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スラム街



さて、登録を済ませたので、任務の受注カウンターへでも行ってみようか。

今は任務を受ける必要はないが、今後の為にもどんなものがあるか見ておきたい。


受付のお姉さんは嫌な顔せず依頼された任務を見せてくれた。

すごい数の用紙が机に並べられる。

多いな、何十枚もある。


任務はそれぞれAからFランクまで分かれていた。1人で受けることも、パーティーを組んで受けることも出来るらしい。その場合、パーティーリーダーの1つ上のランクの任務までが受けられるようだ。


任務を見てみると、ランクが上がるにつれ数が少なくなっている。

Fランクは何十枚とあるのに、Aランクに関しては2枚しかない。

ちなみに、Aランクの任務は「盗賊団"灰狼"の討伐」と「虹角獣の狩猟」と書かれている。前者に関しては、パーティー結成必須という条件が設定されている。


Cランクの俺が受けられる任務はBランクまでか。

Bランクの任務をいくつか見てみると、魔獣の討伐指名手配犯の暗殺、護衛など様々だ。

報酬は100万ベルを超えるものが多い。

とはいえ、いきなりBランクの任務を受けるのは危険な気がする。今度、Dランクくらいの任務を受けてみよう。


カウンターのお姉さんにお礼を告げると、俺はギルドを後にした。



ーーーー



王都テゼリアの南西エリア。



日が落ち始めた夕刻、2人の男女が歩いていた。


「やれやれ、目撃情報はやはりデマでしたか。なかなか骨の折れる仕事ですねぇ。」


金髪で前髪を切り揃えている男性、ソロモンは少し残念そうに口にした。


「そうと決まったわけじゃないわ。そもそも、顔も知らない人物を探し出すなんて、簡単なことではないわ。」


同じく綺麗な金髪を後ろで束ねた女性、フィオネが言葉を返す。


「そうですね。でも問題は探し出した後です。彼女はかなりの実力者みたいですからね。ひょっとしたら我々よりも強かったりして?」


「実力を過信するつもりはないわ。けれど、よりによって彼女が私と貴方で太刀打ちできないようなの実力者であれば、それこそ世界の危機かもしれないわ。」


ソロモンは顎に手を当て、しばらく考え込む。


「やはり、考えれば考えるほど教皇の意図が読めません。」


「ところでソロモン、もう南西エリアに着いたわよ。なにか考えがあって来たのでしょう?」


「えぇ。さっき酒場で聞いた話ですが、最近テゼリアの近くで大規模な盗賊団が活動しているみたいです。名前は"灰狼"。腕の立つ者が何名かいるみたいですが、リーダーはかなりの強さの女性剣士だとか。」


