死ぬまで行き続けろ
「そ、そんな……、私は別に……」
ルーナは身を引き、レインの大声に驚いていた。
「レイン、言い過ぎだ。状況が最悪だからってルーナに当たるな」
「くっ! キース、お前もお前で死にたい死にたい言いながら全然死なねえじゃねえか。この場でお前のこめかみに実弾を一発打ち込んで俺が殺してやってもいいんだぞ!」
レインは俺に拳銃を突き付けて来た。手が震えており、狙いが定まっていなかった。疲労と不安がグチャグチャな心じゃ一メートルしかなくとも当たりはしない。
「レイン、お前が俺を殺してくれると言うのなら別に構わない。その代り、お前がルーナを守ってくれよ。こいつに死なれたら助かるもんも助からねえ。こいつはこれから何千、何万の命を救う女だ。俺はそう思う。一人分の軽い命で何万の命が守れるのなら安上がりだろ」
「お前……、どんだけ肝が据わってんだ……」
レインは銃口を下ろし、自分のこめかみに当てる。
レインが引き金を引こうとしたため俺は咄嗟にレインの顔面をぶん殴った。同時に発射された弾丸はレインの頭には当たらず、廃墟の方へ飛んで行く。
「自殺だけは許さない……。死ぬまで生き続けろ。お前が死んだらタロウとミルはどうするんだ。俺を試したのか、楽に死にたいのか、戦うのが怖いのか、お前の気持ちはわからないが、その程度の気持ちで家族が守れると思うなよ。甘ったれるな!」
「く……、思いっきり殴りやがって……」
レインは地面に野垂れながら呟いた。
「そりゃ殴るだろ。仲間が自ら死のうとしていたら誰だってな。お前とは似た者同士だと思っていたが俺の思い違いだったらしい。生きたいなら逃げろ。どこまで行ったら逃げられるかわからないが逃げて逃げて下町に戻れ。そうすりゃ他の仲間が待ってる」
レインは仰向けになりながら眼元を腕で隠し、喰いしばっていた。
「レインさん、ここら辺には魔物や危険な動物は戦争が続いているのでほぼいません。私達と同じ時間帯に、南東へ向かって逃げてください。そうすればいつか、ルークス王国に付きます。逃げて来たとは言わず、私達が死んだことを伝えに来たと言えば門を通してもらえるはずです」
ルーナはアイテムボックスを開き、二〇発の魔弾が入ったアサルトライフル用の弾倉を五個地面に置き、ルーナの首に掛かっていた首飾りを弾倉の上に置く。
「私が成人になった誕生日にお母様がくれた首飾りです。売れはそこそこの値になります。タロウ君の治療費も賄えるはずです。私にできるのはこの程度……。あとはレインさん自ら動いてください。キースさん、行きましょう」
ルーナは俺の手を握り、引っ張りながら天幕の中に入った。
「あ、ああ……」
俺はレインの方を振り返るも、奴は地面で寝ころんだままだ。
――レイン。生きろ。それだけでいい。面倒な厄介ごとは俺達が何とかしてやる。
俺とルーナは天幕内にある簡易ベッドにやって来た。一人用なので、二人で寝るには狭い。まあ、他にもあるから問題ないか。
ルーナは鎧を脱ぎ、アイテムボックスに入れた。鎖帷子と案外大人っぽい黒いパンティーを履いており、俺は一瞬ドキリとした。
ルーナは半身だけエロイ状態でベッドに座る。すると俺の手をまた握った。
俺は別のベッドに移動しようとした。だが、ルーナは俺の手を離さない。子供かと突っ込みたくなったが、震える手が死を恐怖している者の動きだった。
「はぁ……。面倒臭い奴だな」
俺は靴を脱ぎ、ルーナの隣に座る。そのまま持ち上げて抱きしめる。ベッドに倒れ込み、心臓の音を聞かせた。
「……童貞を卒業出来るのはこの時間しかありませんよ。こんなことをしていてもいいんですか」
ルーナは震えた声で呟いた。
「残念だが、お前には一切反応しない。俺は胸がデカくて尻もデカいお姉さん系が好みなんだよ。あと、震える女を襲うほど俺の心は廃れちゃいない、安心しろ」
「そんなんだから童貞なんですよ……」
ルーナは俺に抱き着きながら啜り声を漏らす。例え聖騎士様だとしても死ぬ確率の高い無謀な作戦に挑むときは恐怖するようだ。
――ウサギみたいに震えやがって。俺はお前の飼い主じゃないっての。なのに何で俺が不安を取り除いてやらないといけないんだ。
「キースさんは恋をしたことがありますか?」
ルーナは俺に抱き着きながら呟く。
「恋……、いきなり甘ったるい話が来たな。俺にそんな甘い記憶はない。残念だったな」
「私もありません。お父様から多くの男を紹介されても、裏が見えてしまって駄目でした。最近までお兄様に恋紛いな気持ちを抱いていましたが、ある人に出会ってお兄様への気持ちは恋や愛ではないとはっきりとわかりました……」
「お前、兄貴が好きだったのかよ。ま、だから何だって話だがな」
「お兄様が好きだったのは事実ですが、恋とはまた違っていたようです。私も恋愛の方に寄ったら一般人よりも確実に下手なんですよ。だってこんな気持ち、あり得ないんですもん」
ルーナの力が強くなった。あまり締められると俺の方が苦しいんだが。
「体の震えが止まったのなら、離れてくれ。無駄に熱いだろ」
「今夜くらい良いじゃないですか……。今日はこうしていたい気分なんです……」
「はぁ……。面倒臭い奴……。なら、代わりにそのデカい尻でも揉ませてもらおうか」
俺はルーナのデカい尻に手を当てる。ルーナの生尻に触れたのは初めてだが、驚くほど柔らかい。すべすべモチモチ……。心が安らぐ……。
尻を触られて殴り飛ばしてくるかと思ったが女は動かなかった。
「変態…………」
「そうかい……。お怒りなら、仕方ないな。俺はもう寝る……」
俺は手を尻から背中に動かし、線の細いルーナを抱きしめる。そのまま眼を瞑り、ほんのり暖かく、ミルクのような汗のにおいが漂う女を宥めながら眠った。
不服だが、心地よい睡眠だった。
六時間しっかりと睡眠をとり、俺とルーナの疲れは消える。
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