人を殺せる弾
「させねえよ……」
俺は黄色魔弾が五発ほど入った拳銃の銃口をヨハンの眉間に向ける。一拍の間もなく引き金を引くも、俺のあまりに正確な射撃のせいで奴には狙う位置が気づかれており、黄色魔弾はアサルトライフルで防がれた。だが、残念ながら魔弾だ。アサルトライフルを持っている本人にも効果が作用する。
「うがぁああ……」
ヨハンは全身が魔弾の効果で痺れ、膝から床に崩れ落ち、右肩から倒れ込む。
「ヨハン隊長! くっ! 何もんだこいつ! 撃て! 撃て!」
「ま、待て! ぐはっ!」
「落ち着け、陣形を立て直さねえと味方に弾が当たっちまう! グっ!」
俺は指揮を出す者を狙い、思考が止まっている奴は後回しにする。
俺は鼠やゴキブリのように敵の隙間を縫いながら動き、黄色魔弾を撃ち込んでいった。なんせ、どこに当てても敵は麻痺して動けなくなるのだ。赤色魔弾との連携技が反則級に強い。
――連携を崩せば、ギリギリ勝機があると思ったが、崩すとあっという間だな。
血を流す見方を見て呆然と立っているやつ、何が起こるかわからず、混乱して銃を乱射するやつ、味方の救護に回り、銃口を向けながら引いていくやつ。
俺の視界に映るのは真っ赤に血塗られた世界だ。敵兵の誰に血が出ているのか出ていないのかはまだわからない。
リュックの右側のチャックを開き、拳銃用の弾倉を取りながら弾丸止めを押して空っぽの弾倉を一瞬で落とし、入れ替える。その後、速射して全員を痺れさせた。
やはり、体のどの部分に当てても良いと言う当てやすさが功を奏している。まぁ俺は銃の腕を落とさないよう、敵の眉間を狙うようにしているがな。
「はぁ、はぁ、はぁ……。敵兵は……、全員……」
俺が肩を大きく動かしながら息を整えていると、マグナム弾のデカい銃声が聞こえた。
その瞬間、俺の左脇腹に激痛が走る。気づいた時には膝を落とし、傷口を左手で押さえていた。
視界が真っ赤なので手についている液体が何なのかはっきりと判断できないが、生暖かい肌触りと、糸が伸びないのにドロッとしている手触り、硝煙とはまた違う鉄臭い香りによって俺の血だと判断した。
――背後から撃たれた……。いったい誰が……。
俺はすぐに振り返る。そこには両手で拳銃を持つヨハンの姿があった。
「お前の使う弾丸は……、人を殺せないようだな。頭を狙ったつもりだったが、ここまで痺れていると狙いが定まらないとは……誤算だ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ご丁寧にルークス語で話してくれるんだな……。へっぴり腰の指揮官さんよ……。お前の仲間、全員が毒を飲んで死んだらしいぜ……」
俺は左脇腹の傷を押さえながらヨハンを動揺させるために敵兵の情報を話した。
「そうか……、最後まで仕事をやり切ったようで何よりだ……」
――アサルトライフルに黄色魔弾が当たったせいで魔法の効力が落ちたのか。始めっから知っておきたかったぜ。
「にしてもお前はなぜ実弾を使わない。こんな回りくどい戦いをしなければ怪我すらせず鎮圧できたものを……。俺を殺さなかったことを後悔しながら死ね」
「ははっ……、いやぁ、人を殺したくないって言う甘っちょろい考えを持った指揮官の命令でね……、どうしても殺せないんだわ」
俺は出血多量によって視界が暗くなり始める。だが、ヨハンの方もフラフラだ。黄色魔弾の効果が利いていない訳ではない。
――今すぐ、緑色魔弾を自分に撃たねえと……。
俺は無理やりヨハンに近づきながら走る。床に滴り落ちる血液の付着音が高まった聴覚によって拾われ、不吉な旋律を奏でていた。
「うおおおおおおっ!」
ヨハンはマグナム弾を拳銃から一〇発、連続で放った。空薬莢が床に落ちると甲高い音が鳴り、俺の体に鉛弾が撃ち込まれると骨が砕けるゴリゴリと言う音が骨振動で脳に伝わる。
頭部はヘルメットをかぶっていたおかげで鉛弾がずれ、即死は免れた。だが、体に九発のマグナム弾を撃ち込まれた俺はほぼ即死と言っても過言じゃない。
痛みを感じる前に膝から崩れ落ち、自分の血を真下に垂らしながらしながら、顔面から倒れ込む。
血溜まりに腹が乗っかり、腐ったトマトを地面にぶつけた時のような音がドチャッと鳴る。
俺は薄れゆく意識の中、ヨハンが持っている拳銃がマグナムの威力に耐えきれず、遊底や銃身がぶっ壊れているのが狭まっていく視界の一部に映った。だが、もう右手に力が入らねえ……。それどころか、小指の一本すら動かせそうにない。
――緑色魔弾を自分に撃たねえと……。あ……、意識が……飛びそうだ。
視界が真っ暗になった時、左肩紐に取り付けてあったトランシーバーから声が聞こえた。どうやら倒れている状態でトランシーバーの受信ボタンが床によって押されていたようだ。
「キースさん! 大丈夫ですか! 後方の敵を制圧完了! すぐにそちらに向かいます! 死なないでください! 前方の敵も制圧し、必ず生き延びましょう! キースさ……」
耳障りな愛らしい声が脳内に響く。
だが途中で通信が切れた。
指揮官の命令を受けた俺は薄れゆく意識の中、はにかんだ。
――どうやらまだ死なせてもらえないらしい。
俺は腰に付けた緑色魔弾の入っている拳銃に手をかけ、安全器を下ろし遊底をベルトで動かして魔弾を銃身に装填。薄れゆく意識の中、気付けのためにこめかみに銃口を当てて引き金を引く。
引き金を引いた瞬間、拳銃内のハンマーが撃針を押し込み、魔弾の雷管に当たる音がした。
人を殺すための武器から、回復させる緑色魔弾を放つなんて皮肉にも程があるが、女の聖騎士様が目指す国を象徴する武器と言えば聞こえが良さそうだ。
こめかみに撃ち込まれたガラス玉ほどの硬さのある魔弾は皮膚に当たった瞬間、砕け散り快音を慣らした。
あまりにも心地いがいい音で、雫が水面に落ちるような、ガラスが一瞬で割れるような、雑音が混じっていない清らかな一瞬が耳を伝わってくるのと同時に、骨と脳を揺らす振動によって引き起こされる激痛。本当に頭を打ち抜かれたような衝撃があり、体が死んだと勘違いしたのか痙攣が起こる。
「はぁ、はぁ、はぁ……。自殺……。あれだけ撃って死に切れなかったのか……。なんつう化け物みたいな精神してやがる」
ヨハンは銃声によって撃たれたと勘違いしたのか、俺の方を見ているようだ。加えて自殺したと勘違いしてくれているのか、追撃が来ない。
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