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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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試験最終日

 四日目の訓練として的が左右に動くようになった。不規則な動きじゃないだけましだ。だが難易度は各段に上がる。


 俺は一発で成功したが、他の者は何度も失敗した。ただ、練習すれば動きに慣れるらしく、俺の次にエナが成功した。やっぱりこいつは飲み込みが早い。


「…………キース、撫でて」


 エナは俺に懐き、成功したら俺の体に抱き着き、抱擁を求めるようになった。


「あ、ああ。よく頑張ったな」


 俺はエナを優しく撫でる。それだけでエナは満面の笑みになり、大層喜んだ。


 四日目の訓練は俺とエナが成功し、ハイネとアイク、ナリス、ライト、レインの五名は最後まで成功しなかった。


 最終日の五日目は四日間の訓練を総合した試験だった。


 俺達はしっかりと眠った後、本格的な訓練ができる広い土地に車で移動した。その間に重装備を身に付けておく。到着後、地面に座り、ルーナから話しを聞く。


「皆さんの使用する武器は弾倉の中に三〇発の九ミリ魔弾が入っているアサルトライフル一丁。加えて弾倉に九ミリ魔弾が一二発入っている拳銃一丁の二種類です。試験内容は三〇体の敵兵がいる戦地を移動し、目的地に入り、少女を保護してから出発地点に帰還してください」


 ルーナは試験内容を説明した。加えて武器を全員に配っていく。


 ――内容からして四日間の要素が織り交ざっているな。一人じゃ難しそうだ。


「これは一人での試験か?」


 俺は手を上げてルーナに質問した。


「はい。一人での試験です」


「敵兵の三〇体は人形なのか?」


 レインも手を上げ、ルーナに質問する。


「人形ですが、敵兵の動きを真似して動きます。なので本当の戦場だと思ってください。そうしないと痛い目を見ますよ」


「敵の武器は?」


 アイクは与えられた武器の点検をしながら、ルーナに聞く。


「皆さんと同じく、アサルトライフルを使います。魔弾を撃ってきますが、敵も再装填するので弾切れはしません。あと言っておくと制限時間は三〇分ですから、ずっと止まっていたら失格になります」


「失格になったらどうなるんだい?」


 ナリスは拳銃を投げ、遊びながらルーナに聞く。


「失格になったら戦場で死んだと思ってください。失敗した回数が多いほど後方勤務になり、給料が減ります」


「なるほど。敵兵に魔法を使えるルーナは入るのか?」


 ライトは赤色の前髪を掻きあげながら、ルーナに聞く。


「私は入りません。敵兵は魔力で弾を防いでこないので安心してください」


「じゃ、じゃあ。どうしても攻略できなかったら……」


 ハイネは弱気になり、ルーナに質問する。


「個人に合わせ、適時攻略度を下げていきます。それでも達成できなければ連れていけません」


「…………早くしよう」


 エナは瞳を光らせ、口角を上げながら呟いた。


 エナの言葉にこの場にいた者全員の背筋に寒気が走る。だが試験をしたいと感化されたのも確かだ。


「では、くじ引きで順番を決めます。私特製の割りばしくじを引いてください」


 ルーナは魔法で作ればいいのに、お手製のくじをわざわざ作ってきた。俺達は割りばしを引いていく。俺の番号は七番だった。どうやら、最後らしい。


 一番レイン、二番ハイネ、三番アイク、四番ナリス、五番エナ、六番ライト、七番キースの順番に試験を行う。


 目の前に広がるのは岩やコンクリートブロックが散らばっている荒地を再現した場所だ。加えて大小さまざまな木偶人形が動いており、アサルトライフルを担いでいる。その間を抜け、五〇〇メートル先にいるルーナを保護し、三〇分以内に出発地点に戻らなければならない。


「では、一番のレインさん。試験を始めてください」


 携帯用無線受信機(トランシーバー)なる魔道具でルーナからの声が聞こえる。始めの合図だ。


「ふぅ……。しゃっ!」


 レインは息を整え、荒地に走り出す。その瞬間、レインの姿と荒地が見えなくなった。どうやら情報の共有は禁止らしい。きっとルーナの魔力による視界遮断だろう。制限時間は三〇分。だが三〇分経つ前に視界が戻った。


