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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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第一幽閉施設 潜入

(キースさん、一〇時の方向に進んでもらうと今は見えませんが山脈が見えてきます。山脈の麓に第一幽閉施設がありますから、そのまま真っ直ぐ突っ走ってください)


 ハイネからの連絡があり、進行方向が固定される。


「了解だ」


(私達は一二時の方向にある第二幽閉施設へと向かいます。皆さん、必ず生きて戻ってきてください)


 ハイネからの連絡が途絶え、俺とエナ、ライトだけで救出作戦が決行される。


 二輪車を走らせて一時間、山脈の麓が見えてくる。辺りは荒野のままで殺伐とした雰囲気が広がっていた。空気を吸うのが苦しく、耳鳴りがしそうなくらい静かで車輪の回転音しか聞こえない。


「あそこか……。このままの速度で移動したら敵兵に確実に気づかれるな」


 俺の視界には巨大な山脈が空に突き刺さるようにそびえていた。強国であるはずのルークス王国がプルウィウス王国を攻め落とせない理由が何となくわかった気がする。


 ――あの山脈を越えて敵国を攻めるのは至難の業すぎる。


 俺は二輪車の速度を落とし、荒野の中で止まった。


「……キース、どうしたの?」


「エナはここで降りろ。俺とライトで敵兵を引き付ける。その間に安全に配慮しながら敵陣地の穴を突いて第一幽閉施設に向かえ」


「……わかった」


 エナは俺の背中から離れ、地面に飛び降りる。子供には重装備があまりにも似合わないが、エナがライフルを持っていると安心感があった。ライトより断然な。


「ライト、お前はこの服を着ておけ」


 俺はライトに敵兵の軍服を渡す。敵兵を少しでも欺けるかもしれないと思い、もって来ておいた品だ。


「ああ。わかった」


「役割分担は俺が陽動、エナが主体、ライトが密偵だ。ライト、エナが動きやすいよう自分の力をしっかりと発揮してくれよな」


「も、もちろんだ! 俺は詐欺師だぞ! 敵なんて簡単に欺いてやるよ!」


 ライトはパンイチになりながら服を着替えていた。あまりにも不安なのだが、信じるしかないのが役割分担の辛いところだ。


「……キース、エナ、ちゃんと仕事してくる。成功したらいっぱい撫でてね」


 エナは俺の背筋に怖気が走るほど冷たい笑顔を向けた。


 ――笑顔を最近覚えたからか、まだ人を殺しそうな冷徹な目だな。まあ、仕方ないか。


「ああ。好きなだけ撫でてやる。だが、無理はするな。わかったか?」


「……うん。無理はしない。エナ、キースのためにいっぱい頑張る」


「別に俺のために頑張らなくても……。まあ、エナがそうしたいなら勝手に俺のために働いてくれ。俺もお前のために働く」


 エナは頷き、第一幽閉施設に向い、走り出した。距離にして一キロメートル。双眼鏡を使って見えるか見えないかの距離。この場で離れて意味がある。


「よし、キース。着替え終わったぞ」


 ライトは敵兵の軍服姿で側車に乗り込み、アサルトライフルの安全器をずらし、魔弾を発射できるようにした。


「しゃっ、死にに行くか!」


 俺は二輪車の右ハンドルを捻り、加速する。


「行かねえよ! テリアってガキを助けに行くんだろうが、死に急ぎ野郎!」


 二輪車で一キロメートルなどあっという間だった。


 幽閉施設から半径二〇〇メートル地点に敵が徘徊しており、俺達の姿を捉えたのか、実弾をどかどかと撃ってきやがる。

 だが、二輪車が小回りの利きく乗り物に加えて速度が速いため、人の手で照準を合わせ、撃ってくるような輩の弾が直撃するわけがない。


 俺は二輪車を絶妙な右滑りで走らせる。すると面白いくらいに実弾が左側に流れていく。その間にライトがライフルの照準器(スコープ)を覗き、幽閉施設に入ろうとした敵兵を撃った。黄色魔弾は敵兵の右ふくらはぎに当たり、何とか痺れさせることに成功する。


「あ、あっぶね……。なんとか当たった」


「黄色魔弾じゃなかったら増援を普通に呼ばれ、作戦が失敗に終わるところだったぞ」


「わ、わかってる。でも当たったからいいだろ!」


 ライトは俺に吠えながら、スコープを再度覗く。そのままスコープに映る敵兵をかたっぱしから撃っていく。一発目で緊張が和らいだのか、その後は集中し続け、幽閉施設前の敵兵は地面に全員倒れ込む。


