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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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ヨハン・ハルモニア

「さてと……、行くか」


 俺は拳銃を両手で持ち、アサルトライフルの肩紐を肩に掛けながら階段を走る。


 地下二階と思われる平らな床に足を踏み入れると視界の先に死の光が数回見えた。身を屈めようとする前にゴーグルの端とライフルの銃身に敵の弾が命中。

 俺の体が後方に吹き飛ばされそうになるも、腹に力を入れて踏ん張り、前に飛び出して伏せた。


 ――くっそ、ゴーグルの暗視機能が逝っちまった。ライフルも銃身が壊れちまってる。これじゃあ使えねえ。


 敵兵が放った鉛弾がゴーグルの暗視機能を奪い、ライフルの銃身を破壊した。もう、どちらも使用不可だ。


 俺は無駄に重いライフルは黄色魔弾が入った弾倉を回収した後、置き捨てる。ゴーグルは首を守るためにずり下ろした。運が良ければ首に当たる弾を防いでくれるかもしれない。


 俺が床に伏せている状態でも死の光が一〇○メートル先で連続で発生する。子供がゴム鉄砲で遊んでいるかの如く、鉛弾が俺の頭上を刹那の速度で無慈悲に飛んでいた。生憎、敵は俺の位置が見えていないらしい。俺も見えていないがな。


 ――にしても広い空間だな。発砲音が何度も反射してやがる。横幅は……、一五メートルはあるな。どれだけデカい地下通路を作ったんだよ、こいつら。ここで後方に下がったら負けだ。前に出ねえと……。


 俺は置き捨てたアサルトライフルを手に取って反対方向に投げて床にライフルが落ちた音を敵に聞かせる。


 もちろん敵は細心の注意を払い、油断など一切せず、音が鳴った方向を撃ちまくった。

 その間に俺は匍匐前進で移動。


 銃声は何度鳴り響いているのか、わからない。

 もう、火薬が爆発する音は赤子の泣き声を耳の真横で聞かされているくらいうるさかった。

 広い通路により、反響した轟音が両耳に聞こえてくるのだ。そのせいで鼓膜が裂けそうになる。

 鳴りやまない銃声からして敵兵は相当多い。


 敵兵一人に対し死の光は三秒に二○回見えた。今、立ち上がれば音が鳴り、体がハチの巣になるのは確定だろう。


 俺は地面を這うナメクジになり、音を掻き消しながら進む。すると銃声が止まり、聞き覚えのある声が聞こえた。だが、ルークス語ではなくプルウィウス語で喋っているため、何を言っているのかは理解できない。


「はぁ、はぁ、はぁ……。撃ち方止め。これだけ撃ったら、敵か味方かわからないが、さすがに死んだだろ」


「ヨハン隊長! 通信によると友軍が一人の少女に足止めを食らっているようです!」


「少女だと? 何を馬鹿なことを。さっさと撃ち殺せ」


「それが……、弾が見えない壁に弾かれているようなんです」


「見えない壁……。ちっ、聖騎士じゃないか! 全ての戦車を動かし、今すぐ抹殺しろ!」


「は、はい! 連絡します!」


「くっそ……、ここでも聖騎士が邪魔をするのか。皆、急ぐぞ。貴族の子息を洗脳し、無傷で送り返し、ルークス国を内部から崩壊させる『ジェミニ作戦』の成功のためには今回の第一作戦を成功させなければならい。皆、死力を尽くせ! 予備電源が入るまで気を保ち、一時待機だ!」


「了解!」×大勢。


 ――何を言ってるか全然わからねえ。勉強不足か。んなこと今、言っても仕方ねえな。まず、敵の数を減らさねえと。


 俺は空の弾倉を反対側に投げ込む。コンクリートの床に金属製の弾倉が当たると、甲高い音が鳴り、地下通路内で反響した。

 音の方向に死の光が発生したのを見計らい、俺は死の光の近くを狙って黄色魔弾を撃ちまくる。アサルトライフルの位置から考え敵の頭部を狙って黄色魔弾を撃ち込み、声を出させない。


