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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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足きり

 俺はアイクに水を飲ませ、食い物を渡した。


「アイク、食えるか?」


「水だけでいい。体が痛すぎて咀嚼するだけで激痛が走る。お前の運び方が雑なんだよ」


 アイクは苦笑いをしながら俺に悪態をついた。


「はは……、すまん。だが、それだけ喋れるのなら、死にはしなさそうだな」


 俺達は交代しながら睡眠をとる。まあ、トラックの中で寝てたから少しの睡眠で十分かもしれないが、休める時に休んでおかないとな。


 俺は二時間ほど眠ったあと入口付近に座っているルーナのもとに向った。


「う、うぅ。すみません、ナリスさん……。私が失敗したばっかりに……」


 ルーナは偽の情報を掴まされていた状況を歯を食いしばりながら悔いていた。


 ――会って五日しか経っていない仲間の死に涙を流すとか、心がおこちゃますぎるだろ。

 

 俺は小さい肩を丸め、膝を抱えながら座っているルーナの肩に手を置いて声を掛ける。


「ルーナ、交代だ。お前は休め。あれだけの数を相手にしたんだ。魔力が減ってるだろ。お前が倒れたら俺達は終わりだ。あとの見張りは俺がやる」


「キースさん……」


 ルーナは両手の甲で眼の下を擦り、涙を無理やり止めた。


「その、なんだ……、仲間の死を気にするなとは言わねえが戦争なんだから死人が出る。お前が悲しむ必要はない。気にしすぎるな」


「でも……、私が失敗しなかったらナリスさんは死にませんでした。私のせいです」


「たく、指揮官がそんなにめそめそしていたら部下が心配するだろうが。人間なんだから失敗くらいする。今の目的はテリアちゃんを助け、人質とペンダントを確保することだ。それを忘れるな」


「わ、忘れてなんていません……。ただ……、自分が不甲斐なさすぎて……」


 ルーナは下を向き、まためそめそする。


「全員を守るなんて目標は、はなから無理な話なんだよ。でも、ルーナの志は誇っていい。敵兵を殺したくないとか、普通思わねえよ。次こそは守ってみせると言っていつまでも粘り続けろ。その辛さがお前に対する罰になる」


 俺はルーナの肩を持ち、揺さぶって話した。泣いているこいつを見ると調子が狂う。だから慰めてやった。そうしないとこれからの作戦に支障が出る。それだけの理由だ。


「キースさんに慰められるなんて侵害です。でも、ありがとうございます……」


「たく……。ルーナ、本当は甘えん坊なんだろ。構ってほしくてたまらないみたいな顔しやがって」


 俺はルーナに抱き着いた。そのまま蹴飛ばされるかと思ったが、ルーナは俺の体に同じく抱き着いてきた。やはり寂しがり屋の甘えん坊だったらしい。だから何だって話だけどな。


「はぁ、やっと着いた。ん……。あら、お楽しみの途中だったか。ごはっつ!」


 ルーナはどこからか一瞬で取り出した拳銃を使い、黄色魔弾を時計台の中に入って来たライトに撃ち込んだ。


「おい、ルーナ。黄色魔弾の無駄遣いだろ。もったいないことはするなよ」


「う、うるさいです。こんな恥ずかしい場面を見られたら撃ちたくもなりますよ」


 ルーナは俺に数秒間抱き着いたあと、床に倒れたライトの襟首を持ち、奥に向かった。


「おーい、ルーナ。甘えたくなったらいつでも言っていいからな! ごはっつ!」


 俺はルーナに撃たれた。全身が痺れて身動きが取れない。脳がおかしくなり、筋肉が上手く動かせず、呼吸も真面に出来なかった。


 ――初めて黄色魔弾を食らったが、ここまできついとは……。


「ば、馬鹿言わないでください。甘えたわけじゃなく、抱き心地を確かめただけです。じゃあ、私は寝ますから、見張りはよろしくお願いします」


 ――こ、この状態で俺が見張りをするのかよ……。


 俺はルーナに体を痺れさせられた後、意識を保っていられたのは約束の情か、魔法への耐性があったからかわからないが、辛い思いをしながらも見張りを行った。


 五月三一日が終り、六月の一日がやってきてもレインは戻ってこなかった。


 ――あの金馬鹿、タロウとミルを置いて勝手に死んでんじゃねえぞ。知らねえ所で死なれても俺は二人に報告しねえからな。


 早朝、俺達はレインを抜いて作戦会議を行った。


「レインさんはハイネさんの超能力が届かない位置にいるか、すでに亡くなっているかのどちらかの状態にあります。このまま待っていても時間がもったいないので、次の作戦に移ります」


