表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

旅立ち



屍人しびとの襲撃から数日が過ぎた。

あの後、その日の夜には首都テゼリアからバウウェルへ、国の騎士団が警戒に来ていた。

騎士団の人数は30名程。鎧の胸部には、見覚えのある3本尾の狐が描かれている。テゼルウォート王国の紋章らしい。


酒場のテーブルを3人で囲み、俺はゼトとアルモンの会話を聞いていた。


「くそっ。結局、襲撃の理由は分からなかったな。」


「あぁ。そもそも屍人しびとはここ数年、表舞台で大きな動きは取っていなかったんだ。」


「真新しいのは十数年前のケラ族虐殺か。」


「そうだね。それまで度重なる襲撃や国盗りをしてきたが、組織的な襲撃はケラ族のが最後だ。」


「"大規模な"だろ?襲撃や殺人の話はよく聞くぞ。」


「あぁ..。大国は何十年もかけて屍人しびとの討伐を狙っているが、組織や幹部の情報は僅かしか掴めていない。」


「小国は狙われたら終わり、か。」


屍人しびとの兵力は底が知れない..。20年前、2度に渡り帝国の侵攻を撃退したこともある強国ですら屍人しびとの襲撃で滅んだんだから。」


「だが屍人しびとも相当な痛手を負ったって聞くぜ?」


「あぁ、実際のところは分からないが、ここ数年の動きが少ないことに関係しているのかもね。」


俺は話を聞きながらコーヒーを啜る。

屍人しびと。よっぽどヤバい組織だってことはよくわかった。できればもう2度と関わりたくないな。


3人が囲むテーブルに大きな鶏肉が置かれる。


「おら、お前ら。いつまでも暗い顔してちゃダメだぞ。肉食って元気を出せってんだ。」


ダリさんはそう言うと3人の頭を軽く叩く。


「いってぇ..。けどそうだな。アルモン、ベリア、俺たちが暗くなってどうするんだ。

アリシアちゃんの笑顔を取り戻す為にも、元気出してまた狩り行くぞ!!」


「いやいや、ゼトが1番暗い顔してただろ..。」


「あぁ、ベリアの言う通りだ(笑)」


そう言うと俺たちは肉を食べ始めた。

相変わらず、ダリさんの作る飯は旨い。


「けどベリア、冒険者ギルドへ行くんだろ?」


ふと、ゼトが肉を噛みちぎりながら聞いてきた。


「あぁ、そうだな..。」


俺は少し迷っていた。

過去への手掛かりを見つけるため、冒険者ギルドへはいずれ行きたい。王都テゼリアは馬で半日の距離なので、そんなに遠くはないのだ。

俺が走ってい行けば5,6時間もあれば着くだろう。だが、体力的にも日帰りは無理だ。

この街で何が起こるか分からない、今このタイミングでバウウェルを離れたくなかった。


するとゼトが口を開く。


「おいおい、心配すんなって。バウウェルのことなら大丈夫だぞ。」


「ゼトの言う通りだよ、ベリア。なにかあったら、僕らがこの街を守るよ。」


2人の言葉に少し考える。

確かに、俺がいたからって何が出来るかは分からない。でも少なくとも戦力にはなるはずだ。


「おいベリア、自惚れるなよ。お前は確かに強い。けどな、世の中にはもっと強ぇ奴がわんさかいるぞ。」


「それにね、ベリア。屍人しびとはその気になればこの規模の街なんて一瞬で消せる。あの夜、それをしなかったって事は、もう襲撃はないと思うよ。」


..それもそうか。今は自分が何者なのか、それを探しに行こう。


「..ありがとう、2人のお言葉に甘えて行ってくる。」


「まぁ、今日はもう日が暮れる。行くなら明日にしとけよ!」


ゼトはそう言うと肉を食いながらニカッと笑った。



ーーーーー



翌朝、俺は首都テゼリアへ旅立つことになった。

街の北門まで、ゼトとアルモン、そしてアリシアがお見送りに来てくれていた。

宿屋に居たダリさんには、近いうちに戻ると伝えてある。


「この道をずっと真っ直ぐ行けば王都テゼリアに着くよ。」


北門から、草原の中に一本の道が伸びていた。

道と言っても、草が刈られた砂利が続いているだけだが。道幅は結構あるな。馬車が3台くらい通れそうだ。

よく見ると、人や馬車が通った跡がたくさんある。


「分かりやすくていいな。」


「あぁ。草原はこの辺りだけで、すぐ林に出るよ。途中、川に橋が架かっている所まで出たら後半分くらいだ。」


「たまに賊も出るから気をつけろよ。まぁベリアなら大丈夫だろうけど。」


「ありがとう、アルモン、ゼト。魔獣も出る?」


「たまーにね。けど道沿いには、馬車や行商人が使う除獣香の残香がある。街に比べたら弱いけど、その影響もあってあまり出てこないね。」


「そっか、じゃあ安心だね。」


俺の発言に、ゼトとアルモンがやれやれと言った反応をする。

俺なら心配無用だと言いたいんだろう。


「ベリア..。」


アリシアが寂しそうな顔をして呟く。

俺はアリシアに向き直って伝える。


「アリシア。改めて、助けてくれてありがとう。」


「ううん。..会えて良かったわ。必ず無事に戻って来てね。」


「あぁ。必ず戻るよ。」


少ししんみりした空気が流れる。


ゼトが咳払いして笑いながら言う。


「アリシアちゃんは心配性だな!ベリアなら大丈夫さ。バウウェルで待ってよう。」


「そうね。行ってらっしゃい、ベリア!」


「あぁ、行ってくるよ。」


俺は3人にそう伝えると一本道を歩き出した。

テゼルウォート王国の王都テゼリアに向けて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