 黄色魔弾を撃ち出すときは銃口火が見えないため、俺の場所を特定するには音で把握するしかないはずだ。敵に暗視ゴーグルを持っている奴らがいなくて幸運とでも言おうか。


 ――いつまで暗闇の中かわからねえ。なるべく多くの敵兵を始末しておかねえと。


 敵が銃を撃たなくなったら俺も撃つのを止め、匍匐前進で近寄る。


 俺は赤色魔弾を使って自身を強化し、敵兵を無理やり鎮圧するか、時間をかけて戦うか迷っていた。

 副作用が起こるのを考えると赤色魔弾はなるべく使いなくない。

 俺の体は万全じゃないし、最悪の場合、エナみたく数分で副作用に襲われるかもしれない。だから俺は敵兵を地道に減らしていく方を選んだ。


 にも拘らず……。


 地下通路に設置されていた電球のフェラメントに電気が流れ、数回点滅したのちに完全についた。

 俺と敵兵はいきなりの光に眼がくらむ。


「くっ! ついてねえなっ! またくよっ!」


 反射神経が早かったのは俺だ。右手で拳銃を持ちながら黄色魔弾を敵兵に撃ち、すぐに立ち上がる。


「敵兵捕捉! 撃ち方用意! てえっ!」


 視界に映ったのは俺が知る男だった。下町の者がサーカス団内で苦しんだ元凶だ。


 ――ヨハン・ハルモニアっ!


 ヨハンは三○人ほどの兵士の後方に位置し、指揮をとっていた。


 一斉射撃を行われれば生身の俺など一瞬でハチの巣にされちまう。


 今さっき地道に倒す作戦を選んだのに選択しは結局無くなり、左腰についているホルスターからリボルバーを左手で引き抜き、赤色魔弾をこめかみに撃ち込む。


 頭を巨大なハンマーで殴られたような激痛が走り、視界が真っ赤に染まった。

 見る景色が血みどろの世界になってしまい、吐き気を催すも喉元で胃液を食い止め、ぐっと飲み込む。口の中が酸っぱく、毬栗を飲み込んでいるかと思うほど喉が痛い。


 敵兵の動きは案の定、遅く見える。脳の処理速度が速くなっている証拠だ。


 俺は敵兵が持っているアサルトライフルの銃口が俺に向けられた瞬間に斜め右に全力で走る。大きく伸びのある銃声を敏感になった聴覚で聞き取り、鼓膜が裂けそうになるほどの振動を受けた。

 だが、体を鉛弾で貫かれる痛みに比べれば我慢できる辛さだった。


 俺は脚の回転数が常人を逸脱しており、音速を超える実弾が俺の左横を通り過ぎていく。その間にリボルバーをホルスターに戻しながら、リュックから拳銃用の弾倉を手に取る。

 右手の拳銃で黄色魔弾を撃ち、空になった弾倉を捨てたらすぐに左手に持っている弾倉を再装填。遊底を後退させ、黄色魔弾を銃身に入れながら引き金を引き、敵兵を倒していく。


 俺はあっという間に一五メートルを走り切り、止まって反対側に走ろうとすれば銃弾を確実に食らう。

 そう考えた俺はルーナの身体強化魔法を信じ、丸みを帯びている壁に靴裏を付けた。一五メートルの加速でどこまで進めるかわからないが、やるしかない。


 走って来た加速力で壁を無理やり移動する。天井付近まで来ると敵兵の開いた口が滑稽で笑いそうになった。


 赤色魔弾を使っていれば暗闇でも敵兵が見える。その利点を生かすため、照明を黄色魔弾で破壊し、暗闇を一部作る。


 左側の壁まで回りたかったが、どうやら地上に向かう力には逆らえないようだ。


 俺は敵の頭上から真っ逆さまに床に落ちる。地上五メートル付近から落ちたにも拘わらず、猫のように両手両足で着地して落下の衝撃を全体で逃がしたため、無傷だ。


 敵兵の中心部に降り立ったおかげで敵は俺に発砲できない。なんせ、周りには味方が大量にいるからな。


 目の前には主犯格だと思われるヨハン・ハルモニアの姿がある。


 俺は歯を食いしばっているヨハンにルークス語で話しかけた。


「よお……、ヨハン。久しぶりだな……。五カ月ぶりか」


「そ、その声……、華麗な身のこなし、スナイパー級の銃の腕……、サーカス団の時のクソガキっ!」


 ヨハンは俺にもわかるようにルークス語で話した。案外、ルークス語に馴染みがあるんだろうな。


「ご名答。貴族の子息を返してもらおうか。安心しろ、俺はお前らを殺したりしない。優しい優しい聖騎士に感謝しな」


「くっ! 隊列を立て直し、この男を捕獲、又は射殺しろ!」


 ヨハンはプルウィウス語で叫ぶと敵兵はアサルトライフルから拳銃に持ち直し、隊列を立て直す。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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