おまけ
病室を出た俺とルーナはテリアちゃんとリーズさんに挨拶をして魔道車で訓練施設まで戻った。
魔道車の中でルーナは助手席に座っている俺に話かけてくる。
「キースさん。私達はルーナ小隊と言う名で騎士団に登録されています。ただ、今回のような事例はあまりにもあり得ないと言うことで、特別処置がとられたんです」
「なんだ、なんだ。ルーナ以外死刑とかじゃないだろうな?」
「そんな物騒なことじゃありません。でも、少々近しいかもしれませんね」
「な……。死刑に近しいとか物騒じゃねえか……」
「キースさんとエナちゃん、ハイネさん、アイクさん、ナリスさん、レインさん、ライトさんは中央区では死人扱いになります」
「はい? 俺達は生きているのに、死人扱いって、どういうことだ?」
「えっとですね、人は死んでいた方が、都合がいいんですよ。もちろん、普通は生きていると思われていますが書類だとキースさんはすでに死んでいる方になります」
「訳がわからない……。いったい、どういう意図があるんだ?」
「騎士は武功を上げれば、その分、位が上がり、役職が尽きます。私のような聖騎士は能力で選ばれた戦闘集団です。もちろん武功を上げれば順位が上がり、支給されるお金が増えます。キースさん達は死んでいるので、どれだけ武功を上げても地位は上がりません」
「死人じゃ、武功は上げられないからな」
「はい。なので死人扱いされている者達に役職が与えられました。騎士団の意図はここです」
「役職が何か関係あるのか?」
「騎士団の中で役職を与えられるだけで凄いんですよ。私達は騎士団を一部変えてやったんです」
ルーナは嬉しそうに言う。今回の成果はそれだけ凄かったと言うことか……。
「どんな役職なんだ?」
「狂乱師団と言う役職兼組織が生まれました。騎士団が親だとするなら狂乱師団は飼いならされていない狼でしょうか。騎士団の上層部の命令は絶対と言うのが騎士団全体の掟です。ただし狂乱師団はその命令に背けます」
「変わった師団だな」
「ただし、私達は騎士団が行えないような任務をこなさなければなりません」
「騎士団が行えないような任務? どんな任務なんだ?」
「例えば、プルウィウス王国に潜入し、機密情報を奪ってくるとか。プルウィウス王国と手を組んでいる他国と秘密裏に手を結び、条約を交わすとか。まだどこの国も手を出していない土地に住む主を倒しに行くとか」
「……どう考えても普通の任務じゃねえな」
「はい。ですが、これは異例です。騎士団の上層部やルークス王国は秘密裏に動ける暗部を欲していました。ただ中央区では適正な者が見つからなかった。でも今回の件で踏み出したようです。女の騎士と下町の荒くれを暗部にしてやろうと」
「何とも無理やりな話だな。俺達に何か利益があるのか?」
「王都での生活と高額な報酬。死人なので犯罪をしても捕まりません。ま、犯罪をしたら、私が粛清しますけどね」
「んじゃあ、王都の優雅な暮らしと高額な報酬しか利益が無いって言うのか」
「いえ、そう言う訳ではありません。狂乱師団の武功はルーナ小隊の武功として数えられます。無理やり戦場に押しやられる心配はなく、地位を上げられるんです」
「敵国に行くだけでも普通に死地だろ……。そんな細かい作業が俺達にできるのかねー」
俺は窓の外を見ながら呟く。
「世界を変えるためにはまず国から替えなければなりません。私達は任務を重ね、信頼と実績を掴まなければなりません。そのためには多くの鍛錬と勉学を積む必要があります」
「へー、勉強ねー」
「キースさんには狂乱師団の副団長としてさらに力を付けてもらわないといけません。なので任務をこなしながら、ルークス王国都立魔法大学に通ってもらいます」
「……は?」
俺はルーナの発言に耳を疑った。初等部、中等部、高等部をすっ飛ばして大学って。
「俺は学園の初等部にも通っていなかったんだぞ。いきなり大学っておかしいだろ」
「なら、死ぬ気で勉強してください。初等部、中等部、高等部の勉学なんて一年もあれば覚えられます」
