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ナリス・バレリアの魔法

 俺は広い空き地としか言いようがない、観覧席の中央の最前列に座る。俺が地面に座ると道化師が木箱を並べ、鉄板を敷き、ベニヤ板を木箱の回りに囲っただけのボロボロ舞台で公演を始めた。


「ようこそ、世界一の魔術師(マジシャン)こと、ナリス・バレリアの公演へ」


 俺は無心でパチパチと拍手をする。俺しか客がいないのだから、仕方ない。


「ふふふ、お優しい方ですね。そんなに期待されると困りますねー」


 ナリスはシルクハットを外し、中を見せてくる。もちろん何も入っていない。


「こちらのシルクハットの中には何も入っておりません。ですが、私が手を入れると……。鳩が飛び出しまーす!」


 ナリスはぎこちない手つきで鳩を取り出した。少々薄汚れた鳩で、すでに弱っている。今にも死にそうだ。


 俺は一応拍手をした。その後、ナリスは魔法というよりかは手品というべき公演を行い、全て下手くそだった。俺の昼食代は見事ぱぁになったわけで、時間の無駄だと感じてくる。


 ナリスが最後まで一生懸命にやっているように見えたので外に出ないでやったが「いつ終わるのだろう……」とずっと考えていた。


「ふぅー。いやぁ、最後までお客さんが残っているなんて初めての経験ですよー。こんな素敵な日もあるんですねー」


 ナリスは額の汗を紳士服の袖で拭い、微笑む。


「もう、終わるのか?」


 ――さっさと終われ。今すぐ終われ。もう仕事に行かせろ。


「いえいえー。最後の最後。私の一番得意な魔法をお見せいたしましょう」


 ナリスは右腰に付けていたホルスターからリボルバーを取り出した。そのまま、俺の前に来て、六発の鉛玉とリボルバーを手渡してくる。


「弾と拳銃が本物かどうか確かめてください」


「ああ……。わかった」


 俺は腐っても弾を作っている工場の人間だ。本物と偽物の違いくらいわかる。銃と弾はどちらも本物で疑いようがない。


「回転弾倉に弾を込めてもらっていいですか」


「わかった」


 俺はリボルバーの回転弾倉を取り出すための金具を外し、弾倉を露出させる。弾倉に弾は込められておらず、六発の弾が全て入る。弾を三発持ち、二回で六発込めた。


「おぉ、なかなかやりますねー」


「まぁあな」


 俺は回転弾倉を戻し、銃身を持って銃把(グリップ)を相手に向けて渡した。


「ご丁寧にどうも。では、こちらのリボルバーの弾倉に本物の弾が六発入っております。撃鉄と金具を引けば、弾がもちろん発射されます!」


 ナリスは死にかけのハトを右側の空中に投げた。そのまま銃口をハトに向け、引き金を引く。甲高い銃声音と共にハトの真っ赤な血とどす黒い羽が飛び散り、腐った臭いが風に乗りながら俺のもとまで漂ってきた。


「これで、残りの弾は五発。今の威力を見ていただければ偽物と疑いようはありません。では、この銃口を私の口に入れて撃った場合どうなるでしょうか?」


「死ぬだろ」


「ご明察」


 ナリスはリボルバーの銃口を咥え、引き金を引いた。口内が一瞬光り、破裂音が轟く。すると後方に真っ赤な血が飛び散り、べニア板に大量の血が付着した。


 俺は目を疑った。頭が真っ白になり、訳がわからなかった。


 ナリスは力なく後方に倒れ、トマトが潰れたような音を鳴らす。


 俺は立ち上がり、ナリスを助けようとした。だが、数秒後、また目を疑う。


「おっと、ご心配なく。これは魔法です」


 ナリスはすぐに上半身を起こし、手の平を見せて来た。


「は……? な、何で生きているんだ……」

 

「ふぅー。さてさて、これで弾は四発です。次はどこにしましょうか。じゃあ、眉間にしましょう」


 ナリスは右手に持っているリボルバーの銃口を眉間に持っていき引き金を引いた。先ほどと同じように甲高い銃声音が鳴り、後頭部から血肉が飛び散りる。ナリスは台の上の血だまりを弾かせながら力なく倒れ込んだ。


「おい! 大丈夫か!」


「心配なく、魔法ですから」


 ナリスはまた起き上がった。銃弾が貫通した傷跡が眉間にある。生きているなんてありえない。だが、実際、目の前にいる男は生きていた。


「これであと三発」


 ナリスは鳩尾や心臓、こめかみと急所を三カ所撃った。三回の銃声音が鳴り、三か所から血が噴き出す。前方に力なく倒れ、紳士服を真っ赤に染めた。だが八秒後に目を覚まし、笑いながら俺に手を振った。


「はは……。狂ってやがる……」


「おぉ、なんて嬉しい誉め言葉でしょうか……。あぁー、今までで最高の公演になりましたよ」


 ナリスは、何事もなかったかのように、さっと立ち上がる。そのまま落ちていたシルクハットをかぶり。俺に向ってお辞儀をした。


「お前は本当に人間か……?」 


 俺は拍手をするのを忘れ、ナリスに聞く。


「ええ、もちろん。私は正真正銘の人間です」


 胡散臭く笑った表情にムカつきながらも、なぜナリスが生きているのか、全く理解できない。

 

 ――今の自殺ショーが魔法なのだろうか。俺は魔法を見た覚えがないからわからん。


 俺が頭を悩ませていると中央区から来ているサーカス団の舞台がある辺りから、多くの銃声と耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえた。


「な、なんだ……」


 俺は空き地から通路に出て発砲音のする方を向くと黒煙が立ち昇っていた。どうも、何かに引火したらしい。白い天幕が無事だとすると火災はサーカス団で起きたわけではなさそうだ。


「あちゃー、敵国の密入国者がまた暴走してるんですかね。やだやだ。警備隊や兵士、騎士がちゃんと取り締まらないからこんな事態になるんですよー」


 ナリスは黒煙を見てため息をついた後「どうでもいいや」と言う表情をしていた。


「あそこなら死ねるか……」


「え? ちょ、何を言っているんですか?」


 ナリスは俺の肩に手を置く。どうやら、引き留めようとしているらしい。


 俺はナリスの手を叩き、大きな白い天幕が張ってあるサーカス団の舞台に向かう。


「ちょ! 青年! そっちは危ないですって!」


 俺はナリスの忠告を無視して反対側から必死に逃げてくる人々をよけながら、全速力で走る。未だに銃声が大量に鳴り響いており、きっと何人かの犠牲者がすでに出ているだろう。


 ――敵国の狙いは労働者の削除か、なにかだろうな。どれだけ中央区のやつらが強くても武器やエネルギー資源を発掘する労働者がいなければ機能しない。だから、下町を狙って攻撃をしてくる敵が現れるんだ。騎士達の日頃の仕事が甘いと言わざるを得ないな。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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