 俺は二〇〇メートルを一気に突っ切り、幽閉施設の前に移動。幽閉施設は小屋の見かけをしており、ただの民家のようだ。


 ライトが開き掛けの扉を慎重に動かし、俺がアサルトライフルを持ちながら突入する。中に入ると地面に作られた扉を発見した。どうやら幽閉施設は地下にあるらしい。


「ふぅ……。行ってくる」


 ライトは倒れている敵兵の所持品から、名前や部隊名、所属などの情報を得ると、全て暗記し、笑いながら幽閉施設の扉を開けた。そのまま、意気揚々と降りていく。


「さて、俺も仕事するか」


 俺達は幽閉施設周りにいる敵兵をすべて倒したわけではない。なので先ほどから居間に至るまで普通に撃たれていた。黒っぽい軍服は焼け焦げ、頬に切り傷も生まれている。親指で拭えは血が止まる程度の軽傷だがな。


 ――まあ、何事もなく進行しているが、弾が急所に当たっていないだけだ。


 俺は二輪車の腰かけに跨り、実弾が飛んできた方角を確認して視界に映る敵兵を黄色魔弾で撃ち抜いていく。もちろんアサルトライフルでな。


 片手運転片手撃ち。それでも敵兵に魔弾を当てられてしまう俺はルーナから何と言われるのだろうか。

 「今度曲芸にでもしてみせてやるか」と考えていたら、甲高い銃声と共に右肩に大きな衝撃を受ける。その衝撃で肩を守っていた装甲が剥がされた。

 どうやら、肩の装甲に弾丸が当たったらしい。


 ――あと一〇センチ左側に飛んでいたら致命傷だったんだがな。


「惜しい……。また死に損なっちまった」


 俺が持っているアサルトライフルの銃口は、地面の窪みから頭と銃口を見せている敵兵に向く。


「くっ!」


 敵兵は俺に狙われている状況に気づき、苦笑の表情を浮かべた。


「じゃあなっ!」


 俺は敵兵の表情をしっかりと見ながら、躊躇なく引き金を引き、一発の黄色魔弾を放った。


 黄色魔弾は敵兵の眉間に吸い込まれるようにして命中する。


 敵兵の体勢はうつ伏せだったが、背を反らせながら後方に吹っ飛び、仰向けになった。黄色魔弾の影響で電撃を食らったかのように痙攣をおこす。辛いと思うが、死んでないだけありがたいと思ってもらおうか。


「今の敵兵で最後か。弾は一三発使った。弾倉に残っている魔弾は七発。補充しておいた方がいいな」


 俺は幽閉施設の近くに移動し、二輪車を盾替わりにして地面にしゃがむ。その状態で弾倉ホルダーから二○発の黄色魔弾が入っている弾倉を取り出し、七発しか入っていない弾倉と入れ替える。


 魔弾ホルダーから一三発の黄色魔弾を取り出し、七発しか入っていない弾倉に補充しておく。こまごまとした作業を終えた俺は槓桿を握り、遊底を動かしてアサルトライフル本体に魔弾が入っているかを確認して安全器を下ろす。


「よし……。エナも幽閉施設の中に入った。俺も脱出経路の確保をしてから突っ込むか」


 俺は敵兵の掃除をしている間に、エナが施設内に入ってく姿を横目で捉えていた。


 死ぬ覚悟はできている。仮死状態の妹と結婚してあげると言われた嬢、友達になった男娘、俺のことが大好きなガキンチョ、仲間は死なせないという戯言を放つ聖騎士様をこの世に置いてでも死ぬ覚悟が俺にはある。


 ――そうじゃねえと、最大限の仕事が出来ないだろ。


 俺は小屋の扉を破壊し、入口を開けっぱなしにしておく。二輪車に魔弾を一発装填しておき、すぐに移動できるようにしておいた。地面に作られた鉄製の扉を壊すにはそれ相応の火力がいると思ったが、黄色魔弾を結合部に撃ち込むと人を殺さない弾の割に馬鹿みたいな威力が出て破壊できた。そのおかげで脱出経路を完璧に確保した。


