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死にたがりの義勇兵。~死にたいのに、どんな逆境でも生き残ってしまう。そんな才能を持った主人公が多くの者を死ぬ気で救っていく物語~  作者: コヨコヨ


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聖女のような雰囲気

「合格組はさらに前に出る訓練です。敵陣地には入れたら合格ですから頑張りましょう」


 ルーナは満面の笑みを俺達に向ける。 


「これより前……」


 ハイネは苦笑いを浮かべ、砂がついた涙を頬につーっと流した。


 笑っているルーナの表情が恐ろしく見えたのは同感だ。俺も泣きたくなる。



 「不合格組はもう一度始めからです。全員が最前線に移動出来たら訓練は終了ですよ。さあ、もう一度頑張ってください!」


 ルーナは満面の笑みで話した。もう、狂気の沙汰とは思えない。


「あ、悪魔だ……」×不合格組。


 訓練の結果、最終地点まで移動できたのはエナとハイネ、俺、根性でやり切ったレインの四人。

 アイクとナリス、ライトは今日中に終わらなかったが、力は十分付いたと思われる。


 三日目に行ったのは敵兵への狙撃訓練だ。


 俺達は射撃場に移動し、ルーナの話を聞く。


「では皆さん、三〇体の人形の急所に魔弾を撃ち込んでください。アサルトライフルに二〇発、拳銃に一〇発の弾が入っているので一発でも外したら初めからです。じゃあ、一番射撃の上手そうなキースさんから。あ、一応言っておくと三分を切ったら初めからです」