 ルーナは乾パンを貪りながら話す。


「ヘンケル街から敵陣地を歩いて移動します。街中で倒した敵兵から私の魔法とハイネさんの超能力を使って人質が送られている幽閉施設が三カ所あるとわかりました。味方よりも敵の方が正しい情報をくれるなんて皮肉すぎますね」


 ルーナは怒りと共に噛み砕いた乾パンを水と共に飲み込む。


「んで、その幽閉施設のどこにテリアちゃんがいるんだ?」


「そこまではどうしてもわかりませんでした。ですがヨハン・ハルモニアが貴族の子息を第三幽閉施設に送ると発言した場面が見えました。子息が送られた幽閉場所は特定できたので騎士団に知らせます」


「どうやって知らせるんだ?」


「怪我を負っているアイクさんに情報を知らせる役目をお願いします。情報の中にアイクさんに手を出したら私が許さないと書き加えておくので、下町の者だと言って騎士に殺される心配はありません。なので、この時計台で待っていてもらえますか」


 ルーナはアイクの方を向き、お願いする。


「ちっ……、足切りかよ……。俺はこのまま死ぬ気だったんだがな……。どうせ俺は後先が長くねえんだ。キースの盾にでもならせろや……」


「残念ながら、敵の銃撃でアイクさんのボロボロの肝臓は大部分が死に、私の魔力で健康な部分を修復中です。末期の肝硬変でしたが、余命が伸びます。こんなところで死なせませんよ」


 ルーナは凛々しい表情で笑う。なかなか頼もしい顏をするじゃないか。


「くっそ……、何で俺は助けられてばかりなんだ……」


 アイクは右手で眼元を隠し、歯を食いしばっていた。こいつは死に場を探して義勇兵になった。だが、こいつの死場はここじゃないようだ。


「俺の盾になって死ぬなんて、何の美談にもなりゃしねえよ。アイクは死ぬまで俺達の運び屋をしやがれ。それだけで俺達は助けられているんだ」


 ハイネとエナ、ライトは盛大に頭を縦に振る。どうやらルーナの運転が相当堪えているらしい。


「はは、クソガキどもを運ぶ仕事なんざ、楽すぎるな。俺が仕事をするために、しっかりと戻って来いよ、ガキども……。それまでには気合いで治す」


 アイクは時計台に残ることが決定した。


 ルーナ曰く、今日中には騎士団がヘンケル街に到着するらしい。ルーナ小隊に騎士団の先遣隊の役目を押し付けられたのだとか。騎士団はルーナ小隊がヘンケル街を制圧したと知れば、すぐに動くそうだ。


「では私達は移動しながら話を進めます」


 俺とルーナ、ハイネ、エナ、ライトの五名は時計台を出発し、ヘンケル街を出た。


 第三幽閉施設には騎士団が向かうはずだ。そのため、いったん切り捨てて俺達は残りの第一、第二幽閉施設に向かう。


「第一第二幽閉施設へは二手に分かれます。移動方法は魔動二輪車を使い、時間を短縮します。組み分けは私とハイネさん。もう一方はキースさんとエナさん、ライトさんです」


 ルーナは二台の二輪車を異空間から出した。ほんと何でもありだな。この女。


「ちょ、ちょっとまてよ! 俺はルーナの方に行きたい! その方が生き残れそうだろ!」


 ライトは大きな声をだし、ルーナに吠える。こいつはルーナの犬か?