 あとはライトとエナが動きやすいように俺が暴れるだけだ。


「よし……。行くか」


 俺は地下へと進む階段を降りる。二〇段ほど降りると広めの通路があり、コンクリートの壁で補強されていた。弾の痕が無いのを見るに撃ち合ってはいないようだ。


 敵が来ない状況を考えるとライトとエナが上手く作戦を行えているとわかる。


 ライトが敵を欺き、エナがテリアちゃんを探す。俺は陽動係……、なんて完璧な作戦だろうか。


 ――自分で完璧と言うあたり、確実に穴があるんだろうが、気の持ちようで何とか出来る範囲なら問題な……。


「敵襲だ! 撃て撃て!」


 敵兵の一人が曲がり角で俺を見つけやがった。


 俺は右足の靴裏で敵兵が持っているサブマシンガンの銃口を壁際に向けさせる。すると、広めの通路に耳鳴りがするほどの発砲音が響き渡った。

 こんな音を聞き続けていたら耳が壊れてしまいそうだ。砕けた破片が体に飛び散っており、少々痛い。


 敵兵がサブマシンガンの引き金を引き切ると、弾が出なくなる。その間、わずか三秒。コンクリートブロックに二〇発の鉛弾が撃ち込まれ、耳の中に残る発砲音と破裂音以外は無音になった。 


「いきなり現れるなよ。びっくりするだろうが……」


「な、何もんだ! ぐはっ!」


 俺は右腰から拳銃をコンマ数秒で取り出し、敵兵の眉間に魔弾を撃ち込んで気絶させる。


 敵兵がプルウィウス語っぽい言語を話していたが、俺は言葉がわからないため、相手が何を言っていたのかわからない。でも、ルーナの指導でライトはプルウィウス語をすぐに覚えた。ルーナ曰く、どうやらライトは天才らしい。羨ましいこった。


「敵兵だっ! 撃て、撃てっ!」


 他の敵兵が通路の奥から四名走ってくるのが見えた。


 俺は気絶した敵兵を拘束しようとしていたが、止めてこいつを盾にすると決める。敵兵の脇からアサルトライフルの銃口を出し、実弾を撃つのをためらっている連中の眉間に黄色魔弾を撃ち込んでいった。あまりにも静かな発砲音が四回鳴り、反動も無く、的に当てやすいったらありゃしない。


 四名の敵兵があっという間に倒れ、通路が開いた。


「実弾じゃあ、当たりどころが悪けりゃ死ぬもんな。そりゃあ躊躇して撃てねえか。仲間思いの連中で助かったな」


 俺は敵のサブマシンガンを奪い、実弾を天井に向って発砲させながら走って移動する。耳を劈く発砲音と鼻奥に突き刺さる火薬の硝煙が、俺の脳内を埋め尽くしてった。


「ははははははははっ! 敵はどこだ~! こっちからわざわざ来てやったぞ~! 俺を殺せるのなら早く殺してくれよ~!」


 天井には電線が張り巡らされており、通路の明かりが消えた。当時に、他の箇所の明りも消えたのか敵兵の焦り散らかしている声が、発砲音が木霊する耳に入ってくる。


「ま、暗くなったら俺の方も敵が見えないが、問題ない」


 俺は二輪車用の保護メガネ(ゴーグル)を付ける。驚くことに暗闇の中でも視界がはっきり見える。さすがルーナが渡してきた道具だ。ただの眼鏡じゃねえみたいだな。


「さてさて……。エナは猫みたいに暗闇でも余裕で移動できてたし、ライトは……、まあどうにかするだろ、天才だし」


 無責任? そう思われるかもしれないな。でもこっちは死ぬ気なんだ。仕方ないだろ。


 暗闇の中、自分の居場所すらわかっていない敵を撃つのはどうも気が引けたが、殺すわけじゃないから、引き金を軽く引ける。なんて残忍な武器だ。


 ――ルーナ以外の聖騎士は魔力を使って人殺しをしまくってるんだろ。こんな便利な力を人殺しの道具に使うとか、やべえぞまじで……。そりゃあ、一〇○○年も国を維持できるわ。よく考えたらルーナでも七位なのか、じゃあ一位はどんな奴なんだ。ほぼ神みたいなやつなのかな。そいつなら俺を殺してくれるだろうか。


 俺が鎮圧作業を行いながら敵兵が五名もいる部屋にふと入った瞬間、電気が復活したらしく、天井の照明がつく。保護メガネをしていた俺は視界が真っ白になった。加えて頭も真っ白だ。


「……あ、やっべ」


 保護メガネをすぐに首にかけ、視界を確保する。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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