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お伽話



ここはオルブラン大陸。

壮大な自然と数多くの国家が立ち並ぶ巨大な大陸。


中でも、一際大きな四つの国がある。

大陸の西に位置するゼラ帝国。侵略を繰り返し国を大きくし、圧倒的な力による支配を行っている。

大陸を縦断する巨大なフォグ山脈を挟み、東に位置するのがレアミリア王国。ゼラ帝国と渡り合える巨大な王国。


そして北の巨大な山脈地帯に広大な土地を持つ"山の国"デボラ。

南に位置するのが港町を多く持ち商業が盛んな"海の国"アントリーゼル。


この四つの大国がオルブラン大陸の東西南北に位置。

他にも数多くの国や組織が存在している。




-----




17年前、とある村




村の中央に位置する家の中で、優しそうな男性が2人の娘に声をかける。


「ヘレン、ニーナ、まだ起きていたのか?

もう遅いから早く寝なさい。」


「えーっ、まだ眠くないよ!おとぎ話読んでー!」

「読んで読んでー!」


ニーナと呼ばれた女の子が悪戯っぽく言葉を返し、ヘレンも続ける。

2人の年齢は8歳。本当はお伽話が聞きたいというよりも、まだ寝たくないというのが本音であった。


「しょうがないな。でも、終わったらちゃんと寝るんだよ?」


男性は優しい顔で本を開き、語り始めた。





『昔々、ある王国に誰よりも優しく、誰よりも強い王様がいました。


国民のみんなは優しい王様が大好きでした。

王様も国民のみんなのことを、そして妻である王妃様のことをとても愛していました。


ある日、いつものように王様は配下と狩りに出掛けることになりました。

出発の前、王妃様は王様に言います。


「愛しているわ。気をつけて行ってきてね。」

「僕も愛しているよ。必ず帰ってくる。」


王様はそう返すと、2人はキスを交わしました。


馬に乗って狩りに向かう王様を、国民のみんなが見送ります。

強く優しい王様は、みんなの憧れでした。




そして王様はその日も大きな獲物をしとめ、国へ帰ってきました。


しかしいつもなら歓声が上がり、みんなが出迎えてくれるはずですが、みんな悲しい顔をして下を向いています。


王様は1人の男性に尋ねました。


「どうしたんだ?なにがあった?」


すると男性は悲しい顔で言いました。


「王妃様が、、王妃様が、、。」


王様は走って城へ帰りました。

そこで王様を待っていたのは、変わり果てた姿の王妃様でした。殺されていたのです。


王様は、王妃様の亡き骸を抱え泣き続けました。


来る日も、来る日も。









ある晩のこと、王様の頭の中に、悪い神様の声が聞こえました。


『王妃を殺したものに復讐しないと王妃が報われない』と。

そして悪い神様は少しだけ、王様に力を与えました。


心の壊れてしまった王様は、犯人を見つけ出し殺してしまいました。


そして城に帰った王様に、また悪い神様が話しかけます。


『王妃を生き返らせる魔法がある。その為には、人間をたくさん殺さないといけない。』


王様は、そんなことはできないと答えました。


すると悪い神様は言いました。


『そうか。それならお別れだ。』


王様はしばらく黙り込み、泣きながら聞きました。






「ほんとうなのか?」


悪い神様は、にっこりと微笑み、答えました。






『あぁ。』


悪い神様から更なる力を貰った王様は、自らの子と配下を除く国民のみんなを殺してしまいました。


しかし王妃様を生き返らせる為に必要な人間の数はまだまだ足りません。


ついに王様は他国の国民も殺し始めます。


もう王様と呼ぶ人は誰もいませんでした。世界中の人々は王様のことを魔王と呼び、恐れました。





魔王が人々を殺し続け、人類が半分も減ってしまった時、ある場所で1人の聖女様が立ち上がりました。


聖女様は人々に戦う力を授けました。

そして人々は魔王に立ち向かいます。


長きに渡る戦いの末、ついに人類は力を合わせて魔王を倒すことができました。

最後は聖女様の魔法が魔王にとどめを刺したのです。


しかし倒される間際、魔王は言いました。


「私は死なない..私の血が絶えぬ限り、必ず復活してこの世界を滅ぼす。」


聖女様が魔王を倒した後、人々は口を揃えて言いました。


「魔王の子を殺すんだ!」

「魔王の血を断て!」


人々は魔王の子を探しました。

しかし、探しても探しても見つかることはありませんでした。


そしてついに、みんな魔王のことなんて忘れてしまいました。








それから永い時が経ち、人々は今日も平和に暮らしています。


でも今もどこかに、魔王の血は生きているかもしれません。』




男性は語り終わると本を閉じた。


「もう『魔王の血』は何回も聞いたよー!」

「違うの読んでー!」


ニーナとヘレンが口々に我儘を言う。


「こらこら、もう遅いんだから寝ないとだめだよ。また明日読んであげるよ。」


男性が微笑みながら言うと2人は口を尖らせた。





「イヤァーーッ!!!」


その時、家の外から女性の叫び声、そして大きな爆発音が響き渡った。

衝撃で窓が揺れる。


「何事だ!?」


男性が慌てて家の扉を開けた。

外は真っ赤だった。


また爆発音が響き渡る。

村が、燃えていた。


悲鳴を上げながら村の人々が逃げ惑っている。

目の前を走っていた女性の背に、矢のようなものが突き刺さり女性が倒れた。


「大丈夫か!?」


男性は倒れた女性に駆け寄るが、女性は心臓を撃ち抜かれ既に息絶えていた。


ハッとして男性は顔を上げる。


舞い上がる火の粉と煙の奥から、黒いローブに面を付けた人影が見える。


周りを見渡すと黒いローブの人影が村の至るところで村人達を殺していた。


(くそ、敵が多すぎるッ..!)


男性は急いで立ち上がると家の中に戻り、叫んだ。


「ヘレン!ニーナ!逃げなさい!!村を離れるんだ!!」


突然の事態に呆然とする2人。


我に返ったニーナがヘレンの腕を掴み、家の外へ走り出す。

家を出てすぐに、黒いローブの男が剣を持って2人に襲いかかってきた。


剣と剣が交差する音が鳴り響く。

男性がローブの男の剣を受け止めていた。


「村から離れ、遠くへ逃げるんだ!決して戻ってくるんじゃないぞ!!」


剣戟を受けながら男性は必死に叫んだ。


「いやぁ!!お父さん、離れたくない!!」


泣き叫ぶヘレンの腕を掴み、ニーナは走った。







その日、村は滅亡した。



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