「なるほど、もしかしたら..ってことね。可能性は高くなさそうだけど、当てがないよりはマシね。」


「問題は"灰狼"のアジトがどこか分からないことです。でもこれだけ近くで活動してるのですから、テゼリアの内部にも入り込んでいるはずです。」


「それでスラム街に来たのね。確かに身分を偽る者には居心地がいい場所ね。」


フィオネとソロモンは立ち止まると周囲を見渡す。

そこらにいるゴロつきが2人の隙を窺っているのが分かる。


「さて、どうしましょうかねぇ。」



ーーーー



冒険者ギルドを出ると外は暗くなっていた。


お腹空いたな..。

バウウェルから走ってきたこともあり、身体にはかなり疲れが溜まっていた。

なるべく魔火マカの消費を抑えながら走ったが、流石に長距離移動は体力を使うみたいだ。

急いでるわけでもないし、帰りはもう少しゆっくり帰ろうかな..。


どちらにしろ、今から帰るのは無理だ。

どこかで夕食を済ませて、今日はテゼリアに泊まろう。

そう決めると、飯屋を求めて人通りが多そうな方へ歩き出す。


少し歩くと、飯屋や酒場が立ち並ぶエリアに出た。

どこの店が旨いか分からないし、近くにある手頃そうな店に入ることにするか。


目の前の店に入ると冒険者風の身なりをした客が多く、そこそこ賑わっていた。

ワイルドな見た目の店員に促され、席につく。


「いらっしゃい、初めてか?今日のオススメは白狸鳥の唐揚げ定食だぜ。」


「ありがとう。じゃあそれを頼むよ。」


ワイルドな店員は注文を取ると上機嫌に厨房の方へ戻っていった。

店内を見渡すとやはり冒険者が多い。

任務帰りと思われる冒険者の団体客も、1人で来ている傭兵もいる。

皆んな酒を飲んで楽しそうに酔っ払っている。


「なぁ兄ちゃん!四十超エベルなんだってな!俺らのパーティーに入らなねぇか?」


ふと隣のテーブルから声をかけられ振り向く。


「俺はこのパーティー"氷乱槍"のリーダー、クロムだ。」


話しかけてきたのは金髪の兄ちゃんだった。

さっき冒険者ギルドにいた奴らだな。

冒険者ギルドに居た中ではなかなか腕が立つ集団に見えたから覚えている。

金髪の兄ちゃんの他には、魔法使いの女の子と斧を背負ったゴツい戦士の男、黒髪の寡黙そうなイケメンシーフの4人組。なかなかバランスの良さそうなパーティーだ。


「声を掛けてくれてありがとう。..でも今はパーティーに入ることは考えてないんだ。」


俺は少し考えてそう答えた。

冒険者としての生き方を身に付ける為には、パーティーに入るのもぶっちゃけありだ。

だが、一度バウウェルに帰ってから、今後について決めようと思う。

みんなにも心配をかけちゃうしな。


「そっか、そりゃ残念だ。俺達はテゼリアではそこそこ名の知れたパーティーなんだ。また気が向いたら考えてくれよ。」


クロムは爽やかな笑顔で言うと、他のメンバーも頷いている。

どうやら、最初から俺が入るとは思ってなかったようだ。


「俺達は基本ここら辺を拠点に活動してるから、何かあれば聞いてくれ。」


「ありがとう。あ、宿を探さないといけないんだけど、どっかオススメないか?」


「やっぱりこの街の出身じゃねぇのか。宿ならこの店を出て左に歩いたとこの月見荘がイイぜ。安くてそこそこ綺麗だ。」


「それは良いことを聞いた。ありがとう。」


そんな会話をしていると、料理が運ばれてきた。

鳥肉から湯気が出ていて美味しそうだ。

結局、"氷乱槍"のメンバーと話をしながら夕食を食べることになった。


やはり"氷乱槍"はかなり腕が立つようで、メンバー全員が三十超フォーティスという珍しいパーティーらしい。

国から直接任務を受けたこともあるようだ。


「お、もう行くのか。絡んじまって悪かったな!」


食べ終わった俺に向かってクロムが笑いながら言う。


「いや、楽しかったよ。ありがとう。」


「おう!ベリアとはまたどこかで会えそうだしな。そん時はよろしくな!」


「あぁ、こっちこそよろしく頼む!」


店員に支払いを済ませ、俺は店を出た。

飲屋街ということもあり、通りはかなりの賑いを見せていた。

人々の間を掻い潜りながら道を進む。今日はクロムから聞いた"月見荘"に泊まることにしよう。


「おっと、わりいな!」


おじさんがぶつかりそうになり謝ってくる。

それにしても本当に人通りが多いな。さすがは王都だ。


「うわっ!」


そんなことを考えながら歩いていると、人影から飛び出してきた男の子にぶつかった。


「ごめんね、大丈夫..」


声を掛けようとしたが、男の子はそのまま人影に紛れ、走り去って行った。

やたら急いでいたな..。


ふと違和感を感じポケットに手を入れる。

やはり無い..!

あいつ、冒険者カード盗みやがった!!!


振り向いて気配を探ると、人混みに紛れ走る影が見える。

あいつ逃げ足速いな..。もうあんなところに..!


慌てて人を掻き分け男の子を追う。

..くそ、人が多すぎて距離が縮まらないな。


男の子は気付けば街のメイン通りを過ぎて西の方へ逃げていくところだった。


走ってメイン通りを超えると、東のエリアに比べて人が疎らだった。これならすぐに追いつく。

そんなことを考えていると男の子は左の路地へ入っていく。

見失ったらまずい。俺は速度を上げて追いかける。


同じ路地を曲がると、男の子の姿はもう無かった。

足を止めて男の子の気配を探る。

ふと、無意識に魔火マカに意識を当てていることに気付いた。

..なるほど、仕組みは分からないが気配も魔火マカで感じ取っていいるのか。


右の奥の方に、男の子が走ってる気配を感じる。かなり奥に進んでいるな、急ごう。

ものすごい速さで走る俺を人々が驚いて見ている。


何度か角を曲がると、ふと男の子の気配が消えた。

移動を止めて気配を隠したか?

それにしても6.7歳くらいに見えたが、気配を消すのがやたらに上手いな。


ふと、周りを見ると街の雰囲気はガラッと変わっていた。

ここら一体はスラム街のようだ。

案内所のおばさんが危険だと言っていたエリアだ。


俺はゆっくり歩きながら、周りの気配を探る。

一見、誰もいないように見えるが、所々から人の気配がする。

夜の闇に紛れ、此方の様子を窺っている。中には物騒な殺気も紛れている。


男の子は....いないな。

本当に気配を消すのが上手いな。


「イテッ!離せ!!」


周りを窺いながら歩いていると、角を曲がった先から男の子の甲高い声がした。


走って見に行くと、先ほどの男の子が腕を掴まれていた。

掴んでいるのは金髪の男。隣には同じく金髪の女性がいる。

こいつら、冒険者ギルドに居た聖女教会の2人組だ。


「こらこら、暴れないでください。怪我しちゃいますよ。」


「うるせェ!!離せ!!」


「離しませんよ。その手に持ってる物を渡しなさい。..おや?」


金髪の男がこちらに視線を向けると、女性も此方を振り返る。


「あなた、冒険者ギルドにいた人ね。この子に冒険者カードを盗まれて追いかけて来たってところかしら?」


「あぁ、そうだ。」


女性の問いに答える。

男が男の子から冒険者カードを取り上げて、手に取って眺めた。


「それなりの実力者に見えましたが、こんな子供にカードを盗まれるなんて、君、随分と間抜けなんですね。ふむ、魔火指数アベレージ47ですか。やはり腕は立つようですね。」


