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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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貴族の子供達

「お兄さんっ! 助けてくれてありがとうございました! 僕も大きくなったらお兄さんみたいなカッコいい騎士になりたいです!」


 瞳を輝かせた少年は将来の夢を語った。この国があと何年持つかわからないが、戦場はこいつが思っているほどキラキラしている場所ではない。

 だが、子供の夢を奪うほど俺も落ちぶれちゃいない。


「そうか、なら、沢山食って寝て鍛錬しないとな。きっと辛い日々だろうが、あれだけ怖い思いをしたんだ。家族や仲間を守れるくらい強い男になれよ」


 俺は少年の頭に動くようになった右手を乗せ、優しく撫でる。


「はわわ~! はい! 頑張ります!」


 少年は良い笑顔を俺にくれた。この笑顔を守れただけでも俺が命を懸けた甲斐があったな。


「あ、あの……。こ、これ。感謝の気持ちを込めて描きました。受け取ってください!」


 少女は沢山の花が描かれた一枚の絵を俺にくれた。幼稚な絵だが、本気で描いてくれており、心が暖かくなる。額縁にでもいれて飾っておきたい一枚だ。


「ありがとうな。この一枚の絵で物凄く元気になった。嬢ちゃんはきっとすごい画家になれる。何たって、この俺をたった一枚の絵ですこぶる元気にしちまったんだからな」


 俺は右手で少女の頭を撫でる。小さい頃のメイを思い出す。


「あ、ありがとうございます!」


 少女は笑顔になり、俺の右手をぎゅっと握ってくる。まだまだ小さい手で弱弱しい。俺が守ったのか、そんな優越感が腹の底から込み上がってくる。


「ふ、ふんっ。皆さん、子供ですね。大人が喜ぶのはやはりお金ですよ。僕は貯金を全部持って来ましたよ」


 眼鏡をかけたガキンチョが、クリスタルで作られた豚の貯金箱を俺に渡してきた。


 ――子供から金を貰うのは流石に大人としての誇りが……。


 俺はクリスタルの豚を貰い、裏を向ける。金がとり出せない品だった。

 眼鏡が泣きそうになっていたので、ルーナに頼む。


「ルーナ、この中の金を取り出してくれ。出来るか?」


「おやすい御用です」


 ルーナはクリスタルの豚を受け取り、詠唱を言うと豚の尻に魔法陣が出現し、中の金が出て来た。ルーナの持っている革製の袋に入り、パンパンになる。


 俺はルーナから、クリスタルの豚と金が入ったパンパンの袋を受け取る。眼鏡をかけたガキンチョに金の入った袋を渡した。


「なにか欲しいから貯めてたんだろ。俺はこの豚で十分だ」


「べ、別に嬉しくなんかないからな。で、でも……あ、ありがとうございます」


 眼鏡のガキンチョは袋を受け取り、微笑んだ。子供の内から金を貯められるのは才能だ。きっと金無しの俺よりもモテモテな大富豪になるだろう。俺はガキンチョの頭を撫でる。


「金が貯められて偉いな。いつか自分で稼ぐようになっても散財しないようにな」


「僕がそんなへまするわけない」


 ガキンチョは銀縁眼鏡をグイッと掛け直し、堂々と言った。


「ははっ、そうか。すごい自信だな。大物になれるぞ」


「ふ、ふんっ」


 眼鏡をかけたガキンチョは鼻を鳴らし、頬を赤らめながら腕を組む。


「褒められたら素直に喜んでおけよ。褒められるのなんて子供のころくらいだけだからな」


「ぼ、僕は褒められすぎてもう褒められなくなってる。別に褒められてもうれしくないし」


「そんな不貞腐れるな。俺だったら何でも褒めてやるぞ。生きてるだけで褒めてやる」


 俺は眼鏡をかけたガキンチョの頭をこれでもかと撫でた。すると、ガキンチョが泣き出し、俺に抱き着いてくる。俺が困惑していると、ルーナが言った。


「えっと、貴族の親は出来て当たり前のことに褒めたりしません。この子はきっと優秀で、何でもできると思われているのでしょう。だから、キースさんに褒められて嬉しすぎて泣いてしまっているんだと思います」


「そうなのか……。貴族の世界は褒められもしないのか、虚しい世界だな」


「はは……。まぁ、大人の貴族にとって子供は自分を良く見せる道具で、自分の価値を高めるための一部としか思っていない者も多いです。なので、お金をかけたり、良い教育を受けさせたりしますが、愛情をもって接している者は少ないでしょう。なので、愛情を知らない子共が多いんです」


「じゃあ、俺達のした仕事は、大人の貴族たちにとって自分を良く見せる宝石を取り返してもらった程度にしか思っていないのか?」


「そう言う者もいるでしょう。ただ、全員がそうと言う訳ではありません。子供が地位より、お金より大切だと言う貴族もいます。ただ、数は少ないですね。なので、多くの子供は廃れるか、親を嫌って大成するかのどちらかが多いんです。私のように親を慕っているのは珍しいんですよ」


「そうなのか……。聞くがお前たちは、親が嫌いなのか?」


「…………」×五名の子供。


 子供達は下を向きながら黙ってしまった。


「まあ、お前達にはまだわからないかもしれないが、親がいなかったらお前達は産まれてきていない。この世に存在すらできなかったんだ。嫌うのは自由だが、感謝の気持ちは忘れるな。それだけでだいぶ変わるはずだ」


「でも……。お母様とお父様、ずっと怒鳴り合ってて、あなたなんかと結婚したくなかったって言ってて……。あなたの子なんて産みたくなかったって……」


「貴族だからな。好きな男や女と結婚させてもらえないかもしれない。でも、相手も同じ境遇の持ち主だと思って接すれば、少なからず友達にはなれる」


「友達……」


「嫌なことも要は考えようだ。出来るだけ良いように捉え、自分で変えられるところは全力を出せ。お前たちは下町の子供より恵まれているが、自由がない。下町の子供は恵まれていないが自由だ。どちらが良いか悪いかなんて誰にも決められない」


「僕は……、自由に生きたい……」


 眼鏡をかけたガキンチョが呟いた。


「そう思うなら、自分の一生を死ぬ気で活きろ。そうすればいつ死んでも悔いはない。俺は大人として子供のお前達を死ぬ気で守った。それだけだ」


 俺は子供達をぎゅっと抱きしめ、背中をバシバシと叩く。すると全員泣き出し、俺をベッドに押し倒してくる。ここまで子供に懐かれた覚えは無かった。泣きわめいた子供達は面会時間を過ぎ、俺の病室を離れていく。


 全員が手を大きく振り、病室を出て行った。また来ると言っていたが、何度も来られても困る。まあ、嬉しくはあるがな……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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