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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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赤色魔弾

 俺達は実弾を持たされていない。すべてルーナが作った魔弾だ。敵は殺さずに捕獲するのが聖騎士様であらせられるルーナのもっとうらしい。黄色魔弾を体のどこかに当てれば敵は一日痺れて動けなくなる。そう考えると無駄な実弾を撃って敵兵を殺すよりも制圧率が上がるのは確かだ。

 魔弾は発砲音が小さく、銃口から強い光を発しないため敵に気づかれにくいのも利点になる。


 俺は三時間以上歩き、身を隠せる場所を探していた。緊張した状態で大人を担ぎながら移動し続けるのはさすがにきつい。


 街灯の明りと月光で視界はまあまあ見えるが、敵兵からも見つかりやすい光量だった。


「敵兵を発見。総員発砲用意。撃て!」


「くっ!」


 さっきトラックを撃ってきた敵兵と思われる者達が街に戻っていた。どうやら後方に付けられていたらしい。


 俺は敵兵に気づいた瞬間、十字路のコンクリート塀に飛び込む。すると頭痛がするほどの発砲音が幾度となく重なり合い、背筋に怖気が走る。

 身が完全に塀に隠れる間に体擦れ擦れを実弾が飛び、地面や家屋をハチの巣にする。


「ちっ……。適当に撃ちやがって。全然当たってねえじゃんかよ。殺す気あるのか」


 俺は背を塀に付け、アイクを塀にもたれかけさせる。


「キース、俺は置いていけ……。今の俺じゃ足手まといにしかならねえだろ……」


 歩いている途中にアイクは喋れるまで回復した。だが自力では立てず、アイクが言うように足手まといだ。


「ああ、本当に足でまといにしかなってねえな。だが、置いていく気はねえよ」


 俺は重装備を脱ぎ、リボルバーに六発入っている赤色魔弾を確認する。


「使うのがちっと早いが……、仕方ねえよな」


「おい……、もう使うのか……。敵兵に知られたら……」


「知られねえよ。一人も逃がす気なんてねえからな。アイクはここで休んでろ。すぐに終わる。どうやら酒とたばこ、薬を止めたらお前はいい奴だったみたいだからな。お前みたいな仲間を見殺しにするのは、俺にとって惜しいんだよ」


「はっ……。ふざけやがって……。カッコつけてるんじゃねえぞ……」


 アイクは塀に後頭部を当て、目尻から無駄な水分を流した。


「さて実験台になってくれる輩がわんさかいるようだ。俺を殺してくれる奴はいるかな」


 俺は爺さんから貰ったリボルバーの銃口をこめかみに当て、引き金を引いた。


 巨大なハンマーで頭を殴られ、壁に叩きつけた卵みたくパンっと弾けた感覚に陥り、吐き気と頭痛が襲い掛かる。加えてショック死にそうな激痛が全身に走った。

 頭から足先までを一〇○度以上のお湯に付けられたような体温の上昇を感じる。


「はは……、こりゃあ……、何度も使えねえな」


 視界に赤く薄い膜を張ったような世界が広がり、全てが血塗られていた。まさに地獄だ。ただ、一瞬を過ぎると辛さは無くなる。


 今、俺は叫びたくなるほど高揚していた。殺戮がしたいわけじゃないが、動きたくてたまらない。


 俺はリボルバーをホルスターに戻し、アイクの拳銃を左手、自分の拳銃を右手に持って安全器を上げる。そのまま両方の後部照準器を引っかけながら両方の遊底を引き、魔弾を銃身に入れる。これで二丁の拳銃で二六発の黄色魔弾が連射可能になった。


 拳銃の準備が終わった俺は目の前のコンクリート塀に突っ走る。

 一歩、足を踏み込んだ瞬間、地面が抉れた状況に戸惑いながらも、塀の窪みに右足の先を当て背を反らせながら跳躍した。

 地上から五メートルほど跳ね飛び、笑いが止まらない。


「ははははははっ! すっげ~なこれ! さすが魔法だっ!」


「な、なんだあいつ! うがっ!」


 俺は視界に入った敵兵の眉間に魔弾を撃ち込み、痺れさせる。遊底が後退し、黄銅色の薬莢が脱出器から一発吐き出された。


 空薬莢は街灯に照らされ、止まっているのかと思うほど、ゆっくりと回転している。赤色魔弾の効果で脳の思考速度と情報処理能力が飛躍的に向上しているため、視界に映る景色の時間の流れが遅く感じていた。


