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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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肉弾戦

「まて、あの状況から自殺するだけの力があるのか……。頭部からの出血は……。くっ!」


 ヨハンはもう一度振り返り俺の方を見た。だが、俺は地面に置いてあった自分の拳銃をすでに拾っており、黄色魔弾入り拳銃の銃口がヨハンの体に向いている。


「油断は禁物だぜっ! ヨハン!」


「くっ! おらああああっ!」


 ヨハンはアサルトライフルを持つ筋力もなくなっており、決死の覚悟で俺に殴り掛かってくる。


 ――最後まであきらめないその姿勢は認めてやる。あの時の弱虫じゃなくなってるみたいだな。殺しはしない、寝てろ。


 俺は引き金を引くと魔弾が出なかった。銃身に何かが詰まっているらしい。


 ――くっ! 俺の血のせいか。こんな時に!


「おらああああっ!」


 ヨハンの鉄のように固くなった拳が俺の左頬に打ち込まれる。首がねじれるかと思うほどの威力があり、俺は貧血だった状況も相まって視界が暗くなった。

 後方によろめき、千鳥足になっておぼつかない。だが、ここで倒れたら、もう立ち上がれる気がしなかった。そう直感し、魔弾が入っている重いリュックを落とす。すると後方に向っていた体が安定した。

 だが、三半規管がぶっ壊れているのか、世界が回っているように感じる。視界は黒く、脳内に響く音は壊れた機械音、鼻に入るは酸化した鉄を火であぶったような血のにおい、肌に薄く伸びるルーナの暖かい魔力だけが俺の意識を保たせる。


「いい拳してるじゃねえか……」


 俺は血が銃身に詰まった拳銃を捨て、爺さんから貰った鉛弾ホルスターからマグナム弾を一発、右手で取り、左手で赤色魔弾が入っているリボルバーを持つ。

 リボルバーの開いている回転弾倉にマグナム弾を装填したあとハンマーを引いたらマグナム弾が撃てるように調整し、両手でグリップを握り締め、構え直す。だが、銃口が驚くくらい定まらない。


 ――殺しはしない、脚か腹を撃って、ヨハンの行動を止める……。あんなに的がデカいのに、何で手の震えが止まらないだ。


「どうした……、今回はお前の銃口がブレブレじゃないか……。あの時は散々こけにしやがって……。国を守るために命を捧げられる兵士の力を思い去らせてやる!」


 ヨハンは血を流すほど唇を噛み締めながら、走ってくる。全身が麻痺しているはずなのに、痛みで上書きしているようだ。


「お前だけが死ぬ覚悟だと思うなよ……。だが、ここで死ぬわけにもいかなくなったんでな、お前を倒して貴族共を奪還させてもらう!」


 俺は銃口が安定しないリボルバーをホルスターにしまい、手の平を握りしめる。


「国を守る意味を知らない若造が! 俺を倒すだと……。出来るものならやってみろ!」


 ヨハンの体格は他の兵士の比ではなく、身長一九〇センチの長身と他の二倍はあろうかと言う肩幅、腕は棍棒のように太く、服の上からでもわかるほど血管と筋肉が浮かびあがっている。そんな巨漢に一発殴られたら普通は意識を失っているところだが、生憎すでに致命傷を負っており、痛みには多少慣れていた。

 俺の方が回復している分、体格差が埋まっていると思いたいが……、最後にものを言うのは自分の力量だ。

 一対一の肉弾戦で武器や魔法が無いとすれば経験知の差が大きく出てくるだろう。


 ――相手はこれだけの数を纏めるだけの指揮権を持っていた。相当な実力者だ。ルークス王国に侵入し、裏で暗躍しながら貴族を誘拐するだけの指揮をとれる優秀な人間。あの時、撃ち殺しておけばよかった。ルーナのせいで今、俺が死にかかっていると思うと笑えるな。


「おらああああっ!」


 ヨハンの拳が大振りで放たれ、俺の顔面に向ってくる。次、鉄拳の一撃が顔に当たったら意識がさすがに飛ぶ。

 体に力が入らない以上、防御は不可能だ。回避するしかない。


 俺は体が小さい利点を生かし、足を半歩右前に出す。


 ヨハンの拳が肌を擦り、火傷を負ったような刺激が広がる。だが、一激は回避した。


「おらあああああっ!」


 俺は叫びながら利き手の左拳をヨハンの右腹に打ち込む。顔面に打ち込もうにも身長が圧倒的に足りないのだ。


 ヨハンは防護服を着ているため、効果は薄いかもしれないが、奴は全身が黄色魔弾の効果で痺れているはず……。効果は弱まっているとは言え、正座を長時間行ったあとの脚のしびれを一〇〇倍にして全身に付与されていると考えてもいい状態だ。そんな状態で、体に攻撃を受ければ威力の無い拳でも、一〇〇倍になって脳に伝わる。


「ぐはっ! グググ……、おらっ!」


 ヨハンは体を殴られ、血眼になるも、歯を食いしばりながら意識を保ち、左脚で俺の横腹を蹴り込んできた。


「ぐうっ!」


 至近距離だったため、俺は回避することが出来ず、腕で防ぐしかなかった。前腕部に防護服を着たヨハンの蹴りが撃ち込まれ、卵を握りつぶすような音が鳴りながら体が弾き飛ぶ。


 ヨハンの力が明らかに人間じゃない。


 俺は五メートルほど蹴り飛ばされた。硬い地面に身をぶつければ痛手になるため、空中で体幹を捻って力を外に逃がしながら足裏で着地。

 ゴム製の靴底で着地したのにも拘わらず、地面が砂塵によって汚れており、後方に少々滑った。

 息を整えるため、横隔膜を動かすと肩が少なからず動く。すると、右腕に激痛が走り、持ち上がらなくなった。右手の人差し指が痙攣したように震えており、握力が無くなっている。どうやら前腕部が折れてしまったようだ。


「お前の服……、ただの服じゃねえな……」


「ご明察。プルウィウス王国の科学者が解発したパワードスーツだ。試作段階だが、人以上の力が出せる。詳細が知られてしまうとは……。おまえの顔面をぶん殴った時に首をねじ切っておけばよかったと後悔している」


「パワードスーツ……。そんな便利な服を開発できるなんてお前の国は技術力が相当発展しているんだな。あれか、魔法に対抗するためにそんなもんを作ったのか」


「勘がいいな、お前……。その通りだ。ルークス王国を滅ぼし、更なる資源を手に入れる。資源に技術力が加われば最強の国家が誕生するのだ。国王の野望を叶えるため、ルークス王国の聖騎士共を皆殺しにする計画も、各国と共同で進んでいる」


「はっ……、そんなペラペラと詳細を喋ってもいいのかよ……。戦犯呼ばわりされるぜ」


「生憎、死ぬのはお前だ。生身の人間とパワードスーツを着た俺との肉弾戦ではどう考えても俺の方に分がある。体のしびれは残っているが、弾を撃ち込まれる前に殴り殺せばいい」


 ヨハンは拳を作り、武術の心得がある構えをする。

 どうやら、格闘術の基礎知識がおありのようだ。

 俺のような自己流の戦い方よりも、先人が築き上げてきた戦闘技術を学んだヨハンとじゃ、武術の差も大きい。


 あの構えをしながら銃が持ち上げられないとか嘘だろ……。あいつ、俺をパワードスーツの戦闘実験に利用しようとしてやがる。ふざけやがって……。

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