 動かない的を狙い、少ない弾数で急所を打ち抜くだけと言う、疲れない訓練で皆は安堵していた。

 だが、一発でも的に当たらないと初めからと言う、精神を削られる訓練だった。


「俺からか……」


 一番近い敵で一〇メートル、一番遠い敵で二〇〇メートル先。その間に二八体の人形が不規則に立っている。狙いを毎回きっちりと定めていたら時間が無くなりそうだ。


「ま、普通に考えたら近くの敵には拳銃を使うんだよな」


 俺は一〇発の魔弾を拳銃で撃ち、一〇体の人形の眉間を撃ち抜く。その後、アサルトライフルに持ち替え、スコープを覗く必要もなく、二〇体の眉間を撃ち抜いた。


「よし。三〇秒くらいか」


「………………合格です」


 ルーナは面白くなさそうな表情で呟き、俺の番が終わる。だが、この訓練は相当難しいらしく、俺以外は誰も成功する気がしない。


 拳銃を撃った覚えがないガキ二人は一〇メートル先の人形にも弾が掠らない。


 大人は拳銃の扱いはそこそこだったが、アサルトライフルになると狙いが定まらず、的に集中しすぎて時間切れになっていた。


「キースさん、子供達の狙撃訓練をしてください。私は大人四人の指導をします」


「ちっ……、仕方ねえか」


 俺はエナとハイネのもとに向かい、拳銃の持ち方と構え方、的の狙い方を教えた。

 以前、テリアちゃんの誕生日に教えたのを思い出し、少し泣きそうになる。


「…………」


 エナは喋らずに頷き、射撃すると魔弾が的に当たり始めた。嬉しそうな顔をするので頭を撫でてやる。するともっと悦び、訓練を一心不乱に行う。


 ハイネは俺が口で教えるだけでは上達しなかった。俺は背後からハイネの手を支えて教える。


「両手で銃把(グリップ)をしっかりと握る。右手の人差し指を引き金に掛けて標準を合わせたら引く」


「は、はい……」


 俺と共に撃てば弾は人形の眉間に当たった。だが、ハイネはどうも集中できていない。


「どうした、ハイネ。全然集中できてないぞ」


「ご、ごめんなさい。心臓の高鳴りが止まらなくて」


 エナとハイネはコツを覚えるとすぐに上達していった。子供の吸収力はやはりすさまじい。


「…………やった」


 エナは大人よりも先に訓練を合格した。殺しの才能があると言ってもいい成長速度だ。


「…………キース、褒めて」


 エナは訓練を達成すると俺に擦り寄ってきて褒美を求めた。


「よくやったな。まさか達成できるようになるとは思わなかった」


「…………えへへ」


 エナのよどんでいた瞳は少しずつ光を取り戻していた。

 苦しい鍛錬だが、成功すれば褒めてもらえるという状況がこいつを変えているのかもしれない。

 子供にとって褒められることは大人にとっての麻薬に等しいだろう。褒められるという麻薬がエナを人らしく変える。


「はぁ、はぁ、はぁ……。も、もうすこし。もうすこし……」


 ハイネは制限時間を目一杯使い、呼吸を整えながら的を撃つ。最後の一体の眉間に弾を打ち込んだ瞬間、万歳をしながら悦び、俺に飛びついてくる。


「キースさん! やりました! やってやりました!」


「お、おう。頑張ったな。しっかり狙えればガキでも十分上手くなれるんだな」


 ――ハイネ、このまま成長したら相当美人になるだろうな。今でもべらぼうに可愛い。


「…………」


 ハイネは頬を赤らめ、視線を落とし、泣きそうになっていた。


「ハイネ、どうした? 疲れすぎたか? 成功したんだから少し休んでろ」


「い、いえ。まだまだ練習できます。ただ……」


 ハイネは何かを言いかけ、口をつぐむ。辛そうな顔がいたたまれないが、話さない理由があるはずなので、俺は無駄な詮索をしない。


 ガキの二人は成功したというのに、大人の四人は今のところ成功者がいなかった。


「おい、お前ら。何をちんたらしているんだ。的当てくらいさっさと終わらせろよ」


 俺は四人の練習工程を見ながら活を入れる。


「うるせ! お前みたいな化け物と一緒にするな! って言いてえが、コツを教えろ!」


 レインはコツを聞いてきた。成長するために年下にもお願いできる精神は尊敬できる。


「俺じゃなくてルーナに聞けばいいじゃねえか」


「あいつは……。キースくらい銃の腕はいいが、説明が絶望的に下手くそだ」


 レインはルーナが指導しているライトの方を見た。


「拳銃の場合はがっと握って、シュッと構えたらバンっと撃つんです!」


 ルーナはちっさい体を目一杯大きく使い、銃の撃ち方を教えていた。


「…………は?」


 ライトは頭に? を浮かべ、苦笑いをした。


「だから、拳銃の場合はがっと握って、シュッと構えたらバンっと撃つんですよ!」


 ルーナは同じ言葉を繰り返し、さらにライトを混乱させる。


 ――感覚すぎてわからん。と言うのが皆を苦しめていたわけか。


「はぁ……。ルーナ。どうやらお前は説明が下手らしい。皆が成功していないのはお前の指導不足だ。もっと具体的に説明してやれ」


「なっ。私に説教をする気ですか。ちょっとできるからって図に乗らないでください!」


 ルーナは俺に指を差し、大きな声で話す。


「ルーナも自分は優秀ですからみたいな態度を止めろ。気に障る。自分の失態を素直に認めたらどうだ」


 俺はルーナの小さな手を下ろさせ、思いを口にした。


「ぐぬぬ……。わかりました! どうせ私は教えるのが下手ですよ!」