 ――実弾だったら死んでいるんだがな。聖女のように優しい優しいルーナに感謝しろよ。敵兵ども……。にしてもこの光景、酔いそうだな。


「上だ、撃て撃て! ぐあっ!」


 俺は空中から司令官っぽいおっさんの眉間に黄色魔弾をぶち当てて気絶させた。


 空中に空薬莢がまたもや飛び出し、未だに回っている一発目の空薬莢と共にダンスを踊る。


 後はざっと五○人の敵兵のみ。司令官さえ倒してしまえば兵などすぐに鎮圧できる。


「うがっ!」「うおっ!」「ぐおわっ!」「ぐはっ!」


 拳銃のハンマーで雷管を叩いているにも拘わらず、魔弾が発射されるさいに反動がほぼ無いため、空中でも弾道がぶれず、眉間に当たる当たる。

 連射式の拳銃はやはり使いやすい。麻痺を付与する黄色魔弾に威力なんて必要ないからな。速射性と命中率さえよければ、十分だ。


「はははははははははははっ! どうした! その立派な小銃で俺を殺してくれよ!」


「敵は一人だ! よくねら、ぐはっ!」


「喋ってる暇はないだろう。殺さないでやるんだから不意打ちをしても卑怯とか言うなよな……っ」


 俺が喋っていると敵が放った実弾が顔を擦るように飛んで行った。頬がチリチリと痛み、何か液体が垂れているのか、熱を帯び始めた。だが気にしている余裕はない。


「うお! あっぶねえ。惜しい、あとちょっとで死んでた。また死に損なったぜ!」


 真上の敵を狙う訓練をしていないのか自由落下する俺を正確に射抜ける敵兵がいない。顔を青ざめさせながら恐怖する者や漏らしながら震えている姿を見るに、プルウィウス王国の徴兵を受けた市民のようだ。


 指揮官が打たれた辺りから、逃げ出す者もちょくちょくいる。ま、逃がさないがな。


 俺は一〇センチメートル幅のコンクリート塀に着地し、塀の上を走りながら黄色魔弾を敵兵に撃ちこむ。甲高い音が鼓膜にとどき、小さく細かく震え、くすぐったくなった。脱出器から飛び出した空薬莢が今頃、地面に跳ねて空気を震わせた音だろう。こそばゆいが、案外心地いい。


 無我夢中で敵を殲滅していたら、引き金を引いても弾が出なくなった。


 ――もう、二六発も使ったのか。体感五秒なんだが……。まあ、いいか。あと、見たところあと三○人くらいか。


 俺は走りながら弾倉止めを押し込み、空になった弾倉を捨てる。

 右手で二丁の拳銃を持ち、左手で腰についている弾倉ホルダーから二個の弾倉を取り出した。そのまま、二丁の拳銃の尻を叩くように弾倉を一回で二個装填する。あとは二丁の後部照準器を引っ掻け、遊底を後退させて黄色魔弾を弾倉に入れ込めば、二六発の魔弾がうてる。この間、わずか三秒。


 再度二六発撃ちきったころには、のこり三名になっていた。全員で五五名もいたようだ。なかなか数がいる小隊だな。


「殺せ! 殺せ! 敵をよく見て引き金を引くだけだ!」


「あ、当たらねえんだよ! 人間が銃の弾より早く動けるとか聞いてねえよ!」


「馬鹿! 狙う位置が少しずらさ、がはっつ!」


「喋ってると舌を噛むぜ……」


 俺は塀から飛び降り、身を低くして五メートルほど走った後、弾の避け方を喋ろうとした男の顎を真下から蹴り上げた。男の体は三メートルほど弾き飛び、家屋の屋根に力なく倒れる。


「い、一瞬で移動した……。ば、化け物!」


 ちびってる子デブがアサルトライフルの銃口を俺に向けた。後方には地面で痺れているお仲間がいるの言うのに、撃つ気だろうか。


 俺は「敵に敵を撃たせるのはありなのか」と思ったが、アサルトライフルの銃口を持って斜め上に向けていた。


 ダダダダッという気持ちがいい祝砲が上がり、銃口の先から赤色の光が何回も発生する。


 俺は敵が弾を撃ち切ったらライフルを引っ張り、身を近づけさせて回し蹴りを食らわせた。ブーツの面が敵兵の側頭部に入って頭を塀に打ち付ける。その衝撃で塀が割れ、敵兵はヘルメットを着けていたものの、首まで突っ込んでいた。死んでないと思うが一番痛そうだ。


「う、うわああああああああっ! 殺さないでくれっ!」


 最後の一人が敵に背を向け、逃げ出した。何とも情けない叫び声だ。


「敵に背を向けて逃げるのは男として失格だと思うぞ」


 俺は敵の股間に蹴りを入れ、悶絶させた。敵の弾が無くなってないといいが、一発くらい使い物にならなくなっているかもな。


「よし、制圧完了。今回も俺を殺してくれる奴はいなかったか。うぐっ……」


 俺は強烈な吐き気にいきなり襲われた。真っ直ぐ立っているはずなのに、千鳥足になって視界が揺らぎ、世界が湾曲しているように見える。


 赤色魔弾。またの名を『身体強化魔法』の副作用が出たらしい。魔力に耐性が無いと激しい眩暈と吐き気が引き起こされる。


 俺は魔力の耐性が強い方なのだが、昼食を地面に戻しちまった……。俺でこれだと他のやつらが使ったら普通に死ねるな。


「はぁ、はぁ、はぁ……。昼食が無駄になったが実験は成功だ。単独でも小隊を制圧できる」


(キースさん、早々に無茶しすぎですよ。明るい時間帯に同じような戦いをしたら危険すぎます。今度からは自重してくださいね)


