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サーカス団

 俺は聖騎士とか、聖騎士とかどうでもいい。なんせ、俺には全く関係のない話だからだ。女騎士に死んでほしいとか思っている男騎士の前を堂々と歩いて外に向かう。


 「おい! 下民! 誰の前を通って歩いてんだよ。俺達は騎士だぞ!」と、ある騎士が怒り出した。そのまま俺の襟首を掴み、後ろに引きよせたあと右肩を押し、壁に打ち付けてくる。加えて胸ぐらを掴んできた。


「前しか通る場所が無かっただけだ。後ろを通ってほしいなら開けておけよ。騎士ってやつらは、最低限の配慮も出来ないのか?」


 俺は寒くて機嫌が悪かったのか、はたまた女騎士が罵倒されていてムカついたのかわからないが、騎士にはむかっていた。下町の人間が騎士に暴言を吐くなんて死刑になってもおかしくない重罪だ。


 ――俺は何ぜ、騎士に楯突いたんだろうか……。自分でもわからない。


「おい、下民……。ここは病院だからな、無駄な殺しはしないでおいてやる。だが……、もしここが外だったら首を確実に刎ねていた。俺達を怒らせたのは俺達の恐ろしさを知らないお前が悪い。次、同じことをしたら殺す……」


 騎士は額に静脈を浮かべ、奥歯が粉砕するのではないかというくらい歯ぎしりをしていた。怒りをどうにかして飲み込んでいるのだろう。ご苦労なこった。


 騎士は俺の胸ぐらを放し、突き飛ばした。


 俺は壁に打ち付けられ、床に力なく倒れ込み、死んだふりを数秒間してから、立ち上がる。周りの騎士から、クスクスと笑われ、馬鹿にされた。


 ――まぁ、馬鹿にされることくらい慣れている。勝手に馬鹿にしていればいいさ。逆に俺は騎士らに感謝しているんだ。この国が存続できているのは騎士達のおかげだからな。メイが生きていられたのも半分はこいつらのおかげだ、感謝感謝。


 俺は騎士達の後ろを歩きながら、病院を出た。


 元日だからって下町に住む人々の生活は変わらない。仕事をしているとどこかで銃声が鳴る毎日だ。働けない者は死に、優秀な者は中央区に入っていく。そうなれば下町の状況が悪化していくのは、鉛弾で頭を打ち抜けば相手が死ぬくらい当たり前だ。


 ――ま、こんな場所から出ていきたいと必死になれる奴が中央区に行けるんだろうな。俺はあんな騎士達がはびこる中央区なら行こうとすら思えない。


 俺は病院を出てから、リーズ先生の家に一度向かった。新年のあいさつをテリアちゃんにするためだ。家に着いたら、扉を三回叩き、名前を言う。


「はーい。キースさん。新年あけましておめでとうございまーす!」


 玄関から厚着をしているテリアちゃんが現れた。そのまま抱き着いてくる。


「ああ、おめでとう。これ、少ないが取っておいてくれ」


 俺はテリアちゃんに銀貨五枚を渡した。


「うわーい、ありがとうございます! キースさん大好き! 結婚してー!」


 テリアちゃんは銀貨を受け取ったあと、またもや抱き着いてくる。尻尾が付いていればブンブンと振りまくっているんだろうなと優に想像できた。


 ――まあ、このませた女の子は、お年玉をくれたら誰にでも大好きと言うんだろう。飼い主以外から餌を貰った犬と同じか。変な男を引っ掻けないといいが。


「キースさん。今日、繁華街の方で中央区からサーカス団が来るそうですよ。一緒に見に行きませんか!」


 テリアちゃんは瞳を輝かせながら呟く。


「サーカス団? 何で、中央区から来るんだ……。胡散臭い。俺はいかないよ」


「えぇー。一緒に行ってくれてもいいじゃないですか。お父さんは今日も仕事が入ったって病院に行っちゃったんですよー」


 テリアちゃんは跳ねながら言った。小動物の兎のようで愛らしく見える。


「まぁ……。リーズ先生は医者だから仕方ない。俺も行ってあげたいのはやまやまだが、仕事があるんでな。今日は元日だから時給が高いんだ」


「もぅ、キースさんはお仕事ばっかりです。彼女もちょっとは構ってほしいなー」


 テリアちゃんは上目遣いをしながら言った。


「俺はいつ、テリアちゃんの彼氏になったんだよ……」


 俺は若干一二歳の少女に弄られたあと仕事に向かう。


 仕事場に向かうために下町の大通りに出た。今日は元日ということもあり、いつもよりは栄えていた。


「お母さん、お母さん、ゴミカス団が来るんだって! 早く行こう!」


「サーカス団ね。そんなに、急がなくても公演時間に十分間に合うから大丈夫よ」


「よかったーっ! ふん、ふん、ふん、ふん、ふんっ! あっ!」


 前を歩いていた短髪でボロボロの服を何枚も来た五歳ほどの少年が薄汚れたブリキで作られた玩具を落とした。見かけは兵士で、ぜんまいを撒くと動きだすのだろう。


 俺は大人たちに踏みつぶされそうになっていたブリキの玩具を拾い上げ、少年のもとに持っていく。


「もう、落とすんじゃねえぞ」


 俺は少年にブリキの玩具を返し、頭を撫でる。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 少年はブリキの玩具を受け取り、抱きしめた。


 ――この子共も中央区で流行のサーカス団を見に行くのかもしれない。まぁ、十中八九そうだろうな。


 俺は工場に向かうために、人の流れを横断しようとしていた。


「じゃんじゃらじゃららーん。世にも奇妙な魔法をお見せいたしましょうー。是非とも、私の手腕を見ていってくださいませー」


 中央区のサーカス団の方に人が流れていく中、黒い紳士服を着た男がシルクハットをかぶり、黒く長い紳士杖を振りながら、おんぼろな舞台に人を呼び込んでいた。当たり前のように無視されている。


 ――何やってんだあいつ……。魔法? 使えるものなら見せてほしものだ。


 俺は昨晩の話と今朝、聖騎士を見ていたため、魔法と言う単語と胡散臭い男に興味を持ってしまった。


「あんた、魔法が使えるのか?」


「おやおや、珍しくお客が釣れましたねー。あなたは魔法が見たいのですか?」


 シルクハットをかぶった高身長の若い男は少々ニヤつきながら、俺を見てくる。その顔はサーカス団の進行役、道化師そのもの……。純粋な俺を化かそうとしているようだ。


「見たいと言うか、気になるだけだ。魔法が使えるのなら、見せてくれ」


「銀貨一枚です」


 道化師は黒い手袋をはめた手を広げ、金をせびって来た。


「…………ちっ」


 俺は革袋から銀貨を一枚取り出して男の手の平に置いた。


 ――これでしょうもない魔法を見せられたら、俺の食事代がぱぁだ。


「では、お好きな席にお座りください」


 俺は広い空き地としか言いようがない、観覧席の中央の最前列に座る。俺が地面に座ると道化師が木箱を並べ、鉄板を敷き、ベニヤ板を木箱の回りに囲っただけのボロボロ舞台で公演を始めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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