「お前らと同じ基準にするな。俺はバカなんだよ。そんなすぐ賢くなれるかってんだ」
「キースさんは頭が良いですよ。これからの任務を考えたさい、知識はいくらでもあった方が良い」
「それはそうだが……」
「私はすでに大学に通っていますし、キースさんが入ってくるころには二年生になって先輩になっているころです。ちなみにライトさんはすでに大学に入学しています。ハイネさんは中等部。エナちゃんは初等部。アイクさんは用務員。レインさんは食堂のおじさんです。王都に溶け込むのはとても大変そうでしたけど、訓練と並行して何とかやっています」
「おいおい……。話が進み過ぎだろ……」
「団員が行っているんですから、キースさんも逃げずに行ってくださいね。私はバカよりも博識がある男性の方の方が好みなので、キースさんにはぜひ、博士号をとっていただきたく思っています」
「何で俺がルーナの好みに合わせないといけないんだ」
「私のお父様は私の結婚相手を決める基準として騎士団の地位が高いことと、ルークス王国都立魔法大学を卒業し博識なこと、強いことの三原則がそろっていないと結婚を認めてくれないんですよ」
「厳格な父親なんだな……」
「キースさんは強い点は良いとして、あと博識と地位が足りません。ほんと頑固な父です」
「ルーナ、まるで俺と結婚したいみたいな言い方だな」
「え? あ……、いやいや、別にそんなことは微塵も思っていませんよ。でも知識は必ず生きます。これからも必要になってきますから、互いに頑張りましょう」
「はぁ……。いったいどうなることやら」
俺とルーナは皆が待つ、訓練施設に向かった。
六時間ほど移動し、その間、ルーナは楽しそうにずっと話していた。俺は聞き役に徹し、相槌を入れてやる。
ルーナはそれだけで悦び、ずっと話し続けていた。やっぱり女なんだな。
「はーっ、話していたら気分がすっきりしました。ドライブもいいものですね」
「そうだな。俺は寝たかった……」
「もう、そんなことをはっきりと言うから、モテないんですよ……」
俺とルーナは訓練施設に到着し、皆と合流した。退院祝いと任務の成功を祝って宴会を開くことになる。
「うわーいっ! 肉肉っ!」
エナは大量の肉料理を見て目を輝かせながら飛び跳ねていた。
「こ、これがショートケーキ……。幻の白いケーキが食べられる日が来るなんて……」
ハイネはテーブルにでかでかと乗っているホールケーキを見て体を震わせていた。
「ふむ……。ここまで匂いの良い蒸留酒は初めてだ」
アイクはグラスに氷を入れ、蒸留酒を注ぎ、香りを楽しんでいる。
「ふー、良い香りだ。血のような赤色が素晴らしい」
ナリスはグラスに葡萄酒を注ぎ、色合いを見てうっとりしていた。
「うえーい、三鞭酒もあるじゃねえか。もとホストの血が騒ぐぜっ!」
ライトは緑色の瓶を持ちながら、コルク栓をコルク抜きで開けようとする。
「おお、エールもあるのか、ほんと何でもあるな」
レインはエール瓶を持ち、生唾を飲む。
「ささ、皆さん。今日は宴会の席ですから、上限関係なく好きに飲んで食べてください。今日は私も飲みますよ!」
ルーナはグラスにシャンパンを入れ、掲げた。
俺は葡萄酒をグラスに注ぎ、持ち上げる。エナとハイネはぶどうジュースをグラスに入れて持ち上げ、他の大人は自分が好きな酒をグラスに入れ、持ち上げた。
「では、キースさんの退院と作戦の成功を祝って、カンパーイっ!」
「カンパーイっ!」×全員。
俺達は料理を食って酒を飲んで今までの辛い仕事を全て吹っ飛ばす勢いで盛り上がった。
ただ、盛り上がりすぎた結果……。
「う、うう……。あれ、俺はいったい……」
俺は自室のベッドで目を覚ました。
全裸で……。
「う、うぅん……。もう、ベッドの上じゃ歯が立ちません……」
俺は鶯のような愛らしいさえずりを聞き、恐る恐る隣を見た。
すると、満面の笑みを浮かべたルーナが眠っていた。
全裸で……。
俺は記憶があいまいで、何をしていたのか思い出せない。
辺りを見れば、白い散弾が入っている状態のゴム製の薬莢が八発以上落ちていた。
