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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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デカい一発

「はぁ……、仕方ねえな……。指揮官の命令は聞かないとな……」


「はい、指揮官の命令は絶対です。キースさん、私が持ってきた黄色魔弾を全部渡します。全部で一〇○○発くらいあるはずです。このリュックの中に大量の弾倉が入れてあるので、敵兵を一人一人着実に倒して貴族のもとまで行ってください」


 ルーナは五○キログラムほどありそうなリュックサックをアイテムボックスから取り出した。俺は機動力を失う代わりに弾数を手に入れる。


「ルーナ、お前の魔弾は大丈夫なのかよ?」


「安心してください。私の武器は銃だけではありませんよ」


 ルーナは左腰に付けてある洋剣(サーベル)に触れた。


「弾幕を張られた状態でサーベルを使うとか、どんな神経をしているんだ……」


「私、銃撃戦よりも剣術の方が得意なんです。安心してください。あの戦車も真っ二つにしてきます。でも、本当にやばい時は大きな声で叫ぶので助けに来てください」


「なんだ、その子共みたいな作戦……。トランシーバーでもよこせよ」


「ああ、その手がありましたね」


 ルーナはトランシーバーを俺に渡す。俺はリュックサックの左肩紐に取りつけ、すぐに連絡が取れるようにした。


「じゃあ、しばしのわかれだな。勝手に死んでくれるなよ」


「それはこっちの言葉ですよ。キースさん、勝手に死なないでくださいね」


 ルーナは目をきりりと吊り上げ、凛々しい表情を浮かべる。


「まあ、互いに死に損なったら落ちあおう。俺は内部を止める。ルーナは外部だ。両側から崩す。俺達の存在が敵に盛大に気づかれた以上、こっちも盛大に暴れて敵の包囲網を抜けるしかない」


「はい。私はまだ、死ぬわけにはいきません。好きな人と絶対に結婚するんです」


「はは……、死にそうな発言をしやがって。なら、俺はルーナが死んだら死んでやる」


「また訳のわからない発言を……。ますます死ねなくなってしまいました」


 俺とルーナは笑い、頭上を飛び交う大量の銃弾を見る。夜空に光る流星群とでも称そうか、この景色を見て癒されるなんて俺の心はどうかしているな。


「ルーナ、デカい魔法を一発頼む。敵を翻弄させてくれ。その間に幽閉施設に突っ込む」


「はい! ドデカいのを一発ぶち込んでやりますよ!」


 ルーナは訓練で使った機関銃をアイテムボックスから取り出した。いや、少し形状が違う。似ているが、弾丸を入れ込む場所がない。


 ルーナはコンクリートブロックに機関銃と同等のデカさの銃身を乗せた。


「ふぅ……。魔力充填、五○パーセント」


 ルーナの体が淡く光り出す。金髪の髪が靡き、神と言っても過言じゃないくらい神々しい。


 敵はルーナのみ狙ってくる。だがルーナは顔色を変えず、機関銃の持ち手をしっかりと握っていた。なんせ俺がルーナの姿を守るように立ち、黄色魔弾を敵兵に撃ち込んでいるんだからな。俺の体に無数の弾丸が擦過する。数ミリメートル内側に入っていただけで、致命傷になりうる弾が何発もあった。


「魔力充填、八○パーセント。八五パーセント。九○パーセント。九五パーセント」


 機関銃の銃口が淡い光を放っており、何かしらやばい一撃が放たれるというのは優に想像できた。辺りの空気がぴりつき、俺の体に怖気が走っている。


 敵の声は銃声で掻き消されており、俺には何も聞こえない。唯一聞こえるのは毎秒五○○発以上の銃声だけだ。耳を塞いでいないと感情がどうにかなっちまいそうなほど、恐怖に浸食される。だが、歯を食いしばり、後方にいる仲間を必死に守る。守れているのかはわからないが、やるしかない。


 冷や汗と手の震え、心臓の鼓動がいつもと全く違う。これが本当の恐怖……。


 ――まさか、ここまでの恐怖を味方から感じるとはな。


「魔力充填一〇○パーセント! 『高圧魔動砲』発射!」


 ルーナが引き金を引くと銃口から真っ白なエネルギー波が放たれた。


 光の速さで放たれた一直線の輝きは爆発音を幾度となく轟かせ、敵陣地の地面を抉り、高さ二○メートル以上の土壁を発生させる。


 その影響で弾幕は一時消え、敵の悲鳴が鳴り響いた。声が聞こえるということは敵には攻撃が当たっていないらしい。あんな一撃を生身の人間が受けたらただじゃすまない。こんな時でもルーナは相手の命を奪おうとしなかった。機関銃を横に一閃すれば、敵兵は一層できるのに、しないなんて女神かよ……。


 俺は戦車以上にこの女が人知を超越していると改めて思い知らされた。


「キースさん! 今です!」


「わかってる! 扉を壊せ!」


 俺は敵がひるんでいる間に、コンクリート壁を抜け出し、幽閉施設の裏口まで走った。


「はい! 魔力充填、一〇パーセント。『高圧魔動砲』発射!」


 俺の横を白い一閃が通かすると裏口の鉄扉が吹き飛ぶ。


 ――一〇パーセントでその威力かよ。魔力を大量に消費しやがって……。


 俺は裏口を守っている兵士の眉間に黄色魔弾をぶち当て、戦闘不能にする。鉛弾が何発が体をかすめながらも第三幽閉施設内に飛び込み、潜入成功。


 施設内では警報音がすでに鳴り響いており、真っ赤な灯りがコンクリート壁で覆われた通路を照らしている。


 俺はアサルトライフルに実弾を一発入れ、引き金を引いて発砲し、警報機を破壊した後、もう一発実弾を装填し、発光体に鉛弾を打ち込んで壊す。


 時すでに遅く、大量の敵兵が視界の奥から通路を走ってきていた。懐中電灯でも持っているのか、明かりがあっちの方から迫ってくる。


 俺はゴーグルをつけ、暗黒な通路でも視界を確保し、敵兵の位置を確認してアサルトライフルから黄色魔弾を射撃していく。


「ぐはっつ!」「ぐは!」「ぐあっ!」「ぐおっ!」


 俺は敵兵のキモい喘ぎ声を聞き、耳が腐りそうになるも、黄色魔弾を敵一人一人に撃ち込んでいく。出会った敵兵は全て撃ち、動けないようにした。


 今、俺が一番手に入れたい情報は貴族の子息がどこにいるかだ。


 第三幽閉施設の間取りは第一幽閉施設と全く違う。本体が地下にあるわけではなく、四階建ての施設だった。もう隠す気が無いとわかる。


 上の階に向かえばいいのか、それとも地下施設があるのか、それも謎だった。


 ――くっそ。内部の情報が全くわからねえ。時間がねえのに。


 俺がもたつけばもたつくほど、ルーナの死ぬ確率が上がる。


 あいつは強がっていたが実際、一人の剣士と大量の武装兵が戦って勝ち目があるわけがない。前衛の敵兵が後衛に回ればそのぶん、あいつの負担になる。


 ――俺がルーナの負担を少しでも減らさねえと。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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