城からの使いの人と共に乗り込んだ。

使いの人から色々と質問攻めにあったが、その辺りはもう全てソロモンに任せといた。


城は、ただでさえ広いテゼリアの奥の方にあるとのことで、俺たちは相当な時間馬車に乗っていた。

うん、もうお尻が痛くなるくらい。

というか、眠い。夜通し闘っていたし、アンネとの闘いは相当身体に負荷が掛かっていたようで、俺は限界を迎えていた。

ウトウトしてる俺をフィオネが面白がって見ていたが、途中からはもう開き直って寝た。


城の前に着くと、フィオネに起こされて俺は馬車を降りる。


「着きました。ここがテゼルウォート城です。」


使いの人の言葉で城を見上げる。

テゼルウォート城はとても立派な城だった。

こんな大きな建物、作るのにいったいどれだけの時間が掛かるのだろう。


大きな門の前には衛兵が何人も並んでいる。

門の先は大きな橋が掛かっている。

城の周りは崖になっていて、この橋を渡らないと城には入れないようだ。


衛兵が俺たちに頭を下げると、ゆっくりと門が開いた。

門を潜り、橋を渡る。

城の周りの崖は、結構な深さがあって下には水が張られていた。

そして城の扉もこれまた大きな扉だった。

テゼリアの正門よりも大きい。3階建ての建物くらいの高さがあるんじゃないだろうか。

扉の両脇にそれぞれ衛兵が立っている。いや、騎士か。さっきの騎士団と同じ鎧を着ている。


城の扉が開き中に入ると、何人もの使用人が列になって頭を下げている。

城の中も広くて立派だった。使いの人の後に続き、中央にある巨大な階段から2階に上がる。


それからも立派な通路を迷路のように進んでいくと、しばらくして大きな扉にたどり着いた。扉の前には3人の騎士が立っている。


使いの人が会釈すると、騎士が扉の前を退いた。

使いの人が扉をノックする。


「陛下、参られました。」


え、陛下?王様出てくるの?


「あぁ、入れ。」


使いの人が扉を開いて俺たちに合図をする。

ソロモンを先頭に部屋の中へ入って行く。


部屋は応接室のようだった。

奥の大きな椅子にいかにも身分の高そうな男性がいる。歳は40代くらいで思ったよりも若いが、一目見て王様だと分かる。


他にも、王様の隣に立っている身体の大きな鎧を着たおじさん。..相当強そうだな。そして、身分の高そうな人が何人かと、身分はそこまで高くなさそうだが、緑のローブを羽織った切れ者そうな黒髪のおじさんが1人。


「テゼルウォートの国王、バルシュム・テゼルウォートだ。」


国王が椅子から立ち上がりこちらに向かって名乗る。

綺麗な茶髪を後ろにかき上げ、口元には少し髭を生やした整った顔。穏やかさと力強さを併せ持った目をしていた。

なんというか、オーラがすごい。


ソロモンが右手を胸に当てて頭を下げる。


「お初にお目にかかります、バルシュム国王陛下。聖女教会のソロモンです。同じくこちらはフィオネ。そしてこちらは冒険者のベリアです。」


「フィオネと申します。」


フィオネも同じように胸に手を当てて頭を下げる。


「べ、ベリアです。」


俺も慌てて2人の真似をする。


バルシュム国王はこちらを見つめると微笑んでから、口を開いた。


「そう固くならないでくれ。この度は"灰狼"討伐のお礼を伝えたく城へ呼ばせてもらった。」


バルシュム国王はゆっくりとこちらへ歩き、俺たちを1人ずつ見つめて言葉を続けた。


「"灰狼"。近ごろ王都の近くで活動するこの盗賊団はこの国に大きな被害を与えていた。本来ならば我々が対処しなければならないところ、君たちには本当に感謝している。ありがとう。」


「もったいないお言葉です、バルシュム国王陛下。それに我々はただ、聖女教会の教義に沿って正しいと信ずる行動をしたまでです。」


「それでもだ。礼を伝えないと気が済まないのだ。本当にありがとう。」


バルシュム国王はそう言うと、こっちに向かって深々と頭を下げた。

使いの人や身分の高そうな人達が国王が頭を下げていることにあわあわしている。鎧を着たおじさんは笑っていて、緑のローブを着た男はやれやれといった表情だ。


「頭をお上げください、国王陛下。それでは、素直にそのお言葉を受け取らせていただきます。」


ソロモンの返答に、満足したように微笑むバルシュム国王。


「あぁ、そうしてくれ。それで、早速話を聞かせてくれないか。あ、その前に自己紹介をさせよう。」


バルシュム国王はそう言うと、部屋に人たちに自己紹介を促した。


身分の高そうな人たちはそれぞれ役職を言って名前を名乗ったが、よく分からなかった。とりあえず偉いんだろう。ただ、皆んな名乗った後に労いとお礼の言葉を添えてくれた。

鎧を着たおじさんは、テゼルウォート王国騎士団の団長らしい。恐らくこの部屋の中で1番強い。俺やフィオネ、ソロモンよりも。

しかし、どこかで見たことがある気がする。


緑のローブを着た男は、冒険者ギルドのテゼルウォート支部長らしい。戦いに身を置いているわけではないらしく強さはそこまで感じられないが、相当な切れ者であることは目を見れば分かった。