俺はいったい何をしていたのか……。
いったん冷静になり、水を飲む。下着と服を着てとりあえず、掃除を始めた。全裸のルーナは涎を垂らしながら眠りこくっており、聖騎士の貫禄は無かった……。
とりあえず脱ぎ散らかされた服を着せ、ルーナの部屋に爆睡中の女を運び、ベッドに寝かせる。
ルーナの部屋は驚くほど汚部屋だった。
ベッドの上には下着類や服が散乱し、薬莢や弾薬、銃のパーツなどが散らばっていて脚の踏み場が無い。
「くっそ、なんで俺が片付けないといけないんだ」
俺はルーナの汚部屋を一気に片付ける。ゴミは捨て、パーツ類は後でルーナに分けさせるために大きめの箱の中に入れておく。
ルーナの汚部屋を片付け始めて一時間。
「ん、んん……。くー、はぁー。あれ? 私、いつの間に部屋の中に……」
ルーナが目を覚ましてしまった。
俺は退散する瞬間を見失ってしまい、ベッドの下に潜り込んだ。
「昨日、飲み過ぎてしまったんですかね。記憶がとぎれとぎれ……。昨日、飲み会の後、凄く楽しいことがあったような気がするのに、全然思い出せない……」
ルーナも昨晩のことを覚えていないらしい。最悪の状況は回避できたのだろうか。
「汗臭いし、シャワーでも……。あれ? 昨日もこんなこと言ったような……」
――『汗臭いし、シャワーでも』「うるせえ、全然臭くないからそのままでいいっ!」
俺は昨日の断片的な記憶を思い出した。完全にやってる……。
「……はわわ、わ、私。昨日、絶対やっちゃってる……。や、やばい、一個思い出したら色々思い出してきちゃった。恥ずかしすぎて死ねる……」
どうやらルーナにも完全に思い出されてしまったらしい。
「あの人、私を大人にしておいて、眠った後に寝室に移動させるなんて、なんて責任感が無い男なんですかっ! ね、キースさん!」
ルーナは長い髪を床に付けながらベッドの下を覗き込み、俺の顔をしっかりと見て来た。ルーナの顔はどこか嬉しそうで、頬を赤らめている。
俺はベッドの下を出て、土下座をした。
ルーナは自分も酒を飲み過ぎたせいだと言い、示談で成立……、すると思っていたが半場無理やり婚約させられた。その後も色々計画が練られており、俺はこの女に嵌められてしまったようだ……。
昨晩の過ちを覚えていたハイネに話を聞いた。
「だーかーらー。キースさんはカッコよすぎるんですってば! 私に色々構い過ぎなんです! あと、なんで汗が良い匂いするんですか! 私に対して優しすぎませんか! ほんとこれ以上好きにさせないでくださいっ!」
ルーナはシャンパンや葡萄酒、蒸留酒と多くの酒を飲み、盛大に酔っぱらっていた。顔が赤く、べろんべろんだ。
「うるせーな。ルーナから目が離せないんだから仕方ないだろ。危なっかしくて見てられねーから、構っているんだろうが。子供にしか見えねーんだよ」
「正真正銘私は成人している大人です! キースさんの方こそ、子供っぽく見えますねー。童貞だからですかーっ!」
「なんだとごらー。お前だって処女の癖に、生意気言ってるんじゃねえぞ!」
「なっ……。う、うるさいです! 私はやろうと思えばいくらでもやれたんですよ! ですが、私に似合う男性がいなかったから跳ねのけていただけです!」
「それを言うなら俺だってそうだっ! 捨てようと思えばいくらでも捨てられるんだよ! 何なら、お前とだってやろうと思えば出来るだからな!」
「へーっ! そうですかそうですか! 出来るものならやってみてくださいよ! どうせ、へたれってなるだけですかね!」
「言いやがったなこのチビっ!」
ハイネ曰く、酔いまくった俺は同じく酔いまくっているルーナを抱き寄せ、食堂を抜け、俺の寝室にルーナを連れ込んだそうだ。
その後は耳栓をしなければ耐えられないほど甘ったるい空間になっていたらしい。
そんな過ちを犯しながらも、俺達はいつか、平和な世の中が実現することを信じて国の危機に立ち向かっていく。
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