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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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下町の死にたがり

「では、敵の前方に偽物の騎士を出現させます。『イリュージョン』」


 ルーナの綺麗な金髪が淡く光ると、敵兵が緊張状態へと一気に変わる。


 俺の視界の先に見えたのは馬に乗った騎士が一〇騎ほど走りながら剣を抜いている姿だった。加えて歩兵五〇名が銃火器を持っており、弾を放つ音まで再現されている。

 その音が聞こえた瞬間、戦車が地を震わせるほどの衝撃音を発生させながら砲弾を放ち、敵兵の機関銃が壊れたブリキの玩具みたく震えながら大量の空薬莢を吐き出し、光を反射させる鉛弾を何発も撃ち込んだ。

 轟音と轟音が重なり合い、そこらじゅうで爆発が起こっているような激戦となる。これぞ戦争と言っていいだろう。

 だが奴らは本物そっくりな偽の騎士を見せられ、不安と恐怖から考えるのをやめていた。弾は無限に沸いてこない。一回撃ったら終わりだ。何も考えずに偽の騎士に撃ってくれるなんて、精神が相当追い込まれている状況なのだろう。


 俺は陰に潜み、機関銃を使っている敵兵の首を確実に撃っていく。首を狙う理由は黄色魔弾がヘルメットに当たると魔法の効果が落ちるためだ。


「う、うわああああああ! た、倒れてやがる! お、おい! 救護班はいないのか!」


 仲間がいきなり倒れ、痺れている光景を目撃にした敵は混乱し、大声を出すも、周りの大量の銃声にかき消される。


 ルーナは小さな体で壁を飛び出し、戦車のもとに向った。足が速すぎて眼で追えない。犬よりも早く、猫よりも身軽に遮蔽物を乗り越え、一台の戦車の真後ろに到着。


「ふっ!」


 サーベルを数回振ると、巨大な鉄の塊が人を残して細切れになった。いったいどういう原理かわからないが、いきなり戦車が壊され、混乱が敵兵の中で広がっていく。


 魔法で生み出した偽兵は鉛弾を撃っても撃っても減らず、敵を恐怖に鎮めた。だが気づく者が現れた。

 偽兵の弾を食らっても死なない、ましては痛みすら感じないと言うことに……。


 ――くっそ、気づくのが早い。もっと混乱してろ!


 俺は叫ぶ敵兵を打ち、周りに知らせないように心掛ける。


「はぁ、はぁ、はぁ……。な、何とか気づかれずに、二台の戦車を破壊してきました。でも、偽兵にはもう気づかれてしまったようですね……。もう同じ手は通じません」


 ルーナは右翼の戦車を混乱中に二台壊し、戻って来た。ルーナ曰く、あちらこちらで「奴らは偽物だ。敵は別にいる!」と言う声が響くようになったそうだ。


「そうだな……。今、弾倉二個の敵兵を撃った。ざっと四〇人は減ったな。だが、重要っぽい人物ばかりを狙った。簡単に統率は取れないはずだ。まだ死んだわけじゃ……」


 実弾が俺の目の前を通かし、ぎょっとする。

 体の反射が起こり、頭を後方に移動させるようにして尻もちをついた。視線の先には蜘蛛の巣状に割れたコンクリート壁がある。


「敵兵は後ろだ! 敵兵は後ろにいるぞ!」


「いや、敵兵は真横だ。真横にいるぞ!」


 奴らは完全に恐怖に飲まれていた。土に彫った大きな溝から出て歩きながら弾を乱射している。

 時には味方を敵だと思い込むようなやつまで出て来た。

 気の狂った奴らは平常な者に取り押さえられて縛られる。それくらい、前方はかき乱されたようだ。


 俺とルーナは鉄筋コンクリートの建物の裏にいた。敵兵がよく見える。敵が狂っていると俺の方は冷静になった。そのおかげか、いつもの俺になれている気がする。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ここで死んだら、最高に気持ちいんだろうな……」


 鉄筋コンクリート壁の向こうから聞こえるのは、耳を劈くほどうるさい銃声音。鼻の奥を焦がすほど熱い硝煙。すぐ隣から微かに香る女の汗のにおい……。男にとって興奮するなと言う方が難しい状況だ。


「はぁ……、またそんなことを言う……。でも、今回ばかりは同感ですね。ただ、まだ死ぬわけにはいきませんよ。作戦の遂行が私たちの責務です。私が活路を開きますから、続いてください」


 金色の長髪を首筋辺りで纏めたポニーテール。その穂先が地面に擦れそうなほど長く、綺麗な輝きを放っていた。顔に似合わず、銀色の鎧を身にまとった小さい女。国で七番目に強いと豪語する聖騎士様が俺に向って先に行くと言い放った。


「おいおい……、俺に先に行かせてくれないのかよ……。そりゃないぜ、指揮官さんよ」


 ――俺はもう、アサルトライフルでちまちまやるのは飽きちまった。


「キースさんは単体戦の方が得意ですよね。私は複数人相手の方が得意なんです。今は私達しかいないんですから、役割分担をしないと……って!」


 俺は超絶美人な聖騎士様からの命令を無視して鉄筋コンクリート塀から出て行く。今の俺はルーナの部下ではなく、下町の俺だ。


「はははっ! 俺が敵陣に穴をあけてやるからよ! あとは頼んだぜ、貧乳指揮官!」


「なっ! 私は貧乳じゃありません! 揉めるだけは多少なりともありますよ!」


「はははっ! 俺が死に損なったら、お前のでっかいケツでも揉ませてくれよな!」


「絶対に嫌です! ふ、触れるくらいなら、良いですけど。って、何を言ってるの私!」


 俺は貧乳の聖騎士様の美声を後方に、大量の発砲音を前方に全力で走る。すでに太ももがはち切れそうだ。何なら足のアキレス腱も断裂するかもしれない。

 それくらい体はもうボロボロだ。


 ――ルーナからは使うなと言われているが、ここで使わないでいつ使うんだ。


 俺は赤色魔弾をリュックから調達していた。口に赤色魔弾を含み、かみくだく。黄銅色の薬莢が弾け、目の前に舞った瞬間、視界が真っ赤に染まる。


「さあ! 俺を殺してくれるのはどいつだっ! 俺を妹のところに早く行かせてくれよ!」


 鳴りやまぬ心臓の鼓動と耳鳴りを全身で感じながら、大声を出す。


 ルーナの「馬鹿!」と言う声の方がデカく、あとでとんでもなく怒られそうだが、手で先に謝っておいた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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