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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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刺激が強い回復魔法

 俺が目を閉じると唇に柔らかい何かが当たった。


 ――ん、な、なんだ……。柔らかくて熱い……。


 いきなり、初めての感触を受け、俺の思考が追い付かない。一瞬ではなく、一分ほど口の中が熱かった。

 何が起こっているのかわからないが、魔力らしき暖かさを感じる。口から喉を通り、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸とお湯で満たされているような感覚。

 不愉快極まりないかと思いきや、体の中が燃えるように熱くなり、内臓の機能が回復しているようだ。

 心臓の鼓動まで戻りやがった。何なら、先ほどよりも心拍が早い。いったい俺の身に何が起こっているのか。だれか説明してくれ……。


「はわわ……、お兄ちゃんとお姉ちゃんの口がくっ付いてる……」


「あ! 思い出した。パパとママがいつもしてるやつだ~。もしかしたら夫婦なのかも」


「はっ、皆、馬鹿だな~。あれは回復魔法の一つだよ。体内の魔力を直接病人に送り込む上級魔法だ。あの女性、相当な実力者だね」


 後方にいる子供達がぺちゃくちゃ喋り出した。危機が去ったと思うや否や呑気なやつらだ。まだ俺達は死地の中にいるってのに……。にしても長いな。息が苦しくなってきやがった。


 俺は震える手をルーナの肩に置く。そのまま剥がそうとするも、力があまりにも入らず、ルーナの力に押し負ける。


 鎧が重いのか、ルーナ自身が重いのか。俺の体が押さえつけられ、胃の内容物が出ちまいそうだ。


 三分ほど経ち、体に力が入り出した。俺は伸し掛かるルーナの体ごと回転し、位置を入れ替わる。俺が上になり、ルーナが下になった。そのおかげで、口呼吸できるようになる。


 目の前には瞳を潤わせた超絶美女が金髪を散らばらせながら寝ころんでいた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。何、考えてやがる……」


「はぁ、はぁ、はぁ……。ここでキースさんを死なせるわけにはいきません。緑色魔弾では衝撃と共に回復魔法を付与し、体を少しずつ回復させることができます。でも、さっきのキースさんはその衝撃だけで死んでしまうほど衰弱していました。なので、なるべく刺激の少ない回復魔法を使っただけです。こんな回復魔法……、人生で初めて使いましたよ……」


 ルーナの呼吸する姿がやけに厭らしく見える。どうやら頭が混乱しているらしい。


「今の魔法が刺激の少ない回復魔法だって? 冗談言うんじゃねえよ。童貞には刺激が強過ぎだ。まぁ、おかげで死に損なったわけか……。一応感謝しておく」


「ほんと、魔法無しでここまで出来るなんて、やっぱり兵士に向いてますよ、キースさん」


「実弾が仕えてりゃあ、もっと楽だったんだがな。誰かの命令のせいで無駄な足かせを付けられちまってたから、手こずった。あ、そうだ、ヨハンに実弾を打ち込まれた敵兵が数人いるはずだ。あと、味方同士の打ち合いの巻き添えに合ったやつも」


「ふふっ……、キースさん、なんだかんだ言いながら人を殺したくないんじゃないですか。今すぐ治療しましょう」


「お前、全員に刺激の弱い回復魔法をする気か?」


「し、しませんよ。今のは特別……、じゃなくてすぐに出来た回復魔法だっただけです」


 ルーナは俺を押しのけ、体から血を流している敵兵を緑色魔弾と体に光りを当てて回復させる魔法を使い、救っていった。ヨハンは何だかんだ言って仲間の頭部は外すように撃ってやがった。そのおかげで全員無事だ。


 ――ヨハン・ハルモニア。俺が戦ってきた奴の中で確実に一番の強敵だった。きっと死刑だろうが敬意を表して……。


 俺がヨハンの方を見ると、ヨハンの右手に何やら小さな機器を持っていた。透明な蓋を開けると、赤色のボタンが見える。


 俺はホルスターからリボルバーを引き抜き、回転弾倉を開ける。その中に弾ホルスターに入っていたマグナム弾を入れて発砲。回復したおかげで狙いは正確無比。今の間、わずか二秒。だが、ヨハンの右手を打ち抜いた時にはすでに赤いボタンが押されていた。


「あぁ……、プルウィウス王、万歳……」


 ヨハンはパワードスーツを膨らませ、体が飲み込まれていく。自爆かと思ったが、感覚からして違った。あの中に火薬が入っているのなら、触った感触でわかるはずだ。だが、俺が殴った時、火薬や爆発物が入っているようには思わなかった。まして、あのヨハンが自殺するような男な訳がない。最後の最後、死の一片まで戦う狂戦士だ。


「ルーナ! 子供を守れ!」


 俺が叫ぶのと同時に、全貌に広がる長いトンネルの天井が爆発し始めた。敵国に利用されないように埋めるのだろう。天井が爆破され、土砂や岩石が落ちてくる。その影響で高さ五メートル、横一五メートルほどあるトンネルが埋まっていく。


 子供達の悲鳴が聞こえるのと同時に車を包むように透明なバリアが作られた。俺はルーナを抱きかかえ、弾倉の入ったリュックを持って入口に走った。


「ルーナ! ガッチガチのバリアにしておけよ!」


「もちろんです! でも、圧死を防ぐほど強固なバリアを使っているので、私やキースさんには魔法が使えません!」


「大丈夫だ。俺が死ぬ気で守ってやる。そのための部下だろ!」


「き、キースさん……」


 俺は照明が消えかかり、暗くなっていくトンネルの中を走る。後方から地面を揺らすほどの爆発音、土砂と岩石の落下が起こり、体を震え上がらせる。

 だが、ルーナの刺激が強すぎる回復魔法で体が動くようになった俺は、死に物狂いで駆けた。赤色魔弾はもう無い。自力でこの聖騎士を助ける。それが子供達を助けることにつながるのだ。


 ――絶対死なせない。


「おらあああああああああああああああっ!」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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