それから、俺たちは"灰狼"の討伐に至った経緯と"氷滝の洞窟"であったことを一通り説明した。もっとも、ほとんどソロモンが話しくれたが。


「そうかそうか!3人とも、その実力には驚かされるな!謝礼も出させてくれ。後で使いの者から受け取ってほしい。」


バルシュム国王は嬉しそうに話を聞いていた。

最初こそオーラに圧倒されたが、話していると気のいいおじさんだった。あまりの気さくさに、ふと国王であることを忘れてしまうくらいに。


「ところで、ソロモン殿とフィオネ殿はなぜテゼリアへ?」


バルシュム国王が顎に手を当てて2人に質問する。


「..我々はある人物を探して旅に出ました。ここへはその旅路で立ち寄ったまでです。」


ソロモンが、少し考えてから答える。言葉を選んでいるようだ。


「ある人物..か。差し支えなければ教えてくれないか?もし我々で分かることなら、少しでも力になりたい。」


バルシュム国王が真剣な目でソロモンに問う。

すると、ソロモンは少しの沈黙の後に口を開いた。


「ご厚意、ありがとうございます。ですが、我々は教皇の密命で動いておりますので..。」


「あぁ、いいんだ。答えづらいことを聞いてすまなかった。2人の探し人が見つかることを心から祈っているよ。」


バルシュム国王はソロモンに気を使わせまいと、笑顔で声をかける。

すると、ソロモンが再び口を開く。


「ところで、バルシュム国王陛下。恐れながら、貴国の諜報機関は大陸でも屈指の実力をお持ちかと思いますが、なぜ"灰狼"の討伐に至らなかったのですか?」


ソロモンの責めるような物言いに、身分の高そうなおじさんが口を開こうとしたが、国王がそれを手で制する。


「手厳しい質問だな。確かに我が国は諜報に自信を持っている。だが、人員が限られている為に手が回っていなかったというのが回答だよ。近ごろ、動きが活発なのは盗賊だけじゃない。"屍人"などの闇ギルドや帝国にも不穏な動きがあってね。こちらは対応を間違えると国が滅びかねない。大を守る為に小を捨てた、情けないがこれが実情だよ。」


国王は苦虫を噛み潰したような顔で説明する。

これまでの会話から、バルシュム国王がどれだけこの国を想っているかはよく分かる。彼にとっては苦渋の決断だったのだろう。


「なるほど..。ご無礼な質問を失礼いたしました。"屍人"や帝国、いずれも国を守る上で最も脅威となる存在ですね。」


「なに、構わんよ。だが、必ずこの国は守ってみせるさ。」


バルシュム国王は真っ直ぐソロモンを見つめ、答える。

その瞳には、並ならぬ信念が篭っていた。


「ところでソロモン殿、私からも1つ聞かせてくれないか?」


今度はバルシュム国王が問いかける。


「えぇ、なんなりと。」


「聖女教会は、魔王の血がまだ生きていると思うか?」


「...はい、恐らくは。ですが、もうほとんど絶えかけているでしょう。人類は長いこと魔王の血を終わらせようと歴史を紡いできましたが、その時はもう間も無くかと思います。」


「そうか..。具体的には、あとどれくらい残っていると考えているんだ?」


「1人..、多くても2人。それが教会の見解です。」


「本当に、間も無く..なんだな。」


バルシュム国王は、顎に手を当てしばらく考え込むと再び口を開いた。


「聖女教会は、..いや、君は。魔王の血を見つけたのなら殺すべきだと思うか?」


「なぜそんな疑問を持つのです?心当たりでもあるのですか?」


「いや、ない。だが、本当にそれが正しいのだろうかと、少し疑問に思ってね..。」


「..それが世の中の通説です。そんな疑問を口にしていたら、教会内の過激派に命を狙われますよ?..ご質問の答えとしては、私は教皇と女神様のご意志に従うまでです。」


「そうだな..。では教皇は、どうすると思うか?」


「さぁ、分かりません。..ですが、あの人は優しいお方ですからね..。」


「そうか..。変なことを聞いて悪かったな。忘れてくれ!」


「えぇ、私からお話ししたこともご放念ください。」


バウウェルにいた頃、アリシアから聞いたことがある。

その昔、この世を滅ぼしかけた魔王がいたと。

そして魔王は聖女に倒される前に、その血が絶えない限り、いつか復活する魔法を自分かけたとか。

そんなこと本当に出来るのか?と思うが、世の中の人々はそれを信じ、魔王の血を持つ者を殺してきたらしい。

そんなことを思い出しながら2人の話を聞いていた。


「ところで、ベリアといったか?兄ちゃん。」


ふと、声をかけられる。

話しかけてきたのは、王国騎士団の団長と名乗っていたおじさんだった。たしか、名前はダンク。


「どこかで見た顔だと思ったが、バウウェルの武器屋にいたな!ギルバートの店に。」


..思い出した!