「私とハイネさんがいれば十分です。私と同等の戦闘力を持つキースさんとエナさんがいますから、ライトさんはハイネさんの役割を遂行してください」


「な……。お、俺がハイネと同じ役割。無理だろそんなの! 俺は超能力者じゃねえ」


「いえ……。同じです。ライトさんは詐欺師なんですよね? なら、ハイネさんと同じ役割を果たせます」


「…………。わ、わかった。やってやるよ! なんたって俺は天才詐欺師だからな!」


 ライトは自称詐欺師から天才詐欺師へと昇格した。期待はしていないが、ルーナが言うなら、何かしら役に立つんだろう。


「キースさん、途中までハイネさんが進行方向を教えてくれます。その後は真っ直ぐつき進んでください。テリアちゃんを救出したさいは白色の信号弾、テリアちゃんとペンダントを確保したさいは黒色の信号弾、テリアちゃんがいなかった場合は黄色の信号弾、緊急事態が起きたさいは赤色の信号弾を撃ってください」


 ルーナは俺に色それぞれ一発の信号弾と信号拳銃を一丁渡してきた。


「わかった」


「では、私とハイネさんは第二幽閉施設に、キースさん達は第一幽閉施設に向かいます。二輪車の走行方法はぶっつけ本番で覚えてください。まあ、側車がついているのでこけにくいでしょう」


「はっ、何でもかんでもぶっつけ本番すぎるだろ……」


「キースさんは全ての訓練を一発で達成しているじゃないですか。どうせ、二輪車も乗りこなしてしまうのでしょう。私とおそろいの二輪車に乗せてあげるんですから、感謝してください」


 ルーナの出した二輪車は男心擽る形をしていた。一番興奮していたのはライトだが、こいつは二輪車の隣についている小さな側車に乗せる。


 俺は二輪車にまたがり、ルーナから貰った魔弾を穴に入れて起動させた。後方の排気口から大音量でも流れるかと思えば、静かな排気音しか聞こえない。


 エナは俺の背後の腰かけに飛び乗り、ギュッと抱き着いている。


「エナ、何があっても手を離すなよ」


「…………うん。エナ、キースを絶対に離さない」


「では皆さん、このゴーグルを付けてださい」


 ルーナは風と砂塵から眼を守るゴーグルを渡してきた。


 俺達はゴーグルを受け取り、しっかりとつける。


「よし、いい感じだ。ライト、俺のアサルトライフルを落とすんじゃねえぞ。あと、敵兵を見つけたら迷わず撃て」


「ちぇっ……、俺もそっちが良かったぜ……」


「この救出作戦で死に損なったらルーナに頼んで借りるんだな」


「や、止めろよ! 俺が死ぬみてえじゃねえか!」


 ライトはゴーグルの位置を調節しながら俺に吠える。


「では、テリアちゃん救出作戦を再開します」


 ルーナは二輪車に跨り、ハンドルを握りながら声を出す。右ハンドルを捻ると後方の車輪が高速回転し、地面をしっかりと掻きながら直進し始めた。


「なるほどな。ああやって移動するのか」


 俺も右ハンドルを捻り、二輪車を進ませる。だが、捻る力が強かったのか、ルーナたちをあっという間に追い越し、急加速した。


「ちょ! キースさん、アクセルを捻りすぎです! いきなりその速度は危ないですよ!」


 ルーナの声が後方から聞こえた。


「ははははははははっ! こりゃあいいな! はえ~!」


「うわあああああああ! 馬鹿馬鹿! 早すぎるだろ! よく考えろや。死に急ぎ野郎!」


 ライトの頭が二輪車の速度によって後方に引っ張られ、仰け反る姿勢になっている。


「……キース、カッコイイ。エナ、すっごくドキドキする。この時間、最高」


 エナは俺の背中にギュッと抱き着きながら呟いた。


「じゃあ、エナ。もっと飛ばすか!」


「…………うん」


「なっ、止め……」


 俺は右ハンドルを思いっきり捻り、速度計が一八〇キロメートルを超える。


「ははははははははっ!」


「…………すごいドキドキ」


「ぎゃっわああああああああああああ~!」


 俺達は周りの景色が歪むほどの速度で移動し、第一幽閉施設へと向かう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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