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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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道化師

 俺は建物の一階をあちらこちらと、さまよった。どこかに幽閉施設の見取り図があるんじゃないかと思ったのだ。だが、見つけた資料はすべてプルウィウス語で書かれており、俺には読めない。


 俺は焦っていた。内部の敵兵は少なくなり、弾倉の数も減っている。敵の数は着々と減らしているのだが、手がかりが何も掴めておらず、時間だけが過ぎていた。


 ――もう建物に入ってから一〇分も経っている。なのに、手がかりが何も無い。くっそ、あと一人、あと一人仲間がいれば……。


 俺は仲間を求めた。「自分一人じゃ何もできないのか。一人でやり切れ!」と自分に言い聞かせるも時間だけが無慈悲に過ぎていく。


「今までも自分一人で全てをこなしてきたんだ。ここでもやり切れよ」


 俺は自分を頼ってくれた大切な仲間のために、死ぬほど追い込んで追い込んで辺りをさまよう。すると上階と地下に向かう道を見つけた。


 ――時間がない。ここは二分の一に懸ける! どのみち死ぬ気なんだ。どちらに傾いたとしても悔いはない。


 俺は上に向かう階段に走った。階段の前に着き、視界に映ったのは俺が撃ってもいないのに階段を塞ぐように倒れている気色の悪い人物だった。


「……やあ、遅かったね。その足音はキースかな?」


「はは……、化け物め……」


 俺がかけているゴーグルのガラス面を隔てて見えたのは眉間から血を流し、微笑みながら話し掛けてくる自称魔法使いことナリス・バレリアだった。


 俺はこいつのことを道化師としか思っていなかったが「本当に魔法使いなのではないか」と考え込んでしまうほど、奇怪なやろうだ。


「お前、何で生きてる……。滅多撃ちにされていただろ」


「ありゃ? キースなら気づいていると思っていたけれど、そうでもなかったんだね。私は『死んだふりをして敵陣地に潜入する』と言ったつもりなんだが……」


 ナリスは笑いながら言う。本当に気色が悪い。


「死人が喋れるかってんだ……。車の中で撃たれた時、ハイネの超能力でも心が読めていなかったよな。いったいどう言うカラクリだ?」


「私は死人になり切っていたからね、心まで死んでいたんだよ。いやはや、誰も来ないから見捨てられたと考えてしまった。まあ、それはそれで構わないけれどね」


 ナリスは立ち上がり、眉間の傷を拭う。すると傷などもとから無かったように消えた。


「貴族の子息は地下にいる。早く行かないと地下通路で逃げられちゃうよ。急いだ急いだ」


 ナリスは地下への階段を指さし、俺に教えた。


「それを知っていて何でお前は助けに行こうとしない?」


「だって黄色魔弾が無いんだもの。あっという間に使い切ってしまった。実弾じゃ敵を撃てない。人を殺してはいけないと言う、あの麗しき聖騎士様の命令を私は健気に守っているんだよ。逆に武器無しでここまで潜入した私を褒めてほしいくらいだ」


 本人が言うようにナリスはリボルバーしか持っていなかった。黄銅色の薬莢と鉛弾が入っているのか、ゴーグルには魔弾の反応がない。


「じゃあ、俺が持っている黄色魔弾を……」


「いや、私が使うよりもキースが使ったほうが、価値が高い。そうだな貰えるのなら赤色魔弾を一発貰おう」


 ナリスは黒い手袋をしている右手を差し出してきた。


「わかった」


 俺はリボルバーから赤色魔弾を一発抜き取り、ナリスに渡す。


「ありがとう。じゃあ、代わりに情報を渡そう。幽閉されている者は八人。皆、ルークス王国の貴族の子息だ。一人でも取り返せたら万々歳ってところかな。全員取り返したら英雄扱いされるかもしれない。地下通路から敵国に連れていかれるともう取り返すのは不可能だ。今日の朝型に出発する予定だったようだけど君たちの襲撃で焦りまくっている。加えて私がこの施設の電源を落とした。奴らは暗闇の中を高速で動くことはできない。今ならまだ間に合う。場所は地下二階だ。行けばすぐにわかる」


「わかった。じゃあ、ナリスはどうする?」


「私は逃げ道でも作るよ。あまり期待はしてほしくないが死ぬ気でやれば何とかなるさ」


 ナリスは俺の肩に手を置き、懐中電灯を使って足下を照らしながら移動し始めた。


「はぁ、二分の一で死ねたんだな……。また、死に損なったわけか。ふっ、調子がいい」


 俺は地下へと続く傾斜の大きい階段を降りていく。案の定、扉の前で敵兵がお待ちかねだったがゴーグルのおかげで姿が見え見えだ。


 敵も靴音で俺の侵入に気づいているが暗闇のせいで敵か味方がわからない状況に恐怖し、味方だとしても仕方が無いと考えたのか、お構いなしに発砲してきた。


 死の光が何度も見えたが、俺がいる場所とは全く違う位置を撃っている。


 ――弾が持ったいねえ。一個作るのに一分以上かかるんだぞ。三秒で二○発がぱあとか勘弁してくれ。


 敵兵は懐中電灯で俺の姿を探るも、光が照らすのはせいぜい直径二○センチメートルの範囲のみ。コンクリート壁に明るい円形が浮かび上がったが、俺の影が映ることはない。


 ――狭い位置なら、アサルトライフルより拳銃の方が使い勝手がいいか。


 俺は右腰に付けているホルスターから右手で拳銃を抜き取り、安全器をずらしたあと遊底を引く。吐き出し口から黄色魔弾の装填を確認した。


 敵の位置は約五メートル先。俺は階段の平面地にいる。まあ、階段を降りれば敵と鉢合わせる位置だ。腕を真上に伸ばし、肘が六○度になるまで曲げる。すると手すりから腕が出て、銃口が敵兵の眉間を狙った。俺には見えていないが感覚でわかる。


 ――どんな状況でも、弾は無駄にするなよ。


 俺は引き金を引き、黄色魔弾を敵兵に撃ち込み、一五度横にずらしてもう一発撃ち込む。力を失った肉体が倒れ込む音が聞こえたので、黄色魔弾は対象に命中したようだ。


「よし……。もう一階下だな」


 俺は地下二階に向かう前に地下一階の様子をうかがう。どうやら敵兵の寝床らしい。誰もおらず、逃走の害になるような敵はいなかった。

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