円卓会議
「では、王城に向ってください」
ルーナは御者に行き先を伝える。
――ん……王城?
「了解しました」
御者は手綱を撓らせ、馬を走らせた。王都の道路は整備されているのか揺れがほとんどなく、馬車とは思えないほど快適な乗り心地だった。ほんの八分後、俺は首を縦に動かさなければ見渡せないほど大きな王城にやって来た。ペンタゴンの壁を見ているからわかるが、王城の頂上は五〇メートルを超えている。
「い、いったい何をしに来たんだ……。お、俺が来ていい場所じゃないぞ」
「なにを言っているんですか。キースさんは今回最も活躍した兵士なんですから、堂々としていればいいんですよ。あと、私の右腕としてこれかもしっかりと働いてくださいね」
ルーナの笑顔は俺の背筋をこわばらせた。いったい何を言っているのかわからない。
「さ、今回は聖騎士達が集まる円卓会議があります。早く行かないとなじられますよ」
ルーナは大きな門の前に立ち、騎士に話しかけた。すると騎士が扉を開く。広い庭が広がっており、真っ直ぐ道が作られている。両脇には大量の花が咲き誇っており目を奪われた。
馬車で王城の入り口に移動する。
俺はルーナの背後で肩をすぼめていると、彼女が鳩尾を殴って来た。息が出来なくなる。
「背筋を伸ばしてください。多くの者がキースさんに注目しているんです。情けない姿を見せられると、私の方も恥ずかしいんですからね」
「俺はさっきまで病院にいたし、いきなりこんな所に連れてこられて困惑してるんだ」
「はぁ、なら、いつも通りになってください」
ルーナはため息をつき、呟いた。
「いつも通り……。たく……、仕方ねえ。わかった、死ぬ気だな」
「はい、死ぬ気でいてください。言っておきますけど、本当に死ぬかもしれませんからね」
「…………ほんと、物騒な集団だな」
俺はルーナについて行き、縦移動する乗り物に足を踏み入れる。鎖が動き出し、俺達は釣り上げられた。どうやら、昇降機と言う乗り物らしい。階段を上らなくて便利だ。
甲高い金の音が聞こえ、エレベーターが止まる。
鉄格子が開き、俺とルーナは通路に出た。少し歩くと大きな扉が現れ、騎士が二名立っていた。
「聖騎士団第五席、ルーナ・チス・セレモンティ。加え、ルーナ小隊副隊長、キース・アンディシュ。ただいま到着いたしました」
ルーナは騎士に敬礼し、ものすごく早口で話した。
――第五席? 前は第七席って。
「聖騎士団第五席、ルーナ・チス・セレモンティ様。加え、ルーナ小隊副隊長、キース・アンディシュ殿の入出を認めます」
騎士の二名が敬礼を返し、一名が話し、もう一名が扉を開けた。光の量が部屋の中の方が多いのか、眩しすぎて真っ白に見える。
「さ、キースさん。他の者達の苦笑を拝みましょうか」
ルーナは微笑み、悪い顏をしている。今にでも殺人を犯しそうな悪女の形相だ。
「はぁ……。俺に男を眺める趣味はねえ。面倒だから、さっさと下町に帰らせろ」
「話し合いが終わったら帰りましょう。それまで我慢してください。くれぐれも、他の聖騎士と付き人の反感を買わないようお願いしますね。皆さん、面倒な性格をしているんです。沈静化する方が面倒なのでくれぐれも吠えないように」
「ルーナも対外面倒くさいけどな」
「私は聖騎士の中でも一番真面な性格ですよ」
ルーナは目を丸くしながら呟いた。
「そりゃ……、とんでもなく面倒くさい会議ってことになるな。はぁ、荷が重い」
俺はルーナの後を追い、部屋の中に入る。すると、いきなり怖気がして身を屈めた。
丁度ルーナの身長のてっぺんに棒状の物体が真横に射出された。俺がしゃがんでいなかったら扉の外にはじき出されていただろう。後方を振り返ると入口に棒状の武器がめり込んでおり、石の壁が割れ、蜘蛛の巣状になっていた。
「ちっ! 避けるんじゃねえよ。本当にただの人間が来やがった」
椅子にどっしりと座り、円卓に両足を乗せ、態度がデカい騎士が大きな声で言う。
「マルチス様、暴力行為はお控えください」
背後に座る、真面目そうな男が横暴な男に耳打ちする。
「うるせっ! 俺はあの女に座席が抜かされたんだぞっ! 落ち着いていられるかっ!」
横暴な男は叫び、暴れる。まるで駄々をこねる子供のようだ。
「ふふふっ、マルチスさん。私に座席を抜かれてどんな気持ちですかー?」
ルーナは今までの鬱憤を晴らすかのような笑顔で罵った。
――こいつが騎士団で嫌われている理由ってこれじゃね?
俺はルーナの後頭部に手を置き、頭を下げさせ、俺も頭を深く下げる。
「うちの指揮官が悪い態度をとってしまいすみません。あとで言い聞かせておきますから、怒らないでやってください。こいつはまだ子供なんです」
「なっ! キースさん。なに謝っているんですか。あと、私は子供じゃありませんっ!」
「ぷぷぷっー。ルーナ、ただの人間にも子供扱いされてるのかよー。情けねーっ!」
横暴な男は笑い、ルーナは頬を赤らめながら歯を食いしばる。
俺はルーナの耳元で話す。
「態度がデカい相手は持ち上げておけば操りやすい。こっちは冷静になって相手に悪口は言わせておけばいいんだ。気にする必要はない」
「……わ、わかりました」
俺とルーナは円卓上に乗っている三角柱に第五席と書かれている席に向かう。席は黒色のお高そうな椅子で、クッション性能が高い。腰が痛くならなそうだ。椅子は一脚しかなく、俺は立っているしかないらしい。
「ふぅー。すみませんね、キースさん。私だけ座ってしまって」
「気にするな。座っていたら……」
俺が話していると、銃口を俺の眉間に向ける騎士がいたので、顔を左に一〇センチ動かした。後方の石壁から破裂音が聞こえ、硝煙のにおいと耳に残る発砲音がうっとおしい。
「……すぐに動けないだろ。あと、人を至近距離から撃たないでもらえますかね?」
俺はルーナの正面に座る第一一席の眼鏡の聖騎士に話しかけた。
「ちっ……。実力は本物か」
第一一席の男は真っ白な拳銃をホルスターに戻した。そのまま指先を俺の方に向け、壁から拉げた鉛玉を抜き出すと、穴が開いていた壁が元に戻る。
「すご、何かの魔法か?」
「壁に『再生』が付与されているだけだ。そんなこともわからないのか、平民め」
第一一席の聖騎士に言われ、入口を見直すと砕けていた壁が直っていた。
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