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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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第一席の男

 ――再生する壁とか、魔法ってすごいな……。建物を壊しても元に戻るんだろうか。


「はあ……。ダル……。面倒臭い、疲れた、早く帰りたい……」


 俺の前を背が丸まった男が通っていく。背丈は背が丸まっているせいで、俺より少し高いくらい。背を伸ばせば一八〇センチメートルは超えるだろう。


 背が丸まった聖騎士は第二席の位置に座り、円卓に突っ伏す。そのまま眠りこくった。


 俺が見たところ第一二席から二席までは埋まった。あとは第一席の者が来れば全員集まる。


 騎士が紅茶を聖騎士の前に置いていき、ルーナは角砂糖を五個入れ、かき混ぜずに飲み干した。さすがに甘党すぎるだろと言いたくなったが、他の騎士達も砂糖をがばがば入れて紅茶を飲む。聖騎士は皆甘党らしい……。可愛い所もあるじゃねえか。


「キースさん、第一席の方がきます。静かにしていてください」


 ルーナは振り返り、俺に呟く。俺は頭を縦に動かし、返事を伝えた。


「第一席、ソール・セレモンティ様が入られます」


 騎士が言うと、入口の扉が開かれた。

 その場には全身が震えあがるほどの威圧感を放つ男が立っており、短髪が白いかと思えば瞳まで白く見える。

 天使の生まれ変わりかと言いたくなるほどの美形で、手足が長く、白い軍服がよく似合う。

 年齢は俺よりも年上っぽいが、まだ若い。第一席の男よりも老けた聖騎士は数名いるため、実力で成り上がったのだろう。一つ気になったのは……、家名だ。


 ――セレモンティって、ルーナと同じ……。よく見りゃ、顔も似てる……あれがルーナの兄貴か。


「ぐっ!」


 俺が瞬きをした瞬間、身長一八五センチメートルを超える長身の男が立っており、右手で首を絞められ、軽々と持ち上げられる。


「お兄様っ! おやめくださいっ!」


 ルーナは叫び、椅子から立ち上がった。


「ルーナ。なぜただの人間がこの場にいる? おかしいだろう」


 男は心が透き通るような声をしているにも拘わらず、行っていることが、暴力なのが腹立たしい。


 俺は男に酸素を脳へと送る頸動脈を上手く摘ままれ、呼吸は苦しくないものの、意識が飛びそうになる。ルーナが何かを言っているが、意識がもうろうとして聞き取れない。


 誰も喋らず、助けようとしてくる者はいない。またやってらーみたいな表情だ。


 周りが静かになり、俺は白髪の男に首を三分間絞められ続けた。


 その後、男は飽きたと言わんばかりに手を離す。


 俺は力なく石床に落ちる。


「キースさんっ! 大丈夫ですかっ! キースさんっ!」


 ルーナは俺の体に触れ、声を出す。


「さあ、邪魔者はいなくなった。円卓会議を始めよう……」


 男が第一席の位置に移動し、椅子を引く音とルーナが鼻をすする声も聞こえる。


「おいおい……、邪魔者呼ばわりはひでえじゃねえか……。俺も来たくて来たわけじゃねえんだが……、上司が出ろ出ろとうるさいんでな……」


 俺は酸欠状態になりながらも、舌を噛み、痛みで自我を保っていた。

 酸素が無い状態で筋肉を動かそうとすると痙攣する。加えて両脚が攣っていた。痛いが、舌ほど痛くはない。


 俺は壁を背に、ずるずると立ち上がる。口角から熱い鮮血が垂れ流れ、首を伝いながら黒い軍服に付着する。舌が噛み切れる寸前まで歯が食い込んでおり、痛くて仕方がないが、死ぬ気の俺にとっては屁でもない……。


 周りの者は目が充血し、口から血を垂れ流す俺を見て、絶句していた。


 血に絶句していたのか、はたまた三分間、酸素無し状態の脳で気絶していなかった方か。まあ、そんなことはどうでもいい。


「ソール・ティンティンさんよ……。初めて会った相手には……、挨拶が基本なんだぜ」


「…………」


 ソールは顔色を変えず、死んだ魚のような目で俺を見てきた。


「あのような不潔な男とは拘わらないように。会議が三分も送れた。俺の予定に多くのずれが生じる。黒服の男、きさまはとんだ重罪を犯した。通常なら即刻死刑だが、ルーナの右腕ならば仕方がない。慈悲だ。見逃してやる」


「ちょっ! ソールさん、甘いですよっ! 下町の人間なんてぶっ殺せばいいんです!」


 第一二席に座っていた青年が立ち上がり、円卓を叩く。


「私の判断が間違っていると言うのか?」


 ソールは第一二席の青年を睨み、威圧する。すると空気が圧迫され、息が苦しかった。周りの者も同じらしく、青年が椅子に座ると威圧が納まる。


「す、すみませんでした。ソールさんの意見に従います……」


「ソール。年下をあまりいじめるでない。ここは円卓の場だ。皆、平等に会話をする場でもあるのだ。自身の意見を力任せに押し切るのはやめたまえ」


 第三席に座っていた顔に皴の多いおっさんが腕を組みながら呟いた。歴戦の猛者と言うのが一番しっくりくる。


「老いぼれは黙っていろ。この場は俺が取り仕切っている」


「はぁ……。最近の若い者は……」


 ――でた、その言葉は下町と中央区、どちらでも使われているんだな。


「んでー、今日の会議ってなにをするんですかー? 僕、早く帰りたいんですけどー」


 第六席に座っている子供が呟く。この場は本当に年など関係なく、実力社会らしい。どれだけ子供でも、強ければ良しと言うのが中央区の考え方なのだろうか。


「今回の議題はプルウィウス王国についてだ。近年、他国と連合し、勢い付いている。科学技術が急激に進歩し、魔法を凌ぐ兵器すら現れ出している。戦闘での出番は今のところないが、これから数多く目にするだろう」


 ソールが淡々と話した。


「でもでも。そこらへんの騎士がやられるくらいでしょ。僕達は簡単にやられませんって」


 第六席に座る子供が椅子をガタガタ揺らしながら話す。


「甘い。砂糖より甘い。そのような考えではのちに足下を掬われる。そうなってからでは遅いのだ。我々は魔学を探求してきた。そのため科学技術の点に関して知識が乏しい。戦いで使う銃火器や武器はほぼ全て下町で作られている。それでは駄目だ。中央区内でも武器を製造し、敵国を凌ぐ武器を手に入れるべきだ」


 ソールが目を細め、言う。


「おいおい……。天下の聖騎士が科学技術だか、何だか知らねえが、玩具ごっこしろってか? やめてくれよ。俺は玩具でやられる玉じゃねえぜ」


 第八席に座っている男が自堕落に言う。俺に攻撃してきた男の言うことだが、確かに魔法が銃火器に負けるかと言われたら全否定できない。

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