「ソロモン、返してあげなさい。」


「えぇフィオネ。..おや?21歳、我々と同い年でしたか。てっきりもっと幼いかと思いました。」


「幼くて悪かったな。」


少しムッとしながら金髪の男、ソロモンからカードを受け取る。


「褒めているんですよ。」


「嘘つけ。」


ソロモンは全く心の籠ってない笑顔を浮かべている。


「ふふっ。私はフィオネ、彼はソロモンよ。よろしくね。」


金髪の女性、フィオネがそんなやり取りを笑いながら名乗ってくる。


「俺はベリアだ。カード、ありがとな。」


「いいのよ。それで、君。どうして冒険者カードを盗んだの?」


フィオネが男の子の方を向き直り話しかける。

逃げようとしたところをソロモンに抑えられていた。


「お前らには関係ない!それよりも冒険者カードを出せ!全員だ!!さもなくば殺すぞ!!」


「やれやれ、子どもが物騒な言葉を使うもんじゃないですよ。第一、私とフィオネは聖女教会の人間です。冒険者ではないんですよ。」


「..!!それならお前だ!」


男の子は俺のことを指差し叫ぶ。

..やけに必死だな。顔中から汗が出ている。


「渡すわけないだろ。大体、冒険者カードなんて盗ってどうするつもりなんだよ?」


「..!!」


俺の問いに男の子は何も言い返せず、歯を食いしばっている。そして、次第に目に涙が浮かんでいく。

ソロモンが手を離し、口を開く。


「教えてください。このカードを、誰に盗ってくるよう言われたんですか?」


男の子は何も答えないが、目に浮かぶ大粒の涙はついに流れ始めた。

次第に、声を上げて泣き始める男の子。


しばらく時間が経ち、男の子の涙が落ち着いてきた時、ソロモンが再び口を開く。


「君、名前は?」


「..ベン。」


「そうですか、ベン。それで、なぜそんなに焦ってるんです?」


「..妹が盗賊に攫われたんだ。冒険者カードを盗んできたら返してやるって。」


「なるほど、人攫いですか。」


「ベン、妹が攫われたのはいつ?」


フィオネが優しく問いかける。


「..今日の昼過ぎ。」


「昼過ぎですか。まだ生きてる可能性が高いですね。」


「..!」


ベンがまた泣き出しそうな顔になる。


「ちょっとソロモン!」


フィオネはソロモンを見て少し顔をしかめた。


「ですが事実です。時間が経てば経つほど、殺されるか売り飛ばされる可能性が高くなるでしょう。善は急げですよ。」


「どうするつもりなんだ?」


俺の問いかけに、ソロモンは少し考える。


「そうですねぇ..。ベン、冒険者カードは何処で誰に渡すつもりですか?」


「街の西の外れにある小屋だよ。もうすぐ約束の時間だ..。妹を攫った盗賊が来るはずだ。」


「そうですか。それでは行ってみるとしましょうか。」


「..!でも、誰かに言ったら妹を殺すって..!」


「大丈夫ですよ。おめおめとそんなことはさせません。」


「でも..!」


「ベン。冒険者カードを渡したところで奴らは妹を返してはくれませんよ。他に道はありません。」


「..分かった。いや、分かりました。お願いします!どうか妹を取り返してください!」


ベンの必死な声に、ソロモンは初めて笑顔も見せた。


「素直でよろしい。任せなさい、私たちが必ず連れて戻ります。」


「じゃあ私たちは行きましょうか。ベンは家に居るのよ。ベリア、あなたはどうするの?」


フィオネが金髪を後ろで結び直しながら問いかけてくる。

するとソロモンが続けた。


「もちろん行きますよね?善良な心を持っているなら流石に放っては置けないハズです..。それとも貴方の心はもう..」


「幸いなことに善良な心を持っているから行くよ。けど、その小屋に妹が居るとは限らないだろう?居なかったらどうするつもりなんだ?」


「えぇ。恐らく攫われた妹はすでにこの街には居ないでしょう。奴らのアジトを聞き出し、叩きます。」


「そうか、分かった。」


俺が怖気付がなかったことが嬉しいのか、ソロモンは上機嫌な顔で微笑んだ。


「決まりですね、行きましょうか。」




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