 レインは失敗したようだ。


「レインさんは銃弾を急所に受け、失格。二番のハイネさん。試験を始めてください」


 トランシーバーから聞こえたのはルーナの無慈悲な声だった。


「は、はい! キースさん! 頑張ってきます!」


 ハイネは凛々しい表情で走り出した。同時に俺の視界が悪くなる。


 ――ハイネがルーナを持って戻って来れるのかはわからないが、心の中で応援しておくか。


 心の中で頑張れと念じていたが、ハイネが戻ってくる前に三〇分が経った。


「ハイネさん、時間切れにて失格。三番のアイクさん、試験を始めてください」


「ああ……」


 アイクは酒とたばこ、薬が抜けたのか、少々健康体になっていた。だが、覇気は無い。淡々と走り出し、試験を受ける。だが……。


「アイクさん、少女を抱えている最中に後方から撃たれ失格。四番のナリスさん、試験を初めてください」


「さてと、少女の救出劇と言う素晴らしい公演を始めようじゃないか!」


 ナリスは走り出した。一分後……。


「ナリスさん、多量に撃たれ失格。五番のエナさん、試験を始めてください」


「…………ん」


 エナはライフルを背中に担ぎ、拳銃を持ちながら走り出した。三〇分後……。


「エナさん、ギリギリのところで時間切れ、失格。移動するので少々待っていてください」


 俺の視界が戻ると、エナが本当にすぐ近くにまで戻ってきていた。あと数秒あれば合格だったのに、凄く惜しい。


 ルーナは五〇〇メートル先の目的地に走って戻る。


「では改めて、六番のライトさん。試験を始めてください」


「この試験を突破して俺が本当の詐欺師だと証明してやる!」


 ライトは訳のわからないことを話し、飛び出していった。


 ――あいつは馬鹿だからな。仕方ないか。


「ライトさん、戦意喪失にて失格。七番のキースさん、試験を始めてください」


「はいよ」


 俺は拳銃の遊底(スライド)を引き、魔弾を撃てる状態にした。アサルトライフルから、弾倉を引き抜き、本体は捨てる。アサルトライフルで遠くから木偶人形を撃ってもいいが、障害物に射線が遮られそうだったため、三キログラムもする無駄に重い武器は必要ない。


「さてと……。行くか」


 俺は姿勢を低くして荒野の荒い砂地を走り始める。ブーツのおかげで滑りにくく、移動しやすい。


 ――拳銃の射程はせいぜい五〇メートル。見たところ岩やコンクリートブロックのせいで五〇メートル以上の射程を必要とする場所が少ない。小回りの利く拳銃だけで充分なはずだ。


「まず二体……」 


 俺は視覚に映り、丁度振り返った木偶人形の眉間に魔弾を撃ち込むと、奴らはその場で停止した。


 残り二八体。


 ――できるなら、木偶人形は全て倒しておきたい。そうすれば、帰りはあのちっこい聖騎士様を抱えて五〇〇メートルを走るだけだ。


 俺は戦争の跡地に似た場所を駆け巡り、視界に映る木偶人形を撃っていく。空気感がさながら戦場で発砲音や雄叫びが聞こえてこないのが不思議なくらいだ。


 拳銃の魔弾がいつの間にか無くなった。どうやら一二体の木偶人形を倒したらしい。俺は弾痕の開いた鉄筋コンクリートの壁を背に拳銃の弾倉を引き抜く。


 ルーナの魔弾は武器が変わっても大概使える。そのため、アサルトライフル用の魔弾でも、口径がほぼ同じなら、拳銃でも余裕で使えてしまう。ほんと便利な弾だ。


 俺は拳銃の弾倉にライフルの弾倉から抜いた魔弾を補充した。


「よし。残り一八体。このままやすやすと合格させてはくれないだろうが、進むしかないわな……」


 俺はコンクリートの塀や岩を背に、横目で敵を見る。


「ギギギ……。敵、発見……」


 目があった木偶人形は一秒間に一〇発の魔弾を俺に向けて発射してくる。


 俺は右肩を引き、背を岩石に付けながら身を隠す。左腕に魔弾が擦過したのか布が少々焼けている。


 木偶人形が魔弾を連射中、二つの音が重なっていたため、二体いるようだ。


 俺は腰を落とし、岩の反対側から匍匐前進で場所を移動する。身を隠せる場所が多く、木偶人形を撒くことは用意だった。逃げすぎると時間を食うが気づかれたら負けだ。


 俺は先ほど撃ってきた木偶人形の背後につき、魔弾を後頭部に撃ち込む。二体が行動不能になり、その場で停止した。木偶人形は残り一六体。


 ――俺が木偶人形を先に見つけねえとあっけなく失格だな。


 大きな岩があると隠れるのにちょうどいいが、敵も同じだ。こっちからは敵がどこに隠れているかわからない。手がかりと言えば、足跡くらいだ……。

 地面が砂っぽいため、木偶人形が移動した箇所はよくわかる。

 俺は視線の先につま先が真横を向いている足跡を六つ見つけた。その瞬間、後方から三体の木偶人形の後頭部に魔弾を撃ち込む。


「残り一三体。やっと半分を切ったか。だが、このままだと時間切れが濃厚だな。突っ切るか」


 時間を測れないようにするため、俺が持っていた懐中時計はルーナに没収されている。


「体感、一五分。時間も半分過ぎた。五〇〇メートルを全力で走って一分二〇秒。つまり、木偶人形を三〇体倒して二分残し、ルーナを担いで最短距離を全力で走ればいい」


 俺はハイネのように時間を目一杯使い、木偶人形を見つけては倒し、見つけては倒しを繰り返す。そうしていると、俺の計算上、木偶人形を二八体倒し、体感時間二五分。残り五分で木偶人形の残りはあと二体だ。


 俺は直径三メートルほどの岩の裏に隠れ、荒地の様子を見る。すでにルーナがいる五〇〇メートル地点が見えているのだが、大きな問題があった。


「探してもいないと思ったら、やっぱり最終地点にいたか。一〇〇メートル先にルーナと木偶人形が二体。ここでアサルトライフルが必要になってくるとか聞いてねえぞ」


 拳銃の射程距離は五〇メートル、アサルトライフルは二〇〇メートル以上。


 俺が見る限り、一〇〇メートルの間には魔弾を遮るような岩やコンクリートブロック、建物が無い。もう、ここまでおぜん立てされたら「ライフルで木偶人形を撃ってください」と教えているようなものだ。ルーナもどこか笑っているように見える。


 ――あのチビ、俺がライフルを捨てたの知ってやがる。はぁ……。いいぜ、そっちが殺る気なら、俺も死ぬ気を出すだけだ。

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