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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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体の限界

 俺は天井が崩れる中、脚がもげそうになるほど回転させ、速度を保つ。たった一〇〇メートルほどの距離があまりに長く感じ、一キロメートル、何なら一〇キロメートルあるんじゃないかと、感覚が狂う。


 人工物が人工物によって破壊されるなんてあまりにも滑稽で笑いが出そうになるが、そんな暇はない。


 トンネルの破壊は敵国共の長年の計画を潰す大きな痛手になるはずだ。山越えするのは敵もきつい。平坦な道を機械に頼って移動すれば楽だったろうな。だが、その作戦はもうついえた。


 ルークス王国の寿命が少し伸びたな。


 頭の中は死の恐怖から逃れるために様々な無駄な思考をした。


 ――今は敵国なんかどうでもいい。死ぬ気で走る。それだけだ。


 俺は思考を切り、足を回転させるだけの行為に全力を出す。もう、息をしてない。ずっと走っているせいで息が出来ないのだ。迫りくる恐怖を力に変え、爆風で飛ばされそうになるのを必死でこらえる。


 ルーナの表情を見ることすらできず、ただただ抱きかかえて脱出を試みた。


 死ぬ気で走っていると暗闇に慣れた目のおかげで出口が見えた。だが、俺の足に小石が当たる。いつの間にか頭上では爆発が起こっており、コンクリートの小さな破片が頭に衝突。一瞬身がよろけるも、歯を食いしばって耐え、ただひたすらに走る。


 あと一五メートルほどなのに、爆発が起こって一〇秒もたっていないのに、もう頭上の爆発が俺を抜かしていく。


 ――あと少しあと少し速度を上げろ。ここが正念場だろ、本気、死ぬ気、何でもいい。力を振り絞れ!


「おらあああああああああああああああっ!」


 前方の入り口に大きな岩石が落ちてきていた。ルーナを抱えたままじゃ、入口が塞がっちまう。子供達を助けるためにはルーナが死んだら終わりだ。俺は女を投げる動作に入る。


「キースさん! 駄目です! まだ間に合います!」


「これが一番、最適解だろ! ルーナだけでも……」


 俺がルーナを投げようとした時、視界の先に誰かがいた。


「私、気持ち悪くなるのはごめんなので、やっぱりお返しします」


 頭から血を被ったような男が入口に立っており、リボルバーの銃口を俺に向けていた。


 入口に岩が落下するよりも赤色の物体が発射される方が早く、俺の眉間に当たる。もし、この物体が実弾なら、俺は確実に死んでいた。だが、赤色の物体は額にぶつかった瞬間に弾け、俺の視界が赤く染まる。足の小指の先まで激痛が走り、絶叫したくなるのを飲み込んで腹筋に力を入れた。


 ルーナを再度抱きかかえるように持ち、頭から入口に飛び込んだ。岩底がリュックにすれ、身が凍る。俺は岩底にリュックが引っかかったかと思い、心臓が止まりかけた。だが、俺の体は動いていた。岩底は脚にもすれる。脚が潰されても心臓さえ潰されなければ死なない。歯を食いしばり、ルーナを出来る限り奥へと放る。


 真っ赤な視界のせいで顔が見えないが、入口の近くに立っていた者が俺の腕を持ちながら引っ張ったおかげで俺の足は岩に潰されずに済んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。視界が赤すぎて顔が見えね……。お前、ナリスか?」


「ええ、私は天才魔法使いのナリスですよ。今、顔を無くす魔法を使っています」


「はは……、顔が血まみれなだけだろ……。今のお前は道化師よりも不気味に見えるぜ」


 俺はナリスに二度も救われた。ほんと何者なんだ、こいつ。


「キースさん、ナリスさん。地上に出ましょう。バリアに囲まれた者達が地面を浮上していきます。敵兵は重要人物と思われるヨハンだけしか助けられませんでした……」


 ルーナは土砂の下敷きになった敵兵たちに涙を流していた。


「お前は神の信託を受ける聖女か? 違うだろ。お前は聖騎士だ。敵を倒し、仲間を守る。それがお前の仕事だ。神から力を授かった定めだ。力の使い方はお前が決めればいい。どう使おうがお前の自由だ。今回、敵兵が死んだのはお前のせいじゃない。ヨハンが爆破したから死んだんだ。あと、あいつらを追い詰めたのは俺だ。お前は子供達を救った。それだけだ。だから泣くな。今は仕事中だぞ、泣くなら仕事が終わってからにしろ」


「すみません……。そうですよね、今は仕事に集中しなければいけませんよね」


 ルーナは腕で眼元を擦り、泣き止んだ。それと同時に、身体強化が消えてしまった。まだ五分もたっていないのに……。


「うぇぇ……。胃の中身がないのに、何を吐こうとしているんだ、俺の体……。沈まれ」


「そ、そんな根性論じゃ、魔法の副作用は止まりませんよ。あと、キースさん。もう身体強化は使えません。時間が極端に短くなっています。全身の疲労が限界なんです」


「つうことは、俺の体は魔力で強くなっている訳じゃなく、魔力で力を無理やり引き出されているってことか?」


「はい。言わば、力の前借りです。疲労困憊の中、何度も使えば、死にます。身体強化の効果時間が一分を切ったら寿命を削っていると思ってください」


「はぁ、はぁ、はぁ……。わかった」


 俺達は背負っているリュックから黄色魔弾が入っている弾倉を取り出し、回復魔弾を入れていた拳銃に装填する。リボルバーにも六発、黄色魔弾を入れた。


 ――ルーナが俺の指揮官である限り、爺さんから貰ったマグナム弾が敵を貫く時は来ない。そう、信じたいな。


 ルーナはアイテムボックスから予備のアサルトライフルを取り出し、俺とナリスに渡す。


 黄色魔弾が入った弾倉を装填し、弾を撃つ準備を整えた。


 戦う準備が出来たのち、俺達は階段を上っていく。敵兵は流れ込んでこない。あれほどの爆発が起こったのだから、敵背は何かを察して地上で待機しているのかもしれない。


 警戒を怠らないよう、神経を集中させようとするも、疲労が蓄積しすぎて耳鳴りが酷い。


 ずっと嫌な音を聞かされている気分だ。黒板を引っ掻くような、サインペンが擦れるような音が常に流れている。集中できるわけがない。


 体が今すぐ休めと警告を出しているが、休んでいる暇など無い。今から、敵兵をねじ伏せて子供達と共に国内に帰還しなければならないのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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