 俺の頭にハイネの声が聞こえた。トランシーバーよりもはっきりと聞こえ、敵に情報を盗まれる心配がない。まあ、ハイネの頭が破裂しない間だけどな。


 俺は胸もとから懐中時計を取り出し、時間を確認した。どうやら、街に飛び出してから四時間も経っていたらしい。通りで周りが暗い訳だ。


 ――俺、隠れるの下手すぎるな。


 俺は倒れている兵士たちを縛り、行動不能にする。ルークス王国の騎士が到着したら捕虜になるのが落ちだろう。全員を縛り終え、ハイネの声に耳を傾ける。


(皆さん、街の中で壊れた大きな時計台があります。そこに集まってください)


 ――大きな時計台。


 俺はコンクリート塀を足場にして屋根に飛び乗る。暗くてよく見えないが針の止まった時計台があるのを確認した。


「あそこか……。結構近い場所にあるな」


 俺は時計台の位置を確認したあと地面に降りて敵の武器を壊し、弾丸を奪った。


「少しでも抑止力になればいいが、敵の武器の量も馬鹿にならないだろうな」


 俺は袋に集めた詰めた弾丸とアイクを担いで時計台へと向かう。


「動いている敵の人数が大分減っているな。ルーナたちが倒したのか」


 時計台に進むにつれて地面に倒れ、痺れながら泡を吹いている敵兵が増えていった。


「おいおい……。この数のあの二人が……」


 時計台に到着した俺は辺り一面に気絶して倒れている敵兵がいた。全員武装している。ざっと一五○名はいるだろう。中隊規模だ。


「こいつらを制圧するとか、やっぱり普通じゃねえな」


 俺は敵兵をまたぎながら、時計台に向かう。扉の前に移動し、三回叩いた。すると扉が開き、ルーナが出てくる。


「お疲れ様です、キースさん。赤色魔弾をもう使ったようですが副作用はどうですか?」


「ああ。滅茶苦茶気持ち悪くなった。酒酔い以上だ。昼食を戻しちまうくらいにきつい。だが、五分くらいで元に戻った」


「キースさんは魔力に耐性があるようですね。酔いやすい人は一日動けなくなるくらいきつい副作用が出るんですけど、キースさんが身体強化を使えるのは大きな利点です」


「ああ。使っていなかったら普通に死んでいたな」


「なら、使っていて正解でした。魔弾は何発使いましたか?」


「黄色魔弾を五二発。赤色魔弾を一発。敵兵は五五名を拘束してきた」


「はは……。小隊を一人で制圧できてしまうなんて、キースさんはやっぱり兵士に向いているんですね。魔弾の補給と食事が容易してあります。奥で休んでいてください」


「わかった。他のやつらは戻って来たのか?」


「エナさんは戻ってきましたが、レインさんとライトさんはまだ戻ってきていません」


「そうか……。これ、敵兵の銃弾。あと武器も壊しておいた」


 俺はルーナに弾丸が大量に入った袋を渡す。


「ありがとうございます。実弾を黄色魔弾に変えれば無駄な魔力を消費せずに済みます」


 ルーナは頭を下げて来た。そこら中にも弾があるのに律儀なやつだ。


 俺はアイクと共に時計台の中に入り、奥に向かう。するとハイネとエナが乾パンを食べ、水を飲んでいる姿を目撃した。

 アイクを床に寝かした後、俺も食事に加わる。その間、黄色魔弾が紙箱に詰められていたので拳銃の空になった弾倉に一発ずつ詰めていく。


 カンデラの明りだけだと見えづらいが手もとの感覚で補った。


「キースさん、無事でよかったです。死んじゃったかと思いましたよ……」


 ハイネは俺に抱き着き、少し泣いていた。


 ――男がめそめそしてるんじゃねえよ。って、ああ、ハイネは心が女なんだったか。なら仕方ないな。


「俺も死んだと思ったが死に損なったみたいだ。ハイネもあの人数を倒したなんてすごいじゃないか」


「いえ、私はルーナさんの援護をしただけです。あの人はもうずるい……。魔力の壁を身の回りに発生させれば弾丸の雨が容易く弾かれ、魔弾は魔力の壁をすり抜けて敵兵に当たるんですから」


「はは……。何となく想像がつく。ルーナが実弾を使っていないだけましだな」


「……キース、お帰り~。待ってた~」


 エナも俺に抱き着いてきて猫のように擦り寄ってくる。こいつはまだ一〇歳だというのに、この場に余裕でたどり着いていると思うと末恐ろしい。


「ただいま。エナ、敵兵とちゃんと戦えたか?」


「……戦えた。拳銃で敵の頭をバンバン撃ってここまでやってきたの。ああー、楽しかったー!」


 エナは拳銃を掲げ、自慢げに話す。


 ――五日前まで死んだ目をしていたのに今はイキイキしてやがる。戦場で眼を輝かせるガキがいるなんてな……。嬉しい誤算か。いや、戦場はガキがいて良い場所じゃねえよな。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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