 ルーナは俺に背を向け、開き直った。――欠点を教えてやったのに……。


「人間は完璧じゃねえんだから、そんな開き直らずに成長できるよう努力しろよ」


「まるで私が努力してないと言っているようですね! 何様のつもりですか!」


 ルーナは怒りながら俺の方を向き、叫ぶ。顔が赤く、呼吸も荒い。加えて無理をしている人間の表情をしており、疲れがたまっているように見えた。


 俺はルーナの額に手を当てて体調が万全ではないと悟る。


「ルーナ、相当疲れてるな。体調管理も出来ねえのかよ。たく、それでも聖騎士なのか?」


「う、うるさいです。ちょ、ちょっと魔力を使い過ぎているだけですから……」


 ルーナは膝を折り、前に倒れ込んだ。どうやら体に力が入らないくらい疲労が蓄積しているらしい。


 ――倒れるまで無理してるんじゃねえぞ、馬鹿が。


「やっぱり疲れてるじゃねか。戦場でルーナが万全じゃなかったら、全滅もあり得るんだぞ、わかってるのか?」


 俺はルーナの体を支え、妹に怒るように心情を伝える。


「わ、私はもっと頑張らないと……、誰よりも頑張らないといけないんです……」


「はぁ。全員訓練を続けてろ。俺はこの馬鹿をベッドに連れていく」


 全員頷き、俺は牢獄の睡眠部屋にやって来た。


「鎧を脱がせるぞ。脱げるなら自分で脱げ」


「そ、それくらい自分で出来ます……」


 ルーナは鎧を脱ごうとするも手に力が入らないのか、取り外せなかった。


 俺はルーナの鎧を脱がせ、鎖帷子姿にする。鎧を着たままよりは寝心地がよくなるはずだ。

 鎧を脱がせたルーナを柔らかいベッドに寝かせる。柔らかい布団を肩まで掛けた。


 ――よく考えれば、大量の魔力を使ったら疲れるのは当たり前か。魔弾を何発作ってるんだってくらい、撃ってたもんな。ルーナも焦っていたのか。


「す、すみません。キースさん。さっきは疲れからか、イライラしていて……、大声を出してしまいました」


 ルーナはベッドに横たわりながら頭を動かす。


「気にするな。怒鳴られることには老害で慣れてる。お前の怒った顔は全く怖くなかったしな。逆に可愛かったぜ。ちょこちょこしててよ」


 俺はルーナの額に手を置いて体温を大まかに知る。なかなかの高温になっていると思い、心配になってきた。


「か、からかわないでください……。あと、心配しないでください。魔力枯渇症なので、少し休めばすぐ治ります。キースさんは訓練に戻って皆さんの指導をしてください。私は指導が下手ですから……」


 ルーナは気絶するように眠った。その姿がメイとかさなり、不安が募る。


 ――このまま、ルーナが目を覚まさなかったらどうする。テリアちゃんは、金は、俺達は……どうなる。


 そんな思考が頭の中で木霊するように繰り返された。俺は薄暗い部屋で椅子に座り、ルーナの小さな手を握り続ける。理由はわからないが、こうしていたかった。


「う、ううん……。あれ……俺は……」


 俺は柔らかい布団に頭を付けていつの間にか寝落ちしていた。俺も疲れていたようだ。小さな手が頭に置かれている気がする。無駄に温かい。母親のような安心感がある。右手に握られている小さな手はそのままだ。


「もう……、訓練に戻ってくださいって言いたじゃないですか」


 ルーナは状態を起こし、呟いた。


「ルーナ。もう起きたのか……」


 俺は胸もとから懐中時計を取り出して親指で蓋を跳ね上げるようにして開き、時間を見る。まだ、二時間ほどしか経っていない。


「いいましたよね。少し休めば回復しますって。でも……、手を握ってくれてありがとうございます……。すごく、安心しました……」


 ルーナは微笑み、聖女のような優しい雰囲気を纏う。


 寝ぼけていたからか、ルーナの顔が異様に可愛く見えた。ガキ臭いのに……。


「ああ……、気にするな。起きないんじゃないかと不安になっただけだ……」


「そうですか。キースさんも案外心配性なんですね」


「うるせぇ……。大きなお世話だ……」


 俺は子供みたく反抗し、呟く。


「さあ、訓練に戻りましょう。久々に寝て私の魔力と体力が回復しました。あと二日、やり切りますよ!」


「便利な体だな……。たった二時間で体力が全回復するのかよ……」


 俺とルーナは部屋から出て射撃場に戻った。


「おい! キース、帰ってくるのが遅すぎるだろ。って、ルーナも疲れが抜けてるじゃねえか。回復が早すぎるだろ。お前らまさか……俺達をしり目にベッドでやることやって来たんじゃねえだろうな! ざけんなよ!」


 レインは俺達に向って怒鳴った。


「なっ!」


 レインの発言により、俺とルーナの頭の中に厭らしい想像が流れた。


 ――確かに二時間と言う短い時間に加え、二人で良い顏しながら戻ってきたら、やって来たなと思われても仕方ない。


 俺とルーナは全力で否定し合う。


「だ、誰がこんなガキとするか! 意志が強くてただ可愛いだけじゃねえか!」


「だ、誰がこんな野蛮人と関係を持つんですか! 優しくてカッコいいだけの人ですよ!」


 俺達の怪しい否定がますます不穏な空気を作り出した。その後、訓練を再開し、全員が最後まで無事に成功した。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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