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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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戦車砲

 俺は計二時間ほど山の中を走り、第三幽閉施設の背後を取る。


 俺達は木陰で重装備に着替えた。その後、敵の動きを探るために幽閉施設を偵察する。

 幽閉施設の裏土地には倉庫がいくつも建てられており、敵の予備兵器が入っていると考えられた。


 俺とルーナが双眼鏡を覗き、敵兵の動きを観察していると倉庫の扉が開き、鈍重な乗り物が無限軌道(キャタピラー)を動かしながら現れた。三から四メートルほどある筒状の砲身が見えると俺の背筋が凍る。


「あれが化け物みたいな火力を出す兵器か……」


「はい。戦車と言います。分厚い装甲で通常の銃弾は効きません。アサルトライフルで直径九ミリ弾を撃ったとしても、容易にすべて弾かれます」


「今の戦争はあんな兵器を携えて殺し合ってるのか。爺さんが知ったら度肝を抜かすな。あんな化け物はさっさとぶっ壊しておかねえと、あとあと厄介だ」


「ですね……。では、作戦通り……」


 ルーナが立ち上がろうとした瞬間、俺を襲っていた寒気が怖気に変わる。


「ルーナ、伏せろ!」


 俺は怖気を感じた瞬間にルーナに覆いかぶさる。


「きゃっ!」


 俺がルーナを地面に押し倒したと同時に、鼓膜が破れたかと思うほどの轟音が山に響いた。すると一五メートル先の岩壁に何か当たり、一瞬で生み出された爆風が破壊された岩石を辺りに飛び散らせる。パラパラと降り注ぐ土が瞳に入らないよう、目を細め、岩壁を見ると岩が燃えているのか白い煙を立ち昇らせていた。

 山に風が吹くと煙が晴れ、岩壁が蜘蛛の巣状に罅割れ、直径八メートル以上、奥行き二メートルほどの半球状の凹みが生まれていた。


「な、何で撃ってきた……。ほぼ完璧な位置……。訳がわからねえ。ん? なんだこれ」


 俺はルーナが着ている鎧に何かがくっ付いているのを見つけた。取り外し、彼女に見せる。


「ルーナ、なんか機械っぽい品がくっ付いてたぞ」


「な……、これは発信機……」


 ルーナは目をかっぴらき、俺から白っぽい小さな部品を奪い取る。


「発信機? って、やっべえ!」


 俺はルーナを抱き上げて前に飛び込む。すると轟音が鳴った瞬間、三メートル横に見た覚えがないほど大きな弾が通った。

 何が起こったのかもわからないまま、後方に視界を向ける。すると弾が巨大な木をなぎ倒しながら地面に衝突したのか、地響きを起こしながら土柱を高々と上げ、爆散した。


「老害ども……。ここまでして私達を処分したがっているなんて……」


「ルーナ、どういうわけだ?」


「この発信機のせいで敵兵に私達の位置情報が知られてしまいました。奇襲を行うには最適な位置ですが、知られている状態からの始まりとなります」


「後ろは切り立った山脈、加えて越えたら敵国。目の前は敵の基地。横は長い長い山道」


「完全に囲まれました。もう、普通に逃げるのも不可能でしょう」


 ルーナは発信機を親指と人差し指で潰した。発信機が潰されると静電気が空気中に流れ、青白く光ったのち、黒い煙を出しながら機能を停止した。


「敵の方から、攻撃して来てくれたんだ。俺が攻撃しても正当防衛だよな!」


 俺はアサルトライフルに爺さんから貰った九ミリマグナム弾を装填する。


「…………なるべく殺さないでください。殺し合いは憎しみしか生みません」


 ルーナはこんな状況でも、自分の信念を曲げなかった。


「おこちゃまみたいな考えだな……。無抵抗の相手を殺さないというのはわかるが、殺されかけてるのに殺すなって言うのはどうかと思うぞ」


「戦争だとしても人を殺すのはいけないことです……。殺さなければ戦争は起きません」


 ルーナは俺の腕を握り、頭を横に振る。


「ちっ! 何で俺はこいつの下に付いちまったんだろうな!」


 ルーナが喋っている最中に三発目の砲弾が撃ち込まれた。

 山に反響する発射音が鼓膜を大きく震わせる。全身が痺れる感覚になるほどの波動を得て、俺は笑みがこぼれた。


 俺はルーナを再度抱き上げ、位置を移動しようとした矢先、四発目の砲撃が放たれる。すると砲弾が地面に当たったさいに起こる爆風で俺とルーナの体が吹き飛んだ。


 ルーナは地面を上手く転がり衝撃を最小限に抑え込む。


 俺は背中が大木の幹にぶつかり、肺の空気が外に無理やり吐き出された。背骨に支障はなく、体は動く。口の中を歯で切ったが全身強打せずに済んだのが幸いだ。

 血唾を吐き捨ててアサルトライフルに装填したマグナム弾を抜き取り、安全な黄色魔弾に入れ替える。

 無駄な操作だが指揮官が「人を殺すな」と言うんだ。従わないと俺が処罰されちまう。そんなこんなしていたら、両側から武装し、明かりを持った敵兵が迫ってきた。


 ――このままじゃ、なすすべなくあの世行だな。


「仕方ねえ……。突っ切るぞ」


「え……。ですが、目の前には大量の敵兵と一台の戦車が……」


「敵兵が撃ってくる実弾はルーナのバリアで何とかなるだろ。戦車の砲弾は俺達には当たらない。あの威力だ。制御するのが相当難しいらしいな。四発も撃って、俺達には一発も直撃していない。ほぼ止まっている俺たちにだ。つまり、ありゃデカい建物や大量の敵がいるときに輝く兵器。だが、少人数相手なら高火力をぶっ放すただのデカい置物だ。恐怖しすぎる必要はない」


「はは……、やはりキースさんは戦場が似合いますね。では、突っ込みましょうか!」


 ルーナは二輪車をアイテムボックスから出した。魔弾を穴に入れ、起動する。


「ルーナ、俺は砲弾の方を意識する。銃弾は頼んだ」


「はい! 任せてください!」


 俺とルーナは二輪車にまたがる。ルーナは下半身を魔力で固定し、アサルトライフルを持った。どうやら援護射撃をしてくれるようだ。


 現在位置の山の斜面は約三○度。横からあがって来たからか、垂直に下山するとなると、もう転げ落ちそうなくらいストンと切れている。


  ――ここでビビっていたら敵の思うつぼだ。


  俺は胸に手を当ててメイが作ってくれたお守りの温もりを感じる。


  ――メイ、兄ちゃん、頑張るからな……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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