バウウェルの武器屋にいた鎧を着たおじさん。

確か、俺が武器に魔火マカを流したのに気付いた人だ。

こんな強い人だなんて、あの時は全然気付かなかったな..。


「おぉ、ダンク、顔見知りだったのか?」


「えぇ、バルシュム陛下。ギルバートの武器屋で一度見たことがありました。」


「懐かしいな、ギルバート。昔は名のある鍛治師でな。騎士団の武器も作っていたんだよ。」


へぇ、あのおじさん、ただの武器屋じゃなくて鍛治師だったのか。まぁ、言われてみれば納得だ。


「懐かしいですね。たしか、自分の作った武器の価値が分からない武具屋にぶちギレて、自分で武器屋を開いたとか(笑)」


バルシュム国王と騎士団長のダンクが笑っている。

ダンクは気を取り直して俺の方を向く。


「俺はダンクだ、よろしく頼む。君は冒険者と言ったな?君ほどの実力があるなら、騎士団への入隊も大歓迎だよ。ぜひ検討してみてくれ。」


「ありがとうございます。..もう少し冒険者として生きてみようと思ってるので、騎士団はやめときます。」


「そりゃー残念だ!また考えが変わったらいつでも言ってくれ!」


ダンクは大きく口を開けて笑いながら言う。

バルシュム国王や、部屋に居た面々も微笑んでいた。


ふと、バルシュム国王が口を開いた。


「そうだ!良かったら明日、劇を見て行かないか?」


「劇、ですか?」


フィオネが首を傾げて聞き返す。


「あぁ、我が国は"芸術の国テゼルウォート"とも呼ばれていてね、劇や音楽が盛んなんだ。ちょうど明日、大陸一の劇作家とも呼ばれるマクレン殿の劇が催されるのだ。」


ふむ..と顎に手を当て口を開くソロモン。


「バルシュム国王陛下、我々には使命がございますので..」

「ソロモン、たまには気分転換もいいんじゃないかしら?」


フィオネがソロモンの言葉を遮る。


「フィオネ..」

「バルシュム国王陛下、ぜひ拝見させてください。」


フィオネは目を輝かせてバルシュム国王を見つめている。

これは本気で楽しみにしてるやつだな..。


「おぉ、そうかそうか。もちろんだとも!3人に良い席を用意してやってくれ。」


「かしこまりました、陛下。」


使いの人が右手を胸に当てて、深くお辞儀をする。


そんなわけで、バルシュム国王との謁見は無事に終わった。

国王は謝礼を出すと言っていたが、ソロモンとフィオネは断っていた。その流れで俺も断ってしまったが、冒険者ならお金も必要だろうとこのことでせめてもと言われ100万ベルだけ受け取った。


城を出た俺たちは、街の中心部まで馬車で送ってもらうことになった。

中心部に着く頃には日が暮れ始め夕刻になっていた。

使いの人が丁寧にお辞儀をして城へと戻って行った。


「さて、今日はもう休みましょうか。色々と疲れましたしね。」


「あぁ、賛成だ。ご飯食べてゆっくり眠りたい。」


「ベリア、さっきも寝てたじゃない。まだ寝足りないの?」


「足りるわけないだろ!昨日からずっと動いてるんだから。」


「ところでベリア、宿はどこなんです?」


「あぁ、それがまだ取ってないんだよ。宿に行く途中にベンにギルドカードを盗まれちゃったからさ。」


「それなら、我々の宿に来たらどうです?よろしければ夕飯も一緒に取りましょう。」


「そうだね、お言葉に甘えて行かせてもらうよ。その前に、ベンのところに寄って行かないか?」


「いいわね。早速行きましょう。」


俺の言葉にフィオネが同意し、俺たちはスラム街に向かった。


ーーーーー


スラム街に入ると、すぐにベンと妹は見つかった。

俺たちを見つけると2人は走って寄って来た。


「お兄ちゃんたち、ありがとう!!」


ベンも妹も満面の笑みで俺たちに飛びついて来た。


「俺たち、いつか聖女教会に入る!!それで、悪い奴らをぶっ飛ばすんだ!!」


ベンが元気よく言うと、妹もシュッシュッとか言ってファイティングポーズを取り始めた。


「..我々は悪と戦う組織ではないですよ。女神様の教えに沿って、平和な世の中を目指す組織です。ですが、強くならなければ何も守れません。今回、ベンが感じたように。力をつけなさい。そして、いつか南の国"アント・リーゼル"を目指すといいでしょう。」


「あんとりーぜる?」


「えぇ、そこに聖女教会の本部があります。」


「分かった!おれ、みんなを守れるように強くなるよ!」


ベンは妹を見つめ、決心したような顔でソロモンに言う。


「そうですか、楽しみにしていますね。」


ソロモンは微笑んで2人を見つめる。


「お兄ちゃんたち、本当にありがとう!」

「ありがとー!!」


幸せそうな2人に見送られ、俺たちスラム街を後にする。

最初はどうなることかと思ったけど、ベンに笑顔が戻って良かったな。

そんなことを思いながら、宿屋へ向かうのであった。


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