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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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高らかに笑う

「風が、大地が、空が、草花が、周りのすべてが言ってるだろ……、撃つなら今なんだよ……」


 俺は仰け反る体を戻しながらゴーグルを投げ捨て、右眼を瞑り、一眼一点集中、狙うは敵の銃口。敵の照準器が少し動き、二発目を撃つ気らしい。


 ――今更、二発目を撃つ時間は与えないぜ……。なんせ、俺は一発で終わるからな。


 アサルトライフルの銃口を完璧な位置に固定、床尾板を右わきに挟み、人差し指を引き金に掛け、迷いなく引く。

 すると撃鉄が撃針を勢いよく打ち込み、マグナム弾の雷管に突き刺さる。その瞬間、薬莢内の火薬が爆発。

 爆発によって生じた力は鉛弾を動かした。

 弾は銃身のらせん状の溝により、貫通力と安定性を増しながら音の約七倍の速度、時速二六〇〇キロメートルを超えながら射出された。

 銃身の空気圧の変化によって、ガス筒が動き、空薬莢を揺底から吐き出す。

 俺の肩が抜けそうになるほどの衝撃が後方に向き、爆発の轟音を聞いた後、薬莢の落ちる快音がいつも以上に心地いい。

 射出されたマグナム弾は綺麗に落ちる起動を描き、二秒以上たった。結果は見なくてもわかる、俺が立てばいいのだ。

 敵のスナイパーライフルにマグナム弾が当たっていれば俺は死に損ない、外していれば死ぬ。俺は迷いなく立ち上がった。


「はぁ、良い風……、良い景色……。ここで酒を飲んだら最高だな。フフフ、ハハハっ!」


 両手を広げ、高らかに笑う。


 六〇〇メートル先から、弾は飛んでこなかった。周りから賞賛の声は無く、心地よい風が顔に当たり、巨大な山脈と広い荒地と目の前に広がっている。血を流しすぎたせいで冷える体、ぐらつく頭、もう立っているのがやっとだ。


「ふうぅ~、はぁ~、煙臭い……」


 集中しすぎてようやく息を大きく吸う。鼻から入ってくるのはマグナム弾の硝煙。これからは葉巻の臭いよりも嗅ぎそうだ。


「キースさん! お見事です!」


 地面の上を移動している車が俺の元に向ってきた。車の周りに『バリア』を張りながら移動してくるルーナが手を振り、部下を褒めてくる。


 一分ほどして俺の目の前まで車がやって来た。


 俺は『バリア』に向って飛び込み、荷台の上であおむけに倒れる。


「ルーナ……。俺はもう、寝る……。絶対に起こすなよ」


 緑色魔弾のせいで眠気が限界だった。眼を閉じただけで気絶できる。


「仕方ないですね。指揮官が特別許可を出します。ヘンケル街に移動している間、寝ていてもいいですよ」


「おいおい……、もっと寝かせてくれよ……。七日くらい余裕で眠れるくらい眠いのに」


「指揮官の命令は?」


「はぁ……、絶対……。くっそ、誰だこんなこと言いだしたやつ」


「お前だろ……」


 レインは俺の方に指を向け、言い放った。下半身を異様に気にし、なんなら、布で隠している。今は気温が特に寒い訳でもないはずだ。


「お前、ちびったのか?」


「ばっ! な、なわけないだろ! さっさと寝てろ!」


「へいへい……、んじゃあ、寝させてもらいましょうか……。ルーナ、お休みなさいのちゅう……、くれ」


 俺は冗談で呟いた。今から眠る王子に姫のキスを貰ったら起きれるのだろうか、そんな童話があったら面白そうだな。


「なっ! 何言ってるんですか! 絶対に嫌です!」


「ちぇっ……、俺、結構頑張ったと思うんだけどな……」


 俺は青い空が瞼によって遮られていくのを見て意識が飛びかけた。意識が消える瞬間、唇に小さくも柔らかく熱い何かが当たった。俺の体は回復しなかったが、心は……少しだけ暖かくなる。




 俺は気を失い、何時間経っただろうか。わからない。全身が痛すぎて痛すぎて、呼吸をする激痛で覚醒する。


「う……、うぅ……。こ、ここは……」


 俺はやけに綺麗な天井と真っ白なシーツに柔らかいマットレスの上で眼を覚ました。


「おはようございます。キースさん」


 パイプ椅子に座っていたのは見覚えがある女だ。服装は銀色に輝く鎧ではなく、騎士団の真っ白な軍服を着ていた。その者は誰が見てもまごうことなきルーナだ。


「ルーナ、ここは?」


 俺は隣でにこにこ笑顔の女に話しかける。


「ここはルークス王国の王都です。中央区と言っても色々な箇所に分かれています。その中でも王都は選ばれた者しか入れない場所です。今回はお父様と私の許可を得て、王都国立病院の一室を貸し切っています」


「はは……、下町の人間にそこまでするなんて、とんだ好待遇じゃねえか。腐った王様かと思っていたがそうでもなかったんだな」


「はぁ……、腐っているのは騎士団の方で王様は腐っていませんよ。逆に、王様はとても賢いお方です。私達の処遇を騎士団に任せず、王様自らが判断してくれるそうですから」


「へぇ、すごいのかよくわからないが、全員処刑は免れたわけか」


「はい。皆さん、私の施設で機能回復訓練を行ってもらっています。キースさんにも早く受けてもらいたいですけど、今は体を治すことに集中してください。キースさんが一番の大怪我だったんですからね。銃弾が貫通した右わき腹に布製のお守りを突っ込むとか、正気の沙汰じゃありませんよ」


「処分したか?」


「一応取ってありますけど……、もう、お守りと言うにはいささか気味が悪いです」


 ルーナはアイテムボックスから透明な袋に入った、血まみれのお守りを出した。


「はは……、もうそいつは力を使い果たした。俺の身代わりになって死んだんだ。だから、丁重に処分しておいてくれ」


「わかりました。教会で燃やしてもらいましょう」


 ルーナはアイテムボックスにお守りをしまい、椅子から立ち上がった。


「キースさんの怪我は全治三カ月です。その間、治療訓練(リハビリテーション)をしっかりと受けて戻って来てください。戻って来て早々に体力の低下だからと言っても、私は訓練内容を変えませんから」


「全治三カ月……。その間、俺は一人寂しく白い部屋の中で生活しないといけないのか」


「看護師さんもいますし、私も一日一回は顔を出します。リハビリテーションをさぼっていないか見るためですけどね」


「毎日来てくれるのかよ、それはそれで親切だな……。まあ、さっさと治して妹の見舞いにいってやりたい」


「なら、確実に完治してください。そうしないと仕事に支障をきたします。キースさんはルーナ小隊の主戦力なんですから、くたばられたら困るんですよ」


「はいはい、わかりましたよ。指揮官の命令は絶対。破る気はありませんって」


 俺は柔らかい羽毛枕に頭を沈みこませ、コルセットがまかれた右腕は動かさず、左腕を後頭部に当てて気を楽にした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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